レベルカンストした俺は2周目に突入する ~永続ボーナスや特典能力を貰ってレベル1からやり直していたら噂が広まりすぎて、周りが放っておいてくれないんだが~ 作:鏑木カヅキ
「狩り男だ」
冒険者ギルドの酒場。
相も変わらず屈強な男たちが酒盛りに明け暮れている。
髭面の男と大柄の男も、飽きもせずにエール片手に今日の疲れを癒していた。
「ああ、狩り男だな」
髭面の男がエールを煽り、興奮したように目をカッと開いた。
「ずいぶん噂になってきてる。
冒険者だったら知ってるやつはそこかしこにいるぜ。
低レベル帯での奴の活躍以降、もっとヤバい噂が出てる」
「叫びながらダンジョンを駆け回り、再出現した魔物を一瞬で討伐するだの。
奴がいるダンジョンでは魔物の姿を見ることはできないだの」
「移動速度が尋常じゃないだの。
ボスさえ一撃で倒すだの。
魔物に襲われた冒険者を一瞬で助けて、一瞬で抱えて移動させ、気付けば消えているだの」
「しかも狩り男が消えた後、手には金と食料と装備やら道具を持たされているらしい。
全部、一瞬の出来事だとさ」
「……今までの噂も常軌を逸してたけどな」
「ああ、こりゃもう普通の人間の話じゃねぇぞ。
狩り男ってのは、本当に魔物なんじゃねぇか?」
「……いや、人間っていう証言は数えきれないほどある。
明らかに見た目は普通の人間だとさ」
「信じられねぇ。
噂が本当なら、化け物みたいな見た目をしてなきゃ辻褄があわねぇぞ」
ぐいっとエールを嚥下する大柄の男。
目が少し血走っている。
どうやら少し興奮しているようだ。
そんな中、別のテーブルではこんな話が。
今度は細身の男二人。
陰険そうな顔をしているが、立ち居振る舞いと装備から中堅冒険者なのは明白だ。
片方は糸目。
片方は丸顔の男たちだった。
「狩り男がまた出たらしい。
今度は『灰城メナス』にいたんだと」
「灰城って……あの無数の魔物に占領されたって噂のアレだろ。
おいおい、あそこは狭い上に敵の数が多いって話だ。
大手狩りギルドさえ手を出さないぞ」
「『青毒沼の洞窟』に加えて『灰城メナス』とはな。
噂じゃ『腐海』や『竜丘陵』とかにもいるとか。
まあ、そもそもあんな場所に入れる人間は限られてるから、眉唾だけどな」
「ここまで来たら、大手狩りギルドは黙ってられないんじゃねぇの?」
「……勧誘か、排除か。
ってか『勇者教』の連中も目をつけてる可能性あるな」
「ああ……そろそろあの時期か」
「次の勇者様の成人が近いからな。
お付きを募集中ってところか」
「怖い怖い。
あんな連中と付き合ったら命がいくつあっても足りゃしねぇよ」
ぶるぶると震える糸目の男。
丸顔の男も神妙に頷く。
「しかし、狩り男って何者なんだろうな」
「さてね。
興味深いとは思うがね。
見ろよ、周りを」
糸目の男の言葉に、丸顔の男が首を動かす。
「狩り男だって」
「ああ、ダンジョンで……」
「なんでも攻撃を弾くとか」
「ボスを一撃だって?」
「大手ギルドが……」
「どんな奴だ、狩り男は」
そこかしこで聞こえる『狩り男』の名。
それはこの酒場だけでなく街中で、あるいはギルドで、あるいはダンジョンで耳にする。
ここ数年で急激に広がった噂。
『狩り男』。
そんな様子を傍から見ていた、大柄の男と髭面の男。
「……とんでもねぇことになってきたな」
「ああ、どんどん広がってやがる」
二人のむさくるしい男は目を合わせ、ニカッと笑う。
それは無邪気で、子供のような笑顔だった。
「一体どこまで行く、狩り男!」
「これからも奴の動向に注目、だな!」
互いにエールの入った瓶をぶつける。
そして。
噂はさらに広まっていく。
●◇●◇●◇
「狩り男の情報は手に入れたか?」
豪奢な執務室。
巨大なテーブル、ソファ、本棚がある、貴族が住まうような部屋の中。
妙に美形な中肉中背の男が立っている。
肩辺りまで伸びた美しい銀髪。
ひらひらとした服装。
まるで貴族のようだった。
「……申し訳ありません、ユージーン様。
疾風迅雷のアイリと共に行動しているんすが、狩り男を見つけることはできなくて。
狩り男の噂は枚挙に暇がないんすけどね……」
長髪の男。
それはアイリと共に攻略組に参加していた男だった。
かなり疲弊しているらしく、顔に力がない。
「あのアイリという女。
自己中心的でわがままで身勝手で勝手に突っ込み、勝手に動き回り!
攻略組を強引に編成しては、崩壊させる始末!
あれは疫病神っすよ!」
ユージーンは小さく嘆息する。
「おまえの苦労はわかった。ハイネ。
だが狩り男を探るのは我がギルド『青騎士団(アズールオーダー)』の急務。
彼の噂は異常な速度で広まっている。
すべてを鵜呑みにすべきではないが、放置するわけにもいかない。
他ギルドに抜け駆けされては困るからね」
「……噂の真偽を確かめ、狩り男の実力が本物ならば勧誘する、っすね」
「所詮は噂。鵜呑みにしてはいけないが。
ただここまで広がるには理由があるはず。
見定め、そして可能なら引き入れる。
だがもしも噂は偽りであり、狩り男が地位や名声のために流していたのだとしたら……。
すべきことはわかるね?
副団長、死刃のハイネ」
ハイネと呼ばれた男は、僅かに逡巡する。
だが、すぐに首を垂れた。
「仰せのままに。団長」