転生上がりのストリートチルドレンが官吏登用試験を受けてみた結果 作:コロトック
三日後、約束通りハトが顔を出した。開口一番、頼んだことを話し始める。
「見つけたぞ、例の男」
「早いな」
「絵が良かったんだよ。あれだけ整った顔してりゃ、噂話拾うのも簡単だ」
「見つけるの、そんなに簡単だったのか」
「街の女どもが放っておかない顔だからな。どこの店に出入りしてるとか、聞き込むまでもなく向こうから情報が寄ってくるんだよ」
「顔だけは無駄に良いからな、あいつ」
「顔だけ、っていうのが的確だな。中身が伴ってりゃ、こんなところで油売ってねえよ」
整った顔が皮肉にも役に立ったらしい。フィリア様の絵心に感謝だ。
「それで、どこにいた」
「裏通りのカジノだ。あそこは貴族の道楽者がよく出入りする店でな」
「カジノ……」
なるほど、仕事をサボっていたのはそういうことか。妙に納得がいく行き先だった。
◇
「例の秘書はカジノで負けに負けて、今は体で支払っているらしい。具体的には…」
「あー、うん。わかった、もう聞かない」
それ以上の詳細を聞くのは、精神衛生上よろしくない気がした。想像だけで十分すぎるほど嫌な絵が浮かぶ。
「聞かないのかよ、せっかく調べたのに」
「要点だけでいい。あいつが馬鹿だったってことは分かった」
「まあ、そりゃそうだな」
仕事をサボって遊び歩いた挙句、身の丈を超えた勝負に手を出して負け続ける。同情の余地がどこにも見当たらない、実に分かりやすい自業自得だった。
「参考までに聞くが本人、どんな顔してた?」
「地下でこき使われてる割に、意外と平然としてたな。自業自得って自覚もなさそうだった」
「そこは反省してほしいところだけどな」
「馬鹿は馬鹿なりに、めげない才能だけはあるらしい」
妙な感心をしているハトに、俺も思わず苦笑した。反省しない才能というのも、なかなか珍しい特技だ。ゴミだけど
◇
ハトに報酬代わりのお金と食料を与えたあと、あいつはこんなこと言ってきた。
「一応、証拠もあるぜ。いるか?」
ハトが懐から小さな紙束を取り出した。借用書か何からしい。
それをもらって脅すことも少し考えたが、脅して何をするんだという話にもなる。
「まあ、もらいたい時にもらうわ」
今すぐ必要というわけでもない。いざという時の切り札にしておこう。
「証拠ってほどのもんでもねえけどな。ただの借金の証文だし」
「そもそもあいつ、殿下の秘書としての仕事は元から何もしてなかったからな。今更カジノ通いが増えたところで、勤務態度としては横ばいだ」
「横ばいって、最初からゼロだったってことか」
「そういうことだ」
仕事をしていない人間の遊び方が変わったところで、実害としては大きく変わらない。問題は、姿を消したこと自体だった、理由がわかっただけで十分だ。
「じゃあ、いつでも取りに来られるようにしとくわ。うちの姉さんに預けとく」
「ああ、頼む」
「その代わり、しっかり使えよ。見つけるのに、それなりに手間かけたんだからな」
「わかったよ。ありがとな」
軽い調子で言うハトに、素直に礼を言っておいた。少し無理をさせた自覚はあるからな。
◇
王城に戻り、俺はその足でリーシャの元へ向かった。監査官の詰所は、思っていたより地味な小部屋だった。
「見つかったのね、例の彼」
「もう知ってるのか」
「情報が入るのは早いのよ、私」
「そうか、あいつはカジノで借金作って、体で払わされてるらしい」
「まあ、そんなところだとは思ってた」
「知ってたのかよ」
「いや、これはただの勘よ?」
「ほんとか?」
「……」
「……」
また黙る。いい加減こいつの素顔を見たい。
「まあいいや。一応聞くが、あいつがいなくなって、フィリア様に影響はあると思うか? 俺はないと思っている」
「ないでしょ、あいつ全く仕事してなかったし」
「それもそうか」
「それより、あの秘書、当分は戻ってこられないってことよね」
「そうなるな。しばらくは殿下の秘書職、実質俺一人か。仕事的には問題ないが」
「仕事というよりもあれの親が少し心配ね」
「何かあるのか?」
「さあ、でもあいつを育てた親よ? それだけで察せられない?」
「確かに」
「大変ね」
「他人事だな」
「他人事だもの。私は監査官で、秘書じゃないし」
悪びれもせずそう言い切るリーシャに、思わずため息が出た。頼りになるんだかならないんだか、わからん。
とはいえ、あの馬鹿が戻ってこない今、フィリア様の顔は少し良くなるだろう。それを考えると、いい気分ではあった。
あとがき
なろうにも投稿始めました。話数はそのうち追いつくか追い抜くか、どっちかだと思います。