推しゲー世界のSNSでバズったら、ご意見番と呼ばれるようになった 作:コットン
俺は純粋に、この世界が好きだった。
転生してから二十五年。
前世の頃から大好きだったゲームの世界を、俺は満喫していた。
ケイオス・ネットワークと呼ばれる電脳世界でアバターを投影し、自由に駆け回ることのできるゲーム。
もともと、自由度の高い世界観が魅力的なゲームの世界は、実際に体験してみると更に魅力的だった。
生活の中に好きだったものが根づき、多くの人々が俺と同じ物を愛している。
いや、この世界において、俺が愛した電脳世界はインフラと言っても過言ではない。
そんな世界を、好きにならずにはいられないのだ。
結果俺は、色々なことに節操なく挑戦することとなった。
ゲームでの育成を試したり、世界観の検証をしたり。
プロにもなったし、電脳世界の滅亡を阻止する手伝いもした。
そうなると、自然と色々知識が溜まってくるわけだ。
前世の頃と合わせて、俺の知識量はなかなかなものであると言っていい。
すると、俺はこう思うようになる。
この知識を、誰かにもっと伝えたい。
なのでとりあえず、目についた情報を動画付きで発信したところ――――
死ぬほどバズり倒した。
□
起きてそうそう、スマホを見ると通知が大変なことに。
昨日の発信が死ぬほどバズり倒していたのだ。
10万いいねとか初めてみたぞ。
「これはすごい」
めちゃくちゃ呑気な声が出た。
普段、SNSがバズることなんてそうそうないから、通知を切っていないのがまずかったな。
ただ、通知はSNSのものだけではない。
知り合いとのチャットツール――ディスコードの類似品――にも通知が多数。
ほぼすべて、昨夜のバズに関するものばかり。
昨日は動画をアップしたところで満足し、そのまま眠ってしまったのだ。
スマホは朝まで通知が来ないようにしているため、現在たまりまくったそれが湯水のように俺の前へ。
とりあえず最初にすることは……
「チャットの方に草、とだけ発言しておこ」
すると、即座に「草じゃねーんだよ」と総ツッコミ。
一番中の良い友人からDMから通話が飛んでくる。
『君、またすごいことしたね』
「いや、こんな大バズこれが初めてなんだが?」
『いや……まぁいいけど』
”また”なんて言われるほどすごいことをした記憶はない。
『それで、この後はどうするつもりだい?』
「いや、どうもこうもないだろ。別に炎上してるわけじゃないし。癒し系の動画が拡散されてるだけだろ?」
今回、俺がバズらせたのは議論を呼ぶような可燃性の高い発信じゃない。
リプライも実に平和だ。
引用の変な人達は御愛嬌。
『いや、どうせ君のことだ。他にも色々と動画を溜め込んでいるんだろう? それを放出して、もっと注目を集めるべきじゃないかい?』
「あまり興味はないなあ。ああでも、”こいつ”のことを人に知ってもらいたい……ってのはあるか」
いいながら、俺は部屋の隅においてある大きな端末に視線を向けた。
マッサージチェアみたいな椅子の上に、ヘルメットが置かれている。
ケイオス・ネットワークにアクセスするための端末だ。
知ってもらいたいのは”ケイオス”のこともそうなのだけど、今回俺がバズらせた動画に登場する”電脳生物”のことでもある。
ケイオスは電脳世界、そこには人以外の生物も存在していて、今回俺が動画をアップしたのもその一種。
「アルカンは、ケイオスでもかなりマイナーな電脳生物だからな、これを機に生態を多くの人が知ってくれたら嬉しい」
『また呑気だね……いやいい、その方向でも別に問題ない』
「そうなのか? もう少し目立つような行動をしろ、っていうかと思ったが」
今回、DMで通話を飛ばして来た相手は、やたらと俺に注目を集めさせたいらしい。
けど、俺はそういうの向いてないんだよな。
華がないだろ、ぶっちゃけ。
『それは、君が普段から目立たなすぎるからだろ!? 仮にも二百人弱しかいないプロバトラーの一人なんだから、もう少し積極的にメディア露出をしてもいいとボクは思うけどね!』
「そこはなあ、そっちと違って俺はB級2組の平凡なプロだぞ? むしろ、講演会とかバトル教室とかかなり頑張ってる分、プロとしては品行方正な方だと思うんだが」
『品行方正すぎる。君はもっと上を目指せる存在だとボクぁ思うよ!』
そんなもんかねぇ、と思いつつ。
俺はケイオスへのアクセスを開始する。
電脳世界だけあって、ケイオス内部でも通話は可能なので、問題ない。
『ケイオスに入るのかい? ボクも今はケイオス内部だけど、合流しようか?』
「いや、この後もう一回アルカンの様子を見てから、動画をアップしようと思ってるんだよ」
『そうかい、わかった。邪魔はしないよ、好きにして』
「お小言は多いけど、最終的に放任するよな――リリアは」
『う、うるさいな! 通話切るよ、じゃあね!』
「じゃあまた」
そういて俺は、リリア・アイスフィルドとの通話を終えてケイオスにアクセスする。
「ケイオス・オーダー・イン」
アクセスのためのキーワード――前世の頃からおなじみのもの――を口にすると意識が一気に電脳へと誘われる。
前世の比較的古い時代にゲームが発売されたからか、ケイオスの電脳世界はコテコテな電子の世界って感じのビジュアルをしている。
その中で、これまた近未来のコテコテなドームっぽい建物の内部にアクセスした俺を、すぐに目的の存在がお出向かえしてくれた。
『シンヤ! シンヤ! オカエリ! オカエリ』
それは白くてもふもふな、うさぎに近いビジュアルの生物。
アルカンと呼ばれる電脳生物で、俺が頑張って懐かせた個体。
名前はルルカとしている。
安直だな。
「ただいまルルカ、少し遊ぼうか」
『アソブ! アソブ!』
するとルルカは、俺の手に顔をこすりつけてくる。
猫みたいだな。
ふわふわと空中を浮遊していて、ひとしきりそうしてから俺の腕の中に飛び込んできた。
俺はそれを抱えつつ、近場の椅子に座ると端末を開く。
空中にホログラフが表示され、今回はSNSが表示されている。
早速俺は、アルカンについてさらなる発信をするべく動画を添付しながらテキストを入力する。
内容はこうだ。
『昨日の投稿が多くの方に広がっているので、少しだけ説明させてもらう。
アルカンは非常に臆病な電脳生物で、人前に姿を表すことは稀。ただ、動かないものに対して好奇心を発揮する特性があり、非人型アバターを用いてアルカンの前で長時間待機していると、アルカンがそれを玩具だと認識する。
懐かせることは難しい電脳生物だけど、一度懐くと本当に愛らしくこちらに反応を返してくれる。簡単な会話も可能で、ケイオスで活動する際の相棒として非常にありがたい電脳生物なのでよければ多くの人に知ってほしい』
これに、俺がルルカを懐かせた時の動画を添付。
まぁでもこれは、昨日の投稿と違って非常に専門的な話しだ。
そこまでバズることはないだろう。
それでも四桁くらいいいねが伸びればいいな、と思っていたら――
こっちも数万いいねがついて、盛大にバズった。
□
朝戸シンヤ、プロバトラーである。
プロとしての実力は中堅と言ったところで、順位戦で勝ち抜くことよりも後進の育成を重視するタイプ。
そんな彼だが、知識量に関してはプロの中でもトップクラスではないか、という呼び声が高い。
公式戦では常に最新の研究を取り入れ、新戦術を持ち込むこともしばしば。
そんな彼が、今回アルカンという電脳生物に関するポストでバズった。
これにはアルカンそのものが非常に愛らしいという面もあるが、アルカンを懐かせることが非常に難しいという点も大きい。
というのも、シンヤ本人が解説している長時間待機の方法は、
加えてこの方法を知っているのは、非常に少数。
アルカンを懐かせられるという認識を持っていなかったプロや専門家も多い。
そんな中でいきなりアルカンを懐かせているものだから、多くの有識者が横転してしまったのである。
加えて、シンヤ本人がアルカンについて詳しく説明したことで、シンヤが有識者であるという認識も強く印象づけられた。
詳しい人物が発信しているという空気は、SNSにおいての影響は大きい。
多くの人々に、シンヤがケイオスに詳しいという意識が、植え付けられつつあった。
そして二つ目の動画がなんともシュールであり、これまた大きな反響を呼んだ。
かくして、後にご意見番と呼ばれるようになる男の、最初の一歩がSNSに刻まれたのである。
これはそんな彼の視点から、ケイオスと呼ばれる電脳世界とそれを取り巻く人々を描く物語――