人類がどこから生まれ、どのようにしてこの宇宙へ広がっていったのか。それを正確に語れる者は、もういない。
ただ、星が死んでゆく様を見るたびに思う。眩く膨れ上がり、やがて自らの重みに耐えかねて崩れ落ちていくあの姿は、文明という営みそのものに、よく似ている。
人類は増え続け、広がり続けた。かつてひとつの光の群れにすぎなかったものは、いつしか隣り合う幾つもの光の群れを併呑し、その果てにあるはずの境界線という概念さえ塗り替えていった。
だが、あまりにも広い領域と、あまりにも多様な知性の種を、たった一つの手で束ね続けることなど、誰にもできはしなかった。統べようとする意志は、広がり続ける版図の前で必ず砕け、砕けた欠片の数だけ、新しい旗が、新しい言葉が、新しい国が生まれていった。数えることにすら、もう意味はない。人の営みは、そうやって静かに、しかし確実に、無数の破片へと分かたれていったのだ。
それすらも、繰り返しにすぎないのかもしれない。歴史というものがもし円環であるならば、幾千幾万の文明が同じ道をたどり、同じように分裂し、同じように争い、同じように誰かを英雄と呼び、そして同じように忘れていったのだろう。
もしこの宇宙に、すべてを見渡す何者かがいるのなら――それを創造主と呼ぶのか、神と呼ぶのか、あるいはただの偶然の積み重ねと呼ぶのか、私にはわからない――その何者かは、きっともう、この果てしない繰り返しに、飽き飽きしているに違いない
そして私もまた、その円環のどこかに組み込まれた、ちっぽけな模倣者の一人にすぎない。何か特別なことを成し遂げたわけではない。ただ、目の前の日々を、必死に生き延びてきただけだ。それがたまたま、歴史という長い長い物語の型に、うまく嵌ってしまっただけのことだと思っている
人はそれを、都合よく「英雄」と呼びたがる。多くの者が死に、多くの者が何かを信じたかったのだろう。誰かの幸運に、あやかりたかったのだろう。けれど蓋を開けてみれば、そこにいるのはただ迷い、ただ疼く頭を抱えながら、それでも立ち続けているだけの、一人の人間でしかない
ただ一つ、確かなことがある。星々がいかに遠く、歴史がいかに長くとも、人が歩みを止めないかぎり、物語が終わることはない。たとえその先に待つものが、希望ではなく滅びだとしても――彼女はまだ、それを知らない
土井しおり。それが、この繰り返しの歴史のどこかで、まだ抗おうとしている、ごくありふれた人間の名前である
物語は、まだ始まったばかりだ。
毎週水曜
投稿予定
※第一話は同日投稿です