甲高い鉄と鉄が交差する音は一向に止む気配が無い。
名剣と名剣、魔槍と魔槍が衝突する火花が散り続ける。
かつて柳洞寺境内だったその空間は、今や無数の剣が無造作に刺さった見渡す限りの鉄の丘。黒いライダースーツのサーヴァント、ギルガメッシュはその世界の中心で大きく舌打ちを響かせた。
「──っ、雑種風情が……!」
苛立った声と共に、背後の宝物庫から新たな宝具が引き出される。絶剣と呼ばれるに相応しい切れ味を持つそれが眼前の男目掛けて一直線に射出され──撃ち落される。
どんな魔剣どんな妖剣を持ちだそうと、その全てが射出した軌道上で全く同一の宝具をぶつけられ墜落するのだ。圧倒的数の暴力でキャスターを圧倒したギルガメッシュですら、この無限に剣を内包した世界が相手では物量がアドバンテージには成り得なかった。
……そしてギルガメッシュの受難はそれだけでは済まない。
「ぐっ──」
王の耳元まで迫った日本刀の切っ先を、蔵から引き出した棍棒で受け止める。目前で阻まれた二振りの刀は、しかし返す刀で棍棒の底面を這い、なおもギルガメッシュを斬り上げんとその腹へ迫る。人の技の域を超えた異常な軌道で、刃はしつこく王の命を所望した。
「チィ──!」
鋭い金属音。日本刀の担い手の少年、その頭部目掛けて蔵より発射された西洋剣が、目前でアーチャーの複製品に弾かれる。眼前で起きた剣戟に少年は体勢を崩した。ギルガメッシュを仕留め損ねた少年は、そのまま迷いなく後退。それを追撃しようと放った宝具たちは、またも複製品の妨害により阻まれた。
……まただ。宝具の射出に張り合ってくるアーチャーに気を取られると、果敢にこの少年が斬りかかってくるのだ。しかしそちらに集中すれば、今度はアーチャーの贋作がギルガメッシュへと撃ち込まれる……。
舌打ちをして向けた視線の先にいるのは、後退した少年。セイバーのマスター、衛宮士郎。
その両手にはギルガメッシュの見知らぬ日本刀が握られている。あの二振りの刀がギルガメッシュの顔を曇らせるのだ。特に青い刀の攻撃が一層苛烈で、まるで
「おのれ……!」
思わず悪態が洩れる。
「駄目だ、まだ攻撃が届かない……!」
「いや、そちらは問題無い。奴は肉体はともかく精神的にはかなり疲弊していると見える。このまま攻め続ければ尻尾を出すだろう。奴が安易な手段に手を伸ばす瞬間こそが勝機と知れ」
アーチャーの元まで下がった士郎は悔しげに吐き捨てたが、アーチャーは存外に切って捨てはしなかった。
代わりに彼は、士郎の握る日本刀へと視線を投げる。
「それよりも問題なのは、その剣だ。……衛宮士郎。貴様、その剣の性質に気付いていない筈はあるまい」
「ん──、ああ。そうだな」
士郎は手元の日本刀を見下ろす。赤い黒刀『邪剣』ともう一本、青い白刀。
英霊と張り合える剣術など持ち合わせていない士郎がギルガメッシュ相手に踏み込めるのは、
『夢剣』マサユメ。青き雷光、セシルス・セグムントの持つ魔剣。
夢を鞘とするその刀の真価は――、
「――夢を喰らい、夢を叶える。……願いへのモチベーションを対価にして、願いを叶える剣力を得る刀」
それが強い願いであるほど凄まじい力を発揮するが、引き換えに剣の担い手は願いに焦がれた理由すら忘れてしまう刀。士郎は今、その力を使ってギルガメッシュと渡り合っている。
士郎の持つ、ギルガメッシュを打倒する動機に成り得る強い願い。そんなもの──、
──正義の味方。
それをおいて他には無いだろう。
衛宮士郎は正義の味方への憧れを対価にして戦っている。……それは、衛宮士郎の全てでは無かったか。そんなものを対価に支払って、果たしてこの戦いの後、衛宮士郎に何が残るというのか──。
アーチャーがそう視線を向けていると、それに気付いた士郎は事も無げに言う。
「大丈夫だ。その正義なら、ここで無くして構わない──!」
「……なに?」
言うや否や、士郎は再びギルガメッシュへと駆け出す。彼へ向け一斉に刃を向ける王の財宝たちに、アーチャーは慌てて全てを複製、ぶつけることで相殺する。当の士郎はアーチャーがそうすると確信していた様子で微塵の躊躇いも無くギルガメッシュへ斬りかかった。
立て続けに響く剣戟。士郎の刀は右から胴を、左から脚を、頭上から頭を貪欲に狙い、ギルガメッシュの命を断ち切らんとする。ギルガメッシュも剣を取り応戦するが、その鬼気迫る剣捌きに冷や汗を流す。
士郎は周囲からの妨害は一切気にせず、全ての防御行動をアーチャーに丸投げしていた。周囲で真作と贋作がぶつかり合うのを気にも留めずにギルガメッシュに猛攻を仕掛ける。頬が、背が、腿が傷付いても構いもしない。狂気すら感じるその姿は、彼が己の願いを使い潰して戦っている事も
「アーチャー! 俺は自棄になってる訳じゃないからな!」
「────!」
「俺は、正義の味方になる──!」
叫ぶ士郎の一閃。
人間では在り得ない反射速度と精密性で防御の合間を縫って放たれた刃は、ギルガメッシュの黒いライダースーツを裂き、鮮血を散らした。
「き──貴様──、ぐぅ──ッ!?」
目を剥くギルガメッシュ。しかし容赦の無い追撃が顔面を襲い、辛うじて手元の宝剣で弾いてみせた。……士郎は尚も食ってかかり、ギルガメッシュは二の句も継げずに防戦を強いられている。
士郎は雷光の如き人体の限度を超過した動きで四方八方からギルガッシュを責め立て、叫んだ。
「俺は皆の笑顔の為に、皆と一緒に生きていく! そういう正義の味方になると今日決めた! それが俺の英雄夢想だ! ──だから、
「────」
『夢剣』は願いを喰らう。今回の士郎であれば、ギルガメッシュを──悪を打倒する正義の味方への羨望、という事になるのだろう。士郎はそれを望んで捧げると言ったのだ。この十年間、生きる支柱にしてきたその願望を、それより尊い願いの為に捨てると。
……士郎の猛攻にも納得が行く。彼の人生の全てと言って差し支えない願いを、彼自身の意思で薪にくべるのだ、英霊の一人や二人気迫で圧せずなんとする──!
なおも限界を超えて跳び廻る雷光。その太刀筋に血が混じる。
王の腕に、頬に、脚に傷が付き血が滲んだ。それは戦闘にはほとんど影響の無いかすり傷だが──王本人にとっては、見下していた贋作者による負傷など半身をもがれたに等しい衝撃だ。
「ぐぬ──、やむを得ん……!」
眉間に深い皺を寄せたギルガメッシュは、歯噛みしながら王の蔵よりそれを引き出す──。
瞬間、シロウの双剣が折れる。
「な──、んだって──」
赤き『邪剣』青き『夢剣』は共に黄金に屈してその刀身をへし折られた。ほどけて魔力の粒として消えていく先にあったのは、煌びやかな金色の鎧に身を包んだ英雄王の姿だった。
「思い上がるなよ、痴れ者共が! ……貴様ら
慟哭するギルガメッシュ。彼の言は真実だ。士郎とアーチャーが用意できる如何なる宝具でも、あの鎧を傷付けられはしないだろう。本物の名剣ならばまだしも、士郎とアーチャーが作るのはあくまで自分のイメージが追いつく範囲での贋作だけなのだから。
……だというのに、絶望も悲観もせずに士郎はアーチャーの横まで後退する。
アーチャーは目を伏せて、フッと息を洩らした。
「──それにしても。殺す正義を捨て、守る正義を掲げる、と来たか。──それもナツキ・スバルからの受け売りかな。まったく、無責任に人の心をかき乱す男だ」
「スバルがそういう奴だからこそ、アーチャーはこうして俺と肩を並べてるんだろ。──そろそろか?」
「……そうだな。奴は貴様の猛攻に焦り、鎧を持ち出した。冷静な精神状態に無い。つまり──」
二人の贋作者がギルガメッシュへと向き直る。
黄金の鎧を纏った英雄王。士郎の願いを対価にした刃すら通さぬ絶対的防御、絶望的な光景を前に。
──揃って、不敵な笑みを浮かべた。
「「────
二人の贋作者は同時に駆け出す。両者は呪文を口にしたものの共に空手だ。それが一層ギルガメッシュに威圧感を与えた。
一息に展開される王の財宝、数百、数千に上る宝具たち。しかし即座に正面から対峙するは寸分違わぬ贋作の群れ。見渡す限りの中空が刃で埋められ、荒廃した世界にて剣の壁が向かい合った。
──王の号令一つ、鋼の壁が一斉に雪崩れ込む。天が落ちてくるかの如く宝具の
……ギルガメッシュは此処に至り、遂に痺れを切らした。
「────ぐ、…………ええい、エアよ!」
──もはや背に腹は代えられまい。出し惜しんで死んでは元も子もない。これ以上無い敗北感に打ちのめされながらも、王は唯一絶対の自身の剣へアクセスし──、
──その柄が、ギルガメッシュの手元に出現した。
「「────!!」」
士郎とアーチャーの体中に怖気が走った。
アレは異常だ。
アレを抜かせてはならない。
アレはこの世界に存在してはならない──!
……刀身部分に円柱が連なった歪な形状の剣。それが何であるのか、士郎にもアーチャーにも一切分からない。分からないというのが異常なのだ。剣であれば如何なるものも解析し複製出来るこの世界でなお何一つ素性の知れない剣。一振りで"
「おいっ! アーチャー……!」
「ああ、アレを抜かせては勝ち目など無い! 少し距離はあるが──使え!」
あの柄をギルガメッシュに握らせてはならない。許せば全てが終わる。
スバルが『必殺技』だと言った、ギルガメッシュに致命的な隙を作る手段。それを使うのは、今をおいて他に無い。故に士郎は覚悟を決めると──、
──手の甲を高く掲げた。
そうして、告げる。
「来てくれ、──いや」
この身は彼のマスター。
この令呪はその力の行使。
ならば、呼びかけは──、
「────来い! セイバァァァ────ッ!!」
──瞬間、空間が砕けた。
──スバルは言峰に「手札は全て切った」と告げた。
それは嘘偽りの無い真実だ。ナツキ・スバルの持つ手札にこれ以上有効札は無い。
ギルティウィップ。──キャスター戦で破損。
宝具"
宝具"
絶対防御魔法『E・M・M』。──ランサー戦で使用済。
絶対無効化魔法『E・M・T』。──敵両者に効果が薄い。
……ウルガルムと龍の呪いという、スバル本人も知らなかった手札が生えたりはしたが、それまでだ。
持ちうる手札、その全てが決定打に成り得ない。ギルガメッシュを打倒出来る技をスバルは持ち合わせていない。スバルは、ギルガメッシュを倒せない。
──否。
確かに手札は全て切った。
だが。
それでも、まだ。
──俺が残っている────!
煌めき消費される、士郎の聖痕。
──瞬間、空間が砕けた。
ギルガメッシュの眼前の空間をガラス細工の様に割り砕いて、その人影が出現する──!
「ベストタイミングだぜ、シロウ! ──そしてやっと会えたな、王様!」
──目付きの悪い笑顔を浮かべるジャージ姿の騎士の名は、ナツキ・スバル。
セイバーのサーヴァント。
「な──」
人類最古の英雄王と、異世界最新の英雄の視線が、今、重なった。
「よう、英雄王。俺の名前はナツキ・スバル。この聖杯戦争の──鬼札だ!」
決して出会ってはならない二人は、今、戦場にて邂逅を果たした。……その邂逅を魔女の『嫉妬』は許しはしない。
ギルガメッシュの周囲、否、山全土に瘴気が満ちる。影が落ちる。赫色の空を漆黒が浸食する。
──魔女が、世界ごとギルガメッシュを呑まんと出現した。
「き──貴様、気でも触れたか! 勝てなければ心中とは愚かな──」
ギルガメッシュは当然の怒りを露わにする。こうなってしまってはギルガメッシュは確かに闇に消えるが、それはスバルたちとて同条件だ。負けは無くとも勝ちにはならない。ただゲーム盤をひっくり返しただけの浅はかな行為。
しかし、当のスバルは事も無げにニヤけた面を晒し、
「そんなつもりは無ぇよ。──影が世界を呑む前に、お前が消えれば問題無いだろ?」
「──っ!」
その言葉にギルガメッシュは全てを理解した。
王は今何をしている。スバルと問答をしている。──手に取ろうとした乖離剣を、掴まぬままにだ。
ギルガメッシュは即座に乖離剣に意識を戻し、その柄を──、
「──ぐ、エアよ、目を覚ま──」
「────"
掴む前にその手首を抑え込まれる。不可視なるスバル第三の腕が英雄王に王剣を握らせない。
「ぐ──、おのれ……!」
スバルの背後から二人の贋作者が迫る。両者はその手を掲げ、声を合わせた。
「「────
「────!」
掲げた手に握られたのは、共に太陽の輝きを持つ名剣。分かる。如何に贋作と言えど眩い輝きを持つあの剣は、この王の鎧を物ともしない。あの輝きはこの命のみを選んで焼くものだ。あれこそが、士郎たちが隠し通した最後の切り札……!
「──おのれ、おのれおのれおのれ……!」
……つまり、満を持して姿を現したこのサーヴァントは。全員の命を危険に晒してまで現れたこの男は。
ただの、陽動──!
「──おのれぇぇぇ────っ!!」
英雄王が吠える。鎧を持ち出し、頂点の剣を持ち出し、その上で敗北する現実を前に、吠える事しか出来ない。
そんな男の腕を固く封じたままに、スバルは最後の一押しとばかりに叫んだ。
「──決めろ、正義の味方!」
「「うぉぉぉおおお────ッ!!」」
士郎とアーチャー、飛び込んだ二振りの『陽剣』。
それらが横薙ぎに振るわれ、スバルとギルガメッシュを諸共に両断する──!
巻き上がる灼炎。
スバルには傷一つ無いままに、ギルガメッシュの体が焔に包まれた。
「おの、れ……。フェ、イカー……、雑種、風情、が……!」
黄金の鎧も虚しく、身だけを直接焼かれる英雄王は、黒焦げになりながら恨み言を洩らす。よろめき、伸ばす手は何処へも届く事無く炭となり崩れた。
「お……の、れ…………」
響く鉄の音。鎧が地に落ち、そしてほどけて光になっていった。……その場には何も残されない。十年間孤児たちを文字通りの食い物にしてきた悪辣なる王など、初めからどこにもいなかったかのようだった。
「…………」
士郎は、それを光の一粒まで見届けて、目を閉じて一度大きく深呼吸をした。
そうして目を開けると、スバルとアーチャーへ向き直る。
「行こう。聖杯を破壊して、聖杯戦争を終わらせる」
「おう!」「──ああ」
三人は本堂裏へと歩き出す。
……スバルは、士郎のその背に目を細めた。
それは、心身共に傷付き、打ちのめされ、絶望を突き付けられて。それでも喪った想いを背負い、過酷な運命に打ち勝った──、
──紛れも無い一人の英雄の背中だった。
僅かに白む空、朝焼けを待つ空の下。
五人は『孔』の前へ立つ。
流れ出ていた汚泥は止まったが、空洞は胎動を続けていた。聖杯戦争の勝者に与えられる、あらゆる願いを叶える万能の杯。それは担い手を待つように、ただそこに存在している。
その下で、凛がイリヤを抱き抱え、スバルとベアトリスは手を繋ぎ。
『陽剣』を握る、士郎とアーチャーを見守っている。
「……良いんだな、スバル」
士郎は、神妙な顔付きでスバルへと振り返った。
「何度も言ってるだろ。そりゃ俺にも聖杯に託したい願いはあったけどさ。こんな危険な代物を使って不幸をバラ撒いてまで叶えたい願いじゃねぇよ。そんな事したって、あの人たちは喜ばない」
「それも、あるけど。…………」
「……スバル」
向けられる士郎とベアトリスの視線。そうか、とスバルは気が付く。
聖杯に呼ばれたスバルたちは、聖杯を失えば消える身だ。聖杯を破壊するという事は、今この場がスバルたちの別れの場になるという事で──。
「……湿っぽいのは無しにしようぜ。俺たちは立派に戦い抜いた。最初に誓った、聖杯戦争の終結を果たして完璧ハッピーエンドじゃねぇか」
「……そうだな。その通りだ」
言って笑い合う。誓い合った成すべき事を成した。契約は果たされた。
ならば、晴れやかに互いの健闘を称えて別れるべきだ。
アーチャーもまた、余裕のある笑みを浮かべて凜へ問いかける。
「凛、君はどうだろうか。もう少し浸っていたいというのなら聞き入れるが」
「冗談。貴方も私もそういうのじゃないでしょう。──ガツンと決めちゃって、アーチャー」
「──マスターの命令だ、恥じない剣を振るうとも」
士郎とアーチャー。
二人の『陽剣』の担い手は、握った刃を中空の『孔』へと向けると。
その灼熱を思い切りに振り抜いた。
──両断。
走る二筋の炎に袈裟斬りにされた『孔』は、烈火の如く燃え盛る。
太陽の輝きが『孔』を焼く。
その中身ごと、怨念ごと全てを灰に還していく。
焼け焦げていく。
焼き切れていく。
終わる。
今に終わってしまう。
運命の夜に出会い、共に戦い抜いた。笑い、語り合った。そんな日々が炎と共に過ぎ去っていく。不鮮明な過去になっていく。一瞬ごとに、ただの思い出として遠ざかっていく。
そうして。
一片も残さず燃え尽きた『孔』は、朝焼けの日差しに溶けて消えていった。
地平線から差す光。
『陽剣』と違わぬ温かな熱がスバルたちを包む。
「──っ」
隣で僅かに息を洩らす凛。見れば、朝焼けに照らされた彼女の手の甲の令呪が消えていく。──契約の満了。本当に全ては終わったのだと、スバルはそれを見て実感させられた。
『孔』が完全に消え去ったのを確認した士郎とアーチャーはこちらへと振り返る。
アーチャーは凛へと微笑みかけた。
「私の務めはここまでだ、凛。ここから先は、君たち生者の領分だよ」
「……アーチャー」
「ただ、最後に忠告をしておくと、共に歩く相手はよく選ぶべきだな。──特にナツキ・スバルの影響を受けてしまった衛宮士郎などは恐らく相当鬱陶しいことだろう、上手くあしらうことだ」
「「それどういう意味だよ!?」」
口を合わせて苦言を呈するスバルと士郎。凛はその光景に破顔する。
「ふふ。確かに、衛宮くんはただでさえお人好しなのに、ナツキくんの甘さまで移ったら手に負えないわね。桜にも、もっと自分だけを見てくれる良い人を探すように言い含めておかなきゃ」
「な──、なんでここで桜の名前が出るんだっ! 桜はただの後輩でだな──!」
きゃっきゃと戯れる一同。
頻繁に話が脱線するところまでスバルの悪影響を受けてしまったかもしれない、なんて。そんな風に最後の和気藹々に浸っていると。
「──達者でな、凛」
隣で、アーチャーがそう呟いた。
「──ちょっと。なによ、改まって──」
向き直った先、そこにアーチャーの姿は無い。
……ただ、僅かな魔力の残滓が、風に吹かれ消えていった。
「……まったく、最後までキザったらしいったら」
凜が俯き呟いたその声が、静かな池に響いた。
「次は俺たちの番、だな」
「……かしら。ベティーたちの役目も終わりなのよ」
手を繋いだスバルたちは、朝焼けに向けて歩き出す。その背に、
「──スバル!」
士郎の声がかけられる。
振り向いた先、士郎は真っすぐな瞳でスバルを見据えていた。
「スバル、俺は正義の味方になる」
「──ああ」
「皆を笑顔に出来るよう、皆と並んで歩く正義の味方になるよ」
「ああ、それが良いと思う。──俺に、皆にそうしてくれたように、シロウはシロウのままで皆を救ってやってくれ。エミヤ・シロウのサーヴァントだった事は、俺の誇りの一つだ!」
「ベティーも、まぁ悪くはなかったかしら。お前の料理の腕前は認めてやるのよ」
胸を叩いて激励を送るスバルと、照れたように顔を背けるベアトリス。
見るのは生涯最後になるであろう二人の姿を、士郎はしっかりと目に焼き付けて。
「──ありがとう、スバル。ベアトリス。……俺の、セイバー」
万感の思いをその一言に乗せる。
その思いが通じたのか、二人はとびきりの笑顔を見せ──、
「──それじゃあ、バイバイ、かしら」
「──あばよ、シロウ。……俺のマスター」
最後の最後まで軽い調子でスバルたちは言い、手を振った。
瞳に差す日光。スバルたちが背負う朝焼けの眩しさに、思わず目を瞑る。
再び瞼を開いた時、そこに二人の姿は──。
かくして、第五次聖杯戦争は終わった。
いくつもの願いを踏み越えて、いくつもの願いを使い潰して。
残った者の胸に明日への希望だけを残して。
──聖杯戦争は、終わったのだった。