深夜の空は、赤く赤く染まっていた。
山の上に建つ寺院、柳洞寺。老朽化による倒壊を理由に人払いが済まされているその寺は、今や異界と化していた。
その境内は赤い光──むせ返る程に高密度の
裏手から境内へと歩いてきた神父、言峰綺礼は自らのサーヴァントに向けて少し不服そうに声をかける。
「話が違うな、ギルガメッシュ。お前が言うには、サーヴァントが五騎脱落すれば『孔』は開くという話だった筈だが。あの規模では十年前にすら劣るだろう」
本堂の裏、その中空へ穿たれた『孔』こそが言峰の十年間待ち侘びたモノ。しかしそれは、あまりに小さく安定しないものであった。今も呪いを撒き散らしてはいるが、あれでは寺一帯を飲み込むのが関の山、神父の目的にはとても至らない。
苦言を呈された黒いライダースーツの男、ギルガメッシュは何でもないように言葉を返す。
「ああ、『孔』を安定させるだけの霊基が足りていないな。一騎、器に回収されることなく虚数へでも飛ばされて消滅したらしい。この地の聖杯とは、敗退した英霊の魂を器に回収することでその魔力を留め置くものだ。回収できる場所で死ななかった英霊の魂は拾えん」
「では『孔』を開くには現状では不十分だと?」
「問題はあるまい。──そら、追加の贄が向こうから来た。あれを仕留めてしまえばお前の望みは果たされる」
ギルガメッシュが視線を向けたのは山門。ギルガメッシュとキャスターの交戦により瓦礫の山と化したそこを、踏み越えて現れた者たちがいる。
「──なんだと……?」
言峰は瞠目する。
衛宮士郎たちは聖杯の起動を止める為に追ってくるだろうとは思っていた。彼らの殺害を命じたランサーの退去を感じ取った時点でその予測はついていた。……けれども。
その組み合わせは、言峰にとっても想定外のものだった。
「やはり私は凛と共に戦うべきだろう。何故、貴様の御守をしなければならん」
「御守って、アーチャーお前な……。スバルがこれで大丈夫だって言ってただろ。作戦会議ではお前も最後には納得したじゃないか。もしかして照れ隠しで言ってるのか、それ」
「……英雄王の前に貴様から両断しても構わんのだろう?」
「構うに決まってるだろ!」
──いがみ合いながら境内に現れたのは少年と弓兵。
衛宮士郎とアーチャー。彼らはそれぞれが別人と契約を結んでいる筈だ。これまで共に戦ってきた契約者を差し置いて付け焼刃の新編成など、愚策と言う他無いが……。
文句を垂れるアーチャーに対して、士郎は彼の胸を拳で叩き、
「スバルが確信した作戦だ、信じていい。言ってただろ、俺たちなら──」
二人の贋作者は、揃ってギルガメッシュを睨みつける。
「──俺たちなら、あの王様に勝てるってさ」
「……思いあがったな、雑種共。良いだろう、
静かに言うギルガメッシュ、しかしその眉は歪められ、口角は高く吊り上げられている。士郎の宣言に目に見えて気分を害していた。
黄金の王は一瞥もせず自身の契約者へと告げる。
「言峰、お前は祭壇だ。お前の愛弟子はそちらだろうよ」
「……そうさせてもらおう」
本堂の裏へと去る言峰、それを士郎とアーチャーは追わない。先の宣言通り、二人はギルガメッシュを相手取り、これを打倒する算段なのだ。──それは、ギルガメッシュにとってこれ以上ない侮辱。
黄金の王は苛立ちを
「それで?
「──こうする」
アーチャーの前に立ち、迎撃の体勢で構える士郎。
その後ろでアーチャーがその呪文を紡いだ。
" ────
「──なに……?」
ギルガメッシュの顔から笑みが消える。
眼前の二人にどのような隠し玉があろうと、自身の命に迫るものなど在りはしないと高を括っていた黄金の王。その目の前では、聖杯から溢れる魔力にも劣らない、世界を塗り替える魔力の奔流が脈動していた。……或いは、王の喉元へと届き得る程の。
" ────
「ぬ──!」
腕を振り上げ、背後の蔵から数多の宝具、その刃を引きずり出す。それらの切っ先は全てが詠唱を続けるアーチャーへ向けられた。
振り降ろされる王の腕、一息に全ての宝具が発射される──!
一瞬後には弓兵を八つ裂きにするそれらは──、鉄と鉄がぶつかる甲高い金属音と共に軌道を変え、石床へ落下した。次弾、また次弾と宝具を射出するが、ただの一刀もアーチャーの元へは届かない。
「く──」
" ────
王の宝物の悉くを弾いてみせたのは、アーチャーの前で両の手に日本刀を握る少年だ。
赤き黒刀と青き白刀。全く異なる性質を持つであろうその二振りは、しかし一対の夫婦剣かの如く鍛え上げられた調和を見せ、迫り来る宝具を弾ききってみせる。
その力量を明らかに大きく超える技量によって攻撃を凌ぎ切った衛宮士郎、その奥で。
「────」
アーチャーが、その眼を開いた。
最期の詠唱、その銘が告げられる。
周囲を走る炎が、この場と世界を分断する。内と外とを入れ替える。弓兵の世界へと塗り替える──。
" ────
反転。
世界は一瞬で荒野へと塗り替えられた。
荒涼とした世界。生命などいない、一面鉄だけの剣の墓場。本物など何一つ無い代わりに、直視しただけであらゆる剣を複製し貯蔵する世界。
──故にその名を"
生涯、偽物と知りながらその鉄を打ち続けた男が手にした、唯一つの確かな答え。
「……固有結界。これが貴様らの奥の手か……!」
対峙するギルガメッシュ。その背後には、先程を超える見渡す限り一面の宝具の刀身が出現する。しかし、この世界において武具を持ち出すという事が何を意味するか。
アーチャーは、己の世界へ合図するように腕を振りかざす。
瞬間、ギルガメッシュが宝物庫から引き出したる宝具の全てがアーチャーの頭上にも出現した。
「……貴様……ッ!」
「驚くことは無い。これらは全て偽物、貴様が腐す通りの贋作に他ならない。だが──」
この世界の主である男は目を伏せ、誰かの台詞に想いを馳せる。
それは、衛宮士郎を、エミヤ・シロウを肯定する言葉。
「……『借り物、貰い物上等』だったか」
「アーチャー……」
男は両手に使い慣れた双剣を出現させ、刃同士を打ち、構える。
赤い外套をはためかせ、対峙する大英雄へと力強く名乗りをあげた。
「──敢えて、恥を忍んで名乗らせていただこう。オレは名前すら擦り切れた英雄。盗み取った武器を手に、借り物の正義を振りかざす正義の味方。……貴様のあらゆる武具をも盗み、その悉くを叩き落としてみせよう」
「
黄金の王が吠え、宝具の数々は一斉に射出される。……けれどそれらは標的を貫くこと無く、寸分違わぬ複製品とぶつかり力無く荒野へ突き刺さるのみだ。
戦いの始まりを告げる十重二十重の剣戟が、荒野に響き渡る。
その散る火花の奥、二人の贋作者は口を揃えて宣戦を布告した。
「「────行くぞ、英雄王。武器の貯蔵は充分か」」
剣の丘にて、人類最古の英雄と人類最新の英雄の刃がぶつかる。
「来たわね。綺礼」
「凛。……セイバー、姿が見えないとは思ったが君もこちらか。かの英雄王を相手取るのだ、君も境内へ助力に行くべきだと思うが」
「そうしたくても出来ない事情があんだよ。それにあいつらなら心配無用だ。──それでロリコン神父、今すぐイリヤを降ろしてくれるか」
「…………」
言峰と凜、スバル、ベアトリスが対峙しているのは柳洞寺本堂の裏にある池だ。
普段は神聖な趣をした、龍でも棲んでいるかという池なのだが。それも今や黒い汚泥に侵され見る影も無い。
黒いタールのような泥は空中から噴出している。空に開いている直径1メートル程の小さな『孔』から僅かずつだが泥が絶えず漏れ出ていた。
──そこにイリヤは縫い留められている。一糸纏わぬ状態で『孔』に捧げられていた。
「聞いてるか、コトミネ。俺はイリヤを降ろせって言ったんだけど」
「それは出来ない相談だな。聖杯の『孔』は未だ不安定だ。君とアーチャーの霊基を捧げて『孔』を安定させるまで彼女には耐えてもらわなければ、私の願いはかなわない」
「……ありがとよ。イリヤがまだ生きてるって事と、イリヤをそこから助け出せばお前の野望は潰えるってのがよく分かったぜ」
「腹黒神父だと思ってはいたけど、まさかこんな願いを持つ程とはね。何よこれ、致死量の呪いじゃないの……!」
『孔』から噴出される泥を見て冷や汗をかき呟く凛。
その言葉に、言峰は意外そうな顔をすると彼女へ告げた。
「……凛、一つ訂正しよう。この泥は私の手による物では無く、聖杯より溢れる力だ。──衛宮士郎とセイバーから聞かなかったか? この聖杯はな、初めからこうなのだ。開けてしまえば最後、際限なく溢れ出しこの世全ての悪性、呪いを世界へ撒き散らす。それを私程度に操ることなど出来はせんよ」
「──っ、じゃあ私たちはこんなものを取り合って戦争していたって言うわけ……!?」
突き付けられた真実に凜は慄く。……万能の願望器など在りはしなかった。ここに在るのはただ、破壊と呪いを振り撒く汚泥だけ。こんなものを生む為に、父は死に、凛は苦難に耐えてきたのか。
スバルは凛の一歩前に出ると、立ち塞がる言峰へ疑問を投げる。
「コトミネ。聖杯が元からこうだってのは、お前がそれを解放したがる理由にはならねぇだろ。なんだって、お前はそんな惨事を起こそうとするんだ」
「──そうだな、強いて言うならば娯楽だよ。私には人々の苦痛が好ましい」
さも当然かのようにあっさりと、神父はそう言ってのけた。否、事実彼にとっては当然なのだ。ただ愉しいからと、人々に苦難を強いる事は。ただ悦ばしいからと、人々を殺す事は。
「ああ、十年前の火災は悪くなかった。小規模ではあったが、無念のまま朽ちる人間の叫びは胸に迫るものがあった」
「──コトミネ」
「それが理由だ。お前たちが平穏を糧にするように、──この身は、星の光を食べて生きている」
堂々と、何一つ恥じ入る事無く、言峰綺礼はそう告げた。
自分はスバルたちとは相容れない存在であると、宣言した。
「──そうか。じゃあ逆に星に食われても文句言うなよな! ──ベア子!」
「──エル・ミーっ」
ベアトリスが呪文を唱えようとする。被弾させた相手の時を止めるミーニャの魔法。──しかし、それを言い切るよりも前に、
「──っ」
眼前に、一息に数メートルの距離を詰めた神父の肘が押し寄せた──!
地面が抉れる程に踏み込み、魔力を帯びた圧倒的破壊力を持つ肘打ち。隣で手を繋いでいたスバルにも反応しきれない速度で接近したそれに、抗う暇無くベアトリスの顔面は消し飛──、
「はぁ──!」
差し込まれた掌底が肘を受け止める。
共に高純度の魔力を帯びている鋼の肉体の衝突、火花が散り轟風が吹く。その場にいたスバルとベアトリスがインパクトに耐え切れず吹き飛ばされる。
転がった先でスバルがすぐさま顔を上げて目にしたのは、クレーターの中心で幾重もの拳を交わす言峰と凜の姿だった。
凛の踏み込み、しなやかな脚が大気を切り裂いて言峰のこめかみへ振るわれる。言峰は腕で受け止め、体勢を崩した彼女の体へ反対方向から蹴りを見舞う。凜は崩した体勢に身を任せて倒れ込みそれを回避。そのまま回転の勢いで起き上がると、踏み込み一閃、掌底を脇腹へ叩き込む。
大きく吹き飛ばされる言峰、しかし倒れることなく踏み留まると深呼吸、目にも止まらぬ速度で凛の元へ踏み込んだ。凜もまた正面から力強く大地を踏みしめ──、
激突する肩と肩──!
全身を用いた全霊の体当たり──
──凛の身体が押し負ける。その身が血を散らして吹き飛んだ。
その場には、司祭服越しでも分かる程の鋼鉄の肉体を晒す言峰だけが残る。
「トーサカちゃんっ! ──あ、あれが話に聞いてた八極拳、か……!? なんつうデタラメな強さだよ……!?」
言峰は倒れ伏した凜を一瞥もすることなく、動揺するスバルたちの元へ歩み寄る。
……凛はあのダメージでは、例え息があろうともう立ち上がれまい。あとはこの弱小サーヴァントを屠るだけだ。
「次は君の番だ。もう一度魔術の行使を試みてみるか?」
「ぐ、この──。トーサカちゃんはお前の弟子なんじゃなかったのか。容赦無しかよ」
「先程の言葉通り、生憎と私は人並みの幸せを感じられない生まれながらの欠陥品でね。凜にも師としての役目に殉じて魔術や体術を師事してきたが……悦びを見出すことは出来なかったな」
「──そうかよ。何しても楽しくねぇってのは虚しいもんだ。人様に迷惑かけてなきゃ同情の一つでもしてやれたんだけどな」
「この身を憐れむのなら、精一杯足掻いて私を愉しませる事だ。──命を賭けろ。或いは、この身に届くかもしれん──!」
言峰は高揚した様子で腰を低く構え、スバルとベアトリスの動き出しに身構える。彼の待ちは決して慢心では無い。ベアトリスが魔法を編むより早くスバルたちを仕留める自信が言峰にはあり、事実そうなるだろう。
そんな臨戦態勢の言峰に、スバルはリラックスした飄々とした態度のまま告げる。
「盛り上がってるとこ悪いが、それは俺の仕事じゃない。──師の不始末の責任は弟子が取る、らしいぜ?」
「────? それは──」
その疑問の言葉は、最後まで紡げなかった。
──言峰綺礼の体が、脇腹にかまされた渾身の肘打ちによって大きく歪み吹き飛ばされたからだ。
「ごぁ──!? ぐぅ──ッ」
筋肉質の体が数メートル吹き飛び、無様に地を転がる。さしもの言峰も苦痛と困惑の混じった声を洩らした。
言峰を打ち崩したのは遠坂凛だ。視界の端に
「──エル・ミーニャ!」
「──、──ぶッ」
聞こえた呪文。混乱に溺れる思考を口内の血液と共に吐き捨てる。
即座に懐から赤い持ち手を取り出す。魔力で刃が編まれ、黒鍵となったそれで迫り来る結晶弾を砕いた。
……凛がどうやって持ち直したかなど些事だ。原理が分かろうと分かるまいと、現に凛がまだ立ち上がっている。ならば……立ち上がれなくなるまで拳を叩き込むのみ。
言峰は余分な雑念を捨て、拳を固く握った。
「良いだろう。ならば、
「あの服のどこにあんな剣入れてたんだ。四次元ポケットじゃねぇんだぞ……っと、トーサカちゃんありがとう、助かった!」
凛の渾身の肘打ちを受けてなお立ち上がる言峰から目線は外さず、スバルは凛へと声をかける。凛はその表情を崩さず、毅然としている。
「感謝は後で利息付けて貰うから、今は集中!」
「サラッと上乗せされてね!? ──ぐっ」
気を落ち着けようと軽口を叩くスバルは、危うく膝から崩れ落ちそうになり、なんとか留まった。
「「────っ」」
本堂裏と境内。双方でそれは起こっていた。
……スバルは、ベアトリスは、士郎は、アーチャーは、肩から背にかけての鈍い痛みに耐える。五分割されてなお顔を歪ませる程の痛みを伴う神父の
そうして、ナツキ・スバルは。
「────"
五人を繋ぐ魂の結び付きを、口にして確かめた。
「俺の宝具"
時は遡り、衛宮邸での作戦会議。
卓を囲む面々に、スバルは自身の宝具を明かした。
「負担の……分配?」
「新都での戦闘の際に私の負傷を引き受けた宝具だな。勝手な真似をしたものだ」
「勝手にやったのは悪かったけど、そのお陰で生き残れただろ! コホン。で、だ。アレを今回は俺たち五人で分散させたい。──ギルガメッシュは湯水のように宝具を使い倒すし、コトミネはフジムラ先生を一撃で昏倒させてる。どっちも一発食らうだけでヤバい代物だろ」
「それは綺礼の八極拳ね。あいつアレで体術が得意分野なの」
「そのヤバい八極拳とかを食らった時、俺たち五人で負担を均等に分配すればダメージが五分の一で済む訳だ。だから、俺と一緒に負担を背負う事を了承して欲しい」
「それ、その分全員がダメージを食らうって事か?」
「そうなる。……でも力を貸して欲しい。俺は今回、誰か一人でも欠けたら俺たちは勝てないって思ってるし、そうでなくても誰にも欠けて欲しくない」
スバルのその切実な願いに、居間は暫し静寂に包まれ。
……士郎が一番に口を開いた。
「よし、それで行こう。皆でこの聖杯戦争を終わらせる」
「スバルが言うなら、他の連中のダメージも引き受けてやるのよ。というか、了承しないとスバルが一人で全部背負いかねんかしら」
「わかったわよ。戦闘において頭数の優位差は馬鹿にならないものね」
「……意見は無い。ナツキ・スバル、単身で聖杯戦争を勝ち抜いた君の采配を信じよう」
「えっ……。おいトーサカちゃん、しばらく見ないうちにアーチャーにデレ期が来てんだけど!?」
「だってナツキくん、私たちが療養している間にサーヴァント全員倒してるじゃない。アーチャーだって、流石にナツキくんの実力を認めざるを得ないわよ」
「い、言われてみればそうじゃん……。シロウが倒してくれたりギルガメッシュにやられたりがあって実感が無かった……」
「…………」
こめかみに血管を浮かべて睨み付けてくるアーチャー。デレ期云々は失言だった。
ともあれ、"
「さて、じゃあキルリーダー兼参謀担当としての次なる献策なんだが。ギルガメッシュとコトミネと対峙する時には二人を分断させて、各個撃破の形をとりたいと思う」
「それで構わないわ。ナツキくんたちと私たちで手分けするとして──」
「いや、それなんだが……」
当然の事として主従で分かれる方針を口にする凛を、スバルが制止する。
そうして口にする奇策。それは幾度も死を体験したスバルの経験則から来る確信だった。
「ギルガメッシュにはアーチャーと──シロウをぶつけるべきだと思う」
「「────!」」
柳洞寺にギルガメッシュが現れた際、世界を裂く彼の円柱剣は、シロウが『龍剣』を抜いた場合にのみ解放された。それはすなわち、シロウの投影魔術はギルガメッシュにとって本気になるだけの脅威である事を意味する──。
「……それって、マスターとサーヴァントの組み合わせを入れ替えるって事?」
「そうだ。ギルガメッシュの宝具を使い捨てにする戦術を相手取れるのは、宝具を投影できるシロウとアーチャーをおいて他にいない。そして、コトミネの相手は奴をよく知ってるトーサカちゃんに頼りたい。よってマッチアップは『ギルガメッシュVSシロウ&アーチャー、コトミネVSトーサカちゃん&俺&ベア子』、この編成だ」
「衛宮士郎と肩を並べて戦えと? 負傷を共有するだけで足手纏いだというのに、戦闘中まで面倒は見切れないぞ」
「……喧嘩なら買ってやるぞ、アーチャー」
「仲悪いなお前ら! お前らの投影魔術がギルガメッシュ攻略の要なんだ、戦闘中はいがみ合うなよな!?」
チーム編成に対して出た不満をスバルは諫める。
この編成には『スバルがギルガメッシュの前に出られない』という裏事情も深く関わっているのだが、『死に戻り』に言及せず説明するのが難しい為、割愛だ。
ともかく、仲良くできるかは置いておくとしても、息を合わせて戦ってもらわなければ困る。
「頼むよ。仲良くしてくれたらお前らにギルガメッシュに効く必殺技を教えてやるからさ」
「「……必殺技……?」」
「そうだ。ギルガメッシュに一度だけ、確実に隙を作る術があるのを俺は知ってる。……いいかシロウ。戦闘が進んで隙さえあれば倒せるって段階までギルガメッシュを追い詰めたら、頃合いを見て──……」
幾重に交わされる拳と拳、膝、脚、掌底。
おおよそ人体から聞く事の無い鉛の如き重い衝突音が響く。
凛が放った渾身の正拳は大きく体を逸らした言峰にいなされ、そのまま凛の腹へ叩き込まれた脚による突きは、肘と膝によってダメージを軽減する。──それでも彼女の体は無傷では済まない筈だが、凛のパフォーマンスはほとんど落ちてない。対する神父は……大きく動きに乱れがある訳ではないが、苦々しい額に汗を滲ませていた。
「行ける──、行けるぞ……!」
スバルはいざという時の為に魔法を放つ標準を言峰に合わせつつも、戦局が自身たちに傾いている事に頬を緩めた。
アーチャーという主戦力はギルガメッシュにぶつけなければいけない以上、言峰を如何に打倒するかというのは頭を悩ませる要件だったが──。
「言峰の戦術が分かってるトーサカちゃんが"
「なんたる地味で陰湿な戦法かしら……」
「仕方ねぇだろ。あいつクズキと同じ手合いだ、下手に魔法を撃てば『魔法を撃とうとする隙』を突いてくる──っと、ん?」
そう悪態をつくスバル、その足が掴まれた。
眼前では凛と言峰が交戦している。つまり今掴んできているこの手は、
「おいベア子。俺が愛おしいのは分かるけど、じゃれつくのは後だぜ。トーサカちゃんに危険が迫ったらミーニャで牽制するのが俺たちの役目なんだからな」
「……スバル? ベティーは何もしていないのよ……?」
「──え?」
ベアトリスの困惑した返事に、思わず言峰への警戒を解いて足元を確認してしまう。
スバルの足を掴むもの。それは──黒く淀んだ、泥だった。聖杯から漏れ出ていた汚泥が意思をもったかのようにスバルの足に絡みついている。
「な──!?」
「──っ!? ナツキく──」
「隙を見せたな」
泥に捕まったスバルの悲鳴に、凛は思わず振り向く。その隙を見過ごす言峰ではない。無防備な腹に鉄拳が捻じ込まれた。
クリーンヒットした拳の衝撃は凛の肉を容易に超え、臓器を直接破壊する。
「かはッ──!」
「ぐぇ──」「く──」
大きく仰け反る凛、同時にスバルとベアトリスも体を
一斉に膝をつく三人に、言峰は得心がいったという顔で、
「……成程。負傷の共有による分散か。セイバーの能力だな」
言って、イリヤが磔にされている『孔』の下へと手をかざす。
そこから、この世の悪性を煮詰めた泥を掬い取った。
掬いきれず溢れ出る泥を片手に、言峰はスバルへと歩み寄った。
スバルは慌てて足に絡みついた泥を払うが、その肩を神父に強く掴まれた。
「──ようやく目覚めたようだ」
「……目覚め、た……?」
「聖杯の中身だよ。
──言峰は手の泥を掴んだスバルへとぶち撒けた。
瞬間、人類の悪性を煮詰めたモノに触れた。 死ね
「あ、ああ──、あああ──あああああああああ──」
死ね 死ね 死ね
泥に侵される。冒される。犯される。
怒りが悲しみが憎しみが殺意が耐えがたい衝動が伝播する。
死ね 死ね
「スバルっ! どうしたかしらっ!? 何をされたのよ!」
死ね
恨みが妬みが嫉みが妄念が執念が憎悪がこびり付く。
傲慢が強欲が嫉妬が憤怒が色欲が暴食が怠惰が横行する。
死ね 死ね
「死ね──じゃなくて。ベア、子──、俺はだいじょ、ぶだ。それよ、り、トーサカ、ちゃ、治癒を──ッ」
死ね 死ね 死ね死ね
撲殺が銃殺が刺殺が絞殺が轢殺が呪殺が罷り通る。
殺して殺す殺すから殺す殺す死ね死ね死死死死死死
死ね死ね 死ね死ね死ね 死ね
「スバルっ! スバル──!」
死ね 死ね死ね死ね 死ね死ね死ね死ね
目の前に立つ男は、泥に呑まれ沈んでいくスバルを見下ろして。
その様子に満足げに微笑むと、泥の名を口にした。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
「────"
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね