レベルカンストした俺は2周目に突入する ~永続ボーナスや特典能力を貰ってレベル1からやり直していたら噂が広まりすぎて、周りが放っておいてくれないんだが~ 作:鏑木カヅキ
北の大地は魔物が住まう土地。
しかし、僅かだが魔物以外も住んでいる。
エルフだ。
真っ白な肌に青い瞳。
長寿で異常に美形な種族。
そのエルフの隠れ里に俺は来ていた。
「おお、おお、相変わらずすごい視線だな」
エルフたちがジロジロと俺を見ている。
だが何も言ってはこない。
まあ、それにはちょっとした事情がある。
木をくりぬいたような家ばかりが建ち並ぶ村内。
その中で一際大きい家に俺は向かう。
コンコン。
扉をノックし、出てきたの女性のエルフだった。
見た目は若いが、実年齢は700歳を超えているらしい。
エルフの隠れ里の長老だ。
名前は知らない。
「……おまえか」
「今回もあるか?」
「……ある。しばし待て」
不快さを隠しもせず、扉を閉める。
中に入れるつもりなんてないってことね。
しばらく待つと小さな袋と羊皮紙を手にして戻ってきた。
「これだ」
「あいよ」
俺はそれを懐にしまうふりをしてインベントリに入れる。
別に隠す必要もないが、エルフは面倒な種族だから、余計な詮索は避けたい。
俺は踵を返そうとした。
「待て」
「なんだ?」
「……アレはどうだ?」
アレとは、あいつのことだろう。
心配しているわけじゃない。
ただ、不安に思っているんだろう。
あいつが何かしでかさないか。
そう思うと少しだけ不快だった。
「何も。真面目にやってるんじゃねぇの」
「そうか。ならばいい。
再三言っているが、村には決して近寄らせるな。
関わりも最低限。連絡はよこすなと伝えろ。
そして」
「あんたの娘だっていうことは絶対に言うな、だろ?」
ギロッと俺を睨む長老。
「…………そうだ。
でなければこの里に人間なんぞを入れたりはしない」
「わかってるさ。
それが依頼ならな。
他に何かあるか?」
「ない。店を使う場合は長居するな。
わかったら行け」
端的に言うと、長老は扉をバタンと閉めた。
相変わらずの歓迎だ。
ここまで来るとなんか楽しくなってくるな。
俺は他のエルフの視線を無視しつつ、道具屋を訪問。
明らかに敵意を感じるも『極鳥風羽』と『火炎瓶』用の高品質な錬金素材を購入。
これはエルフの里にしか売ってないものだ。
金はいくらでもあるので所持金は数えていない。
「ちっ!」
舌打ちと共にアイテムを受け取ると、俺はさっさとエルフの隠れ里を後にした。
さて、なぜ俺がここまでされながらもこの里に来たのか。
もちろんアイテムを手に入れたかったという理由もある。
だがそれはついでだ。
目的は長老から受けた依頼……つまりクエストにある。
エルフの隠れ里は『腐海』と呼ばれる穢れた樹海の少し外れた場所にある。
エルフが管理する場所は新緑の樹海であり、穢れは届いていない。
エルフは人間とも魔物とも手を結ばず、独自の文化を築いている。
そして魔物とは敵対関係ではない。
むしろ魔物よりも、人間を嫌っているくらいだ。
こんな辺鄙で危険な場所に来る人間は俺くらいなもの。
だが俺はこのゲームを知り尽くしている。
ある日、俺は偶然を装いエルフの隠れ里を訪れた。
殺されかけたり、捕縛されたり、色々あったが、長老からある依頼を受けることになった。
それは人間である俺にしかできないことだったのだ。
その理由は『腐海』の先、『竜丘陵』にある。
俺は穢れた森の中を、魔物を討伐しながら進む。
竜丘陵は断崖絶壁で人が進む道なんてほとんどない場所だ。
俺は最早壁としか思えない断崖を上り続ける。
「ほっほっ! よっと!」
日本では不可能な身体能力を使って、ぐんぐんと山を登る。
数時間ほど経過。
と。
「やっと見えたか」
丘のてっぺん。
そこにはぽつんと小さな家が建っている。
煙突からは巨大な煙が出ていた。
カンカン。
聞こえるいつもの金属音に俺は笑みをこぼしつつ、中へと入る。
「よう、邪魔するぞ」
「……また来たの」
返ってきたのは不機嫌そうな声。
その声の持ち主はエルフだった。
だが普通のエルフとは違う。
肌は浅黒く、目も暗い色をしている。
髪も黒に近い。
やや幼い見た目だが、年齢は100歳を超えているらしい。
ダークエルフと呼ばれる種族だ。
「また、とはご挨拶だな。フラウ。
あんたの母親から頼まれてきたのに」
「…………ちょうだい」
手のひらを見せてきたので、俺は長老から受け取った小袋と羊皮紙を渡す。
フラウはさっと確認すると、すぐに小袋と羊皮紙を棚に入れた。
家屋内は玄関付近に武器防具が置かれている。
店というにはかなり雑多で、客が入ることを想定していない造りだ。
奥には鍛冶場がある。
そこでフラウは金床上の剣を金槌で打ち始めた。
カンカン。
完全に俺のことは無視している。
まあ、いつものことだ。
「報酬は何がいい?
以前はインベントリスキル。
他には剣と手斧。次は何?」
このダークエルフのフラウからインベントリのスキルを貰ったのだ。
スキルや魔術、聖術を覚えるには、スクロールを読むか、人に教えてもらうか、自分で閃くかが基本的な方法となる。
フラウからはスキルを教えてもらった形だ。
『ブラッドループ』のゲームでも彼女は出てきて、このクエストも存在していた。
つまり、彼女や長老はゲームではNPCだったというわけだ。
インベントリがない時はどうしてるのかって?
持ってたんだよ。
でっかい袋に入れてな。
さて、今回の報酬は決まっている。
「修繕を頼む。
長い間、手入れしてなくてさ」
「それなら人間の鍛冶師に頼んだ方がいい。
ここまで来る必要はない」
「これを見てもそう思うか?」
俺は魔剣イースをインベントリから出した。
フラウが小さく目を見開いた。
「魔剣……イース!?
白き竜の尾から生まれたとされる、伝説の剣。
どこでこれを?」
「その白き竜を倒したら手に入った」
「…………冗談?」
小首をかしげ、眉根を潜めるフラウ。
「事実だ。
こんな代物あんたにしか修理できないと思ってな。
で、どうする?」
「引き受ける」
即答だった。
フラウはおもちゃを手に入れた子供のように、魔剣イースをひったくる。
そのまま鍛冶場に持っていくと、あらゆる角度から観察を始めた。
「おーい。他の武器防具も整備を……。
って聞いちゃいねぇ」
ああなったらしばらく俺の声は届かない。
俺の存在を忘れてしまったらしく、魔剣イースと向き合っている。
俺は棚から茶葉を出して、紅茶を入れた。
勝手していいのかって?
いいんだよ。
許可は以前に貰ってるからな。
カンカンカン。
心地いい金属音を聞きながら俺は思い出していた。
ダークエルフであるフラウのクエストを。
長い話は好きじゃない。
かいつまんで話す。
長老とある男との間に子供ができた。
子供はダークエルフだった。
エルフとエルフの間に生まれた子供が、稀に黒い肌黒い髪で生まれることがある。
それは不吉とされ、忌み嫌われているらしい。
長老である自分の地位どころかエルフとして生きていけなくなる。
そう思った長老は誰にもこのことは言わず、山奥でフラウを育てた。
捨てるつもりだったらしいが、情があったのだろう。
さすがに殺すのは忍びないと育てたらしい。
だが日に日に育つフラウを見て、嫌悪感や恐怖感が抑えきれなくなった。
物心ついた頃には、竜丘陵に住まわせるようになった。
最低限の食料や連絡だけして、あとは放置。
フラウは一人寂しくここで暮らしていたが、ある日、人間の商人が現れた。
そいつは鍛冶の心得があり、武器防具も持っていた。
新しいものを見るのが初めてのフラウは虜になった。
男から簡単な鍛冶道具を貰い、そして鍛冶師になる。
長老はフラウが成長していく中、ほぼ放置していたが近況が気になっていた。
(娘の安否っていうよりは、保身だろうな。
娘が外に出たり、里に来たりしないか心配だったんだろう)
そんな中、人間の俺が現れた。
エルフ以外の種族ならダークエルフに関わって不幸になろうとどうでもいい。
むしろ死んで構わない。
だから俺に依頼した。
娘、フラウに届け物をしてほしいと。
終わり。
まあ、実際は道中魔物だらけだし、竜丘陵は危険だしで、誰でもできるクエストじゃない。
で、俺はインベントリが貰えることを知っていたし、フラウはこの世界でトップレベルで優秀な鍛冶師であることも知っていた。
だからこのクエストを受けた。
まあ、そんだけだ。
父親がどうなったとか、妊娠中のことを村人は知ってるはずとか、そもそも以前は誰が俺の役目を担ってたかとかは知らん。
俺が知っていることを話しているだけだ。
(とはいえ、関わっちまうと少しは情が湧くよなぁ)
無邪気に魔剣を打っている姿を見ると、少しだけ心が温かくなる。
面倒だな。
こういう感情は。
誰かや何かに関わるとどうしてもしがらみが生まれる。
日本でもそれは痛いほど感じていた。
親、友人、恋人、教師、知り合い。
そして社会に生きる人間は、必ず何かのせいで時間を取られる。
俺はそれを嫌い、すべてを遮断して『ブラッドループ』の世界にどっぷりと浸かった。
それがとてつもなく心地よかった。
社会不適合者って奴だ。
だが、俺みたいな奴は他にもたくさんいると思う。
そもそも、すでに存在する社会というコミュニティに沿って生きることを強要されるのは、俺からすれば異常この上ないことだ。
それに合わない人間はどうする?
受け入れられない個性を持っていたら?
常識や当たり前、文化に迎合できない人間だとしたら?
エルフの中で、生まれてしまったダークエルフは排除される運命なのか?
最初から存在するあらゆる制限や条件。
それを受け入れ、それを満たせない存在は多くいるだろう。
そいつらはどう生きていけばいいってんだ?
……何が言いたいかっていうとさ。
(まあ、フラウにシンパシーを感じてんのかもな……)
NPCとはいえ、この世界ではちゃんと生きている。
ゲームとは違い、ここではちゃんとした人だ。
キャラに思い入れはないし、フラウにもそうだった。
ただ色々知ってしまうと、少し心情も変わるものだ。
だからってどうこうするつもりはない。
仲良くなるつもりもない。
今まで通り、最低限の繋がりを保つだけだ。
この関係性を遮断せずにな。