英霊スバルのゼロから始める聖杯戦争   作:どんぱち

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第4話 『英霊ナツキ・スバル』

「聖杯戦争……七人の魔術師の、聖杯をかけた殺し合い……」

 

「そう。そして衛宮くんはその聖杯戦争の参加者になった。そこの彼、セイバーのマスターとしてね」

 

 衛宮邸内の一室。士郎とスバル、それにコートを脱いだ凛が机を囲んでお茶で一服。アーチャーは凛の後ろで立ったまま腕を組んでいるといった配置だ。

 しかし純和風の落ち着く居住まいでありながら、お茶の供に凛から話された内容は殺伐そのもの。全くもって士郎の理解の範疇を超えていた。

 

「それに過去の英雄を召喚した使い魔、サーヴァントって……あのランサーみたいなのがあと四人もいるってのか……!?」

 

「そう言われると、七騎中三騎って初日から結構エンカウントしてんな……」

 

「それにしても衛宮くん、本当に何も知らなかったのね。それどころか、どの学派にも所属してない素人だったなんて」

 

「やっぱりシロウは俺を自発的に召喚したんじゃなかった訳だ。まさか魔術師じゃないとまでは思わなかったけど」

 

「親父が魔術使いで、俺が頼み込んで教わったんだ。その親父も五年前に死んで、それからは独学」

 

「それで使える魔術は強化だけ……なんとも半端なチョイスね」

 

「あ、やっぱそうなんだ!?」

 

 魔術に長けていると思しき凛の口から出た評価に、スバルは思わず反応する。その強化魔術に救われた身ではあるが、微妙な能力なんじゃないかというスバルの推測は間違っていなかったようだ。

 ともかく、士郎は正当な出自ではない、独学で魔術を練習してきた魔術師見習いであるということだった。……召喚されたスバルを見た時の動揺ぶりから積極的な参加者でない気はしていたが、まさか召喚の意思もなければ魔術師ですらないとは……。スバルは非常に驚かされた。

 

「まぁただ、シロウのあの動揺が『召喚された俺が頼りなさ過ぎて絶望している』って理由じゃなかったのは良かったぜ。いや本当に」

 

「確かに、召喚されて早々に他のサーヴァントに助けを求める英雄などそうは居まい」

 

「お、おぉ?」

 

 片目を瞑り皮肉げに嘲笑したのは、赤い外套の男、アーチャーだ。先程士郎がお茶を淹れる所作を鼻で笑っていた時から、薄々感じてはいたが……、

 

「なんだ、アーチャー。お前そういうタイプか? いいぜ、お前みたいなのとはよくいがみ合ってる。相手になるぞこの野郎」

 

「そう噛みつかれては困る。私はあくまで『そうは居ない』と言ったまでだ。そこに勝手に悪意を見出され剣を抜かれるのであれば、私としては護身の為に応じる他ないが」

 

「口の減らねぇ野郎だな!」

 

「アーチャー、私は衛宮くんに説明をすると言ったの。マスターの意向に逆らって喧嘩を売りまわるのが貴方の英雄としての矜持?」

 

「いや、すまない。彼が打てば響くものでね。つい悪ふざけが過ぎてしまった」

 

「やっぱユリウスタイプだ、こいつ……!」

 

 けれど凛の言う通りだ。今は士郎に聖杯戦争の説明をする時間。アーチャーとの確執は後回しである。

 

「とにかく、衛宮くんの手にはマスターの証である聖痕──令呪が既に刻まれてしまった。……衛宮くん、あなたも心の底では理解しているんじゃない? 一度ならず二度までもサーヴァントに殺されかけて、自分はもう逃げられない立場なんだって」

 

 そこまで言って、凛は意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「あ、殺されかけたんじゃなくて殺されたんだっけ? よく生き返ったわね」

 

「────っ!?」

 

 『生き返った』。凛のその台詞にスバルの心臓は跳ね上がったが、しかしどうやらスバルのことを言っている訳ではないらしい。文脈的に士郎のことを指しているようで──、

 

「……シロウお前、俺を召喚する前にも何かやらかしてんのかよ……。向こう見ずもいい加減にしねぇと、迷惑を被るのは周りなんだぜ」

 

「……何故だろう。スバルにだけは言う資格が無い気がする……」

 

「セイバー。あなた、話の腰を折らないと気が済まないの?」

 

 きつく睨みつけてくる凛。逐一合いの手を入れて話を脱線させるスバルにご立腹の様子だ。

 

「悪い。どうにも先生の真面目な話には茶々を入れたくなる性質(タチ)でな」

 

「講堂から叩き出しなさいよそんな奴。……ま、私の口から説明できるのはそんなところね」

 

「おうサンキュートーサカ先生。つまりシロウはデスゲームの参加者。俺はシロウの味方ってことで」

 

「私がせっかくしてあげた説明を雑に要約しないで。講堂から叩き出されたい?」

 

 凛の殺気を受け流しつつ、スバルは士郎へ語り掛ける。

 

「……で、どうだシロウ」

 

「どうって……」

 

「トーサカちゃんの説明の通り、お前は今、聖杯戦争って殺し合いに巻き込まれてる。そんなお前がこれからどうしたいかって話だよ」

 

 スバルは士郎を正面から見据え、

 

 

「……お前がこの戦いを降りたいなら、俺はそれでいいと思ってる」

 

 

 はっきりと、そう口にした。

 

「なっ──! セイバー、あなた何を──」

 

「ごめんトーサカちゃん、ちょっと黙っててくれ」

 

 口を挟もうとする凛を制止する。これはスバルにとっては優先すべき確認だ。

 

「スバル、でもお前は──」

 

「確かに俺には聖杯にかける願いがあって、それを叶える為にここに居る。それは事実だ。でもそれを、無関係のお前を無理矢理戦いに巻き込んでまで叶えようなんて、俺はこれっぽっちも思わない」

 

「………」

 

「シロウ。お前が戦うって言うなら共に戦う。お前が降りるって言うなら、俺も諦めて聖杯戦争が終わるまでお前を守ってやる。──俺はもう、お前と戦い抜くって決めてんだよ」

 

「────」

 

「どうだ、シロウ。お前はどうしたいんだ」

 

 英霊は再度問う。

 

 暫しの沈黙の後。士郎は迷いながら、言葉を選びながら──けれど確固たる意志で口を開いた。

 

「スバル。お前には危ないところを助けてもらった、お前の力になりたいとは思ってる。でも、その手段が殺し合いだなんて絶対間違ってる。……俺は──」

 

「衛宮くん」

 

 士郎の言葉を、凛が遮る。そしてこう続けたのだった。

 

「決めるのは詳しく話を聞いてからでも遅くないでしょ」

 

「え──」

 

「あれ、トーサカちゃん。さっき話は終わりって」

 

「私の口からは、ね。隣町の言峰教会へ行きましょう」

 

「教会……?」

 

 ええ、と肯定し、凛は真紅のコートを着直しながら言う。

 

「他ならぬセイバーが衛宮くんの意思を尊重すると言ってる以上、衛宮くんには知った上で判断する義務がある。──結論は、教会にいる聖杯戦争の監督役の話を聞いてからにしなさい」

 

 

 

 明日は日曜日だし、と、一行は徹夜で隣町の教会へ赴くことになった。

 皆がバタバタと玄関へ向かう中、アーチャーは──、

 

「──凛」

 

 己が主に糾弾の眼差しを向ける。

 

「……放っておけば敵が一陣営減ったって言いたいんでしょう、わかってるわよ。──まったく、心の贅肉だわ」

 

「え、トーサカちゃん、なにその変な慣用句……。ガーフィールの口からすら聞いたことねぇんだけど」

 

「────」

 

 ……スバルは、遠坂凛が『ガンド』という魔弾を指から撃てることを、身を以て知ることになった。

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 衛宮邸のある冬木市から、大橋を渡った先、夜の新都。

 その郊外、住宅地も減り外人墓地が静寂を後押しする高台。

 

 街灯の少ないなだらかな坂道を、四つの影が行く。

 

「それでセイバー。あなたも私に説明、してくれるのよね?」

 

「畜生、有耶無耶になったものかと!」

 

「なるわけないでしょ」

 

「俺、さっき掠ったガンドで気分悪いんだけど」

 

「──っ、問答無用よ。話しなさいっ」

 

 先刻、凛とアーチャーに助けを求める際に、この周回ではまだ知らない筈の彼女たちの名前を呼んでしまったこと。凛はそのことを問いただしているのだ。

 

 凛は今もこうして士郎の為に動いてくれている。できれば誠実に応じたい。応じたい、のだが……。

 

「口外禁止のペナルティがな……」

 

 異世界における『死に戻り』には制約があった。他者に権能についての伝達を禁じる口外禁止のルールだ。その戒めがこの世界においても有効なのか、試してみる意義はありそうだが……。

 

「…………」

 

 他言を試みれば、スバルは心臓を魔手に掴まれる激痛を味わうことになる。──否、それだけなら良い。スバルが真に懸念するのは、過去に一度、魔手がエミリアを殺害した事例だ。おそらくエミリアだけが特別だったのだろうとは思うが、確証がない以上『死に戻り』の口外は他者を危険に晒す賭けになってしまう。

 

「無し、だな。自己満足の為にトーサカちゃんの心臓をチップにするとか、論外だ」

 

 スバルは凛に誠実でありたいと思いながらも。思うからこそ。

 ……『死に戻り』を隠し、誤魔化す決断をした。

 

「…………? セイバー?」

 

「いや悪い、考え事してた。それで、俺が何故トーサカちゃんたちを知ってたかだったな」

 

「えぇ。納得のいく説明をしてくれるんでしょうね」

 

「……悪い。勿体ぶったけど、普通にシロウから聞いただけなんだよ」

 

「「え?」」

 

 凛と──士郎の困惑の声が重なる。士郎の純粋な反応に冷や汗をかきながら、スバルは続ける。

 

「シロウはアーチャー対ランサーのバトルに居合わせて、目撃者として狙われたんだろ? その時にトーサカちゃんが現場にいたこともシロウは見てたんだよ。それを教えてもらってたんだ」

 

 当然、スバルには士郎からそんなことを教えてもらう暇はなかった。

しかしランサーは二周目の時に『坊主に別のサーヴァントとやり合ってるところを見られた』と言っていた。凛が士郎を助けに来た状況からみて、それがアーチャーVSランサーであったことは推測できる。

 

「……さっき私たちに助けを求めたのは? 私たちが近くにいるとも、味方をするとも分からないわけだけど」

 

「それは賭けだった。そもそも俺とランサーがタイマンじゃあ勝ち目なんて万に一つもない。それなら、トーサカちゃんもシロウを追っていて、ランサー撃退を手伝ってくれるってのに賭けるのが一番可能性の高い勝ち筋だったんだよ」

 

「ふぅん……?」

 

 スバルの説明を、凛は訝しげな表情で聞く。そうして不意に、

 

「そうなの、衛宮くん?」

 

「え──」

 

 士郎に話を振った。

 

「…………」

 

 士郎は、スバルの顔を一瞥し──、

 

「──あ、あぁ。そうだ。俺がスバルに遠坂のことを話した」

 

「…………そう」

 

「──っ!」

 

 教会への道を先導する凛を後から追うスバルには、凛の表情は分からない。けれど、士郎の反応を見て凜が漏らした返答は、酷く冷たい声色をしていた。先刻の軽口で少しは縮んだと思っていた心の距離が致命的に離れてしまったような、断絶を感じさせる雰囲気だった。そんな凛に、スバルは思わず駆け寄って──、

 

「──トーサカちゃん!」

 

「ちょ──、えぇ!?」

 

 衝動の赴くままにその手を握っていた。

 

「せ、セイバーっ!? あなたいきなり何をして──」

 

「俺はトーサカちゃんには感謝してるし、信用もしたいと思ってる! でも、どうか今はこれで納得してほしい」

 

 スバルが凛の手をとって語ったそれは、もはや今の説明が虚偽であったことの開示に近かったが──スバルは彼女の反応を見て、誠実さを放棄すべきではないと思ったのだ。

 士郎もスバルに続いて凛へ向かう。

 

「遠坂、俺もスバルは悪い奴じゃないと思う」

 

「────」

 

 スバルと士郎の言葉に、凛は暫し目を伏せ、

 

「──いいわ、今はそれで納得してあげる。……だから手を離してくれる? 魔術師にとって手って情報の塊なの」

 

「っと、悪い……本当に悪いな、トーサカちゃん」

 

「えぇ、しっかり反省してちょうだい」

 

 彼女の言葉に、スバルはあわてて手を離して距離をとる。

 凛は引いてくれたが、スバルとしては申し訳ない気持ちで胸が一杯だった。どう見てもこちらが凛の善意に甘えた形だ。けれど『死に戻り』の説明ができない以上はこの言い訳で通すしかない。

 

「凛。まさか今ので納得した訳ではないだろうな」

 

 代わりに苦言を呈したのはアーチャーだ。これに関してはこのいけ好かない褐色男の言うことが全面的に正しい、とスバルは口を噤むしかない。

 

「何が言いたいの、アーチャー。私は彼に説明を求め、彼は説明をしたわ。それ以上私に追及できることなんてないじゃない」

 

「あんなもの説明でも何でもない、不格好な泣き落としだろう。今こうしていることもそうだが、君はセイバーとそのマスターに肩入れし過ぎている。……ふむ。よもや彼らに気がある、などとは言うまいな」

 

「は、はぁ──!? そんな訳ないでしょう! 誰がこんな唐変木と吊り目軽薄男なんかに!」

 

「唐変木ってきょうび聞かねえな……。そんで庇われてるんだか刺されてるんだか判断に困る発言だ」

 

「と、唐変木って俺のことか……?」

 

「そこの主従うるさい! ……私はただ、今のままじゃ気持ちよく戦えないから、参加するのか降りるのか決めて欲しいだけよ。他意は無いわ。──ほら、見えてきたわよ」

 

 咳払いをして顔をあげた凛の視線の奥、高台を登った先にそれは建っていた。

 此処こそが、今回の聖杯戦争の監督役がいるという──、

 

「──言峰教会」

 

 高台の上に建つ荘厳な気配の教会。

 教会自体は特別に大きいわけではないが、高台全てがそうだと思しき広い敷地の中に構えるその佇まいは、来るものを威圧する特別な雰囲気を醸し出していた。

 

「すごいな、これ」

 

「ん、シロウも来たことなかったのか」

 

「ああ。孤児院だったのは知ってるんだけど、結局来ることはなかった」

 

「へぇ──?」

 

 少し含みのある言い方に引っかかりつつも、スバルは勇んで歩を進める。

 

「よーし、そんじゃ早速お邪魔し──」

 

 言いかけて思いとどまる。この場に来たのは、士郎の意思を確認する為だ。

 聖杯戦争に参加するか否か。その決断をする時、隣にスバルがいては気を遣わせてしまうかもしれない。

 

「……あー、悪い。俺は外で夜風浴びてていいか? さっきのガンドでまだ体調が……」

 

「──っ、それはセイバーがっ……! いいわ、セイバーもアーチャーもここで待ってて! 行くわよ衛宮くん!」

 

「うわっ、遠坂っ、手を繋がなくともいいだろ!」

 

 凛に手を引かれ、士郎は教会の中へと入っていった。

 

 

 

『喜べ少年。君の願いは、ようやく叶う。正義の味方には、倒すべき悪が必要だ』

 

 ──言峰教会の礼拝堂。

 そこで衛宮士郎は、己が過去、己が運命、己が矛盾と向き合うことになるのだが──ナツキ・スバルがそれを聞くのも、神父・言峰綺礼を知るのもしばらく後の話になる。

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 教会の前で待ちぼうけを食らう英霊が二騎。

 

「なぁアーチャー。好きな子とかいる? 俺はねー、エミリアたん」

 

「…………」

 

 恋バナをしていた。

 

 厳密には、スバルが話を振るも、徹底してアーチャーに無視されていた。

 

「む、初対面で恋バナはハードル高かったか。じゃあ好きな食べ物ならどうだ? 俺はマヨ──」

 

「セイバー」

 

 アーチャーが二人きりになってから初めて口を開く。

 

「君も主人と同じく己の立場をわかっていないのか。私と君はサーヴァント。聖杯を求め殺しあう敵同士に他ならない。今はマスターの方針に従って休戦しているが、馴れ合う気は毛頭無い」

 

「まだ敵になるかは分からねぇだろ、シロウは参加を保留中だ。それに勝者は一組っつったって、道中もそうである必要はねえ。適度に共闘した方が有利に事を運べるとは思わないのかよ?」

 

「道理だが、道理を説くにも実力が必要だ。例え同盟を結ぶにしても、君たちのような惰弱なサーヴァントと無知蒙昧のマスターの面倒を見るのは足枷にしかならんだろう」

 

「ぐうの音も出ねぇ!」

 

 そう。今のスバルはパートナー精霊不在の精霊使い。マスターの士郎は聖杯戦争も魔術もろくに知らない魔術師見習い。現状他の陣営にはセイバー陣営と共闘するメリットがまるで無い。せいぜい他陣営を誘う撒き餌にするのが関の山だろう。

 

「ま、まぁ確かに俺たちと組むメリットがないって言われたら返す言葉もねぇよ。……それでも俺とお前は一緒にランサーを撃退した仲じゃねぇか。もう少し打ち解けてくれていいと思うんだが」

 

「君たちはランサーにただ遊ばれていたように見受けたが……」

 

「ぐ……、とにかくだ! 俺はこれでも助けに来てくれて感謝してる。お前からしちゃ頼りないだろうが、俺ともシロウとも仲良くやってくれよ」

 

 そう言ってスバルはアーチャーへ笑いかけた。

 アーチャーは目を伏せ、

 

「──助けに入ったのは凛の指示だ。私はマスターの意向に従ったに過ぎん」

 

「……そうかよ」

 

 アーチャーと打ち解けるには、今しばらく時間がかかりそうだ。

 

 

 

「……でもこうやって会話には応じてくれるんだよな。根がクソ真面目なんだこいつ」

 

「…………」

 

「あ、おい、拗ねるなよ!」

 

 関係が悪化した。

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

「お、マスター二人のご帰還だぜ」

 

 十数分の後、士郎と凛が教会から出てきた。

 二人を迎えるスバルへ士郎は開口一番、

 

「──スバル、俺は戦う」

 

 聖杯戦争への参加を表明した。

 

「え、いやそれはありがたいけど、どういう風の吹き回しだよ。……教会で何があったんだ。変なのに誑かされたりしてないだろうな……」

 

「変なのに誑かされてはいるわ」

 

「即答!? 駄目じゃん!?」

 

「それについては謝る。あのエセ神父がそういう奴だってのは分かってたのに……。……もはや衛宮くんはこの戦いを途中で投げ出すことは無いでしょうね。彼はそういう人間だから」

 

 遠い目をする凛。スバルには言っている意味はよく分からないが…。

 

「…………? 口八丁で参加表明させられたってことか? そんなの不履行だろ、なんなら俺が直接話をつけに──」

 

「違うんだスバル、これは俺の意思だ」

 

 教会へ乗り込もうと腕まくりをするスバルを、士郎が制止する。

 

「さっきの問いへの答えだ。俺は戦う。俺に務まるかは分からないけど、マスターとして戦うって決めた」

 

「……殺し合いなんて間違ってるって言ってたけど、それはいいのか?」

 

「よくなんてない。今でも聖杯戦争なんて許せない。だから──」

 

 先刻と同じ、強い拒絶の言葉。しかし、

 

「だから俺は、この聖杯戦争を止めたいんだ。この戦いで犠牲になる人なんて()()()()()()()。……俺が、それを止めなくちゃならないんだ」

 

 ……本当に教会で何を吹き込まれたのか。士郎の眼には一切の迷いが無かった。

 困惑がある、恐怖がある、自己矛盾がある。けれど他者の為に戦いに身を投じることへの躊躇いは無かった。

 

「……だからごめん、スバル。俺は、お前を勝たせる為だけじゃなく、聖杯戦争を終わらせる為に戦う。それでも、こんな俺と一緒に戦ってくれるか?」

 

「──やっぱり俺のマスターだよ、お前は」

 

「スバル……?」

 

「いんや、こっちの話。それでいい、それがいい! 俺もその方針は大賛成! 誰も傷付かないように危ない奴を片っ端からぶっ倒してまわる、結果として優勝できたら聖杯も貰えてラッキー! 文句のつけようがない最高の方針だぜ!」

 

 スバルは身を乗り出して賛同する。

 誰も傷付けたくない。理不尽な犠牲など許容したくない。それは、スバルも全く同じなのだから。

 

「それじゃあ改めまして、だ」

 

 スバルは拳を士郎へ突き出して、片目を瞑る。

 

「俺の名前はナツキ・スバル! エミリアたんの一の騎士にして──今はシロウ、お前と二人三脚、一蓮托生のサーヴァント! 粉骨砕身、力になるんでどうぞよろしく!」

 

「あ、ああ。よろしくな」

 

「あれぇ、若干引かれてる!? 俺たち、共に死線を潜った戦友のつもりでいたんだけど!」

 

「い、いや、戦友でいい。悪い、ノリが悪いってのは慎二にもよく言われる。──これからよろしくな、スバル」

 

「おうとも」

 

 スバルの拳に、士郎が令呪の刻まれた拳を合わせる。

 

 ──深夜の教会前にて、セイバーナツキ・スバルとマスター衛宮士郎の方針は決定した。

 

 戦いを止める為、誰も傷付けない為に、聖杯戦争を戦い抜く、と。

 

 

 

「……な、ななな……!?」

 

「ん、どうした遠坂」「どうかしたトーサカちゃん」

 

「……セイバー……。あなた、今『ナツキ・スバル』って……名前? 真名を、名乗ったの……?」

 

「あ、やべ、つい勢いで。今の無しで」

 

「~~~~っ!」

 

 凛がわなわなと震えている。サーヴァントは英雄譚に特技や弱点が残されているが故に、その正体を隠すものだ。事実ランサーは真名が看破できたことで追い返せたようなものである。その真名を、スバルは堂々と名乗ったのだ。

 ……凛としては、士郎が度々己がサーヴァントのことを『スバル』と呼ぶのはコードネームのようなものと認識していた。凛のアーチャーは、召喚時の記憶喪失を理由に凛に真名を明かしていない。それも相俟(あいま)って、まさか真名を堂々と呼んでいるなどとは思いもしていなかった。

 

 しかし凛の絶句に、スバルは笑って答える。

 

「冗談だよ、別に考え無しに名乗った訳じゃない。トーサカちゃんもアーチャーも、これから協力する仲間なんだ。名前くらいは知っておいた方がいいだろ」

 

「仲間……? ちょっと、何か勘違いしてない? 私は仲間になるなんて一言も言ってない。あくまで参加者未満だった衛宮くんに最低限の知識を──」

 

「よく言うぜ。遠坂ちゃんお人よしだろ。君はシロウを放ってはおけねぇよ」

 

「なっ────」

 

 VSランサー2周目、凛は必至の形相で士郎を助けようと割って入っていた。更に先刻、スバルの言い訳にも口を噤んでくれている。気丈に非情に振舞おうとしているが、彼女の本性は慈悲深く友好的な人物だ。スバルはそう判断した。

 

「それに──俺の真名はバレても問題無い」

 

「問題無い、だと?」

 

 真っ赤になった凛を後目に、アーチャーが詰める。

 

 その視線にニヤリと笑い返し、スバルは高台から街を見下ろした。異世界の建築とは違う、見慣れた家々が広がる。

この懐かしい光景に、士郎や凛の名前、聖杯から与えられた知識、和風建築にジャパニーズ襖。全ての情報がスバルの置かれている状況とアドバンテージを証明していた。

 故にスバルは、故郷の空気を深く吸い込んで、宣言する。

 

 

「──俺は異世界から来た。この世界の誰にも知られてねえ鬼札だ」

 




 評価・感想コメント本当にありがとうございます。励みになります。
 ご意見を頂きまして原作タグを『Re:ゼロから始める異世界生活』から『Fate/staynight』へ変更してみました。今後ともよろしくお願いします。

 本編では基本的に霊体化しているアーチャーが本作で常時実体化しているのにはちゃんと理由がありまして、筆者がアーチャーを書きたいからです。
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