レベルカンストした俺は2周目に突入する ~永続ボーナスや特典能力を貰ってレベル1からやり直していたら噂が広まりすぎて、周りが放っておいてくれないんだが~ 作:鏑木カヅキ
なんだこれは?
何が起こってるんだ?
「うわああ!」
「おい大丈夫か!? 誰か治癒を!」
「こ、こいつ強すぎる! 下がれ下がれ!」
「嘘だろ、新手がこっちに来るぞ!」
「ぐおお!? 罠だ! 地面に毒矢のスイッチがあるぞ、気をつけろ!」
「上からウーズが降ってきた!? 逃げろぉ!」
阿鼻叫喚。
冒険者たちが右往左往しながら魔物や罠に翻弄されている。
「全員、冷静に! 一旦、下がるわよ!
長髪のあんた! 殿は任せたわよ!」
「あいあい、ったく!
人使いの荒いリーダーっしょ!」
アイリが指示を飛ばし、ハイネは肩をすくめて顔をしかめる。
見た目は屈強だし高レベルの武器防具を装備しているはずの冒険者たちなのに、冷静さなど皆無。
カスパーたち中堅冒険者の奴らに比べるとマシではあるのか?
「ゴルゥッ!」
グレーターデーモンたちが五体。
それに圧倒されて下がるアイリたち。
俺はそれを横目で見ながら双方から少し距離を取って観察していた。
なぜ助けないかって?
俺は協力をしている立場。
でしゃばるつもりはないし、俺が全部やってしまったら意味がない。
基本的な攻略はアイリたちがすべきだと思うからだ。
だがこれは……。
殿でアイリとハイネが五体のグーレーターデーモンと対峙している。
「ほう、あの二人は悪くないな。
中々、できるみたいだ」
アイリとハイネのレベルは52か53だった気がする。
グレーターデーモンは58レベルくらい。
レベル差があって、あれだけ立ち回れるなら大したものだ。
さすがに人数差があるためか苦戦しているようだが。
「くっ! 五体はさすがに無理っしょ!」
「ちょ、ちょっと!
狩り男!
見てないで手伝いなさいよ」
「……しょうがないな」
俺は嘆息しつつ、インベントリから長剣と片手剣を取り出して両手に装備した。
歩いてアイリとハイネの隣に移動。
剣戟が無数に生まれる様子を凝視した。
「何を悠長に――」
アイリが声を荒げる中。
ガギン。
パリィ。
グレーターデーモンの攻撃を『一つ選んでから』俺は弾いた。
「ゴルゥ!?」
体勢を大きく崩すグレーターデーモンA。
俺は即座に近づき、長剣で寸断。
「まずは一匹」
俺はトドメを刺すために前に出た。
そのため、俺だけがグレーターデーモンたちの標的になる。
「ゴルゥ!」
奴らの一斉の攻撃。
四方八方。
同時に弾くのは不可能。
サッ。
俺は屈み、それを避ける。
腹部、胸、頭を狙った三つの攻撃は虚空を通る。
一つの攻撃をまた選んで屈みながらパリィ。
ガギン。
体勢を崩したグレーターデーモンBの背後に周り、後ろから寸断。
「次」
残りは三体。
怒り心頭に発する三体は同時に攻撃してくる。
剣と槍が迫る。
ガギンガギンガギン。
パリィ。
俺は同時にパリィした。
三体は同じように体勢を崩す。
ザザン。
腰斬。
真っ二つになった三体の魔物は地面に倒れた。
魔物たちが黄色い粒子へと変わり、経験値が俺たちに吸収される。
「狩り終了」
俺は武器をインベントリに収納した。
やっぱり戦いやすいなこいつら。
挙動がわかりやすいし、攻撃手段も物理攻撃のみだし。
経験値は……正直少ないけどな。
ふと、アイリたちを見る。
全員が声を出さず、あんぐりと口を開けていた。
アイリは茫然とはしていないが、驚愕の表情を浮かべている。
いや、ドン引きしてるのか、これ。
なぜそんな顔で俺を見る?
「なんだ?」
「な、なななな、な、なんだじゃないだろ!?
なんなんだ今の戦いは!?」
一人の冒険者が突然叫んだ。
他の冒険者たちは動揺した様子で俺のもとへ駆け寄ってくる。
「なんだと言われても。
ただ倒しただけだが」
「ただ倒した!?
い、いやいやいや!
なんでグレーターデーモンをあんなに簡単に倒せるんだよ!」
「そうだ! おかしいだろ!?
しかも武器をどこからか出してきて!
あの攻撃を弾いたのはなんだ!? スキルか!?」
「ってかなぜ一撃で倒せる!?
なんで無傷なんだよ!
一人で五体倒すなんておかしいだろ!?」
なぜこんなに感情的になっているのか理解ができない。
俺は普通に狩っただけなのに。
「ま、まあまあ、全員落ち着くっしょ!
俺も驚きすぎてちょっと頭が働いてないんすけども」
ハイネが表情をひきつらせながら、俺と冒険者たちの間に入った。
なぜか異常に動揺しているようだ。
「いやぁ……は、はは。
驚いたっしょ。まさか一人で五体のグレーターデーモンを倒すなんて。
ここまでの戦いっぷりを見るのは二度目っしょ」
頬をひきつらせるハイネ。
そんなハイネの顔をグイッと横に押しのけて、アイリが前のめりになる。
「ちょ、ちょっと! ねえ! 狩り男!
やっぱりあなたの戦い方おかしいって!
どうやって戦ってるのよ!
あたしに教えてちょうだい!」
「ね、姐さん! 戦い方を教えろなんてさすがに……。
冒険者の戦術や戦略は簡単に教えられるものじゃ」
「いいぞ」
俺は特に何も気にせず首肯した。
「え? は? い、いいんすか?」
「ああ。別に構わない。
誰でも知ってるし。
やろうと思えば誰でもできるし」
「やった!
さすが狩り男ね!
太っ腹だわ!」
アイリが無邪気に喜ぶ横で、ハイネが茫然としている。
教えるのは別に構わない。
この戦い方はゲームの中じゃ、当たり前だったしな。
まあ、ある程度の熟練度と度胸が必要ではある。
だが上級者なら大抵はできることだし。
RTAとか縛りプレイとか裸装備でパリィのみプレイとか色々やってる奴もいた。
だから別に教えてもいいだろう。
と、エリート級のデーモンウィザード一体が騒ぎを聞きつけたのかこちらへと走ってきた。
「お、丁度いい雑魚がいたな」
「雑魚って……あいつレベル65なんすけど」
ハイネの言葉を無視して、俺は一歩前へ。
「ゴルゥ!」
氷槍を放つデーモンウィザード。
「魔術!?
避けて!」
アイリが叫ぶ。
だが、俺は魔術を真っ向から受け。
ガギン。
パリィ。
「………………へ?」
「な!?」
「…………はぁ?」
背後で声が聞こえたが無視。
そのまま疾走。
慌てたデーモンウィザードが連続で氷槍を生み出す。
ガギンガギンガギン。
パリィ。
「ゴルゥ!?」
魔術をパリィすれば、離れていても体勢を崩す。
デーモンウィザードが地に膝をつく。
俺は長剣で寸断した。
経験値吸収。
そして向き直る。
「な? 簡単だろ?」
アイリやハイネ、他の冒険者たちは戸惑い、信じられないという顔をしている。
なんだか震えている奴もいた。
どうした?
風邪か?
「な? じゃないわよっ!!
で、できるかそんなのーーーっ!!」
「できるって。俺ができてるんだから」
「い、いやいやいや!
あんたがすごいだけっしょ!
今の……何をしたのかもわからないっしょ」
ハイネの言葉に他の冒険者も一斉に頷く。
全員、激しく動揺しているようだ。
そんなに驚くことか?
「簡単だ。
まず魔術をタイミングよくパリィする。
魔術をパリィすると相手は体勢を崩す。
体勢を崩した相手の防御力は著しく下がる。
そこに近づいて攻撃。終わりだ」
「り、理屈はわかったわ。
言葉なら簡単だけど、実際にやるのは無理でしょ!」
「なぜだ?」
「なぜって……あんなの失敗したら死ぬじゃない!
パリィって奴? スキルを使うタイミング間違ったら死ぬし!
ってかなんであんなのが可能なのよ!
魔術をパリィ? 意味わかんない!
あの速度と、あのわけのわからない軌道を弾けるわけないでしょ!」
氷槍は基本的な魔術の一つ。
だが基本だからと言ってしょぼいわけじゃない。
考えてみて欲しい。
数十センチの氷の槍が異常な速度で、そして真っ直ぐではなく、ぐるっと回ったり、僅かにぶれたりして飛んでくるのだ。
それが当たれば死ぬだろう。
確かにそれは正論だ。
だが。
「氷槍の軌道は主に四つ。
まっすぐ、左右からぐるっと回る、僅かにぶれながら真っ直ぐだ。
それさえ覚えれば問題ない」
単純な話なんだがな。
アイリが頭を抱えた。
ハイネは天井を見上げた。
冒険者たちは呆気にとられた。
なんだってんだ?
「それを覚えたからってパリィできるわけないでしょ!
そのタイミングを覚える前に死ぬじゃない!
それにこれは氷槍だけの話でしょ!?
他の魔物の攻撃は!? 魔術は!? どう覚えるの!?」
「ああ、なるほど。
確かにな。そういうことか」
俺はゲーム世界での経験がある。
だから大半の魔物の攻撃手段、動き、タイミングを覚えている。
知識チートみたいなものだ。
だがこいつらにはそれがない。
確かに俺にはかなりのアドバンテージがあるな。
失念していた。
だが、俺が知らない魔物だって存在する。
知っている魔物も俺が知っている以外の行動をすることだってある。
その時のことを教えれば活用できるだろう。
と、今度は別の魔物、デーモンウォーリアーが現れた。
こいつは武器による攻撃に特化した戦士タイプのデーモンだ。
「よし、丁度雑魚が来た。
こいつとの戦いを見れば納得できるはずだ」
「雑魚って……あいつレベル67なんすけど」
ハイネの呟きは無視。
俺は右手に長剣を持つ。
二刀流だと戦い方が特殊だからな。
他の冒険者ができるような戦い方にしよう。
「今回はパリィやスキル、魔術もすべて封印する。
誰でもできるって証明をしないとな」
「は? いや、ちょっと待って!
パリィ使わないで勝てるの!?
スキル使わないなら、単純な戦闘能力勝負になるのよ!?」
アイリの声も無視。
カンスト限定スキルや永続ボーナスはあるから、やや俺の方が有利だが。
まあ、相手はスキルとかなんでも使えるし、それでおあいこってことで。
俺は長剣片手にデーモンウォーリアーと向き合う。
「ひ、一人じゃ無理だろ、あれは」
「し、死ぬぞ、あいつ」
冒険者たちの呟きも無視。
相手は2メートルを超えた巨躯で大剣を手にしている。
俺は中肉中背で通常の長剣を手にしている。
体格差と膂力差、武器差があるように見えるはずだ。
まあ、普通は勝てないわな。
「ゴルオォッ!」
デーモンウォーリアーが大剣を振るう。
轟音と共に横から巨大な鉄塊が迫る。
「危ない!」
俺はそれを軽くその場で飛んで回避。
そのまま、前に踏み込んで魔物の手首を軽く切り裂く。
ダメージは極小。
だが俺は無傷、相手は傷を負った。
「ダメだ! 踏み込みが足りてない!」
「力量差に腰が引けてるんじゃないか!?」
「あれじゃ勝てないぞ」
何か勘違いしているようだ。
むしろ今の攻撃こそが、この戦術の要だ。
間髪入れずに、鉄塊が落ちてくる。
俺はそれを剣で受け止めようと構える。
「受けるな! 死ぬっしょ!」
ハイネ、それは違う。
俺は鉄塊を受ける瞬間、横に剣を押し出しながら、剣先を地面へと向ける。
上半身を横に倒しつつ、肩に剣を乗せ、刀身の上を鉄塊が滑る。
肩にかかる衝撃を膝で吸収。
すると。
ドゴォン。
鉄塊が地面へと落ちていく。
「受け流しって奴だ」
俺は滑るように歩を進める。
同時に、長剣の横なぎ。
剣が煌めき、デーモンウォーリアーの太ももに一本の赤い線が生まれる。
数センチ程度の傷。
だがこれで足に力が入りにくくなる。
「ゴオオオルゥゥゥ!」
「おお、おお、怒ってんなぁ」
デーモンウォーリアーが俺を掴もうと手を伸ばすが、即座に飛び退く。
そして身構える。
「お、おい、見ろよ」
「ああ、な、なんか圧倒してないか?」
「一撃は軽い……でもダメージは蓄積してるのか?」
その通り。
だが、まだ全員に俺の意図は伝わってないみたいだな。
ふむ、見せるだけだと足りないか。
「ヒットアンドアウェイだ。
相手の大ぶりの攻撃を避け、小さな隙に攻撃する。
それをひたすらに続ける。
それだけだが基本的であり、そして最も効果的な戦術だ」
これこそ『ブラッドループ』における基本戦術。
初心者から上級者までこの戦い方をしているくらいだ。
そも、パリィなんてものは上級者の一部だけが使うスキル。
確かに一般的だし、有名だし、それに誰でも使うことはできる。
だが多少は練習が必要だし、知識や経験が必要だ。
それに失敗する可能性も否定できない。
だから、基本的にはこのヒットアンドアウェイ戦術を使うことになる。
なぜかアイリたちはこれをせずに通常戦闘ではただ攻撃を受けて、動き回って攻撃みたいなやり方をしているが。
まあ、スキルを使うことが多いみたいだし。
恐らくスキルを基点として戦術を練ってるんだろうが。
基本こそ最強であり、汎用性があるものだ。
「いいか、この戦い方の重要な部分がある。
それは後の先をとる、ということだ。
つまり相手に先に攻撃させるってことだな」
俺は振り返り説明する。
と。
「あ、危ない!」
アイリが叫ぶ。
俺はその場で屈む。
俺の頭上を鉄塊、もとい大剣が轟音と共に通っていく。
俺は即座に振り返ると、そのまま剣を伸ばす。
ザシュッ。
デーモンウォーリアーの腹部から血が流れた。
「相手を攻撃させるには、ただ待つんじゃなく隙を見せることだ。
そうすればこんな感じで攻撃できる。
次のやり方を見せる」
俺はデーモンウォーリアーに向き直り身構える。
間髪入れずに前に踏み込み、剣を振りかぶる。
デーモンウォーリアーが防御の姿勢。
ピタ。
俺は動きを止め、即座に剣の軌道を変える。
デーモンウォーリアーの足の甲に剣を突き刺した。
「ゴオオオォ!」
「今のがフェイントだ。
この戦い方は先の先を取るやり方だが、基本的には後の先を取れ。
大抵は魔物の方が体格が良く、体幹が強いからな。
同時に攻撃した場合、押し負ける可能性が高い」
魔物の悲鳴が聞こえる中、俺は講釈を続ける。
全員が茫然としている。
ちゃんと話を聞いてるんだろうか。
一度しか言わないからな、ったく。
「そして次。
おい、デーモン。おまえ弱すぎないか?
さすがに一撃くらい当てたらどうだ? 間抜け」
「ゴオオオオォォォルウウウウゥゥゥ!」
デーモンウォーリーアが激高しながら、無茶苦茶に大剣を振り回す。
怒りで我を忘れている分、動きが激しい。
だが同時に軌道がわかりやすくなる。
サッサッサッ。
俺は十程度の攻撃をすべて避ける。
と。
デーモンウォーリアーが息切れを起こしていることを確認。
スタミナ切れだな。
最後の敵の攻撃。
大ぶりな大剣の振り下ろし。
俺は小さく横に避け、大剣の上に乗る。
そのまま駆け上がる。
虚を突かれたデーモンウォーリアーは対応できない。
ズバッ。
直線の軌道で放たれた剣閃。
それはデーモンウォーリアーの額に吸い込まれた。
と。
バタン。
デーモンウォーリアーは後ろに倒れる。
そして動かなくなり、黄色い粒子へと変わる。
経験値の一部は全員に、そして大半は俺に入った。
まあ、こんなもんか。
そして。
俺は全員に振り返ると。
「な? 簡単だろ?」
「「「「簡単じゃねぇよッッ!!!」」」」
同時に叫んだ。
なぜだ。