転生上がりのストリートチルドレンが官吏登用試験を受けてみた結果   作:コロトック

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第12話

 

 「褒美……褒美……うーん」

 

 何がいいかなあ。欲しいものなんて、そこまでないんだよな。爵位なんてもらったら、色々とめんどくさそうだ。絶対に言えないけど。

 

 書類仕事の合間、頭の隅でずっと考え続けていた。金と言われても使い道が思いつかないし、休暇と言われても暇を持て余しそうだ。

 

 スラム時代を思えば、屋根があって、飯にありつけて、給金までもらえる今の生活自体が、既に十分すぎる褒美のようなものだ。それ以上を望むのは、なんだか贅沢な気さえしていた。

 

 「フィリア様。なんか欲しいものあります?」

 

 「セナへのものなので、ダメです」

 

 淀むことなく、はっきり言われた。うーん、正論だ。

 

 「じゃあ、参考までに。殿下だったら何を望みますか」

 

 「私、ですか……えっと……」

 

 しばらく考えた末に、フィリア様は困ったように首を傾げた。

 

 「特に、思いつかない、です。今、十分、満足してるので」

 

 欲がないというより、望むことに慣れていないんだろう。この人らしい答えだと思った。

 

 「殿下は本当に、自分のことになると急に無欲になりますね」

 

 「そ、そう、でしょうか……」

 

 「他人のことなら、あんなに一生懸命考えてくれるのに」

 

 「え……」

 

 図星を突かれたのか、フィリア様が黙り込んだ。ちょうどそのタイミングで、俺の中で何かが繋がった気がした。

 

 「あ……いいこと思いついた」

 

 ◇

 

 数日後、俺は再び謁見の間に立っていた。

 

 「スラムの子供達に、文字を教える講師を連れて行っていただけないでしょうか」

 

 褒美として願い出た内容に、控えていた大臣らしき人物が眉をひそめた。

 

 「平民の子供に文字とは。何のためにそこまで」

 

 最初は渋る反応だった。当然だろう。国の予算を身分もない子供達の教育に回すのは慣例からすれば大きく外れた話だ。

 

 「それに、これはあなたご自身の褒美なのですか」

 

 「はい、私自身の褒美として、これをお願いしたく」

 

 大臣は怪訝そうにこちらを見た。褒美として金銭や地位ではなく、他人のための予算を望む人間は珍しいのだろう。

 

 「…率直に申し上げれば、私自身は特に欲しいものがありません。それなら、意味のあることに使いたいと思いました」

 

 建前めいた言い方だが、半分は本音でもあった。前世でも今世でも、物欲というものが自分にはあまり備わっていないらしい。

 

 「フィリア様の名前で行う慈善事業ということにすれば、殿下の評判も上がるのではないでしょうか」

 

 思いつきを口にすると、大臣が僅かに目を見開いた。

 

 「…なるほど。それならば素晴らしい」

 

 あっさりと風向きが変わる。評判という単語には、想像以上の威力があるらしい。

 

 「だが、影響力を持ちすぎるとそれはそれで困る。急に平民に慕われすぎるのも、他の派閥からの反発を招きかねん」

 

 「月に一回程度なら大丈夫だと思います。それにスラムですし」

 

 妥協案を出すと、大臣は少し考え込んでから頷いた。

 

 「…よかろう。まずは試験的にそれで進めてみるとしよう」

 

 思っていたよりすんなりと話がまとまった。もう少し押し問答になる覚悟をしていただけに、拍子抜けするくらいだった。

 

 こうして、月一回の識字講座がスラムで開かれることになった。ハトとの約束も、これで無理なく果たせそうだ。

 

 あいつがどんな顔をするか、想像するだけで少し楽しみになってきた。

 

 「ありがとうございます」

 

 「礼を言うのはこちらの方だ。妙案、感謝する」

 

 大臣は柔らかい表情でそう言った。予算という壁も、伝え方一つで案外すんなり越えられるもの。前世でいうところの、企画書の書き方が上手いだけなのかもしれないが。

 

 ◇

 

 謁見が終わり、大臣たちもさった後、王と話す姿が一つ。リーシャだった。

 

 「リーシャよ。あの若者、意外と大器かもしれんぞ」

 

 「そうですね…興味深い存在です」

 

 「褒美一つ取っても、自分のためではなく、周りのために使おうとする。今どき珍しい」

 

 「ええ。だからこそ、目が離せません」

 

 言い淀むような口調に、王が僅かに片眉を上げた。普段は飄々としているこの監査官が、珍しく歯切れの悪い返事をしている。

 

 「何か気になることでもあるのか」

 

 「いえ、なんでも……ただ、少し」

 

 言葉を濁したまま、リーシャはそれ以上答えなかった。彼女の思考は、王ですら簡単には読み取れない。

 

 「まあいい。お前が動いているなら心配はいらんだろう」

 

 「はい。任せていただければ」

 

 「頼りにしているぞ、いつも通り」

 

 王のその一言に、リーシャは小さく一礼した。長年の付き合いを感じさせる、気安いやり取りだった。

 

 二人の会話は、それきり途切れた。廊下の向こうでは、何も知らない当人が、識字講座の準備で忙しく走り回っていた。




あとがき

以前書きましたがカクヨムでも投稿しています。気づけばあちらの方が進んでいたのでよければどうぞ

「転生上がりのストリートチルドレンが官吏登用試験を受けてみた結果 」https://kakuyomu.jp/works/2912051605016927783
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