仮面ライダー×仮面ライダー SAO大戦 作:BRAKER001
「はぁっ、はあっ……」
キリトとブレイドを置いて、さっき見かけた影を追う。
「今のは……っ!」
だが、説明している余裕はなかった。その間に逃げられても意味がないし、ボス戦の方を疎かにするわけにもいかないだろう。
捕まえられる確証もそもそも本当にアイツなのかも分からないが、とにかく今は深く考えず追いかける。
先程建物の影からこちらを伺っていた、黒ポンチョの男を。
「一体誰なんだ、そいつは!」
ネズハから、強化詐欺の発案者がレジェンド・ブレイブスの中の誰でもないと聞き、俺たちは動揺した。
真っ先に口を開いたのはキリトだ。
「名前は……分かりません。すり替えのやり方だけ話してどこかへ行ってしまったんです。
以来一度も会っていません」
一度もというのは妙な話だ。それはつまり……
「待ってくれ、じゃあ君たちはその男に利益の一部を渡したりしていないのか?」
「はい、分け前とかアイデア量の要求などはせず、本当にただ方法を説明しただけなんです」
「ナッ……ウソだロ!? これが命のかかったゲームじゃなけれバ、オレっちですら十分価値のある情報として扱うゾ……」
一番反応したのはアルゴだった。それもそのはず、情報を商売道具とする彼女にとって、知り合いでもない相手に情報をただで受け渡すということは信じ難い行為だろう。
キリトとアスナも顔を見合わせ、絶句していた。
だが、俺には覚えがあった。
金儲けのためじゃない。相手の弱みに漬け込み、ちょっと背中を押してやる。そんなことに何の意味があるのか、理解しようという方が無理な話だ。
そういう相手は、そもそも理解できる行動理念で動いていないのだから。
「そいつ、どんな見た目だったかは覚えてるか?」
「すみません、それも分からないんです……黒エナメルの、雨合羽みたいなフーディックマントをすっぽり被っていて……そう、アスナさんのような感じでした」
「フーディックマント……」
アスナの方を見ながら考える。アスナの装備はケープのはずなので、その男はさらに胴体全体を隠していたということだ。
そして、そうだとすれば目的は1つ。
「顔を隠しておきたかったってこと……?」
やはりアスナは思うところがあるのか、すぐに言葉が出てきた。
「なんというか、妙な感じの人でした……学校も、喋り方も。
やっぱり詐欺は詐欺ですから、最初はギルドのみんなも否定的だったんです。そんなの犯罪じゃないかって。
でもそしたら、あいつがフードの下ですごく明るく笑って……すごく楽しそうで、なんだか綺麗な笑い方でした」
「綺麗な……笑い方?」
おおよそ似つかわしくない表現に、キリトが疑問を呈す。
「ええ。なんていうか、聞いているだけでいろんなことが深刻にならない気がしてきて……気づいたらみんなも、僕ですら笑っていました」
なんとも奇妙な話だ。その男はその場の空気を支配してしまったという。
それは扇動……もっと言ってしまえば洗脳に近いものだろう。
「そんな中、あいつが言ったんです。『ここはゲームの中だぜ? 店のものを盗めなかったり、街の中でNPCを攻撃出来なかったり、やっちゃいけないことはシステム的に出来ないだろ?
てことはだ……やれることはなんでもやっていいって、そう思わないか?』」
「そんなの詭弁だわ!」
「ああ! だってそれじゃ極論、圏外で他のプレイヤーを……!」
「やめろウィザード」
ブレイドの声で我を忘れていたことに気づく。
ネズハはもちろん、声を荒げたアスナですら少し顔が青ざめているようで、自分がなんてことを口走ろうとしていたのか理解した。
「悪かった……でも、そんな危険な奴、放っておくわけにはいかないよな」
「ウィザードの言う通りだ。放っておいたら何をするか……」
「ただでさえこんな状況なんだ。みんなで協力しなければ、この世界から抜け出せない……そのためには、お互い信じ合わなきゃ行けないんだ」
「でも特徴がそのフーディックマントしかわからないんですもんね……」
その男がやばいという認識は共通していたが、打つ手がないというのが現状だ。
ただ、その裏で俺は思っていることがあった。
仮にその男の目的が金稼ぎなどじゃなく、この世界を掻き回すことなら……今の状況は面白くないのではないだろうか。
今一度自分が戦ってきた存在を思い出す。動機は違えど、人の心を掻き乱す点ではアイツらと同じはずだ。
そしてアイツらは、自分が手をかけた奴らを必ず確認するのだ。自分の目で確かめるために。
「だからって本当に来るとは思わなかったけどな!」
第二層のボス戦。件の男の狙いがネズハ達だけでなく、この世界を滅茶苦茶にすることなら……強化詐欺の話が収束し、ボス戦がすんなり始まるのは気持ちいいものではない筈だ。
だからこそ、その男はこの場に来るのではないかと思っていた。
事実、視界に黒ポンチョのようなプレイヤーが映り、こちらに気づいた瞬間逃げ始めたのだから。
「ここで逃したら……本気で手がかりがなくなる!」
幸い、まだあの男を完全に見失ってはいない。
自分の慣れ親しんだ戦いをするためにも、敏捷よりのステータスに振っていたが、それが意外なところで功を奏した。
一方で、
「なんか、気持ち悪いな……」
妙な感覚もあった。
特徴も残さずに人を操れる用意周到な相手だ。事実、服装を変えていたら俺は全く気づかなかっただろう。
そうだ。そもそもあのマントを脱げばいい話じゃないか。曲がり角を曲がり、マントを脱いでいれば俺には判別のしようがない。
そもそも、なぜ俺は未だにアイツを見失ってないんだ?
「スゲェな、ここまで追いかけてくるか」
「!?」
考え事をしながら追いかけていたせいで、目の前の男が逃げるのをやめたと理解するのに時間がかかった。
周りは袋小路となっており、男に逃げ場などないように見える。だからこそ、やはり奇妙だった。
「……なんのつもりだ、鬼ごっこはもう終わりか?」
「オイオイ、そりゃねェぜ。そもそもこっちには追いかけられる理由もねェのによ」
「だったら逃げる必要なんか無いだろ」
「人間誰しも追いかけられたら逃げるモンだろ?」
減らず口を……なるほど、ネズハの言っていたことも頷ける。
「単刀直入に聞く。ネズハに強化詐欺の方法を教えたのはお前か?」
「ネズハ? あァ、あのFNCのガキか! あの顔は傑作だったなァ!」
「っ! なんでそんなことをした! この世界で、命にも関わる武器を騙し取るなんて……どうなるかわかるだろ!
やられた方も、やった方も……」
3日前の悲痛なネズハの顔が頭をよぎる。
だが、それに対する男の答えはアッサリとしたものだった。
「あァ? 知ったことかよ。オレは方法を教えただけだ。その後どうなろうと関係ねェな」
「お前っ……!」
「オレはな、人間の絶望する顔が見たいんだ」
「……!」
絶望。また絶望だ。
『じゃああなたはこの世界をクリアできると言うの?
一ヶ月経ってまだ一層もクリア出来てないのに、百層まで辿り着けると思っているの!?』
『僕みたいなノロマは遅かれ早かれすぐ死ぬんですよ……あなた方には分からないんです!』
こんな世界に閉じ込められて、絶望するなって方が難しいのかもしれない。
それでも、少女は前を向いた。
それでも、鍛冶屋は戦う決意をした。
「そうか、それがお前の目的か……なら何度だって打ち砕いてやるよ」
絶望が全てじゃない。俺のやることは今までもこれからも変わらないのだ。
「俺が……最後の希望だ!」
それを聞いた男の反応は、なんとも意外なものだった。
「最後の……希望? クッ、ハハッ、ハハハハハハ!」
突如笑い始めた男の声は、確かに綺麗なものだった。あまりのことに、一瞬自分が何を考えていたか見失ったほどだ。
「なんだ、何がおかしい?」
「ハハハ、これが笑わずにいられるか! そうかそうか、本当にこの世界はオレを楽しませてくれる!」
続く言葉は、俺がこの世界で聞くはずのないものだった。
「Amazing! まさかこんなところで会えるとはなァ……指輪の魔法使い!」
「なっ……!?」
《指輪の魔法使い》
俺が幾度となく、現実世界で呼ばれた二つ名だ。
そして俺のことをこの名で呼ぶやつは決まっていた。
「どうして……この世界にファントムがいるんだ!」
「ファントムがゲームしてちゃ悪いかよ。にしたって、まさかこの世界でお前に会えるとは思わなかったけどなァ。
ドレイクを倒したって聞いてお前に興味が湧いてたんだ」
ドレイク……その名前には聞き覚えがある。ファントムの中でもかなり苦戦した相手だ。
「なんだ、仇でも打つつもりか? お前らにも仲間意識なんてあったんだな」
「そんなんじゃねェよ。確かにドレイクとは多少関わりもあったが……むしろお前には感謝してるくらいだぜ? 鬱陶しいワイズマンを消してくれたんだからな。
お陰で中に動けるってもんだ」
「ならどうして人の絶望を望む? もうファントムを増やす必要なんか無いだろ?」
「何言ってんだお前、目的ならさっき話しただろ? ファントムなんざ関係ねェ。俺はただ、人が絶望していく様を見たいんだよ」
最悪だ。今までにも変わった目的のファントムはいたが、コイツはずば抜けてタチが悪い。
おまけにこいつが今ここにいるのは、手綱を握っていた笛木を俺が倒してしまったせいだと言う。
こいつは俺の責任でもある。なら、俺が止めるべき相手だ。
「なんだ、いい目が出来るじゃねェか。だがてめェと戦うのは今じゃ無い」
「何?」
「折角この世界で会えたんだ、勢いで始めちまったらもったいないからな。ショウには相応しい環境が必要だ」
「馬鹿げたことを……大体この場でお前を逃すと思ってるのか?」
「オイオイ、お前こそ俺にかまけてていいのかよ?」
「ボス戦なら俺1人程度いなくたってなんとかな……」
「そうじゃねぇ、放っておいたら始まっちまうぜ? SAO初の公開処刑がなァ」
「何を言って……まさか!」
脳裏によぎるのは、3日前に分かれた鍛冶屋の少年。
もし彼があのクエストを終わらせていたら?
もし彼がボス戦にまにあっていたら?
そしてボスを倒した後……もし彼が罪を自白していたら?
「お前らには邪魔されちまったが、まだ俺のショウは終わってねェ」
ふと考えてる間に、男は壁の上へと登っていた。
「待てっ!」
「じゃあな、指輪の魔法使い。せいぜい手遅れにならないよう急ぐんだな」
言うやいなや、男は壁の後ろへと飛び降りた。
「クソッ!」
慌てて壁の後ろへと回り込むものの、既にもぬけの殻だった。
「ハメられた……やっぱり誘い込まれてたか。
仕方ない、今はボス戦に急ごう!」
奴の言っていたことがどうも気になる。妙な胸騒ぎを覚えながら、俺は来た道を戻り迷宮区へと急いだ。