とある科学の擬似発現   作:ついついつい

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第二十七話:救われた者たち(サルベージ)

ドゴォォォォォォン!!!

腹の底に響くような轟音が鳴り響く。

それは、第三位の超能力者である御坂美琴によってテレスティーナ=木原=ライフラインの狂気ごと完全に粉砕した音だった。

勝負は、決した。

「……終わったか」

施設から少し離れた、全体を見渡せる小高い丘の上。

瀬川空は、生い茂る木々の影に身を潜めながら、その圧倒的な光景を静かに見下ろしていた。

脳の血管が焼き切れそうなほどの頭痛と、全身の筋肉が軋むような疲労感が空を襲っている。しかし、その顔に苦痛の色はなかった。

眼下の施設の入り口では、すでに事態を収拾するための動きが始まっていた。

サイレンを鳴らして次々と到着する救急車。その中から飛び出してきた救急隊員の手回しと指示によって、施設の中から救出された依然意識が朦朧としている子供たちが、ストレッチャーに乗せられ、慎重に、そして確実な救護の元へ運ばれていく。

最後の子供が運び出された後、何かの糸が切れたかのように木山は膝から崩れ落ちた。

自身のキャリアも、名誉も、すべてを投げ打ってでも救いたかった教え子たち。幾度となく絶望に打ちひしがれながらも、決して諦めなかった彼女の数年間の戦いが、ようやく報われた瞬間だった。

ボロボロと大粒の涙をこぼして泣き崩れる木山。

それを見て、美琴、白井黒子、初春飾利、佐天涙子の四人が、互いに支え合いながら、安堵の涙を浮かべて笑い合っていた。

「……よかった」

丘の上で。空の口から、無意識のうちに安堵の吐息が漏れた。

それは、誰の真似(エミュレート)でもない。彼自身の心の底から湧き上がった、本心のこもった声だった。

子供たちは、救われた。

誰の命も犠牲になることなく。大人たちの理不尽な悪意と、木原という暗部の狂気から、光の当たる平和な場所へと無事に引き戻された。

空は、そっと自分の胸元を押さえた。

かつて。炎に包まれた養護施設の中で、必死に両手を伸ばし、助けを求め、それでも誰にも救われなかった少年がいた。

恩人を奪われ、絶望の中で心を殺し、他人の感情を模倣(エミュレート)する『空っぽの器』になることでしか、今日まで生き延びられなかった少年。

 

(……俺は、救われなかった)

 

どれだけ他人の笑顔を作っても、空の胸の奥にある巨大な空洞が埋まることはない。失われた過去は戻らないし、死んだ人間は生き返らない。

 

(でも。あの子たちは、救われたんだ)

 

それで、十分だった。

自分が裏の闇で血を流し、誰も知らない場所で手を血に染めることで、表の世界を歩く主人公たちの背中を守れた。その結果、あの子たちの未来が、笑顔が、希望が守られた。

自分が空っぽの化け物になった意味は、確かにあったのだ。

「さて、と」

空はポケットから、いつもの極甘の缶コーヒーを取り出した。

プルタブを開け、一口飲む。

砂糖の塊のような強烈な甘さが、酷使して焼き切れそうな脳神経に、そして冷え切っていた胸の奥底に、じんわりと染み渡っていくのを感じた。

「主人公たちの舞台は幕引きだ。裏方は、そろそろ退散しよう。……俺の出番は終わりだ。帰ろう」

東の空が、うっすらと白み始めている。

夜明けが近づく学園都市の風は、夏の終わりを予感させるように、少しだけ涼しかった。

空は丘を下り、誰もいない、たった一人で暮らすには広すぎる、第七学区の無機質な廃研究所へと歩き出す。

だが。

この時の瀬川空は、まだ知らない。

一人の少女――置き去りという理不尽な境遇に、これほどまでに心を揺らされ、命を懸けて抗った彼が。

わずか数日後、学園都市の最も深い闇の中で、二万人もの『作られた命』――絶対能力進化計画(レベル6シフト)の犠牲となる、妹達(シスターズ)の果てしない絶望に直面することを。

そして。

今は誰も待っていない、帰るためだけの広すぎる廃研究所が。

やがて、彼がすべてを懸けて守り抜き、共に生きていくと誓う五人の『家族』――10501号から10505号たちを迎えるための、世界で一番温かい家へと変わる運命にあることを。

夜明けの光が、孤独な少年の背中を優しく照らしていた。

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