レベルカンストした俺は2周目に突入する ~永続ボーナスや特典能力を貰ってレベル1からやり直していたら噂が広まりすぎて、周りが放っておいてくれないんだが~ 作:鏑木カヅキ
「お、おいおい、なんで生きてんだ?」
『水晶窟』から脱出した俺たちを見たロイドの第一声がこれだ。
頬を痙攣させ、化け物でも見るような目をしている。
ここまで来ると逆にすごいな。
戦闘組のはずの中堅冒険者たちは全員生きているようだ。
「……全員無事か。
そりゃそうだよね。
僕たちを囮にしてさっさと逃げたんだから」
「あ、あの状況じゃ仕方なかったのよ!
ぜ、全滅するよりいいじゃない!」
カスパーに言い訳する女魔術師。
他の中堅冒険者たちは気まずそうに俯いている。
なんなんだこいつら。
「あ、ああ! そうだ!
俺たちは悪くない!
恨むなら自分たちの弱さを恨め!」
大柄の重戦士が誤魔化すように笑った。
理解に苦しむな。
どういう感情で言ってるんだ、こいつら。
「お、俺たち死ぬところだったんだ!
カスパーさんとこの人が助けてくれなかったら全員死んでたんだぞ!」
「カスパーと……こいつ?
レベル1の雑魚が助けたって? ぎゃははは!
なんの冗談だぁ? ただ逃げてきただけだろ?」
低レベル組の誰かが叫び、ロイドが俺を馬鹿にする。
さすがに不快すぎるなこいつら。
ふむ、なるほどな。
「なあ、カスパー。
ちょっと聞きたいんだが。
こいつらは何らかの罰に処されるのか?」
「……ギルドからの多少の制裁や制限はあるだろうね。
ただ、そこまで重いものにはならないと思う。
ギルドにも責任はあるし、形だけの罰になるんじゃないかな」
「低レベル組を囮にしたのに?
逃げ道を塞いでさえいたのにか?」
「証拠がないからね……証言しても中堅冒険者組の方が発言権は強い。
それだけ功績があるから……」
つまり、ギルドも腐ってると。
中々な状況だな。
「そういうことだ。
そもそも低レベルの雑魚がレベル20のダンジョンにのこのこついてくるのが悪い。
なあ? そうだろう?」
「そういうことぉ。
残念だったわね」
「雑魚は発言権も雑魚!
結局、何もできはしないのさぁ!」
「ふ、ふざけんな!
低レベルなら何されてもしょうがないっていうのかよ!」
「決まってるだろ。
雑魚が何を語ってんだ?」
低レベル組の問いにも、ロイドが悪びれた素振りなく答える。
なるほどなるほど。
つまり、あれだ。
こいつらは俺の敵ってわけだ。
「もう一つ聞いていいか、カスパー。
俺はずっとソロでな。わからないことがある」
「……なんだい?」
「人を殺しても経験値は貰えるか?」
俺は真顔で言い放った。
幸か不幸か今まで、魔物以外を狩ったことはない。
だが『ブラッドループ』には他プレイヤーの世界に侵入して、狩るというシステムがある。
俺はやったことがないし、そもそもネットに繋がずにやっていた。
だが他プレイヤーを殺せば、経験値とアイテムを貰えると聞いたことがある。
ゲームではそういうシステムだった。
ではこの世界では?
カスパーは僅かに目を見開き、しかし感情を抑えて答える。
「…………貰える」
「オーケー。
ならこいつらを狩るか」
俺は冒険者の短剣とカスパーから借りていた小盾を手にする。
そんな俺をカスパーは一瞬だけ止めようとした。
だが、カスパーの口から出た言葉に俺は少しだけ驚く。
「……決闘なら罪には問われない」
「へえ、そりゃいい情報だ。
犯罪者になれば街を利用しづらくなるからな。
まさか、低レベルの俺から逃げないよな? おまえら!」
俺は一人。
相手はロイドと女魔術師、そして大柄の重戦士。
他の中堅冒険者たちも俺たちを囮にしたが、それ以外の行動に非はなかった。
だが、だからと言って簡単に許すつもりもない。
俺はな。
狩場で卑怯なことをする奴が嫌いなんだよ。
俺の装備は、小盾以外はレベル1の武器防具。
対して相手はレベル20相当の装備。
明らかに装備にもレベルにも格差がある。
当然ながら。
「ぎゃははははははは!
バァカか、おまえ!
レベル1がレベル20に勝てると思ってんのか?」
「おバカさん。
正義感で暴走してるのかしらぁ?
いるのよねぇ。自分を英雄だと思い込んでる初心者。
ま、すぐに死んじゃうんだけど」
「ここまで馬鹿だと逆に憐れだな!
道化にしか見えんぞ!
がははははははは!」
奴らは俺のレベルが上がっていることに気付いていない。
だが、それでもレベル差があることは間違いない。
勝てないと思うのが普通だろう。
「雑魚ほど口数が多いな。
どうでもいいから、さっさとかかってこい。
三人同時でもいいぞ」
俺が言うと、笑っていたロイドたちが真顔になる。
「調子に乗るなよ、雑魚低レベルが!
そんなレベルと装備で俺たちに勝てると思ってんのか?」
「ああ、余裕だな」
ピキという音が聞こえた気がした。
ロイドたちが一斉に額に青筋を立て、そして身構える。
「だったらここで死ね!」
「氷に貫かれなさぁい!」
「すり潰してやろう!」
ロイドは剣を、女魔術師は氷槍を、大柄の戦士は大剣を同時に放った。
俺はそれをじっと見つめる。
直撃するその直前。
ガギン。
同時パリィ。
「な!?」
「へ!?」
「は!?」
三人同時に呆けた声を出している。
奴らの攻撃を俺は一度のパリィですべて弾く。
人間の膂力じゃないって?
勘違いしないでほしい。
これはスキルだ。
つまり。
レベルもステータスも関係ない。
タイミングさえあれば、大半の攻撃は弾ける。
大きな隙を晒した大柄の重戦士の腹に短剣を突き立てる。
「ぐああッ!!」
大柄の戦士はその場にくず折れる。
今の俺はレベル7。
短剣はレベル1のコモン装備。
攻撃力は大して高くない。
だがパリィにより、相手の防御力は著しく下がっている。
試しにやってみたが、どうやら俺の攻撃はちゃんと通るらしい。
まだ死んではいないみたいだが。
俺は小盾で大柄の重戦士を殴り飛ばす。
「ぐはっ!?
うぐぐぐ! いでぇ! いでぇよぉ!」
大柄の戦士は地面に転がり、痛みにのた打ち回っていた。
出血が激しい。
ああ、この装備、出血効果があるのか。
だとしたら放置していれば死ぬだろうな。
「な、なんで!?
低レベルのクソ雑魚に、なんでやられてんだ!?」
「わ、わたしの魔術が弾かれるなんて!
ど、どういうことなのよぉ!」
狼狽えるロイドと女魔術師。
パリィで崩した体勢はすでに持ち直したらしい。
だが無駄なことだ。
俺は無言で女魔術師の方へと向かう。
「こ、来ないで!
来るなって言ってんでしょぉ!」
再び氷槍が杖から放たれる。
俺はそれをパリィ。
氷は砕け散り、離れた女魔術師が膝をついた。
「うっ!? な、なにが起こって……っ!」
パリィは投擲されたものや魔術を弾いても、相手の体勢を崩す。
そう、いわばチート級のスキルだ。
俺は大柄の重戦士同様に女魔術師にも容赦なく短剣を突き刺す。
「ぎゃあああああ!」
断末魔の悲鳴を上げて、女魔術師はその場に倒れた。
そしてそのまま動かなくなる。
大柄の重戦士に比べてHPが少なかったようだ。
女魔術師の体から黄色い粒子、経験値が生まれて俺の身体に吸収される。
だが魔物とは違い、死体は消えないようだ。
「へえ、なかなかいい経験値だな。
人間狩りってのも悪くないか?」
新たな選択肢が俺の中に生まれた。
なるほど、そりゃ他プレイヤーを狩りたくなるわけだ。
魔物を狩るよりもこっちの方が効率がいいかもしれない。
まあ、人間の場合はどこにいるのかわからないし、そもそもリポップしないから最終的な狩り効率は悪くなりそうだが。
だが、今後の選択の中には入れていいだろう。
俺は思わず笑みをこぼした。
「ひっ!?」
俺の顔を見て、ロイドが小さく悲鳴を上げる。
なんだ?
なんでそんなに怯えてるんだ?
ふと見ると、カスパーや他の中堅冒険者、そして低レベル組も俺を見て、戸惑い、怯え、緊張していた。
いわゆるドン引きだ。
俺、そんなに変な顔してるか?
まあいい。
とにかく、こいつを狩ろうか。
俺は血に塗れた短剣片手に、ロイドへと近づく。
ロイドは戦意喪失しているのか、身構えずに首を横に振った。
「ま、待てっ!
待ってくれ! 待ってください!
は、反省した! どんな罰でも受ける!
だ、だから殺さないでくれ!」
必死の懇願。
ロイドが剣を放棄した。
全体の空気が僅かに緩む。
これで戦闘は終わり、そんな感じの空気が漂ったように思った。
だが俺は首をかしげる。
「狩りを中断するはずないだろ?
魔物を狩る時、おまえは相手を見逃すのか?
しないだろ?」
俺は何の感慨もなく、短剣を振りかざす。
「ま、待て! 俺が悪かった!
改心する! だ、だから」
「狩りでは判断の遅さが命取りになる。
反省するなら、被害が及ぶ前にするべきだったな」
「く、クソがぁぁぁぁぁぁ!」
ロイドが背中に隠していた短剣を振り上げた。
ドォン。
俺はそれを小盾でパリィ。
そしてロイドの心臓を短剣で突き刺した。
「がっ……! く……そ……低レベル……雑魚が!」
最後まで俺を蔑みながら倒れるロイド。
しばらくごほごほと吐血していたが、その後、すぐに動かなくなった。
大柄の重戦士も遅れて死んだらしい。
二人の経験値が俺に注がれる。
そしてレベルは9となった。
レベル20を三人狩るとレベルが2も上がるのか。
ただ、レベル10からはさらにレベルが上がりにくくなるんだよな。
やれやれと嘆息していると、周りの様子に気付く。
なんというか空気が重かった。
カスパーや低レベル組は驚きと戸惑いを顔に浮かべ。
残った中堅冒険者たちは怯えと不安を顔に浮かべている。
そして俺はどうかというと。
何も感じなかった。
魔物を狩った時と同じような感じだったのだ。
ここが現実だとは理解している。
それに相手は人間だったことも。
だが、何も感じなかった。
初めて人を殺したのに。
こんなものかと思ったくらいだった。
別に大義も正義も俺にはない。
ただ、あいつらを生かして置く理由はなかった。
俺の敵となったあいつらを殺す理由しかなかった。
だから殺した。
中堅冒険者たちがその場にくず折れて、震え出す。
「な、なんて強さだ……ロイドたちがあんなに一瞬で……。
お、俺たちも殺されるのか……!?
そうなんだろ!?」
「まあ、あいつらと同罪と言えばそうだからなぁ」
俺は後頭部をガシガシと掻いて、膝をついている中堅冒険者の前で屈む。
小さく「ひっ」と漏らされた。
そんなに怖いか? 俺。
「冒険者ってのは命を懸ける稼業だけどさ。
でも他者を犠牲にしてもいいってのとは違うんじゃないか?
そんなことをしたら、そりゃこうなるだろ」
俺がロイドたちを殺した方に向けて、くいっと顎をしゃくる。
中堅冒険者たちが気まずそうな顔をした。
「俺は正義の味方でも法の番人でもない。
別に邪魔しなけりゃ何もしないさ。
ただ、あいつらはやりすぎた。
おまえらはどうだ? また同じことをするのか?
反省もせず、他の人間を囮にして、自分だけ助かるような真似をするのか?」
「し、しません!
に、二度と! もう二度とあんなことはしないです!
今後は攻略組に参加もしない! 低レベルの冒険者を助けるようにする!」
必死に叫ぶ一人の中堅冒険者。
他の奴らに目を向けると、全員が激しく頷いていた。
その場限りの言葉だとは思う。
だが、ここで殺すほどの罪はこいつらにはないと思う。
そもそも、罪を裁く権利は俺にはない。
ただ俺に害を与えた、弱者を虐げた、それが限度を超えていた。
それだけのことだ。
正直、公平に断罪するつもりもない。
失禁しそうな勢いで怯えているんだ。
これくらいで勘弁してやるか。
「信じよう。今回だけな。
だが、忘れるな。
俺は、狩場で卑怯なことをする奴が一番嫌いだ。
命を懸ける場所では、命懸けで狩れ。
他人じゃなく、自分の命を懸けてな」
「わ、わかりましたッ!!」
中堅冒険者たちが同時に叫ぶ。
俺は嘆息し、カスパーや低レベル組たちに振り返る。
低レベル組たちは緊張していたり戸惑っていたりしたが、カスパーは比較的に冷静さを取り戻しているようだった。
「そう怯えるなよ。
別に何もしやしない。
俺は敵と魔物以外は狩らないからな」
「はは、それを聞いて安心したよ」
カスパーが苦笑すると、空気が僅かに弛緩する。
低レベル組たちも緊張を解いていく。
「ギルドには僕から顛末を報告しておくよ。
ロイドたちは君との決闘で死んだとね。
僕にも責任はあるし、それくらいはさせて欲しい」
「悪いがそうしてくれ。
俺は狩りに戻るから」
「…………狩りに、戻る?
えーと、どういうこと?」
「言葉通りだ。
このまま戻るんだよ。
『水晶窟』に」
カスパーは愕然とし、俺は当たり前のように返す。
なんだ?
なんでそんな顔するんだよ。
カスパーだけでなく、低レベル組も中堅冒険者たちも同じ顔をしている。
「い、今の今まで死にかけて、ようやく脱出したのに?
さ、さっきまでロイドたちと殺し合いをしてたのに?」
「そうだが?」
「そうだがって……」
俺は首をかしげる。
カスパーは俺を凝視し、そして根負けしたように笑った。
「すごい人だな君は。
本当に駆け出しの冒険者とは思えない。
何かの武術の達人とかなのかな?」
「いや、素人だ。
ただ、狩りが好きなだけだな」
「……もう、どう反応したらいいのかもわからないよ。
君みたいな人には初めて会った。
君……いやマイル。ありがとう。
色々と。君がいてくれてよかった」
「こちらこそだな。
今さらだが、あいつら狩ってよかったのか?
一応、仲間だったんだろ?」
「一時的な、ね。
お互いに嫌っていたし、僕はこき使われていたよ。
尻拭いばかりさせられてたし、正直、そろそろパーティを抜けようと思ってた。
彼らの行動は目に余っていたし……僕からは何もないよ」
意外に淡白な性格なのだろうか。
あるいは冒険者というのはそういうものなのかもしれない。
カスパーが初めて、まともに関わった冒険者だしよくわからないが。
「何かお礼をしたいんだけど」
「いらない。これの借りを返したってことでいい」
俺が服と指さすと、カスパーは小さく笑った。
「じゃあな。
低レベル組はもっとレベル上げ頑張れよ。あと死ぬな。
中堅冒険者組はもっとまともになれよ。レベル上げしろ。あと死ぬな。
カスパーは……まあ、そのまま頑張れ」
「うん、ありがとう。
頑張るよ」
俺は口角を上げ、全員に手を振ると『水晶窟』に戻った。
さて、これからレベル上げだ。
ようやくまともに狩ることができるな!
次にボスがリポップするまでどれくらい時間がかかるかな。
レベルが上がったし、今なら攻撃も通るはず。
他の魔物の配置は――。