とある科学の擬似発現   作:ついついつい

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第十二話:一万の自我(AIMバースト)

第十七学区、原子力関連施設跡地。

美琴と木山春生の激突は、ついに決着を迎えようとしていた。

暴走する車両を止め、能力を尽くして木山を追い詰めた美琴は、荒く肩で息をしながら倒れ伏した研究者を見下ろす。

「……もう終わりよ」

その言葉が、戦いの幕引きを告げるはずだった。

だが、次の瞬間。

木山春生の頭部付近から、どろりと赤黒い粘液が溢れ出す。

それは肉でも機械でもない。

無数の神経が絡み合ったような、不気味な胎児めいた塊。

やがてそれは空気を震わせるような産声を上げながら、急速に膨張していった。

 

「ウァァァァァァァァァッ!!」

 

地面が揺れる。

周囲のAIM拡散力場が渦を巻き、一帯の空気そのものが軋む。

「な……何よ、あれ……!」

満身創痍の美琴が息を呑む。

暗部のデータベースでしか存在を確認されていなかった異常現象。

一万人の能力者の無意識が一つに束ねられ、人格を持たぬまま暴走した巨大生命体。

 

『AIMバースト』。

 

その誕生だった。

 

 

同じ頃。

施設跡地から数百メートル離れた鉄塔の上。

風に制服を揺らしながら、瀬川空は静かにその光景を見下ろしていた。

「……やっぱり出たか」

その声に感情はない。

瞳から光が消え、世界が演算式へと置き換わっていく。

美琴なら木山を止められる。

そこまでは予測通りだった。

だが、一万人もの脳波を無理やり接続したネットワークが崩壊すれば、情報の行き場を失ったAIM拡散力場は一つの生命体として収束する可能性がある。

空はその最悪の仮説を、数時間前には導き出していた。

「だから来たんだ」

彼の役目は、美琴の代わりに敵を倒すことではない。

彼女が戦いに集中できる環境を整えること。

それだけだった。

 

 

AIMバーストが咆哮する。

衝撃波とともに、巨大なコンクリート片が周囲へ降り注いだ。

施設の外では、避難の遅れた作業員や、応援に駆けつけていた警備員たちが逃げ惑っている。

「危ねぇ!」

数トンはある瓦礫が一般道へ向かって落下する。

空はポケットからビー玉を三つ取り出した。

「――エミュレート」

演算開始。

 

『念動力』

 

『空力使い』

 

『肉体再生』

 

三つの能力を同時展開。

ビー玉を指先で弾く。

一直線に飛んだビー玉は空中で透明な力場を形成し、落下する瓦礫を受け止める。

しかし、その質量はあまりにも重い。

「ッ……!」

脳の奥で嫌な音がした。

血管が一本、内側から裂ける。

鼻先から温かい血が滴り落ちた。

それでも止めない。

空力使いの風圧を重ね、巨大な瓦礫をゆっくりと人気のない空き地へ押し流す。

轟音。

地面が揺れ、土煙が舞う。

人的被害は、ゼロ。

「……一つ」

小さく呟く。

まだ終わらない。

 

 

AIMバーストは次々と周囲の建造物を破壊し始めた。

鉄骨が折れ、電柱が倒れ、コンクリート片が雨のように降り注ぐ。

「やりたい放題だな」

空は懐からさらにビー玉を取り出す。

一つには『摩擦ゼロ』。

一つには『運動エネルギー』。

もう一つには『空間移動』。

三方向へ撃ち出されたビー玉は、それぞれ別々の演算を行いながら飛翔し、落下する鉄骨を弾き飛ばし、飛散する破片を別方向へ逸らし、避難経路を塞ぐ障害物だけを正確に吹き飛ばしていく。

 

同時並列演算。

 

常人なら一つ扱うだけでも脳が焼き切れる能力を、空は三つ、四つと重ね続ける。

その代償は確実に積み重なっていた。

「ぐっ……!」

視界が揺れる。

耳鳴り。

鼻血。

口の中に鉄臭い血の味が広がる。

限界が近い。

「まだ……四つ目は使うな」

空は自分に言い聞かせる。

四種類以上の高度な能力を同時維持すれば、脳出血は一気に致命傷へ変わる。

肉体再生で傷は塞げても、脳への負荷までは消えない。

「ここで倒れるわけには……いかない」

極甘の缶コーヒーを一本取り出し、一気に飲み干す。

大量の糖分が脳へ流れ込む感覚。

ほんの数分だけ、演算能力を無理やり維持する。

それでも、頭痛は消えなかった。

 

 

遠くでは、美琴が再び立ち上がっていた。

電撃が夜空を裂き、AIMバーストへ向かって放たれる。

「御坂さん」

空はその姿を静かに見つめる。

「そっちは任せた」

主人公が立つ舞台に、自分は必要ない。

彼女は彼女の物語を戦えばいい。

自分は、その舞台袖で照明が落ちないよう支え続けるだけだ。

だから。

「俺は、俺の仕事をする」

誰にも聞こえない声でそう呟き、空は再びビー玉を指先で弾いた。

夜空を横切る小さな硝子玉は、英雄の戦いの裏側で、今日もまた誰にも知られることなく、一つの命を救っていた。

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