女になんて、なりたくないっ!~魔女になんてなるものか~ 作:生活みだらし団子
怖気がした。
彼女に母のことを聞くのが、どうしても怖い。
だが、聞かずにはいられなかった。
「なんで、貴女から……その名前が飛び出るんですか……?」
情けなく、声は震えていた。まるで生まれたての小鹿のように。
「……やっぱり、ご存じなんですか…というより坂又さん──いや、啓人さんのお母様、ですよね?」
「え、えと、はい。確かに母の名前です。あの、なんで東雲さんから母の名前が…?」
東雲さんは俺以上に、ではないが確かに動揺しているようで、深呼吸してから話し出した。
「先ほど、7人の幹部の話をしましたよね? その内の日本から出た幹部の一人の名前が、坂又 京香さんなんです…現在は幹部として北米支部をまかされています。」
「え、は、母が魔女…? あの人、多分今年で42ですよ? ってことは…22歳の時に幹部として名乗りを上げたわけですか…?」
「そうなりますね……しかし、そうだとすると説明がつきます。坂又さんを始祖の先祖返りだと幹部が知っていた理由が。」
「……聞いても、いいですか」
「はい。おそらく啓人さんのお母さまである京香さんは、自身の産んだ子供が魔女の始祖の先祖返りであると知っていたんじゃないでしょうか。幹部なら……以前の始祖の先祖返りを倒した彼女らなら、普通の適正者と始祖の先祖返りの見分けをつける方法を知っていたとしてもおかしくありません。しかし、その情報を世間に広めれば混乱が起きることは明白。なので幹部同士にのみ共有した。だから幹部たちは知っていたんじゃないでしょうか。」
「となると……誓約書を持って行った東雲さんに特命として命令を下したのも当たり前のことなのかもしれません。だって始祖の先祖返りとして意識していた人物に知らぬ間に接触して魔女に対する知識を教え込んできたってことですからね。気が気じゃなかったんじゃないですか?」
「……確かに、頭を抱えてた気がしますね。」
「でしょうね。いつかの再来になりかねないんですから、頭痛の一つや二つはするでしょう。」
「……ですよねー…」
お互い苦笑いしつつも、何とか調子を取り戻した。
そして、本来の話し合いに戻ることになる。
「とはいえ、他に聞きたいことありますか? 京香さんについては幹部以上の情報は知りませんし、魔法についても話しましたし…始祖関連も私の知っていることは全部話したつもりです。今更ですし、なんでも聞いてください。」
「…じゃあ、昨夜東雲さんは何してたのか聞いてもいいですか?」
「あー…確かに、説明していませんでしたね…」
そして、東雲さんから昨夜あったことを聞いた。
周囲を警戒していたら、とてつもなく強い魔女がこちらに向かってきていたこと。
その魔女の方へ向かったから、襲撃者に対応できなかったこと。
その魔女はCAPsによって国際指名手配されている魔女だという事。
魔女は交渉に応じて、見逃してくれたこと。
そして…
「一番不可解なことは……彼女、郡上 未来は坂又さんが始祖の先祖返りだと知っていたことです。」
「……そうですね…東雲さんも、始祖の先祖返りそのものは知っていたんですか?」
「はい。CAPsに所属する魔女は例外なく研修でCAPsの成り立ちを学び、その際に魔女の始祖についてとその脅威について学びます。」
「……だとしても、ですよね…まぁ国際指名手配される程の犯罪者だから、幹部内の情報を知れるだけの情報網を持っている可能性もありますけど…」
「んー…でも、考えても仕方ない部類の問題じゃないですか? 拡散されても私たちやCAPsじゃどうしても止められない人物ですし。」
「まぁ……そうですよね。どうにもならないことを考えても、どうしようもない、か。」
確かに、異常に強くて誰にも捕まらなかった人物を俺個人の──とは言っても俺も始祖の先祖返りだが──事情で捕まえることは難しいだろうしな。
なら、次は今後のこと……かな。
「じゃあ、最後に今後のことを決めましょうか。あれ以降新しく命令的なのって来ましたか?」
「いえ、特には。続けて護衛と監視を進めるように、と。」
「……じゃあ、ここに住み込む事は決定事項ですか…」
「あれ、良いんですか? てっきり断られるものかと思ってたのですが…」
「流石に、あんな事があれば護衛も欲しくなりますよ……もう死にかけたくはないです。」
「うっ……はい。頑張ります…」
別に東雲さんを責めたわけじゃないんだが…まぁいっか。
「でも、この段ボール群はどうにかしないとですね……」
話し込んでいて目に入らなくなっていたが、このリビングも半分は段ボールで埋まっているし、廊下も半分は段ボールで埋まってしまっているのだ。これらを片付けずにここに住むのは難しいだろう。
「あ、それについては大丈夫ですよ。今日の夜には引っ越し業者さんが来て全部片づけてくれますので。」
「あぁ、そんなことも言ってましたっけ。じゃあ段ボールも片づけるとしたら…まぁもう一人住む分には問題ないし…学校生活も関わりすぎなきゃ問題ないよな…食費諸々は全然なんと関るくらい銀行に入ってるし……あれ、もしかして思った以上に問題ない?」
「恐らくですけど、致命的な理由があったら幹部も住み込みで護衛するようには言わないんじゃないでしょうか…?」
「……確かに。」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
翌日。登校日である。
二人分の朝食を用意し、同じ食卓でご飯を食べる。
二人分の食器を食洗器に突っ込み、各々身支度を整えて一緒に登校…はしない。
話し合った結果、東雲さんが即守れる距離──200m──から追いかけつつ登校する、という事にした。
……まるでストーカーの様だなんて言ってはいけない。言ってはいけないのだ。
「お、坂又ーおはー」
「よっ」
「挨拶も返せんのか貴様は」
「しらない人に言われても…」
「クラスメイトを知らない人呼ばわりとは、これいかに」
適当にクラスメイトとだべりつつ、学校へ向かう。
東雲さんはうまく隠れているのか、正直どこにいるのかとかはさっぱりである。やっぱり、一応は秘密組織に属する一人なんだよなぁ…とどこか他人事のように実感する。
何事もなく学校につき、何事もなく授業を受ける。
東雲さんはまだ転校生フィーバーから抜け出せておらず、女子男子問わずクラスの中で人気上昇中だ。
護衛できる距離から抜けないように弁当は教室で食べるようにし、何度とも内容にクラスメイトと会話する。
これこそ日常…って感じだ。
というかここ数日がおかしかっただけで、あんなことが毎日起こっていたら命がいくつあっても足りないのだ。
「すまん、トイレ」
「おう、いってら」
話していた奴に行き先を告げてさっさとトイレに向かう。
教室をでてトイレに向かっていると、目立つ髪色の人がいた。
とは言っても、藍色のような髪色で遠くからみてもギリわかる程度のものだ。
しかし突然に、昨日の東雲さんとの会話を思い出した。
『…魔女化すると魔女は髪の色が抜けて様々な色に変化し、人によっては瞳の色や肌の色まで変わるケースもあり、容姿も整う傾向にあります…』
その女生徒は俺とは逆の進行方向に歩いており、言い換えればこちらに向かってきている気がする。
「魔女……!?」
その呟きが届いたのか、瞬きの間に東雲さんが現れた。
教室や廊下で騒ぎになることもないので、魔女の魔法は認識できないだという事を改めて実感する。
そして、確かな足取りでこちらに向かっている女学生、推定魔女は東雲さんを挟んで俺に向けて話し出した。
「ねえねえ、もしかして先輩が一昨日の光の柱の正体?」
「……野良の魔女が、何か用ですか。」
東雲さんは睨みを聞かせて話し、相手を威圧している。
しかし相手の女学生(推定魔女)は慌てるように手をあわただしく動かす。
「うわ、こわ。お姉さん落ち着いてよ……私、別に敵じゃないから」
「CAPsに属さずに、ですか?」
「んー、私たちには肌が合わなかったんだよねぇ。そういう層も一定数いるのは知ってるでしょ?」
「知ってはいます。…ですが、あなたが敵でない保証もない。その理由に、おそらく固有魔法で気配を隠して近づきましたね?」
「あー、それはごめんね。私意図せずに自分の魔力とか諸々隠れちゃうんだよね…一応、手ぶらで汎用魔法も使ってないことが誠意のつもりなんだけど……それに、私を見たら気配もすぐわかったでしょ? ダメかな、お姉さん。」
「……そのまま、この距離感で話すのなら大丈夫です。この位置なら、私の方が早い。」
その女学生(魔女)は、東雲さんには興味がないように無視して俺の方を向いた。
「先輩って、一昨日の光の柱が立ったところに住んでるんだよね? やっぱり魔女化したの?」
「……いや、俺は男だから魔女化なんてしない。」
「またまた~。一昨日の夜見たって言ってたもん。間違いないよ~」
「見てたって…何を? 一昨日は特に何も」
「確か、瀬名ちゃんに襲われて死にかけたんでしょ? そして魔女化したって聞いたけど…違うの?」
東雲さんの気配が鋭い物になる。感じたことがないほど今は頼もしく感じる。
「なぜ、魔女の名前を?」
「簡単なことだよ~、ワトソン君。私の仲間が彼女に魔力を吸われちゃったからだよ。彼女の味方っていうよりかは私たちの方が被害者だよ~…」
「それと俺になんの関係が?」
「彼女を倒したのって先輩でしょ? そのおかげで仲間の魔力が少しだけ戻ったの! だからそのお礼をしに来たのとー…」
「まってください。だから、俺は魔女じゃ……!」
「いいんだって。あの銀髪のかわいい子でしょ~? 同じ魔女だけど嫉妬しちゃうくらいかわいかったよ! まぁ、家の子の方が可愛いけどねっ!」
俺は、小声で東雲さんに話しかける。
いいのか、これで。
「……あの、なんか確実に把握してるっぽいんですけど…どうします?」
「今のところ敵意は感じませんね…というか、彼女
「じゃあ猶更いった方がいいじゃないですか…! 東雲さんも戦闘態勢解いてください…!」
「はい、わかりました…」
「…あれ? もしかして、やっと認めてくれた? 良かった~…CAPsと敵対なんてしたくないからね~…」
彼女は大きい身振り手振りで感情表現し、まさに胸をなでおろした、といった感じだ。
「あ、あと聞き忘れてたけど、先輩たちの名前ってなに?」
「……坂又 啓人。」
「東雲 秋です。」
「私はね~、
「……さっきから気になってたんだけど、その先輩って何?」
「同じ学校の後輩だから、呼ぶなら先輩かな~?って思って。」
「……あっそう。じゃあ、もういい? お礼も受け取ったし、どういたしまして。」
「いやいや待ってよ~。私、まだ要件言い終わってないよー!」
もうさっさと聞いて離れるか…
「じゃあ何?」
「先輩を、私たちの秘密基地にご招待します! やったね!」
「……断る。」
「えー!? なんで!?」
「一昨日の一件でもう魔女とは関わり合いになりたくないんだよ…! 殺されかけた俺の身にもなってくれ…!」
「いやいや家の子たちは乱暴しないよ!? どちらかというとみんなお兄さんに感謝してるんだって!」
「いーや、やだね。俺は絶対に行かない。何を言われようと絶対にだ…!」
「先輩のほうが駄々っ子みたいになってるよ~!」
「お前のような後輩に言われたくないわ!」
途中、東雲さんが肩をつついてきた。
「…なんです?」
「いや、もしかすると行った方がいいかもしれません。」
「
「いや
「わかってますよ畜生! で!? なんで行けと言うんですか!」
「あのですね、恐らく彼女らに悪意はないと思います。私が保証しますよ」
「貴女そんなにちょろかったですか!? 最初の警戒心は
「いや、私の心情の話ではなくて…昨夜新しく幹部の方から連絡がありまして。その瀬名という魔女が犯罪を犯した魔女の魔力を食っていたようで、無力化された状態でその魔女たちを確保できたんですよ。でも、その後少し魔力が戻ったようで抵抗したらしいです。なので彼女は嘘は言っていません。それに、見た目の情報がなかったのでわかりませんでしたが…雨宮といえば平穏派として一時期CAPsに属していた魔女です。当時から争う事を忌み嫌う魔女で、それなりに他の魔女の支持も得ていたようなのですが……噂では他の派閥からの刺客によって消されたといわれていたのですが…」
「つまり、殺されたと思っていた平穏派の魔女だから恐らく大丈夫だと?」
「はい。」
はい、て。いいのか、それで。
……でも確かに、聞く限り、それに話してみる限りでは悪い人には見えないし…
「それにですよ、坂又さん。」
はい。(心の中)
「もしここで彼女を味方につけることが出来れば、その味方である他の魔女の助けも借りられるかもしれません。あなた自身で味方を増やすのも良いのでは…?」
「……確かに、そうですね。東雲さん一人だと不安ですし……」
「え、いやそういう意味では」
「よし、雨宮後輩。秘密基地の招待、受けさせてくれ。俺も魔女との知見を広めたいんだ。」
「おっけ~! じゃあ、また放課後に~!」
「よし、トイレ行こ」
「あの、私一人だと不安とは……どういう」
俺は無視してトイレに駆け込んだ。
東雲さん可哀想(笑)