レベルカンストした俺は2周目に突入する ~永続ボーナスや特典能力を貰ってレベル1からやり直していたら噂が広まりすぎて、周りが放っておいてくれないんだが~ 作:鏑木カヅキ
ボスが複数?
しかも青い水晶じゃなく赤い水晶人?
ってか、ボス部屋から出てきた!?
ボスは部屋から出てこないのが常識なのに。
まさかこれが新ボスの特徴なのか?
ダダダダダ。
走る。俺もなぜか走っている。
低レベル組を放置して、カスパー以外の戦闘組は真っ先に逃げてしまった。
おい、まさかだが。
(こいつら、マジで何も考えずにここまできたのか?
プレッシャーとか周りに手札がバレるからとか……そういうのもなく?
嘘だろ!? そんなのがレベル20までいけるのか!?)
俺はソロ専だから知らなかったが。
もしかしてパーティやアライアンスを組む連中ってのはこういう奴らばかりなのか?
おいおい、マジか。
よく死なずにいられたな。
今回と同じように真っ先に自分たちだけ逃げてきたのか?
だとしたら、冒険者として終わってるだろ。
「お、追いつかれるッ!!」
「荷物は捨てろ!」
低レベル組の叫びが洞窟にこだまする。
俺を含めた全員が荷物を捨てた。
「ば、馬鹿野郎! ついてくるんじゃねぇ!」
先頭を走るロイドが低レベル組に向けて叫んだ。
リーダーとは思えない言動だ。
俺たちから少し離れて後方には赤い水晶人が迫っていた。
だが荷物を捨てて身軽になったおかげで低レベル組全員の速度が上がり、敵との距離ができた。
三叉路が正面に見える。
右に行けば出口は近い。
なんとか逃げきれそうだと思った。
その時。
轟音が響く。
右の道が火炎で爆発して崩落した。
「ごめんねぇ! こっちの道に来ないでねぇ!」
女魔術師が火球を放ったらしい。
あいつら後方の低レベル組を囮に使うつもりか。
「別の道を行くんだな!
まあ、他の道が出口に繋がってるかは知らねぇけどな!」
「がはは! 弱い連中は餌になればいいのだ!
じゃあな、低レベルの雑魚ども!」
ロイドと大柄の重戦士の腹立たしい声も聞こえた。
「くっ! なんてことを!
ロイド! これが熟練冒険者のすることか!」
「うるせぇんだよ、カスパー!
てめぇは前から気に入らなかった!
そこで低レベルどもと一緒に囮になれ!」
「ロイドッッ!!」
カスパーが怒りで顔を歪ませた。
残されたカスパーと低レベル組、そして俺。
後ろから迫る赤い水晶人たち。
選ぶしかない。
正面か、左の道を。
「ま、真ん中の道だ! 行こう!」
カスパーが逡巡した後に即座に決断。
全員がその指示に従い、真ん中の道へ。
ここからはマッピングしていない道。
その先に何があるか誰もわからない。
逃げ続けて数分後。
「い、行き止まり!?」
可能性は低いが、違う道から出口に到達できるかもしれないと思った。
だが、現実は残酷だった。
「ギギギギギ」
すぐ後ろには赤い水晶人たちが十体ほど。
小さな部屋に俺たちは閉じ込められる。
逃げ場はない。
低レベル組が勝てる相手じゃない。
かなりまずい状態だ。
「ぼ、僕が戦う!
みんなは隙を見て逃げて!」
勇敢なカスパーが前に出る。
その背中は震えていたが、唯一の光でもあった。
だが水晶人の動きを見て全員が絶望する。
部屋の入り口を見張る水晶人が二体いた。
役割分担しているのだ。
知能が高い。
(高レベルならまだしも、20レベル付近でこの連携。
やっぱり魔物が強くなってるのか?)
魔物の知能は全体的に高くない。
だが魔の王ゴルデベルドのように、高位の魔物は人間とそん色ない知能を持っている。
低レベル帯ではそれはあり得ないはずだ。
新ダンジョンと新ボスが解除されたってことは、こんな魔物が他にもいるってことか?
おいおい、楽しませてくれるじゃねぇの!
と、俺が他事に奪われている中、戦闘は始まる。
カスパーの武器は長剣と小盾。
赤い水晶人は素手や槍、剣、盾を持っている。
武器まで用意しているとは厄介だな。
カスパーが先に攻撃に転ずる。
しかし。
ガギ。
剣の攻撃は水晶人には効果が薄い。
「くっ! はあああ!」
連撃を繰り出すもダメージは極小。
他の水晶人が横からカスパーを切り裂かんとする。
ズバッと小気味いい音が響く中、カスパーはそれを屈み避ける。
敵の攻撃がカスパーの頬を掠った。
いい身のこなしだ。
それに綺麗な剣術だな。
独学っぽくないが、師匠でもいるのだろうか。
カスパーは二体を相手にしている。
他の六体は襲ってこない。
一人に対して適した人数は三人か四人。
それ以上はむしろ邪魔になることを知っている?。
だが、二体以外は様子見している。
なぜだ?
「ヒギギギギ」
いや、違う。
あいつら愉しんでやがる。
俺たちをいたぶって愉悦に浸ってやがる。
その証拠に、低レベル組が震えて動けない状態なのに襲ってこない。
戦えるのはカスパー以外にいないと思っているんだろう。
なるほど、中途半端に知能が上がるとこうなるのか。
「ううっ……な、なんでこんなことに」
「た、頼む! カスパーさん!
勝ってくれぇ……っ!」
ついには低レベル組は祈り始めてしまった。
この世界の神ってのは誰なのか。
俺にはよくわからんが。
低レベル組は十人、戦っているのは中堅冒険者のカスパーのみ。
そして俺はレベル1で最低装備の上、戦闘スキルもほぼない。
出て行っても水晶人にダメージを与えられないだろう。
結構、絶望的な状況だな。
さて、どうするか。
今までもこんな状況は数えきれないほどに遭遇した。
『ブラッドループ』のゲームの中で。
そしてこの世界の中でも。
俺は何度も危機的状況に陥り、死にかけた。
だが俺は生きている。
それはなぜか。
考えたからだ。
最後の最後まで。
さあどうする、マイル。
この状況を覆す妙案はあるか?
「くっ! なんて硬さだ!」
カスパーの戦いは続いていた。
必死に敵を攻撃しているが、ダメージはあまり通っていないようだ。
打撃武器がないのが痛いが、それ以外にも理由がある。
隙がないからだ。
もしもあいつらの体勢が崩れていたらもっとダメージは出るだろう。
……なるほど。
それならできるか。
とするならば。
あれしかないか。
「ぐわ!」
と、水晶人の攻撃でカスパーが小盾を弾かれてしまう。
防御手段を失ったカスパー。
そこに迫る水晶人の剣。
「カスパーさんっ!」
叫ぶ低レベル組。
全員が終わりを予見する中。
俺は走った。
地を蹴り、転がった小盾を拾う。
さらに走る。
ブン。
水晶人の剣が振り下ろされる。
カスパーが強く目を閉じる。
次の瞬間。
ガギン。
「え?」
唖然としたカスパーの声が聞こえる。
俺はそれを背にしながら、左手に伝わる痺れを感じていた。
パリィ。
完璧な弾きだ。
「今だ! やれ!」
「う、うおおおお!」
俺が叫ぶとカスパーは我に返り、すぐに体勢を崩した赤い水晶人の腹部に剣を突き刺す。
身構えていないということは、それだけダメージが通りやすいということだ。
今の水晶人の防御力は著しく落ちている。
バリィン。
赤い水晶人の体が砕け散る。
そして静寂。
「た、倒した……」
低レベル組の誰かが呟く。
目を見開き、現状を理解していない様子だった。
我ながら完璧なパリィだった。
普段、盾はあまり使わないんだが、ゲームでは初期に練習してたからな。
それが活きたみたいだ。
「「「「ギギギギギ」」」」
赤い水晶人たちが一斉に金切声を出す。
怒っているらしい。
「き、君は……い、一体?
今のはなんだったんだ? どうして攻撃を弾けたんだ!?」
「パリィだ。
タイミングを合わせれば相手の攻撃を無力化できる。
まあ、パリィできる攻撃は限られてるけどな」
ってか、アイルだっけアイリだっけか。
以前、助けたあの冒険者もパリィを知らなかったみたいだし。
おいおい、マジか。
初期で取れるスキルだぞ。
なんで知らないんだよ、こいつら。
俺は嘆息し、盾を二度三度叩く。
いい盾だ。これならしばらくは持つな。
「あいつら今度は全力で襲ってくるぞ。
俺がパリィする。あんたは攻撃しろ。オーケー?」
「え? あ、お、おーけー?」
「行くぞ!」
まだ状況を飲み込めていないカスパーを無視して、俺は正面の赤い水晶人へと疾走。
奴らはまさか突っ込んでくるとは思わなかったのか対応が遅れた。
「ギギ」
俺を目の前にして、反射的に槍を振るう。
わかりやすい攻撃だ。
ガギン
パリィ。
「今だ!」
「は、はい!」
カスパーの剣が敵に突き刺さる。
やはり体勢を崩すと大幅に防御力が下がる。
まあ、これはゲームの仕様でもあり、この世界の規範でもある。
ただいつもはソロでやってたからな。
カスパーの攻撃が通るか不安だったが。
いけるみたいだ。
赤い水晶人たちがようやく我に返る。
奴らは怒りの形相で俺たちへと向かって来た。
低レベル組には目もくれない。
かなりキレてるなこれ。
と。
ガギン。
敵の攻撃をパリィ。
「やあ!」
カスパーの攻撃で致命傷を与える。
そして相手は死ぬ。
完璧な連携だ。
「た、倒せてる……あんなに苦戦したのに!
なぜ!? こんなにたやすく!?」
「だからパリィしてるからだって」
「パリィ……聞いたことがあるようなないような」
俺は呆れながら、迫る赤い水晶人の素手の攻撃を弾く。
ガギン。
パリィ。
そしてカスパーの剣技が光る。
ズドン。
バリィン。
凄まじい轟音と小気味い擦過音が響き渡る。
さらに二体、三体と討伐。
このまま掃討できるかに思えたが。
「ギギギギッ!」
最後の一体の赤い水晶人が低レベル組へと迫る。
怒りかあるいは冷静さを取り戻したのか。
「しまった!」
カスパーの反応は遅れていた。
戦闘に夢中になっていたのだろう。
だが。
「え?」
カスパーの素っ頓狂な声を置きざりにして俺は駆ける。
当たり前だ。
敵のこの動きは当然予測している。
あらゆる状況、展開、未来を予測。
それに対応できるように常に思考。
それが狩りの最低条件だ。
が。
「間に合わない!」
カスパーの叫び。
そう、間に合わない。
俺たちと低レベル組の距離は十メートル。
赤い水晶人の距離は五メートル。
どれだけ早くても、人間の速度で間に合うはずがない。
「ギギギッ!」
赤い水晶人が低レベル組へと剣を振り下ろす。
間に合わない。
普通の人間ならば。
ガギン
「ギィ!?」
パリィ。
俺は赤い水晶人の攻撃を綺麗に弾いた。
忘れちゃいけない。
俺はレベルカンスト勢。
装備スキルは『移動速度アップ』。
つまり。
走っても普通の人間よりも僅かに早い。
そしてAGIのステータスを永続ボーナスで上げている。
つまり、レベル15付近くらいの俊敏性は得ている。
結果。
俺は間に合った。
「カスパー!」
「任せて!」
遅れてやってきたカスパー。
俺の声に呼応し、赤い水晶人の背後から剣で貫く。
「ギガアアア!」
断末魔の悲鳴を残し、赤い水晶人は光の粒子となった。