アイドルの隣人は完璧で究極の魔女(♂) 作:えっとぅー
「くそっ!!」
俺…星野アクアは目の前に広がっている光景に、悔しさ紛れのそんなつぶやきを漏らすことしかできなかった。
前世からの最推しであり、今生における血の繋がった実の母親…星野アイ。
アイドルをやっているアイは今日、念願のドーム公演を果たす…予定だった。
だがどうしてだろう?
アイに俺たちという子どもがいることをなぜか知っている激昂したファンの手によって、彼女はその命の灯火を消そうとしている。
「どうすれば!?」
アイの言葉を聞いて、どこかへ逃げ出していったこの状況の元凶たるファンの男。
だがそんなことなど思考の端にもよぎらないほど、俺は焦っていた。
刺された場所から流れ出てくる赤黒い血。
それは勢いを止めることを知らず、どんどんと溢れかえっていく。
誰か、誰でもいいから助けてくれ。
俺の推しを、俺の…俺たちの母親を!!
俺の願いが神に通じたのか、その人は現れた。
「少年、安心しなさい。この女性は僕が助けてあげますから。」
声の主は時々見かけたことのある、俺たちの部屋の隣に住んでいる人。
いわゆるアルビノと呼ばれるような、純白の髪と赤い瞳が特徴的な美しい人だ。
「神秘を解く。天が廻る。星々が躍る。聖霊が唄う。」
その隣人は、意味があると思えない言葉を口ずさむ。
それはまるで、ファンタジー小説に出てくるような魔法を使うための詠唱。
光が吹雪のように、隣人の周りを舞っている。
俺もアイも、そんな現実離れした光景を見て呆然とすることしかできなかった。
「さぁ、癒やしなさい。」
そして、アイの肉体は時が巻き戻るかのように再生していく。
「これで大丈夫ですよ。今は貧血で眠っていますが、もう少しすれば目が覚めることでしょう。」
「生きて、いるのか?」
「えぇ、生きていますよ。」
そう言って、隣人はニコリと笑みを浮かべた。
×××××××
「えぇ、生きていますよ。」
かなりギリギリでしたけどね。
雰囲気をぶち壊すようなことを言う気はないので、少年を安心させるように微笑みかける。
張り詰めていた空気がわずかに緩和し、少年は力なくその場にへたり込みまして。
「それでは最後の仕上げをするとしましょう。」
やることは簡単。
この状況に関わりがある人たちの記憶改変です。
今のこの状態だと、記憶と現状に齟齬が生じてしまっていますからね。
このまま放置しておくのは、さすがに無理があるというものです。
ですので─────
「貴方がたの記憶に少しばかり干渉させていただきますが、悪しからず。」
「アンタは何を言って…。」
だいぶ久しぶりにここまでの規模の魔法を使いますけれど……まぁ、普通にできますね。
「星よ…選別し、
少年、心配する必要はありませんよ。
なにせ、何も変わることはないのですから。
……明日からも今までと同じように、ただの隣人として関わっていくだけなのですから。
×××××××
隣人の命を救った日から数日ほど経ちましたが、僕の日常がたいして変わることはありません。
まぁそれは当然のことです。
僕が隣人の女性アイドル…星野アイさんを救ったことは誰も覚えていないのですから。
そう!!
アイドルだったんですよ、お隣さんが。
いやぁ、ナイトクラブ的な店の従業員だと思っていたことは、口が裂けても言えませんね。
そして⋯一つだけ変わったことを挙げるとするのなら、お隣さんこと星野一家と少なからず会話をするようになったことでしょうか。
記憶の改変による影響の一つだと思われますね。
どんなふうに記憶が改変されたのか気になるところですが、さすがに覗くのはやめておきます。
おまいう発言ですが、さすがに非人道的ですので。
「雪姫ちゃん、現実逃避は終わった〜?」
「終わりませんよ…。ほんとなんでモデルの仕事を受けちゃったんでしょう?」
こんなことになるって分かってれば、絶対に受けなかったのに!!
僕は今にもあふれ出してきそうなため息を抑えつつ、目の前でニコニコしている隣人…星野アイさんへと目を向けた。
「あれ以降不審者対策はちゃんとしていますか?」
僕が五百年ほど前に半殺しにしてあげた神が、僕のことをいまだに恨んでいるのかもしれません。
まぁともかく……この出会いを始まりとして、僕と星野家の交流はより深くなったのです。