レベルカンストした俺は2周目に突入する ~永続ボーナスや特典能力を貰ってレベル1からやり直していたら噂が広まりすぎて、周りが放っておいてくれないんだが~   作:鏑木カヅキ

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第15話 噂がさらに広まる

 『水晶窟』へと戻っていくマイルの後ろ姿を見送る。

 残されたカスパーたちはしばらく立ち尽くしていた。

 

「……す、すごい人でしたね」

 

 低レベル組の一人が思わず呟いた。

 

「うん、そうだね……。

 あんな人は見たことがない。

 レベル1でレベル20の魔物や冒険者を軽々と倒す……。

 パリィは見事だった。あんなことができる人間がいるなんて」

 

 カスパーはさっきの出来事を思い出す。

 マイルの姿が目に焼き付いている。

 見た目はどこにでもいそうな駆け出し冒険者。

 最初は抜けているように見えたのに。

 狩りに関しては今まで見た冒険者の中でも、群を抜いていた。

 まるで。

 

「レジェンド級冒険者みたいだった」

 

 見たことはない。

 でもうわさでは聞く。

 一突きで竜を屠る槍使い。

 すべてを凍らせ、何物も寄せ付けない漆白(しっはく)の剣士。

 あらゆるダンジョンを踏破せし狩りギルドの長。

 その中にマイルがいても不思議はない。

 いや……違う。

 マイルはレベル1だった。

 しかも何か武術をやっているわけでもないと言っていた。

 明らかに格が足りていない。

 だがあの姿は……レジェンド級冒険者とそん色ないと思えた。

 おかしな青年だ。

 なにもかもがちぐはく。

 浮世離れしていながら、どこか親近感を抱き、興味を持ってしまう。

 彼は一体何者だったのだろうか。

 思考するカスパーだったが、一人の低レベル組の男が口を開くことで我に返る。

 

「な、なんか狩り男みたいだよな」

「狩り男……?」

「狩場に現れる男で、めちゃくちゃ強いとか。

 魔物に襲われていると助けてくれて、出口まで送ってくれるとかなんとか。

 ソロ狩りをしていて、危険なダンジョンに住んでるって噂があって」

「……そんな噂が」

 

 確かに彼と似ているかもしれない。

 だがそれならどうしてレベル1だったのだろうか。

 レベルを下げる方法なんて聞いたことはないが。

 別人?

 いや、そうだとしても関係ない。

 カスパーは恐らく話すだろうと思った。

 家族に、友人に、恋人に、知り合いに、酒場で隣り合った他人に。

 マイルの……狩り男のことを。

 礼は不要と言われた。

 でも彼の功績を黙ってなどいられない。

 もしも彼が狩り男なら、あるいはそうでなくても。

 彼の功績を伝えよう。

 きっと今回だけでなく彼は、マイルは……狩り男は別の人を救う。

 そして、一人狩場へ戻っていく。

 そんな男の逸話を広めよう。

 それがカスパーにできる唯一のことなのだから。

 

   ●◇●◇●◇

 

「だああああああああああ!

 また失敗したじゃないのおおおおおーーッ!!」

 

 アイリは『青毒沼の洞窟』に来ていた。

 一人ではない。

 二十人近くの攻略組を連れていた。

 前回の失敗を反省し、準備万端で乗り込んだのだ。

 が、ダメ。

 半分はグレーターデーモンたちにやられ。

 残り半分は逃亡中。

 その中にアイリもいた。

 走りながら叫ぶと、隣を走っていた長髪の男が嘆息する。

 

「そりゃ、無理っしょ。

 前回は三十人だっけ? 今回はそれより少ない二十人。

 戦力足りてないっしょ」

「うるさいうるさいうるさーいっ!

 今回が初参加の癖に、知った風な口聞かないでよ!

 ってかあんた誰よ!」

「名前くらい覚えて欲しいもんだけどねぇ。

 おいらは――」

「あんたの名前なんてどうでもいいのよ!

 それよりも狩り男はどこなのよ!

 攻略のついでに探そうと思ってたのにいないじゃない!」

 

 『青毒沼の洞窟』にいたのは魔物だけ。

 他の攻略組もこんな辺鄙な場所にある、臭くて、汚くて、怖くて、暗くて、危ないダンジョンには来ない。

 いるのはアイリのような野心溢れる新興攻略組か大手狩りギルド、あるいは狩り男のような狩り中毒者くらいだろう。

 だがいない。

 どこにもいなかった。

 

「もおおおおおおおおおっ!!

 攻略も失敗!

 狩り男もいない!

 せっかく集めた攻略組も半壊!

 なんであたしの人生いっつもこうなのよぉ!」

「そりゃ、慎重さがないからっしょ。

 もっと準備をしてから――」

「うるさいうるさいうるさーいっ!

 したの! したけどダメだったの!

 なのにあたしが悪いの!? あたしのせいだって言うの!?」

 

 走りながら地段々を踏むという器用な一面を見せるアイリ。

 長髪の男はこれ見よがしにため息を漏らす。

 

「狩り男……見たかったなぁ。

 本当にいるんすかねぇ」

「いるっつってんでしょ!

 助けて貰ったんだから! レベル70くらいだと思う!

 レジェンド級冒険者と同じくらい!」

「うーん、最近、流れてる噂だと狩り男のレベルは低いらしいっすけどねぇ」

「それ別人! ってかデマ!

 あたしだけが真実言ってるから!」

「そうなんすかねぇ。

 はあ、狩り男……いるんならいるでさっさと出てきてくんないっすかねぇ。

 いい加減、疲れたっしょ」

 

 長髪の男は心底疲れたというため息を漏らす。

 男の目は死んでいる。

 何かとてつもないストレスを感じているようだ。

 

「ゴルゴルゴルゴル!」

「ぎゃあああ! ゴルゴル聞こえだしたぁ!

 ダーーーーーッシュ!」

 

 すぐ後ろにグレーターデーモンが迫っていた。

 疾風迅雷のアイリは本領発揮とばかりに疾走する。

 速い。

 他の攻略組と長髪の男を置き去りにするくらいに。

 

「ま、待ってくださいっす!

 アイリさーーーん!」

 

 長髪の男と攻略組の連中は必死でアイリの後に続く。

 『青毒沼の洞窟』にはしばらく人間の悲鳴と怒号が響き続けていた。

 

  ●◇●◇●◇

 

「狩り男って覚えてるか?」

 

 冒険者ギルドの酒場。

 屈強な男たちが酒盛りに明け暮れている。

 髭面の男と大柄の男もエール片手に今日の疲れを癒していた。

 のだが。

 

「お、おい! やめろ!

 またアイリに聞かれたらどうする!?

 次は本当に殺されるぞ!」

「茶化してるわけじゃねぇ!

 本当に噂になってんだよ」

「か、狩り男……って。

 確か狩場に現れる、ヤバい奴だろ?」

「ああ、魔物に襲われてたり、罠にかかっていたりすると助けてくれる。

 んで、出口まで送ってくれて、最後に何かくれることもある。

 その後は狩場に戻るっていう、ソロの狩り専冒険者だ。

 本当にその噂が流れてんだよ」

「まさか、アイリが言ってたのは本当だったってことか?」

「かもしれねぇ。

 実際、アイリ以外からも情報が出てきてるらしい。

 ただそいつは低レベルだったらしくてな。

 アイリの情報とは違う」

「ってことは別人じゃねぇか?」

「レベルを勘違いすることはまずねぇからな。

 別人説が有力かと思うんだがよ……」

 

 大柄の男はエールを一気に煽るとガンとグラスをテーブルに置いた。

 

「ただ、同じ点はいくつもある。

 その中でソロの狩り専って部分が気になる。

 ソロでダンジョンに入るような命知らずはいねぇ。

 そんな奴は速攻で死ぬからな」

「同時期に現れた、命知らずのソロ狩り専……。

 しかも助ける、出口に送るという点は同じ、か」

「同一人物だと思うよな?」

「……噂が本当ならな。

 アイリの話を聞いて、面白半分で尾ひれはひれつけたんじゃねぇか?」

「かもな。

 だが複数人が同じようなことを言っているらしい。

 『白金都市プラチナム』の冒険者の何人かが話していたとか。

 素行の悪い、相当にやらかした冒険者と決闘して倒したって話もある」

「……示し合わせたっていうなら、ずいぶん手の込んだことだな。

 面白半分にしてはやりすぎだ」

「だろ? こんなことして何の意味があんだ?

 だからか噂は事実なんじゃないかという説も出てる。

 まあ、俺が言い出しっぺだけどな!」

「へへへ。その方が面白そうではあるよな。

 しかし狩り男か。もしもそんな奴がいたら」

「ああ、すごい奴が現れたよな。

 歴代のレジェンド級冒険者でも『青毒沼の洞窟』でソロレベリングするような命知らずはいねぇだろう。

 あそこは魔物の強さだけが問題じゃねぇ。

 毒環境、罠の多さ、構造の猥雑さ、と推奨レベル以上の難易度らしいからな」

「……そこでレベル上げか。

 イカれてんな」

「違いねぇ。

 だがそんな奴がいたとしたら……よっぽどのバケモンだろうよ。

 魔物みたいな見た目で、腕は丸太数本分くらいあるだろうさ」

「ダンジョンに入り浸ってるなら、体毛は伸びっぱなし。

 野人みたいな奴だろうぜ。いや、魔物と見た目は変わらないかもな!」

「腕も四本くらいあるんじゃねぇか!?」

「がはははは! ありえるな!」

 

 笑いあう大柄の男と髭面の男。

 いつもの酒のつまみが、今回は少しだけ高揚感を含んでいた。

 こんなことは初めてだった。

 大抵はくだらない噂や愚痴に花を咲かせ、酒に酔いしれるだけだった。

 だがこの『狩り男』の噂は違う。

 男たちも冒険者だ。

 だからこそ、狩り男の話にちょっとした浪漫を感じていた。

 もしもそんな男がいたら。

 情勢が変わる。

 大手狩りギルドも、レジェンド級冒険者も、そして世界安寧を掲げる『勇者教』にも。

 大きな影響を与えるに違いない。

 変化は起き、やがて波紋のように広がる。

 

「おい、聞いたか?」

「ああ、狩り男だろ? マジでいるのか?」

「俺の聞いた話じゃ……」

 

 そんな声が、その酒場ではぽつぽつと聞こえていた。

 噂が広まっていく。

 

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