プロローグ①
プロローグ①
どうしてこうなった・・・・・・。
俺は今、自分の現状。置かれた状況に図らずも頭を抱えている。
傍から見れば俺の顔の表情も強張っているであろうと思う。
周囲は真っ白な何もない空間である。
まぁー、地面。というか・・・。
足場らしきものと上下左右は解るわけで、惑うことは無いのだが・・・。
「あなたが最後のものか」
って、言うか・・・。
どうして、あんたが此処にいるんでしょーかねぇーっ!?
内心の困惑を押し潰し、苦みをも咬み潰す。
それから溜息を一つ。
疑問はこの際、脇へと置いておく。
そして俺は眼前の存在へと視線を向ける。
俺の目の前には少女がいる。あくまでも見た目だけの姿だが・・・。
―――彼女は素晴らしく美しい少女だった。
年のころは一三、四歳ぐらい。幼くも可憐な顔立ちをしている。
少女は猫耳の様に双極が盛り上がった青いニット帽をかぶる。
一見、どこかの制服姿に見えなくもない。
白シャツに紺のネクタイの上から淡いピンク色の薄手のセーターを着ており、スカートの丈は短めで股下一〇センチ弱。
黒の二―ソックスが太もも近くまで隠しているものの、僅かに見える雪の様に白い肌が、扇情的な危なさを醸し出す。
肩のあたりまで伸びた銀色の髪は、月明かりを溶かし込むがごとく淡く輝き、その瞳は闇夜のごとく黒く深く澄み切っていた。
こちらの存在などお構いなしに、路傍の石ころのごとく扱う彼女。
それが当たり前なのは仕方がないことだ。
彼女は俺に確認の意味を込めて語りかけた訳ではないのだから。
右肩から
「さて、時間も限られている故。手短に済ますとしようか」
カバンの中から、パッと見て十数枚ほどの紙束を取り出し、こちら側の意思の一切を考慮することなく話を進めようとする。
「あぁ~。悪いけど・・・。少し待ってくれませんかね?」
とりあえず、俺は片手を上げるとダメもとで彼女の行動を制してみる。
「ん?何か?・・・妾(わらわ)は些(いささ)か多忙故、できれば疾(と)く去りたいのだが・・・」
おぉ~、止まってくれたし。
正直、
俺の内心に気付くことなく彼女は言葉を区切る。
そして、首を
「あなたも状況を理解できぬと?・・・
夜を凝縮したような闇色の瞳が、じっとこちらを見据えてくる。
訝しげに眼を細めながら、こちらの全てを見透かすかのように・・・。
そこに、ただいるだけであるにも関わらず、彼女からは重圧にも似た魂への圧迫感が押し寄せてくる・・・。
これまで出会った数々の強者達。彼らを全て超える神気を彼女は放つ。
しかし・・・。
うん。大丈夫だ。耐えらなくはない。
「いや。・・・状況は理解しているよ。あそこで俺が死んだってこともね」
そこでもう一つ、大きく息を吐き出す俺。
頭を振ってから、彼女と話しを開始するためのスイッチを入れる。
なにせ、この相手に生半端な会話は通用しないのだから。
彼女はこれまで接してきた者達の誰とも違う。
彼女は―――
「ただね。どうして、貴女なのかな?と・・・。武力と勝利を常に下僕とする女神様」
俺の言葉に目を細め。初めて感情らしい意思のある表情を浮かべる彼女。
ようやく俺という存在に興味を持ってくれたようだ。
先程までの淡々とした無表情が嘘の様に、今は、ほんの少し。―――好奇心に揺れている。
「ほう。一目で妾の神格を見抜くか、人の子よ・・・。ならば、妾が何で在るかも知っておろう?・・・妾の名と共に」
そう呟きにも似た声色で問う彼女。
声高でもなく。高らかに宣言した訳ではない。が、その言葉は確実に耳に残る。
ごく当たり前の様に魂へと刻み込まれる言霊。
叡智に長けた智神としての問いに、余計な言葉は必要ないだろう。
そう考え、答える俺。
「闘争と叡智の女神にして、蛇と梟に連なる
言葉少なに、理解したことを簡潔に集約し伝えてみる。
って、言うか・・・。
どっからどう見ても【カンピオーネ】に出て来た
大地の豊穣と輪廻する蛇を担うメドゥーサ、無限の叡智と不死を担うメティス、そして戦争と常勝を担うアテナ。
天と地、そして現世と冥府を統べる、最強の女神の一柱にして三相一体の女神。
それが今、俺の目の前にいる。
「そこまで知るか、人の子よ。
ほんの少しの興味と好奇心の入り混じった顔は、喜びの表情へと変化する。
その微笑みは大地母神としての慈愛と慧眼を併せ持つ。
それ故か、解放された神力とその微笑みによって、一瞬にして周囲の空気が変化する。
おかげで先程まで感じていた重圧が鳴りを潜め、弛緩した空気が流れ出した。
柔らかく暖かな笑みを浮かべたまま、次の言葉を紡ぐ古き始まりのアテナ。
「それにしては、あなたは奇妙な人の子だ。・・・まず、妾にはあなたの思考を読むことが出来ない。これは本来ならばありえないことだ。なぜなら、妾はアテナなのだからな」
一度瞬きをしたのち、こちらの視線を真っ直ぐに捉えながら言葉を続けるアテナ。
「次に。妾をアテナと理解してなお、あなたは動じてはおらぬ。困惑はしておろうが、それは、己が眼前に妾がいるという。その事象にのみ向けられておる。そのうえ、神格を理解して尚、妾に呑まれることもなく言葉を紡げる。・・・問おう。これは如何(いか)に?」
「まぁ、俺にも神さんの知り合いがいるもので・・・少しは耐性があるのかもな。それに、普通の人間でもないしね。・・・でもさ、正直、貴女の言葉通り、この場で貴女が出てくるとは思わなかったから、驚いたってのも確かだぞ。―――ついでに言うと、今回もその知り合いが出てくるものだと思っていたからな・・・」
俺がそう返すと、彼女は
「ふむ。―――しかし、そのような報は記されてはおらぬようだが」
最後まで目を通し終えると紙束から視線を外し、再度こちらへと投げかける問い。
「あぁ~・・・。まず、それには。何を、どこまで記されているのかな?」
やけに薄いな~と感じながら、聞いてみる。
「先程まであなたが彼の世界において生きた証。十五年の歳月、その事象のみ」
なるほど。どうりで・・・。
さしあたり、一枚一年分の記録ってところか・・・。
ていうか・・・薄!それだけって悲し過ぎないか俺。
ええい、考えるな、俺。望んで手にした平凡な人生だっただろうが。
落ち込みそうになった精神を立て直し、切り替える。
「なら仕方がない。それに。そこに書いてあるのは、たぶんさっきまでいた世界の記録だけだから」
「ほう。・・・なるほど。それはまた・・・・、やはりあなたは興味深い人の子だ」
そう言うと、より一層、目を細め、全てを話せと催促してくるアテナ。
その眼差しと言外には、『戯れや嘘を混ぜるなよ』という意思がアリアリとこもっていた。
「わかった。話すよ。少し長くなるけどいいかな?」
「かまわぬ」
彼女がおもむろに視線を動かすと、アテナの視線の先には丸いテーブルと対面した椅子が二脚、現れた。
そして、何も言わずにその一つに座る彼女。
「何をしている。あなたも座りなさい」
さっきまで疾く去りたいとか言っていませんでしたっけ?
「何か?」
「いや、なんでもない」
まぁ、いいけど・・・。
そう内心でツッコミを入れつつも、大人しくアテナの対面へと座る俺なのであった。
アテナとテーブルを挟んで向かい合わせになりながら説明を開始する。
これまでの経緯を全て。包み隠すこともなく、率直に・・・。
かつてある世界に生まれ、一九年の歳月にてその生涯を閉じたことを。
それから物語の神との出会いの話を。
その神に語られた内容を。
ツリーダイヤグラム。
運命の系譜の道標。
そして与えられた選択肢。
決めた覚悟と一つの決断。
彼のものと交わした契約。
そして、それから始まった数度に及ぶ転生人生を。