ただ、アニメオリジナルパートは小説や漫画と違って確認しにくいので、かなりガバガバになっていると思います(今までもだいぶガバガバでしたが、それ以上に!)。
また、その自信のなさが字数に表れています。
八月中旬。
三沢塾での魔術事件の余熱が引く間もなく、学園都市はまた別のベクトルから生じた新たな混乱に見舞われていた。
第七学区の裏路地にひっそりと佇む、冷房の効きすぎた薄暗い廃研究所。
壁一面に設置された無数のモニターから放たれる青白い光だけが、瀬川空の無機質な顔を照らしていた。
画面には、直近で学園都市各地にて頻発している謎の『ポルターガイスト現象』のデータが高速で流れている。暗部のネットワークから引き出した機密情報が、事件の深層を既に暴き出していた。
原因は、幻想御手事件で木山春生が救おうとしていた昏睡状態の子供たち。彼らから無意識に放たれるAIM拡散力場の暴走が、このポルターガイストを引き起こしている。
そして今、その子供たちを「治療のため」という名目で保護し、自身の施設へ移送しようとしている組織の映像がモニターに映し出された。
先進状況救助隊を率いる女性隊長。
「……テレスティーナ=木原=ライフライン」
空は、氷のように冷たい、感情を微塵も含まない声でその名を口にした。
モニターの向こう側では、常盤台の中学三年生・御坂美琴や、風紀委員の初春飾利たちが、テレスティーナを「頼れる大人」として信頼し、安堵の表情を浮かべている様子が監視カメラの映像として記録されている。
表の主人公の一人である美琴たちは、彼女の気さくで優しげな態度に完全に騙されているのだ。
だが、空の目は決して誤魔化せなかった。
映像の中で、テレスティーナが子供たちや美琴へ向ける「完璧な笑顔」。
(……あぁ、気持ち悪い)
空は、無自覚に自分の口元を拭った。
その笑顔がどれほど精巧に作られていようと、空にはそれが質の悪い張りボテだと一瞬で理解できた。なぜなら空自身が、恩人を失ってから今日に至るまで、毎日鏡の前で「他人に好かれるための偽物の笑顔」を練習し、周囲に合わせて顔に貼り付けて生きている同類だからだ。
彼女の瞳の奥には、慈愛など一滴たりとも存在しない。
対象をただの物、あるいは消費されるだけの実験動物としか見ていない、狂気に満ちた冷酷な眼差しがべったりと張り付いている。
そして何よりも、空の神経を激しく逆撫でするのは、彼女が名乗る『木原』という姓だった。
かつて、空が育った養護施設を焼き払い、空に「人間らしさ」を教えてくれた大切な恩人を惨殺し、彼自身の自我を破壊して『空洞化』させた狂気のマッドサイエンティスト――木原虚。
その男と同じ、学園都市の深い闇の人間。
「
ギリッ、と。
空は、手元にあった未開封の極甘缶コーヒーを、片手で力任せに握り潰した。
破裂したアルミ缶の隙間から、黒く甘い液体が血のようにポタポタと床に滴り落ちる。
モニターの隅には、統括理事会からの暗号化された指示が表示されていた。
『
それは、学園都市の最高権力者であるアレイスター=クロウリーの意思。
彼にとって、木山春生の絶望も、子供たちの命も、テレスティーナの狂気的な実験も、すべては自身の壮大な計画のためのデータを取るための、盤面上の駒に過ぎない。
暗部の
「……」
空は、沈黙したままモニターを見つめ続けた。
自分は空っぽの器だ。他人の感情をエミュレートしなければ、喜びも悲しみも怒りも湧いてこないはずの、壊れた人形。
だが。
今、空の胸の奥底――空っぽのはずの器の底で、何かがどろどろと、ひどく熱く、黒い炎を上げて燃えたぎっていた。
親も戸籍もなく、社会の片隅で身を寄せ合うしかなかった子供たち。
大人たちの都合で切り捨てられ、モルモットとして無情に使い潰されていく命。
それは、他でもない。かつて『瀬川空』自身が経験した、暗闇の記憶そのものだった。
「……実験動物にされる痛みは。恩人を奪われる絶望は。俺一人で十分だ」
モニターに映る、テレスティーナの偽りの笑顔。
その顔を、かつて恩人を奪った木原の顔と重ね合わせる。
殺意。それは紛れもなく、誰からエミュレートしたものでもない、瀬川空自身の内側から湧き上がった『本物』の感情だった。
「御坂さんたち……表の主人公たちが、あの女の嘘に気付いて正面から立ち向かうって言うなら」
空は白衣を脱ぎ捨て、黒いジャケットを羽織った。
そして、ポケットに三ダースの真新しいトランプと、ズボンが膨れ上がるほどのガラスのビー玉を詰め込む。さらに、対能力者用の特殊な閃光弾と、携帯用のジャミング装置をベルトに装着した。
「俺は俺のやり方で、裏からあの女の盤面を、跡形もなく叩き潰す」
それは、統括理事会の命令に対する明確な反逆。
だが、そんなことは今の空にとってどうでもよかった。
過去の自分と同じように泣いている子供たちがいる。そして、それを救おうとしている表の少女たちがいる。
ならば、自分のやるべきことは一つしかない。
「待ってろよ、木原。お前の思い通りには絶対にさせない」
薄暗い廃研究所の電源を落とし、空は夏の生温かい夜の闇へと足を踏み出した。
学園都市の暗部に巣食う狂気を排除するため。
そして、自分と同じ境遇の子供たちの未来を守るため。
孤独な掃除屋は、感情のないエミュレーターではなく、静かな怒りを燃やす一人の復讐者として、テレスティーナ・ライフラインの陰謀渦巻く深淵へと単身で乗り込んでいった。