クッフ・サロモンの暇つぶし 〜地球連邦政府成立前夜   作:伊豆擱 里弧芦

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先に上げた話は余りにもAI過ぎて自分らしくないので、自分らしく描き直し始めたらえらいことになりました。
うん。誠に自分らしい。
なんとか最期まで書き切るつもりです。


クッフ・サロモンの暇つぶし 〜地球連邦政府成立前夜

 クッフ・サロモンが、ザウリの地球連邦軍戦傷者療養所に収容されて早3ヶ月。自己認識では何一つ傷ついていない、元気一杯の身体を持て余していた。

 だが、地球連邦軍正規の階級……特務大尉を持つ療養所筆頭軍医の意見は一貫していた。

 

 「駄目だな。宇宙放射線障害症状がまだ残っている。薬物療法を続ける必要がある」

 

 クッフは空を仰いだ。……そこにあるのは診察室の白い天井だったが。

 

 「センセ、せめて酒位は許してよ」

 

 バーリン・バー特務大尉は目を剥いた。

 

 「馬鹿な事を……」

 

 椅子を回して時代掛かった紙のカルテに書き込みながら、彼はクッフを睨めつける。

 

 「酒は百薬の長。だが、今の貴様には劇薬だ。寿命を十年減らしてもいいなら勝手にしろ……と、言いたいところだがな」

 

 彼はクッフに向き直り、小さく溜息をついた。

 

 「ロベルト先輩の忘れ形見の一人なんだ、お前は……。頼むよ。健康になったお前を、笑顔で送り出させてくれ……」

 

 疲れ果てた先にある諦観に染まった顔に、切なさを匂わせた老人。そこから放たれた言葉を跳ね除ける勇気は、20代前半とも未だ言い難い若僧には存在しなかった。

 

 

 「で、くさくさしてるワケ?」

 

 リジア二等看護士にイジられながら、清拭布で背中を拭かれるクッフは口笛を吹いた。

 

 「しゃーないよ。あれ、言われるとなんも言い返せない」

 

 ケラケラ笑う彼女の笑顔が眩しい。バケツに清拭布を投げ入れるリジアも、今時紛争で大変な目に合っていてる筈だが……仕事中であるからか、その影は見えない。言葉で説明されない限り、彼女の本心だなんてものは、クッフには読めなかった。

 

 「なあ看護士さんよ……TVもラジオもねえんじゃ、さ。暇で暇でしょうがないんよ……。なんか、こう、暇潰しするモン無いんか?」

 

 やれ、戦争だ、紛争だ、武力衝突だ。そうなれば、事前準備とばかりにミノフスキー粒子を盛大にばら撒くようになってはや100年余り。

 戦い終わって日が暮れて。しかし、ミノフスキー粒子はそうそう簡単に消えてなくならない。有線放送も、でっかいタイヤが踏み潰して回ってズタズタとなれば、外部情報を取得するとなれば紙の新聞を待つか、誰かの雑談から仕入れるしかない。

 ったく、よ。ミノ粉なんて便利で不自由なもん撒きやがって。戦争終わってもメディアが戻ってこねぇ……。

 自分が今欲しいのは、自身で能動的に選んで消費する「暇潰し」の材料で。バーリン・バー特務大尉の言葉に思ったよりも大きな心のざわめきを感じたクッフは、誰かとの会話を楽しめる心理状態とは程遠かった。

 

 彼よりほんの少しだけ年齢が行っているだけのリジアは、しかし、クッフの心情を見抜いたのか、少しだけ考え込んで、直ぐに解決策を思いついた。

 

 「まあ、有りがちなのは読書よネ」

 

 クッフは小さく唸った。

 

 「読書だぁ?」

 

 腰に手をやった看護士は微かな呆れを表情に浮かべ、次いで、小さく笑った。

 

 「一応病院よここ。騒がしいのは困るし、どっかからアルコール持ち込まれてもモット困るし」

 

 さっさと踵を返したリジアは左手をヒラヒラさせながら病室を出ていった。

 

 「まあ、期待しないで待ってて」

 

 清拭道具一式が床に忘れ去られていた。

 

 

 「Weekly S.E.A.R.C.H. ザ・サイエンス・アース」

 

 古びたその雑誌には大時代的なロゴでその名が大きく刻まれていた。

 下の方に小さく「Weekly S.E.A.R.C.H.(:Science & Earth-Areal Research Chronicle)」と書かれている。

 

 「こんなモン、暇潰しになるんかねぇ……」

 

 どっさりと持ち込まれた古びた雑誌の山は、何処となく黴臭さを醸し出しているが、単なる錯覚か?

 コミックなりペーパーブックなりが届けられると思っていたクッフは正直、面食らったが……よくよく考えないまでも、そもそも自分がいる場所は、軍施設なわけで。

 表紙に扇情的な格好のグラビアアイドルが投げキッスを放るような雑誌があるわけもなく……。

 

 「仕方ないわな。時間を潰す位はできるか……睡眠薬代わりかな?」

 

 おかしな邪推をしながら、適当に手に取った号を開いた。

 

 

 

 UC0119年・32号

 不定期連載:主幹編集者カイ・シデン「老人の独り言」55回

 長期連載:ミノフスキー粒子学の行く末・201回

 連載:地球連邦政府成立前夜・20回

 

 目次をざっと斜め読みしてページをめくる。微かな音が、一人しかいない特別室を流れて消える。

 

 今や古典的としか言えない、古き良き時代を感じさせる……科学雑誌には似合わない腕時計の広告。曰く、ミノフスキー粒子に溺れても、時間は貴方を見守り続ける!ホントかよ。軍用腕時計でも戦闘濃度でむっちゃくちゃになったやん。

 

 「地球連邦軍は貴方の献身を必要としている!」俺に向かって何言ってんだ……雑誌の広告にこんなん混ざっているのか。いや、一応は地球連邦軍属のハズ……リガ・ミリティアの扱いは、今、どうなってるんだ……。

 地球連邦軍戦傷者療養所に収容されている現状を思えば考えるまでもないことだが、クッフは軽く頭を捻った。

 まあいいか。

 

 更にめくった先に現れたのは……。

 

 小さく眉を跳ねたクッフは「地球連邦政府成立前夜」のページに目を走らせた。

 

 

 ―――人類がいまだかつてない大災害に翻弄されるなかに起きた、ほんの小さな出来事。

 

 かつて存在した国家「日本」。この政府首脳全滅事故は、大まかには「事件」であると語られて来た。

 ところが、最近、一年戦争以後の連続した一連の混乱を生き延びた一次資料がホンコンで発見され「新たな知見」が得られた。

 

 人は歴史に陰謀を求める。

 

 しかし、発見された一次資料が示していたのは、陰謀ですらない。

 

 そこにあったのは、善意と合理的判断が積み重なった末に生じた、ごくありきたりな悲劇であった。そこから導き出された真実は、現実とはかくも陳腐で凡庸なものだと、人間を嘆息させるものであった。

 

 真実とは、時に英雄譚よりも、驚くほどありふれた姿をしている。

 

 そして歴史家は、そのありふれた事実の中に、人類最大級の惨劇と、皮肉なまでの喜劇が同居していることを知る―――

 

 

 

 




バーリン・バー特務大尉。
良い名前でしょ。いかにもガンダムに出てきそうな名前。きっと裏では「バーさん」とか呼ばれてる。

雑誌の名前は本当に苦労した。複数の意味が見れるように、時代的にも邪推出来るような簡単でややこしいものになったと自画自賛。
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