ドゴォォォォォォン!!!
腹の底に響くような轟音が鳴り響く。
それは、第三位の超能力者である御坂美琴によってテレスティーナ=木原=ライフラインの狂気ごと完全に粉砕した音だった。
勝負は、決した。
「……終わったか」
施設から少し離れた、全体を見渡せる小高い丘の上。
瀬川空は、生い茂る木々の影に身を潜めながら、その圧倒的な光景を静かに見下ろしていた。
脳の血管が焼き切れそうなほどの頭痛と、全身の筋肉が軋むような疲労感が空を襲っている。しかし、その顔に苦痛の色はなかった。
眼下の施設の入り口では、すでに事態を収拾するための動きが始まっていた。
サイレンを鳴らして次々と到着する救急車。その中から飛び出してきた救急隊員の手回しと指示によって、施設の中から救出された依然意識が朦朧としている子供たちが、ストレッチャーに乗せられ、慎重に、そして確実な救護の元へ運ばれていく。
最後の子供が運び出された後、何かの糸が切れたかのように木山は膝から崩れ落ちた。
自身のキャリアも、名誉も、すべてを投げ打ってでも救いたかった教え子たち。幾度となく絶望に打ちひしがれながらも、決して諦めなかった彼女の数年間の戦いが、ようやく報われた瞬間だった。
ボロボロと大粒の涙をこぼして泣き崩れる木山。
それを見て、美琴、白井黒子、初春飾利、佐天涙子の四人が、互いに支え合いながら、安堵の涙を浮かべて笑い合っていた。
「……よかった」
丘の上で。空の口から、無意識のうちに安堵の吐息が漏れた。
それは、誰の
子供たちは、救われた。
誰の命も犠牲になることなく。大人たちの理不尽な悪意と、木原という暗部の狂気から、光の当たる平和な場所へと無事に引き戻された。
空は、そっと自分の胸元を押さえた。
かつて。炎に包まれた養護施設の中で、必死に両手を伸ばし、助けを求め、それでも誰にも救われなかった少年がいた。
恩人を奪われ、絶望の中で心を殺し、他人の感情を
(……俺は、救われなかった)
どれだけ他人の笑顔を作っても、空の胸の奥にある巨大な空洞が埋まることはない。失われた過去は戻らないし、死んだ人間は生き返らない。
(でも。あの子たちは、救われたんだ)
それで、十分だった。
自分が裏の闇で血を流し、誰も知らない場所で手を血に染めることで、表の世界を歩く主人公たちの背中を守れた。その結果、あの子たちの未来が、笑顔が、希望が守られた。
自分が空っぽの化け物になった意味は、確かにあったのだ。
「さて、と」
空はポケットから、いつもの極甘の缶コーヒーを取り出した。
プルタブを開け、一口飲む。
砂糖の塊のような強烈な甘さが、酷使して焼き切れそうな脳神経に、そして冷え切っていた胸の奥底に、じんわりと染み渡っていくのを感じた。
「主人公たちの舞台は幕引きだ。裏方は、そろそろ退散しよう。……俺の出番は終わりだ。帰ろう」
東の空が、うっすらと白み始めている。
夜明けが近づく学園都市の風は、夏の終わりを予感させるように、少しだけ涼しかった。
空は丘を下り、誰もいない、たった一人で暮らすには広すぎる、第七学区の無機質な廃研究所へと歩き出す。
だが。
この時の瀬川空は、まだ知らない。
一人の少女――置き去りという理不尽な境遇に、これほどまでに心を揺らされ、命を懸けて抗った彼が。
わずか数日後、学園都市の最も深い闇の中で、二万人もの『作られた命』――
そして。
今は誰も待っていない、帰るためだけの広すぎる廃研究所が。
やがて、彼がすべてを懸けて守り抜き、共に生きていくと誓う五人の『家族』――10501号から10505号たちを迎えるための、世界で一番温かい家へと変わる運命にあることを。
夜明けの光が、孤独な少年の背中を優しく照らしていた。