とある科学の擬似発現   作:ついついつい

66 / 67
全編ギャグチックです。
読み飛ばしていただいて構いません。


幕間3:空飛ぶ球と青春(エアリアル・スフィア)

「いいこと!? あんたたち、絶対に勝ちなさいよ! この競技の配点は総合順位に大きく関わるんだからね! 特に瀬川空と、上条当麻! 昨日サボった分までみっちり働いてもらうわよ!」

「わ、分かってるって吹寄! だからその硬いメガホンで上条さんの頭をカンカン叩くのはやめてくれ、脳細胞が死滅するー!」

九月二十一日、大覇星祭開幕三日目の昼下がり。

昨日の突然の雷とは打って変わり、抜けるような秋晴れの青空の下、第七学区の屋外特設競技場は、地鳴りのような歓声とスピーカーから流れる実況の声で、熱気の渦に包まれていた。

グラウンドの端に設けられた選手待機スペースで、メガホンを振り回すクラス委員長の吹寄制理から逃げ回りながら、上条当麻が情けない悲鳴を上げている。

その横で、瀬川空は配給のスポーツドリンクを飲みながら、いつものニコニコとした笑顔でその光景を眺めていた。

「にゃー。カミやんは試合前から体力を使いすぎだぜよ。本番でバテてすっ転んでも知らないにゃー」

「せやせや! 今回の競技はボクら無能力者(レベル0)の吹き溜まりにとっちゃ、ただでさえ不利な空中戦なんやからな! カミやんの無駄な動きは命取りやで!」

土御門元春と青髪ピアスが、揃って支給品の軽量プロテクターを身に着けながら茶化している。

彼らがこれから出場する競技の名は、『浮遊球技(エアリアル・スフィア)』。

大覇星祭の運営が今年から試験的に導入した、能力と戦術が三次元的に飛び交う最新の団体球技である。

ルールは極めて特殊だ。フィールド全体に巨大な『重力緩和フィールド』が展開されており、選手たちは軽く地面を蹴るだけで、まるで月面にいるかのように数十メートルの空中を自在に跳躍できる。

空中に浮かぶ敵陣のリングに『得点球(スコア・スフィア)』を通せば10点。

ランダムに飛び回り、選手に体当たりを仕掛けてくる妨害球『暴走球(バウンス・スフィア)』を避けつつ、試合の終盤にフィールドへ一つだけ投入される、高速で不規則に飛び回る金色の『黄金球(ゴールデン・スフィア)』を捕獲したチームに驚異の150点が入り、その時点で試合終了。総得点の多いチームの勝利となる。

どこぞのイギリスの魔法使いが出てくるファンタジー小説で見たようなルールだが、運営曰く「学園都市の能力開発と技術力を応用した完全オリジナル競技」と言い張っているらしい。

対戦相手は、能力開発に力を入れている第三学区の中堅進学校だ。あちらはスタメンの大半が空力使い(エアロハンド)や念動力(テレキネシス)のレベル3で構成されており、重力緩和フィールド内での空中制御とパス回しにはめっぽう強い。

対する上条たちのクラスは、ご存知の通りレベル0の吹き溜まりである。

頼みの綱は、表向き『レベル5の第8位』と認定されている空の力だけだった。

「瀬川! あんたの能力にかかってるんだからね! 相手のエースの能力、しっかりコピーして使いなさいよ!」

吹寄から檄を飛ばされ、空は「了解、善処するよ」とボサボサの頭を掻きながら笑った。

空の表向きの能力は、「他者の能力を一つだけコピーしてペーストする能力」という、出力に限界があり研究価値の低いハズレのレベル5として偽装されている。複数の能力を使えばたちまち「脳への過負荷」で自壊するというのが公式設定だ。

実際は複数個の能力すら同時に発動できるのだが。

空はポケットの中に隠した数個のガラスのビー玉を、誰にも気づかれない手際で、靴底の特殊なスリットにコソリと忍ばせた。準備は万端だ。

『両チーム、位置についてください! 第四試合、開始です!』

審判のホイッスルが秋空に鋭く鳴り響いた。

「うおおおおッ! 行くぜェ!」

試合開始と同時に、相手校の選手たちが一斉に地面を蹴り、風や念動力を使って重力緩和フィールドの空中へと舞い上がった。彼らは『得点球』を風の力で鮮やかにパス回しし、一気に上条たちの守るゴールへと迫る。

「カミやん、ゴール前は任せたぜよ!」

「カミやん、漢を見せろや! 絶対死守やで!」

「ええい! ままよ! やってやるぜーっ!」

ゴールリングの前に陣取ったキーパーの上条が、頭を抱えて絶叫する。

本来、キーパーは青髪ピアスのようにガタイのいい人間が務めるべきだ。事実、事前の作戦会議では青髪がキーパーになりかけていた。だが、土御門の「カミやんならいつもの不幸が発動して、顔面やら股間やらで全部の球を受け止めてくれるはずだにゃー」という鶴の一声ならぬ猫の一声で、晴れて上条がキーパーの座に押し込まれたのである。

そこへ、相手チームが放った『得点球』が、突風の能力に煽られて凄まじいスピードでゴールを狙ってきた。さらに不運なことに、自動で飛び回る妨害球の『暴走球』までが、上条の顔面を目掛けて殺意マシマシで襲いかかってきた。

「ヒィィ! ちょっと殺意が強すぎませんことぉ!?」

上条は目をギュッとつぶりながら、ヤケクソ気味に両手を広げてリングの前に身を投げ出した。

ドスッ! ボスッ!!

すると、土御門の恐ろしい予言通り、『得点球』は上条の顔面にクリーンヒットし、『暴走球』は見事に彼の股間に突き刺さった。

「ぐふぅッ……!!」

上条が白目を剥き、空中でエビのように反り返りながらゆっくりと地面へ落下していく。

「なっ!? 俺たちの完璧なシュートが弾かれた!?」

「あのキーパー、顔面と急所で二つの球を同時に止めたぞ!? ただの無能力者じゃないのか!?」

相手チームの選手たちが、信じられないものを見るように驚愕の声を上げる。

「ぐ……み、見たか! これが……上条さんの……守護神っぷりだ……!」

股間を押さえて地面でのたうち回りながら、上条が涙目で意地を張る。その横で、土御門と青髪が「やっぱりただ運が悪いだけなんだにゃー」「今回に限っては幸運なんやないの」とヒソヒソ話して腹を抱えていた。

それから数分、相手高校の猛攻は何故か球をその身に受けるたび悦びの声を上げる青髪と異常に先読みが上手い土御門、そして上条の「ビッグセーブ」で予想に反し無失点で抑えていた。一方、こちら側はほとんど攻撃に持って行けず、なんとか球を繋いでもすぐに奪われてしまい、無得点のままであった。

そんな中、空はフィールドの上空に浮遊し、事態を静観していた。

「さて、そろそろ時間かな。俺も仕事をするとしますか」

空は、相手チームのエースが使っている『念動力』の能力をエミュレートしたように見せかけつつ、靴底に仕込んだビー玉に『摩擦ゼロ』と『微弱な反発力』を付与していた。

これにより、大気との摩擦を完全に殺し、まるで空中に見えない氷のリンクがあるかのように、スケート靴のように無音で滑走することができる。

戦闘時のように聖人クラスの出力を出す必要がないため、熱暴走の危険すらない。極めてエコで平和的な『多重補完の術理』の応用だった。

『投入されました! 試合を決定づける金色の、黄金球(ゴールデン・スフィア)です!』

実況のアナウンスと共に、グラウンドの中央の射出機から、黄金に輝く小さな球が上空へと打ち上げられた。

不規則に、まるで意思を持っているかのように飛び回る金色の球。

「取らせるか! 俺たちの勝ちだ!」

相手校のエースが、念動力で一気に加速して金色の球へと手を伸ばす。

「……悪いな。この試合、負けるわけにはいかないんだ」

空は、競技場の観客席の一角に視線を向けた。

そこには、大きめの帽子とサングラスで変装した五人の少女たち——イチ、ニナ、ミト、シノ、イツキの姿があった。

彼女たちは「お兄ちゃん!」「ソラ!」「ボス、左です!」と、周りにバレないように小声で、しかし熱烈に身を乗り出して応援してくれている。

その姿を見た空の口元に、暗部の掃除屋ではない、一人の高校生としての、心の底からの笑みが浮かんだ。

『エミュレート——空力使い(エアロハンド)』

空は空中で僅かに身体を捻り、背中に微弱な風のベクトルを叩き込んだ。

「なっ、消えた!?」

相手エースが驚愕する。空は一瞬にして相手の死角へと潜り込み、靴底の『摩擦ゼロ』を利用して空中で鋭く、そして流麗なターンを決めた。

相手エースの能力をコピーしたように見せかけ、さらに風の力で加速したようにしか見えない、完璧な偽装。

空はそのまま、空中を不規則に逃げ回る金色の球の軌道を瞬時に先読みし、スッと右手を伸ばした。

パシッ。

「……捕まえた」

空の手に、黄金の球がしっかりと収まった。

『そこまで!! 瀬川選手が黄金球を見事に捕獲! レベル5の意地をみせた、執念の勝利です!!』

ホイッスルの音と共に、実況の興奮した声が競技場に響き渡る。

「うおおおおッ!! やったぞ瀬川ァ!!」

「さすがは第8位だにゃー! 」

「ボクらの勝利やでえええ!!」

ボロボロになりながらもチームを救ってきた上条、予知能力者と疑わんばかりの活躍を見せた土御門、上条と同じくボロボロになったはずなのに恍惚の表情を浮かべる青髪の三人が、空中に着地した空のもとへ一斉に駆け寄り、揉みくちゃにしてハイタッチを交わした。

「あんたたち! やればできるじゃない!」

吹寄も、メガホンを置いて満足げに笑っている。

「ハハッ、上条の顔面ブロックのおかげだよ。お疲れさん」

空は、親友たちと肩を組みながら、秋の高く澄んだ空を見上げた。

血の匂いも、暗部の重圧も、命を削る痛みもない。

ただ、勝利を喜び合い、汗を流して笑い合う、高校生としてのありふれた青春の一ページ。

観客席を見れば、五人の妹達がピョンピョンと跳ねて、互いに抱き合って喜んでいるのが見えた。

 

(……俺は空っぽだ。だけど、この『日常』を詰め込むには、ちょうどいい器だ)

 

瀬川空は、いつまでもこの馬鹿馬鹿しくて眩しい完璧な祭りの一部として、気の良い高校生の笑顔を浮かべ続けていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。