転生上がりのストリートチルドレンが官吏登用試験を受けてみた結果   作:コロトック

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第11話 呼び出し

 

 なんでかは知らないが、王様に呼び出された。

 

 あー、クビかなあ。それともアレクサンドロス大王とか書いたのが不味かったかなあ。

 

 試験の歴史科目、あれから採点結果は誰にも見せてもらえなかったが、まさか今頃になってその話が出てくるとは思わなかった。時効という概念、この世界にはないのかもしれない。いや、まだそこまで時間が経っていないか。

 

 ◇

 

 「セ、セナ、大丈夫、ですか……?」

 

 フィリア様は俺以上に顔面蒼白になっていた。呼び出されたのは俺のはずなのに、なぜか本人より緊張している。

 

 「殿下がそんな顔しなくても大丈夫ですよ」

 

 「で、でも……お父様、が、急に呼ぶなんて……何か、あった、のかと」

 

 「お父様」呼びに一瞬詰まりかけたが、考えてみれば当然の話だった。この王城の頂点にいる人物は、フィリア様の実の父親でもある。今更ながら、自分がとんでもない場所で働いていることを実感した。

 

 「殿下も同席してくれるんですか」

 

 「は、はい……その、私も、呼ばれて、いるので」

 

 「あ、そうなんですね」

 

 二人揃っての呼び出しらしい。とりあえず、クビの通告に雇い主まで同席させる王というのは、それはそれで随分と念の入った話だ。

 

 「殿下、王様ってどんな方なんですか」

 

 「え、っと……その、優しい、です……でも、忙しい、方、なので……あまり、お話しする、機会も」

 

 実の父親相手に、他人行儀な紹介をされるとは思わなかった。この親子の距離感も、なかなか複雑なものがあるらしい。王族だからかな?

 

 ◇

 

 謁見の間は、想像していたよりも簡素だった。豪奢な装飾よりも、実務的な机と椅子が目立つ部屋だ。玉座に腰掛ける王は、思っていたより柔和な顔つきをしていた。

 

 「よく来たな、二人とも」

 

 「お、お父様……」

 

 フィリア様の声が、いつも以上に小さい。俺はとりあえず一礼して、次の言葉を待った。

 

 「セナといったな。フィリアの秘書補佐についてくれているそうだが」

 

 「はい」

 

 「フィリアの様子が、ここ最近ずいぶんと変わったと聞いている」

 

 来た。ここで何を言われるかで、今後の身の振り方が決まる。覚悟を決めて背筋を伸ばした。

 

 「決裁が早くなった。書類の滞りもほとんどないと、宰相府からも報告が上がっている。なにより」

 

 王はそこで一度言葉を切り、娘の顔を見た。

 

 「…なによりフィリアの表情が、随分と柔らかくなった。父親としてこれほど嬉しいことはない」

 

 「……」

 

 フィリア様が、隣で小さく息を呑む気配がした。

 

 「良い働きをしてくれているようで何よりだ。褒美を取らせよう」

 

 処刑どころか、褒美という単語が飛び出してきた。想定していた展開との落差に、頭の切り替えが追いつかない。

 

 「あ、ありがとうございます」

 

 「何が欲しい。金か、爵位か、あるいは休暇か」

 

 「え、選べるんですか」

 

 「無論だ。功績には見合った対価を返す。それが筋というものだろう」

 

 急に選択肢を並べられて、頭の中が真っ白になった。生まれてこの方、こんな豪華な質問をされたことがない。

 

 「……歴史の点数のことも聞いている。アレクサンドロス大王、だったか」

 

 やっぱりバレていた。心臓が跳ねる。

 

 「あれは、その」

 

 「気にするな。むしろ面白い。堅苦しい答案ばかり並ぶ中で、あれだけは記憶に残った。響きもよかったしな」

 

 処刑の心配は杞憂だったらしい。安堵のあまり、力が抜けそうになった。

 

 「褒美については、追って沙汰する。今しばらく待つがいい」

 

 「か、かしこまりました」

 

 ◇

 

 褒美の話が一段落したところで、王が続けた。

 

 「フィリア、少し外してくれるか。この者と、二人で話したいことがある」

 

 「は、はい……」

 

 不安げな顔で退室していくフィリア様を見送ってから、王は改めて俺に向き直った。

 

 「単刀直入に聞く。フィリアの周囲で、何か不審な動きはなかったか」

 

 声のトーンが、明らかに変わっていた。父親としてではなく、王としての質問だ。

 

 「不審な動き、とおっしゃいますと」

 

 「秘書の一人が、長期間職務を放棄していたと聞いている。その理由と、事後の対応について、お前の知る限りを聞かせてほしい」

 

 グレアムの件だ。カジノでの借金の話まで、既に耳に入っているのかもしれない。どこまで話すべきか、一瞬迷った。

 

 王の視線には、隠し事を見透かすような鋭さがあった。この人の前で下手な誤魔化しは通用しないだろう。

 

 「率直に申し上げてよろしいでしょうか」

 

 「もちろんだ。むしろそれを望んでいる」

 

 その一言に、腹をくくった。ここで下手に取り繕っても、いずれ露見する話だ。それなら、最初から誠実に話す方がいい。

 

 「秘書殿は、カジノで多額の借金を作り、しばらく行方をくらませていました。戻ってきてからも、視察と偽って説明していましたが。正直な話をすると私はあの者が得意ではありません」

 

 王は表情を変えず、静かに聞いている。次に何を言われるのか、まるで読めなかった。

 

 「正直な男だな。気に入った」

 

 予想外の一言に、思わず顔を上げた。目の前の王は、初めて笑みらしきものを浮かべていた。

 

 「侯爵家との兼ね合いもあるゆえ、表立って処罰するのは難しい。だが、水面下でできることはいくつかある」

 

 「水面下、というと」

 

 「それは私の仕事だ。お前は今まで通り、フィリアの隣で支えてやってくれればいい」

 

 王の言葉には、思っていた以上の重みがあった。この人もまた、娘のことを気にかけているのだと、その一言だけで十分に伝わってきた。

 

 「かしこまりました」

 

 「それと、もう一つ」

 

 王は少し声を落として続けた。

 

 「フィリアが自分から誰かを頼るようになったのは、初めてのことだ。感謝する」

 

 「もったいないお言葉です」

 

 畏まって頭を下げながら、俺はふと、この王城に来てからの日々を思い返していた。スラムから成り上がった先が、まさか一国の王に感謝される立場になるとは、我ながら想像していなかった展開だった。

 

 退室した後、控えの間で待っていたフィリア様が、心配そうに駆け寄ってきた。

 

 「セ、セナ、大丈夫、でした、か……?」

 

 「大丈夫です。むしろ、いい話をたくさんもらいました」

 

 「よ、良かった……」

 

 安堵で肩の力を抜くフィリア様を見ながら、俺はこの謁見の裏で王が動き出そうとしている何かのことを、まだ本人には伝えないでおくことにした。

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