英霊スバルのゼロから始める聖杯戦争   作:どんぱち

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第5話 『英雄ナツキ・スバル』

 教会への徹夜の行脚からの帰路。スバルたち四人以外に佇んでいるのは、丘に広がる外人墓地の墓標だけだ。

 そんな街灯だけが照らす漆黒の傾斜を下ってゆく。

 

 その道中、スバルは先程の「異世界から来た」発言の真意として身の上話を語っていたのだが……。

 

「──という次第でございまして……」

 

 話し終えて恐る恐る皆の顔色を伺うスバルに、凛は口を開く。

 

「親竜王国ルグニカ、魔術が一般的な並行世界。そこに漂流(ドリフト)してしまった貴方はその世界で武勇を立てて英霊の座に刻まれる英雄となった。セイバー、いえ、ナツキくん。つまりあなたは異世界の英雄ってことなのね?」

 

「あ、あぁ、そうだ。俺としちゃあ、こっちの世界に魔法──魔術があったことや、異世界転移をすんなり受け入れてもらってることが驚きではあるんだが……」

 

「魔術世界では並行世界の存在は確認されているもの。ナツキくんが言うように別世界に物や人が漂流(ドリフト)してしまう事例もあるわ。まぁ常人には干渉できない……というか、干渉する技術が再現可能ならまず私が教えて欲しいくらいなんだけど」

 

 満を持して宣言したスバルの異世界出身宣言は、凛には存外にスムーズに受け入れられていた。背後のアーチャーも特に物言いをしてくる気配はない。ある程度の押し問答を覚悟していたスバルとしては、拍子抜けしてしまう程だ。

 そういった訳で比較的穏やかな雰囲気の一行とは対照的に、一人困惑する士郎が口を開く。

 

「い、異世界って……、遠坂、お前今の話納得できたのか? スバルを疑う訳じゃないけど、流石に荒唐無稽というか」

 

「全面的に信用する訳じゃないけど、でも理解はできる。サーヴァントならそれが可能なんだもの。──サーヴァントは、時間を超越した上位層の記録帯を現世に降ろしたものよ。だから当然、過去以外の時間……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 納得した様子で告げる凛。

 アーチャーも咳払いをした後、同意の言葉を続けた。

 

「……私はジャージ姿の鞭使いにもナツキ・スバルという名にも覚えはない。異世界云々は置いておくにしても、少なくとも一般的に知られていない、真名露呈によるデメリットの無い英霊だということは確かだろう」

 

「そういうもの、なのか……? いや、スバルが話してくれたんだ。マスターである俺が信じてやらなくてどうするって話だよな……うーん……」

 

 凛の説明に士郎は唸る。それでもこの突飛な話を飲み込もうとしてくれる辺り、改めて良い奴だとスバルは思う。

 

「……魔術が一般的な世界か。俺、強化しか使えないんだけどやっていけるかな」

 

「別にあっちでも誰でも使える訳じゃなかったぞ。俺ももう使えないしな」

 

「え、ナツキくん異世界の魔術、使えないの? じゃあ異世界出身であるアドバンテージなんて無いんじゃない?」

 

「ぐっ……。いや、真名バレで弱点を突かれることが無くなるじゃん!」

 

「元々全身弱点と言える程に貧弱な英霊でもなければそうだろうがな」

 

「やめてっ! スバルのライフはもうゼロよっ!」

 

 異世界出身であることを明かして白眼視されなかったのは僥倖だが、スバルもまさか「異世界出身だから何?」という話の流れになるとは思っていなかった。スバル的には結構勇気のいるカミングアウトだっただけに、落差が激しい。

 

「どちらかというと異世界出身って話より、疑わしいのはナツキくんがセイバークラスのサーヴァントだってことのほうね。腕っぷしが強そうには見えないし、剣も持っていないようだし」

 

「それを言われると痛い……。セイバーとは見かけではなく心の在り方である、的な認識で一つ頼む。俺がエミリアたんに剣と心を捧げた騎士なのは間違いねえから」

 

「フッ、セイバーを名乗っておきながら扱うのが鞭とは。名乗る事それ自体が卑劣な騙し討ちだ、見上げた性根だな」

 

「双剣使いのアーチャーには言われたくねえよ!?」

 

「────なに?」

 

 アーチャーが目を見開きスバルを凝視する。

 

「…………?」

 

 そんなに突っ込みが効いたのだろうか、と怪訝に思うスバルだったが、その追及は──、

 

 

「────そろそろいいかしら?」

 

 

 初めて聞く、幼い少女の声に遮られた。

 

 四人は一斉に振り返り、坂の上を見上げる。──瞬間、時が止まった。その光景に、呼吸すら憚られたのだ。

 坂の上にいた声の主は、十歳程の少女だった。月光に照らされその銀髪を煌めかせるその姿は、漆黒の世界にあって一層その異質さを際立たせた。

 少女は士郎へ向けて話しかける。

 

「こんばんはお兄ちゃん、サーヴァントを召喚したのね。……でも、もう少し躾をするべきだと思うの」

 

「────」

 

「──おいおい、躾って、俺は、愛玩動物か、何か、かよ……」

 

「お話が終わるのを待っていてあげたのに、そっちのお喋りなサーヴァントのせいで一向に終わらないんだもの」

 

「あー、それは、悪いことをした、な……」

 

 返答のできない士郎、スバルも軽口にキレが無い。それは共に、少女の後ろに存在しているものから意識を離せないからだ。

 

 ──少女の後ろには異形の巨人が立っていた。

 黒鉄の如き筋肉質の体躯は見上げる程に大きく、手にしている斧とも剣とも言えない数メートルの岩盤の武器は、下敷きになっただけで容易に人を圧殺させうる圧倒的質量を確信させる。その眼は正気を失った虚ろなものでありながら、こちらへの明確な殺意を伴っていた。

 その怪物がただそこに在るだけで、スバルたちは背筋が凍り足を竦ませてしまう。つまるところ──。

 

 

「──バーサーカー」

 

 スバルたちにとっての"死"が、そこに立っていた。

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 ぱん、と。乾いた音が響いた。

 スバルが自身の両頬を打った音だ。

 

「──スバル?」

 

「大丈夫、落ち着いた。……ようお嬢さん! 待たせたのは悪かったが、夜更かしは健やかな成長を阻害するぜ? 今日はぐっすり休んで出直した方が良い」

 

 気持ちを無理矢理切り替えたスバルは、バーサーカーを従えた少女に気さくに声をかける。

 あの巨人と戦闘? 冗談ではない。ナツキ・スバルがするべきことは穏便な結果の為の交渉だ。

 

「セイバー。あなた、この世界の英霊じゃないって本当?」

 

「む……」

 

 先程のこちらの会話が終わるのを待っていたような発言でも推察はできたが、どうやらこちらの会話は筒抜けだったらしい。……けれど、彼女がスバルに興味を持っているのなら、そこが勝機だ。スバルは畳みかける。

 

「ああ、そうなんだよ。興味あるか? いいぜ、毎晩枕元で寝物語として聞かせてやろう。普段はペトラもメイリィも子ども扱いを嫌がってこういうことさせてくれないからな。張り切っちゃうぜぇ、俺!」

 

「うーん、割と興味はあるけど……」

 

 少女は年相応に可愛らしく逡巡して、一言、

 

「でも駄目よ。だってあなたたちはここで死ぬんだもの」

 

「────」

 

 無慈悲に告げた。生かして帰さない、と。

 

「セイバーに邪魔されちゃったけど、もう始めていいよね。──わたしはイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」

 

 少女はコートの両端を摘まんでお淑やかにお辞儀をすると、聴く者の心を溶かす柔らかな声色で宣言した。

 

 

「じゃあ殺すね。やっちゃえ、バーサーカー」

 

■■■■■■──!!」

 

 

 巨人の咆哮が耳を(つんざ)く。瞬間、全員が明確に自身の惨死を強く意識した。

 ──あの漆黒の肉体はこの場を蹂躙するものだと。この雄叫びは戦闘開始の合図でなく、殺戮の始まりを告げるものだと、否応なく理解させられる。

 思わず身を固くするスバル。

 

 その強張りが致命的だった。

 

「え──?」

 

 坂の上には少女のみ、そこにバーサーカーの姿が無い。何処へ行ったのか──頭上だ。超重量の狂戦士が轟音を伴ってスバルの身に降って来ていた。

 数十メートルの距離を一瞬で跳躍したその巨体は、明確な殺意を振り下ろす。

 

「──たわけ!」「ナツキくん!」「スバル!」

 

 怒号と悲鳴。

 身を裂く暴風。

 眼前に岩壁。

 そんな中で、スバルがかろうじてあげられた声は。

 

「あ」

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

「じゃあ殺すね。やっちゃえ、バーサーカー」

 

■■■■■■──!!」

 

「え──」

 

 眼前に迫っていた筈のバーサーカーは遥か坂の上。

 つい先刻聞いたばかりの台詞と咆哮に、

 

「し、死んだ──?」

 

 スバルは自身が痛みを感じる暇も無く『死に戻り』したのだと理解する。

 

「一撃で即死かよ……!」

 

 轟音と共にこちらへ跳躍する巨体を視線で追う。

 その体躯に正面から流星が降り注いだ。──矢だ。アーチャーの放った矢が何発もバーサーカーの身体を射貫かんとする。一撃一撃が岩盤をも穿ちかねない驚異的な掃射が狂戦士をつるべ撃ちにした。──が。

 

「うそ、効いていない──!?」

 

 前の周回でもそうだったのだろう、狂戦士は微塵も怯むことなく砲弾となってスバルの元へ落下した。

 自分の元へ降ってくると知っていたスバルは、着弾の前にバックステップで下がりなんとか直撃を回避した──その足場が、バーサーカーの突撃によって今できたクレーターに巻き込まれ、崩れる。足場を失いよろけるスバルは、クレーターの爆心地、バーサーカーの眼前へ飛び出した。

 

「ちょ──!?」

 

 その隙だらけの獲物を、狂戦士は見逃してはくれない。

 

■■■■──!」

 

「こん、のぉぉ──っ!」

 

 巨大な斧剣が横薙ぎに振るわれる。スバルはよろけた勢いのままに倒れ込むことで、間一髪その一閃を免れた。顔の横を(ごう)、と岩盤が通過する。

 

ひあ、ふえ(あっぶね)──あ?」

 

 危ねえ、とそう悪態をつこうとしたスバルは、自身が正しく発声できないことに気が付く。口元からはひゅうひゅう、と風を切る音が漏れ出た。

 

「なぁんだ。異世界の英霊っていうから期待していたのに」

 

「──っ、衛宮くん、逃げて! ナツキくんはもう諦めなさい、貴方の命を最優先するの!」

 

 イリヤの嘆息と、凛の叫びが聞こえる。

 ……酷い台詞だ、確かに不格好な姿は見せたが、こうして相手の攻撃の直撃は避けて見せたというのに、もう見限ると言うのか。──思いながら風切り音のする口元に手を当てたスバルは、自身の顔面の半分が既に消し飛んでいることに気が付く。

 頬を掠めた、ただそれだけでバーサーカーの斧剣はスバルの左顔面を抉り去っていた。

 

「あー……はは、ふぉはあひあえうひゃ(こりゃ諦めるわ)

 

 あまりの無法さに、思わずスバルは苦笑いを浮かべた。

 そこへ巨人の斧剣が再び振り落とされる。スバルは、せめて次で勝つ為に情報を拾おうと、迫る凶器から眼を逸らさない。

 

 ──情報1。バーサーカーを近付けてはいけない。奴の攻撃は掠っただけで致命傷だ。

 

「………ひゅい()()……!」

 

 決意の言葉は、風切り音に紛れて消えた。

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

「じゃあ殺すね。やっちゃえ、バーサーカー」

 

■■■■■■──!!」

 

「逃げろぉぉぉ──!」

 

 スバルはバーサーカーが地から足を離したと見るや、叫び、踵を返して走り出す。バックステップなど甘いことをしたのがいけなかった。あんな怪物と交戦しようなどと考えるのがおかしいのだ。

 

「スバル!?」

 

「皆で逃げるんだシロウ! あんなのとまともにやり合っちゃ駄目だ!」

 

「あ、ああ!」

 

 逃げ出した前方ではアーチャーが幾重もの弓矢を放っていた。が、その弾幕が怪物の顔色一つ変えはしないことは既に見ている。

 

「アーチャー無理だ! 正面戦闘は諦めて一旦立て直そう!」

 

「たわけ! この距離を一飛びで詰める殺戮者からどう逃げる!」

 

「ぐ──、そりゃそうだが、だからってこのまま戦っても駄目だ! 路地裏に逃げるとかしてなんとか──!」

 

 耳を裂く衝撃、コンクリートの爆ぜる音。背後にバーサーカーが着地したのだ。

 次いでもう一度、爆音。今バーサーカーの元には誰もいない、まず間違いなくスバルたちを追って走り出した音だろう。

 

「来やがったなデカブツ。しかし図体のデカい奴は小回りが利かねえって相場が──ごえッ」

 

 強がりは最後まで言えなかった。──スバルの体は優に自身の数倍はある黒鉄の巨体に轢かれたのだから。全身の骨を砕きながら錐揉み回転するスバル。逆さになったその視界には、その勢いのままにアーチャーに襲い掛かるバーサーカーの背が見えた。

 ……俺は道中ついでで処理されただけかよ。スバルは内心悪態をつく。

 

 バーサーカーは小回りが利かない? それはそうだろう。バーサーカーは一周目から一貫して突撃しかしておらず、攻撃手段も剣技などとはとても呼べない、ただ斧剣を振り回すだけの蛮族だ。

 ──そしてそれで充分。その圧倒的暴力に、圧倒的災害に技術など必要無い。技術などというのは、所詮は力無き者が強者に抗う為の術だ。頂点は己を全力でぶつける、それだけで全てを無に帰すことができる。

 

 数メートルの高さまで打ち上げられていたスバルの体は、重力に引かれて一直線に落ちていく。滅茶苦茶な方向へ折れ曲がった体では、アーチャーたちを助けることはおろか、頭からコンクリートへ激突する自分すら助けることは叶わない。

 

 ──情報2。バーサーカーから逃げられはしない。あの図体で、奴はこちらよりずっと俊敏だ。

 

「………それでも、諦めて、たまるか……!」

 

 がつん、ぐちゃ。

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

「じゃあ殺すね。やっちゃえ、バーサーカー」

 

■■■■■■──!!」

 

 既に都合()()()()()()台詞を無視し、スバルはバーサーカーの着弾地点を離れて士郎の肩を叩く。

 

「シロウ、街路樹を強化してくれ! その物陰でバーサーカーをやり過ごして、勝機を探る!」

 

「え──、わ、分かった! ──同調(トレース)開始(オン)……!」

 

 士郎はすぐさま道路横の街路樹へ駆け寄り、息を整え目を瞑った。

 士郎の強化魔術は襖を鉄壁とする程の硬化精度を誇る。バーサーカーの攻撃をそう何度も受けきれるとまでは思わないが、ひとまず状況を立て直す猶予を作りたかった。

 しかし、遠坂は困惑した様子で、

 

「ちょっと、どういうこと? 強化魔術っていうのは対象の存在を強化して『対象が持つ効果を高める魔術』よ。物質を硬くする魔術じゃないわ」

 

 そんなことを言い出した。スバルとしては、士郎から『物を鉄の硬さにする魔術』と説明を受けている為、寝耳に水だ。

 

「え? いやでも実際、強化魔術で俺のギルティウィップを硬くしてギルティブレードに──」

 

「できたぞスバル!」

 

「よ、よし! 話は後だ、とにかく樹の陰でバーサーカーの攻撃を凌ぐ──!」

 

 スバルは即座に士郎が強化した街路樹の陰へ身を隠す。既にバーサーカーは、アーチャーの矢をものともせずに眼前に迫っている。しかしあの脅威の攻撃も、鋼鉄の柱となった樹ならば数発は防げる筈だ、その隙に次の手を見定めるしかない──。

 ──轟音。

 バーサーカーの斧剣が、街路樹を容易に砕きスバルの体を吹き飛ばした。木の幹と鮮血が宙を舞う。

 

「がぁ──ッ!? ……馬鹿な、失敗──!?」

 

 塀に叩きつけられ、満足に立ち上がれなくなったスバルは思考する。

 いくらバーサーカーが驚異的な筋力を持っていると言っても、ランサーの突きすら凌いでみせた強化魔術をこうも粉々に砕くとは考えたくない。ならば強化魔術の方が失敗したのだ。

 ……確かに、士郎は強化魔術はこれまでろくに成功してこなかったと言っていた。今日ここまで全成功だったのは運が良かったのか? ──否。おそらくそれだけではない。

 

「トーサカちゃんの証言との食い違いもある……。シロウの強化魔術には、何か絡繰があるんだ──!」

 

 ──情報7。士郎の強化魔術の成否には何かしらの法則性がある。

 

 もはや躱すことも防ぐことも叶わぬ斧剣のスイングを真正面から睨み、スバルは宣言した。

 

「次は勝つ……!」

 

 街路樹は真っ赤な鮮血に染められ、季節外れの紅葉を見せた。

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

「じゃあ殺すね。やっちゃえ、バーサーカー」

 

■■■■■■──!!」

 

「トーサカちゃん、アーチャー、上だ! 跳んで来るぞ、迎撃頼む!」

 

 咆哮が響くと同時、スバルは叫ぶ。こちらは総力を以て対峙しなくてはならない。

 アーチャーでは止めきれない、スバルでは逃げきれない、士郎では守りきれない。まだバーサーカーの攻撃一発すら満足に受けきれていないのが現状だった。

 

「ナツキくん!? 『上』ってどういう──」

 

「そら来るぞ! シロウ、後退だ走れ!」

 

「お、おう!」

 

 驚異の跳躍。バーサーカーがその図体に不釣り合いな高度へ一気に上昇、こちらへ一直線に襲い掛かる。跳躍を確認してからスバルは士郎とともに全力で後退、バーサーカーの着弾地点から逃れた。

 

「本当に来た──! あ、アーチャー行くわよ!」

 

 アーチャーはこれまでの周回と同じに矢の流星をぶつける。しかしこれだけでは効かないことは分かっている。話はこれから。──迎撃に、スバルの声掛けで準備をしていた凛も続く。彼女は黒曜石を中空にばらまき、唱えた。

 

Gewicht(重圧), um zu(束縛),Verdoppelung(両極硝)──!」

 

 詠唱に反応して銀色の光弾が出現、バーサーカーに降り注ぐ。矢と銀光は夜闇の宙で煌めき花火めいてバーサーカーを襲った。その輝きを見てスバルは瞠目する。

 

「ガンドとは違う、トーサカちゃんの攻撃魔術──!」

 

「宝石魔術! 高くつくんだから! ────うそ」

 

 しかしその自慢の魔術ですらバーサーカーの体には傷一つ付きはしない。着地したバーサーカーは、ほんの一瞬周囲を見回してこちらにその眼光を向けた。

 

「効果無し……いや」

 

 バーサーカーが着地時に辺りを見回すことなど無かった。凛が迎撃に参加したことによる明確な差異だ。例えそれが、ほんの一秒、二秒のことであっても。

 

「宝石魔術が目晦ましにはなったのか! けど、その数秒で何ができる……!?」

 

 スバルにも士郎にも手は無く、凛の魔術とアーチャーの矢は通用しない。総力を挙げてできたのは五秒の命を七秒にすること。……果たしてどうすればこの袋小路から抜け出す事ができるのか。

 

「ナツキくん! 何をしているの、逃げて!」

 

「何ができる、どうすれば倒せる、どうやれば皆を救える……!?」

 

 猛追してくる狂戦士。この命を殺す存在、この世界を終わらせる存在が轟音と共にやってきた。そうして振るわれる剛腕。瞬きの内に斧剣に真っ二つにされるという、その刹那だった。

 

「うぉぉぉっ、スバル──!」

 

「衛宮くん!?」

 

 士郎がスバルを庇って、斧剣の前に身を投げ出した。

 無意味だ。バーサーカーの振るう剣は、きっと士郎諸共スバルを容易に両断するだろう。ただ死ぬ人間が二人になっただけの無駄死に。──それでも。

 

「────あぁ、そうだな」

 

 それでも、今のスバルには、最後まで人を救う事を諦めないという士郎の意思表示に見えて。

 だから、自らサーヴァントの盾になりにきた愚かなマスターに告げた。

 

「──俺たちはまだやれる! そうだろ、シロウ」

 

「──当たり前だ、こんなところで諦めてたまるか!」

 

 愚直で無力で──諦めの悪い男二人は、同時に両断されて宙を舞った。

 

 ──情報15。凛の宝石魔術はバーサーカーには効かない。光弾が一瞬の目晦ましにはなる。

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

「じゃあ殺すね。やっちゃえ、バーサーカー」

 

 ──情報24。アーチャーは現在、自身の宝具が使用できない。

 

「お前も人の事言えねぇじゃん……!」

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

「じゃあ殺すね。やっちゃえ、バーサーカー」

 

 ──情報31。士郎は手綱を握っていないと、スバルや凛を庇って死にに行く。

 

「命大事にっ! 勇気は貰ったがそれはそれ。シロウには後で説教が必要だな……」

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

「じゃあ殺すね。やっちゃえ、バーサーカー」

 

 ──情報100。……おそらく、この(ひら)けた道路では勝ち目がない。

 

「くそ、次……!」

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

「じゃあ殺すね。やっちゃえ、バーサーカー」

 

 ──情報128。バーサーカーの前でイリヤを狙ってはいけない。

 

「…………ぉぁ」

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

△▼△▼△▼△

 

△▼△▼△▼△

 

△▼△▼△▼△

△▼△▼△▼△

△▼△▼△▼△

△▼△▼△▼△

△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 

 ──幾度の失敗を越えて、幾度の死を越えて。

 

「じゃあ殺すね。やっちゃえ、バーサーカー」

 

■■■■■■──!!」

 

 少女の声。狂戦士の雄叫び。聞き飽きた始動の号砲だ。

 

 聞こえるや否やスバルは駆けだす。……きっとまた、無残に血の華を咲かせることになるだろうけれど。

 

 

「俺はまだ、やれる……! だろ、シロウ……!」

 

 

 ──それでも折れない。

 

 

「俺はまだ、全然へっちゃらだ! そうだよな、エミリア……!」

 

 

 ──スバルは折れない。

 

 

「そうだよなっ……! レム……!」

 

 

 ──英雄ナツキ・スバルは、未だ折れない。

 

 那由多に広がる暗闇の中から、一筋の星明かりを掴む、その時まで。

 

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