仮面ライダー×仮面ライダー SAO大戦 作:BRAKER001
数日後……
「ふぃ〜……ここで最後だっけか」
「ああ、他のクエストは大した報酬じゃないからな。とりあえずこんなものでいいだろ」
俺達は色んな場所を回りながら第二層のめぼしいクエストを潰し終わった。
俺があらかじめ見ておいたのと、晴人が体術クエストの間キリトから話を聞いていたのとで、思ったほど時間はかからなかった。
「で、この後どうするんだ?」
「そうだな、一度ウルバスに戻るか……」
強化用の素材もクエストを行ってるうちに上限数を超えてしまった。これ以上モンスターを狩っていてもあまり意味がないだろう。
「とはいえこの調子じゃ、着く頃には夜だろうけどな」
「あー……夕日が綺麗だなぁ」
モンスターと戦っていたりすると時間を忘れるのは俺たちの悪い癖だ。
いや、疲れを感じたりしないこの世界が悪いんだ、うん。
「この調子じゃ、街につき次第また手分けして……って感じか?」
「……もう何時間も話を聞かされるのはごめんだからな」
「お前まだ根に持ってたのか……悪かったって」
別にそういうわけでもないが、まあこれでまた変な宿になることはないだろう。
「じゃあ宿は任せるとして、俺はまたなんか食べ物を買って来るとしますかね……」
「思った以上にかかっちまったな……」
ウルバスに着いた時にはすでに真っ暗だった。
「まぁ途中途中狩りながら来たから仕方ないか」
あまり意味がないと分かっていても、通り道にモンスターがいれば倒さずにはいられないのだ。
「じゃ、適当になんか買ってくる」
「はいよ、またメッセージ送るわ」
「おう」
晴人と別れ、食べ物を売ってる店の多い道へ行く。
「キリト様様だな、こりゃあ……」
作ったやつの趣味なのかなんなのかは知らないが、このゲームは比較的大通りよりも、一本曲がった細い路地などにいい店がある傾向にある。
と教えてくれたのはもちろんキリトである。
おかげで今夜の夕飯は久々にまともな食事が出来そうだった。
そういえばオススメはスイーツが上手いレストランだとか言ってた気がする。せっかくだし第二層にいる間に行っておいてもいいかもしれない。
「……ん?」
ふと目に入った人物を二度見する。
件の鍛冶屋、ネズハが何人かとともに店に入って行くところだった。
「……」
個人の意見としては彼を疑っていない……というより疑いたくないのかもしれないが。
だが、もし何かあった時、後悔したくはない。場合によっては装備を失ったことによる犠牲者が出てしまう可能性もある。
悪い、ネズハ。
心の中で謝り彼が入った店をほんの少しだけ開ける。
この世界では壁などから音が漏れたりすることはまずないため、中の音を聴くには隙間を空けなければいけないのだ。
そして、中で行われていた会話は俺の想像を超えるものだった。
「あら?」
「あ」
迷宮区に数時間篭り、なんとかレアドロ武器を手に入れた帰り、偶然アスナと出会った。
「こんにちは、キリトくん」
「あ、ああ……」
こんなところで会うとも思っていなかったのでまるで言葉が出てこない。
えーっとなんだ、あ、鍛冶屋のことを話さなきゃ。いやでもいきなり切り出すのもおかしいし……
「迷宮区の帰り?」
黙りこくっていたのが気になったのか、首を傾げながらアスナが聞いてくる。
「あ、うん。欲しいレアアイテムがあって……」
「レアアイテムか……この層だとどんなものがあるの?」
「うーん、やっぱ牛関係が多いな。迷宮区に牛男がいるのは知ってるか?
あいつの上半身の装備とか……何でそんな距離を取るんですかアスナサン?」
アスナはすごい勢いで後ずさりながらこっちを睨んだ。
「欲しかったレアアイテムって……」
「違うから!
そんな趣味じゃないから!」
そう、と安心したように戻ってくるアスナさん。そんなに嫌なのかあの見た目。
「あれがドロップするなんてね。誰がつけたがるって言うのよ……」
「つけたがるかどうかはさておき、似合う人はいるんじゃないか? この前一緒に戦ったエギルさんとか」
「あぁ……」
とはいえそんな人なんて一部な訳だ。茅場は何を考えてあんな装備を作ったのだろうか。
趣味だとは思いたくないが……
「キリトくんは今から主街区まで行くの?」
「ん? ああ、そろそろボス攻略の準備もしなくちゃいけないしな」
それと……鍛冶屋のこともはっきりさせなきゃいけない。
「私もやりたいことがあるからついていっても良い? ボスのこととかもっと色々聞きたいし」
「……ああ、いいぜ」
一瞬迷ったが、ここで断る理由もない。
ウルバスに着いたら適当に分かれて……いや、アスナには知らせといてもいいって話だったっけか。戻りながら考えよう……
「それ本当か!?」
晴人と合流した俺は宿でさっき聞いたことを話した。
この世界の部屋は扉が閉まっていれば、話が漏れることはない。もっともさっきの俺のように少し開けてしまえば聞こえるわけだが。
「ああ、間違いない。武器破壊は故意的に行われている」
「じゃあ早くみんなに……いや、そいつを止めるのが先だ!」
「いや、そう言うわけにはいかない」
「なんで……」
確かにあのプレイヤー鍛冶屋のネズハを止めるのが最優先だろう。だが、すぐにそうすることは難しい。なぜなら……
「動機がわかっても方法が分からなきゃ指摘のしようがない」
そう、あくまで分かったのはネズハか故意に武器破壊を行なっていると言うことだけだ。いや、正確には何かしらの方法で武器を壊してコルを稼いでいると言うことか。
なんにせよトリックが分からない限り誤魔化される可能性がある。おまけにこっちは盗聴まがいのことまでしてる。場合によってはこちらが責められる可能性もあるのだ。
「でも放っておくわけには!」
「落ち着け、何も放っておくつもりはない」
「え……?」
簡単な話だ、要はトリックさえわかればいい。
「今夜、その鍛冶屋に行く」
「そんな気はしてたけど、ボスまで牛とはね……」
「そういう層だからなぁ……」
アスナと話しながらウルバスの近くまで来た。 すっかり辺りも暗くなってしまった。
「そういえば、やりたいことがあるとか言ってたよな。何するんだ?」
何気なく聞いてみた。
方向が違うなら別れればいいし、少なくとも全く同じということはないだろう。
出来るなら誰も巻き込まず俺だけで鍛冶屋の件を終わらせたい。
「そろそろ武器を強化したくてね。丁度素材も集め終わったところなの」
全く同じ方向だった。
いや、まだだ、まだ同じとは限らない。
「てことは鍛冶屋か。でもそれなら他の街にもあるだろ?」
「NPCじゃなくてね、プレイヤー鍛冶屋の人がいるから頼んでみようかなって」
巻き込みストレートど真ん中だった。
「ん? どうしたのキリト君、変な顔して」
「へ? 変な顔!? そんなことは皆目滅相も……」
「怪しい……もしかして何か隠してる?」
「そんなことは……はぁ」
誤魔化そうとしたけど流石に鋭い目で睨まれてしまっては隠せる気がしなかった。
「分かったよ、話すからそんな睨まないでくれ……」
俺はアスナにアルゴから聞いた話を伝えた。
「そう、私に内緒でそんなこと調べてたの。みんなで。ふーん……」
「そんな怒らないでくださいアスナサン」
「怒る? 怒るようなことはないわよ?
私はただの初心者の女の子だもの、頼られなくったって何もおかしくないわ」
「ほんとゴメンナサイ……」
なんとかアスナを宥める。
「はぁ……いいわよもう。今いるプレイヤー鍛冶屋って一人だけよね?」
「ああ、ベータの時は好き好んで鍛冶屋なんかやってる物好き居なかったからな……
今は人数10倍だけど、その一人を除いて鍛冶屋なんてやってるやつはいないはずだ」
そもそも鍛冶屋や商人なんてのはこの世界では副業のようなものなのだ。
無論それを生業として生きて行くこともこの世界の醍醐味ではあったのだろうが、まだこんな状況でそんな人は件の一人を除いておそらくいないだろう。
「それで君は今からその鍛冶屋に行って確かめてくるんでしょ?」
「まぁ、そんなところかな……」
唐突にアスナの目つきが変わった。
「その役、私にやらせてもらえないかな」
彼女は真剣な眼差しでそう言った。