レベルカンストした俺は2周目に突入する ~永続ボーナスや特典能力を貰ってレベル1からやり直していたら噂が広まりすぎて、周りが放っておいてくれないんだが~   作:鏑木カヅキ

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第24話 俺が案内する

「な、なんなんすか、これは」

 

 青騎士団(アズールオーダー)の副団長、死刃のハイネは戸惑っていた。

 自慢ではないが過去、多くの死線を潜り抜けてきた。

 多くの敵と戦い、危険なダンジョンを攻略してきたのだ。

 大手ギルドの副団長になれるほどの実力を有しているのだから当然だ。

 他ギルドの動向を探るため、攻略組に参加することもあった。

 だが。

 これはなんだ?

 

「そこは罠があるから気をつけろ。

 そこじゃない。俺の踏んだところだけ踏め。

 そこは魔物が角待ちしている。

 俺についてこい。よし、倒した。

 次だ。下りるぞ。そこの壁の間にある細い道だ」

 

 てきぱきとハイネたちを案内するのは『狩り男』マイルだった。

 淡々と、そして正確に、狩り男は先導している。

 おかしい。

 異常だ。

 ここまで未踏破のダンジョンを完全に把握しているなんて。

 罠や魔物の位置、その対処、ダンジョンの構造を完璧に暗記。

 こんなことができる冒険者は世界にどれくらいいる?

 未踏破でないダンジョンでさえ、ここまで完璧にダンジョンのことを理解している人間がいるか?

 いない。

 なぜなら同じダンジョンに無数に入り浸る必要があるからだ。

 そしてそんなことをすれば大抵の冒険者は死ぬ。

 

「マ、マジかよ。

 狩り男の言う通りに進めば上手くいってるぞ」

「やべぇだろ。

 狩り男がダンジョンに住んでるって噂は真実だったのか?」

「おい、そこの攻略組の冒険者。

 その情報は間違ってるぞ。

 俺はレベリングするためにダンジョンに籠ってるだけだ。

 レベルが上がれば別のダンジョンに行く。

 住んでるわけじゃない。一時的に籠ってるだけだ」

 

 そこを間違えるな、とばかりに指摘する狩り男。

 しかし攻略組の連中は「い、いや、同じみたいなもんだろ」とつぶやいていた。

 そも、ダンジョンに入り浸る、いや、籠る時点で異常だ。

 大規模なダンジョンでも数日過ごせば頭がイカれそうになる。

 それくらい危険で、不穏な場所なのだ。

 そこに籠る?

 頭がおかしい。

 しかも当然のようにダンジョン攻略に必要な情報を網羅している。

 それだけじゃない。

 

「そこ、魔物出てくるぞ。

 1、2、3。はい出た」

 

 ザン。

 狩り男は一刀でグレーターデーモンを倒してしまう。

 そして何もなかったかのように進むのだ。

 先の戦闘で狩り男自身が「俺が案内してやる。このままじゃ時間がいくらあっても足りないからな」と言っていた。

 それ以降、こんなことがずっと続いている。

 スムーズだ。

 あまりに円滑に進みすぎている。

 危険はゼロ。

 攻略がこんなに簡単に進むことなんて過去に一度もなかった。

 

(噂通り……いや、もしかしたらそれ以上かもしれないっしょ。

 狩り男。名にふさわしいほどに、狩りに特化した男。

 レジェンド級冒険者を思わせる風格と佇まい、そしてその異常な強さ……!

 団長。狩り男はマジでヤバいっしょ!)

 

 ハイネは高揚していた。

 普段は冷静、そして飄々としているようにふるまっている。

 だが、今は違う。

 目の前にいる異常な冒険者に目を奪われていた。

 狩り男は本当に存在していた。

 そして噂は本当だった。

 アイリの言葉は間違っていなかった。

 ……いや。

 噂でさえその一端でしかなかったのだ。

 と。

 進むにつれて違和感が生まれる。

 そこかしこに毒の沼、毒の小さな溜まりがあるのだが、その色が緑から青へと変わっていっているのだ。

 

「そろそろ最深部だぞ」

 

 狩り男が軽い口調でそう言った。

 

「さ、最深部?

 嘘でしょ!?

 『青毒沼の洞窟』って半分しか攻略進んでないのよ!?」

 

 攻略組のリーダーであるアイリがわなわなと震えている。

 途中参加のハイネも同様に、このダンジョンの半分しか見たことがない。

 だが狩り男の言う通り、確かに見たことがない場所をしばらく歩いていた。

 つまり。

 攻略は目前ということ。

 

「こ、攻略できる……あ、あたしが初めてのダンジョン踏破者に!」

 

 アイリは動揺しながらも笑みをこぼしていた。

 それを横目で見て、ハイネは理解を示しながらも苦笑する。

 

(この姐さん、我欲が強すぎるっしょ。

 しかもそれを隠そうともしない。

 団長が嫌いなタイプっすねぇ。

 俺は素直な女は嫌いじゃないけども)

 

 ハイネは再び狩り男を見た。

 普通の男だ。

 だが『青毒沼の洞窟』という危険な場所を、散歩するようにスタスタ歩く姿はまともな人間ではないことを表している。

 団長ユージーンには見定めろと言われたが。

 これは評する必要さえない。

 狩り男は狩りにおいて、最上の男であるということは明白。

 ダンジョンへの理解、魔物や罠への対応、そして何より。

 

(あんなに強い奴を見たのは団長以来っしょ……。

 ま、あくまで魔物相手の話っすけどね)

 

 狩り男は、恐らく狩りに特化している。

 ゆえにこうも思う。

 

(対人戦じゃ、俺の方が強いっしょ。

 魔物相手とじゃ全然違うっすからねぇ)

 

 うず。

 妙な感情がこみ上げる。

 過去の記憶がよみがえる。

 青騎士団に入る前。

 荒んでいたあの日のことを。

 

「着いたぞ」

 

 狩り男の声にハイネは我に返る。

 靄のかかった部屋の入口。

 つまり、ボス部屋があった。

 

「ほ、本当に着いちゃった……」

 

 アイリが茫然と呟く。

 それもそうだ。

 『青毒沼の洞窟』を踏破した人間は一人もいない。

 そしてボス部屋に到達した人間もまたいないのだ。

 つまり。

 アイリたちが初のボス部屋到達者ということになる。

 

「こ、これでボスを倒せば、あたしたちが初踏破者よ!

 全員、気合入れなさい!」

「「「「おう!」」」」

 

 アイリと攻略組が気合十分とばかりに気勢を上げる。

 だがハイネは冷静だった。

 全員気づいていないのか、あるいは気付いていないふりをしているのか。

 自分たちが抱いている幻想を打ち砕く存在がそこにいる。

 狩り男。

 彼がここまで案内してくれたのだ。

 ということは、少なくともボス部屋までは来たことがあるということ。

 もちろんそれだけじゃ実績としては足りない。

 だからアイリたちが見て見ぬふりをして、やる気を出そうとしている可能性もある。

 だが。

 本当にボス部屋への到達で済んでいるのだろうか。

 あるいは。

 

(ソロでボス攻略してたりして。

 ま、さすがにそれはないっしょ。

 レベル70でもボスクラスはまず倒せないっすからねぇ。

 雑魚とボスではレベルが違う)

 

 実際のレベルも、そして実際の実力も。

 ボスをソロで倒せる人間は少ない。

 圧倒的なレベル差があっても、ソロだと勝率は著しく下がる。

 そしてこの『青毒沼の洞窟』の推奨レベルは60。

 狩り男のレベルが70だとしても、10レベル差程度ではボスを倒すことは不可能だ。

 

(狩り男は強い。

 だけど過大評価すべきじゃないっしょ。

 ソロ活動は賞賛に値するっす。

 けど、彼も人間。できることは限られてるっしょ)

 

 ボスはソロで倒せない。

 よほどのレベル差がない限りは。

 その常識を忘れてはいけない。

 例外はないのだ。

 

「先に行っておくが、俺はフォローに回るからな。

 俺がボス討伐に手を貸したら、おまえらが攻略したとは言えないし」

 

 狩り男の口調は淡々としている。

 しかしその言葉には絶対的な自信があった。

 「俺が手伝ったら簡単に倒してしまうからな」という言葉が最後に付け加えられそうだった。

 

「あ、あのさ、もしかしてここのボス倒したことあるとか?」

「いや、こっち(・・・)では倒したことないな」

 

 アイリがおずおずと聞き、狩り男は堂々と答える。

 攻略組、そしてハイネは少し戸惑い、全員が目線を交わす。

 言いたいことはハイネも同じだった。

 

(おいおい、さすがにそれは自信過剰っしょ。

 倒したことないボスなのに、自分がいれば勝てるってことっすか?

 狩り男はずいぶん増長しているっすねぇ)

 

 少しの落胆。

 しかし狩り男は居丈高ではなく、無表情のままだった。

 攻略組を見下すでもなく、敵を侮るでもなく。

 ただそこに立っている。

 それは自信過剰でもなんでもなく、経験から来るものだった。

 なぜなら、狩り男……マイルはこう思っていたからだ。

 「ゲームでは数えきれないほど倒してきたからな。目をつぶっても倒せる」と。

 実際、それは事実だった。

 なぜならその知識と技術が今のマイルを作り出したからだ。

 つまり経験から来る確信だったのだ。

 しかし、その事実にハイネは気付かない。

 気付けるはずもなかった。

 

(ま、噂が広まってるってのも実は知ってる感じっしょ。

 んで、名声を高めるために実力以上の立ち居振る舞いをしてる。

 そんな感じっすね。

 さすがにこのダンジョンには詳しいし、多少の実力はあるっす。

 けど、まあ、俺らに対するパフォーマンスともとれるっしょ。

 なんせここは、狩り男の根城っすからねぇ)

 

 狩り男の言動から、ハイネの考えは加速していく。

 明後日の方向へと。

 しかし、それも無理のないこと。

 狩り男、マイルの行動や強さはそれほど常識を逸脱し、常軌を逸しているからだ。

 誰が思う?

 死を受け入れつつ、敵の攻撃をパリィし続ける男がいると。

 この世界の知識をすでに網羅している男が転生していると。

 ここまでレベリングに魅入られた男が存在していると。

 すでに『魔の王、ゴルデベルド』さえも狩りつくしていると。

 誰も想像できるはずがない。

 常識の範囲内での異常な存在だと思い込むに違いない。

 倒せるはずがないのだ。

 ソロで推奨レベル近くのダンジョンのボスを倒すことも。

 この世界のラスボスであるゴルデベルドを殺せることも。

 ありえない。

 ありえてはならないのだ。

 だから。

 ハイネの考えこそが、この世界では常識。

 いや、むしろ想像力を働かせて柔軟に受け入れている方だ。

 ゆえにハイネは気付けない。

 狩り男の実力と。

 実績と。

 本当の異常性に。

 

「ま、ここからは俺たちがやるっしょ。

 狩り男は見ててくれればいいっすから。

 ね、アイリ姐さん」

「え? あ、そ、そうね!

 あたしたちがボスを倒す!

 そのためにここまで来たんだもの!

 そうよね! みんな!」

「「「おう! 絶対に攻略するぜ!」」」

 

 全員が再び気勢を発する。

 気合は十分。

 士気はうなぎ上りだった。

 だが。

 狩り男、マイルだけは少しだけ浮かぬ顔をしていた。

 そのことに誰も気づかない。

 ここのボスを倒せば得られる功績と実績、名声。

 それに想いを馳せて、高揚していた。

 誰もが思った。

 攻略できれば世界は変わるのだと。

 しかし。

 この世界はそんなに甘くはない。

 

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