レベルカンストした俺は2周目に突入する ~永続ボーナスや特典能力を貰ってレベル1からやり直していたら噂が広まりすぎて、周りが放っておいてくれないんだが~ 作:鏑木カヅキ
「がああああああ!」
「一人やられたわ!
た、態勢を整えるのよ!」
「またか、やれやれ……」
倒れる冒険者。
叫ぶアイリ。
そして戦闘不能の冒険者を部屋の端まで引きずる俺。
ボス部屋に入ってからこれで戦えなくなったのは五人目だ。
残りはぼ俺を含めて五人。
「む、無理だ……勝てるわけがない……ッ!
こんな化け物に、勝てるわけがないんだッ!!」
冒険者の一人がわなわなと震えていた。
正面には『青毒沼の洞窟』のボス。
『蟲毒のデーモン』が体躯を揺らしている。
青と緑に侵食された、人型のデーモン。
体中から毒や体液を漏らし、身体を這い回るムカデや毒虫が見えた。
うん、キモい。
こいつ嫌いなんだよな、見た目キモいし。
しかも無駄に硬いし、毒がウザいし、経験値も大して美味くないし。
「くそ……ぉ……」
「ぐあっ!」
また二人の冒険者が倒れた。
これで倒れたのは七人。
幸いにして誰も死んでいない。
が。
「ううぅ、く、苦しい……」
「がああ! 胸が……全身が痛い痛いぃっ!」
気絶しているか、苦悶の表情を浮かべている。
毒系のボスだからな、まあ仕方ない。
俺は毒に冒された冒険者たちにアンチポイズンポーションを飲ませてやる。
一応、錬金術で作っておいた奴だ。
ってか、俺が持ってなかったらどうするつもりだったんだ?
「そのまま寝てろ。俺が守ってやる」
「うう、すまねぇ……」
冒険者たちはこれで大丈夫だ。
だが。
残ったのは俺とアイリとハイネのみ。
蟲毒のデーモンのHPはまだ八割は残っている。
これはダメかもな。
「やああああ!」
アイリが瞬時に移動し、敵へと迫る。
『疾風迅雷』というスキルだ。
雷のように瞬時に移動し、相手を攻撃する。
移動スキルとしても使えるはず。
だが。
「くっ!」
蟲毒のデーモンに短剣を突き刺すも即座にカウンターを食らう。
それをアイリはぎりぎりで避けて飛び退いた。
敵の反応が薄い。
こいつ体幹がすごくて怯まないんだよな。
痛覚がないんだと思うけども。
疾風迅雷は相手を翻弄できるし、攻撃を避けることもできる。
ただ攻撃力が低い。
相性はあまり良くない。
「ギゴルゥウッゥゥゥ!」
蟲毒のデーモンが不気味な動きで暴れまわる。
体中の穴という穴から体液が漏れ出した。
「避けるっしょ!」
「うわあ! キモいぃ!」
体液が地面に触れると、シュウと音を鳴らして蒸気が生まれる。
毒であり、酸だ。
当たったら大変なことになる。
「まともにダメージも与えられてないし!
こりゃ厳しそうっしょ!
リーダー、撤退した方がいいんじゃ!?」
「嫌よ!
ここに来るの何回目だと思ってるの!
今回で攻略しないと、また来なくちゃいけないじゃない!
ぜーーーったいに、あいつを倒すの!」
アイリは意固地になっているようだ。
攻略を何度か失敗しているのだろう。
だが、その判断は正しいのか。
「ギゴルゥゴルゥゴルゥ!」
「いやああああああ!」
「うおおおおおおお!」
蟲毒のデーモンが上半身を揺らしながら、走り出す。
動きも、見た目も、体液を漏らし続けているのもかなり気持ちが悪い。
だからこいつ嫌いなんだよ。
アイリとハイネが逃げ回り、蟲毒のデーモンが追いかける。
その様子を俺は呆れながら見ていた。
が。
奴らがこちらへ向かってくることに気付くと、大きく溜息を漏らす。
「無理無理無理ぃ!
避けて! 避けてぇ!」
「やばいっしょ! やばすぎるっしょ!」
「せめて、こっち以外に逃げろよな……」
迫るアイリとハイネと蟲毒のデーモン。
昔の恋愛映画のような言葉を連想しつつ。
俺は長剣と片手斧をインベントリから出した。
ドドドドド。
地鳴りと共にこちらへ迫る蟲毒のデーモン。
俺は数歩前へ。
アイリとハイネとすれ違う。
そして対峙するは蟲毒のデーモン。
このまま奴が進めば全滅だ。
「に、逃げて!」
「何をする気っすか!」
アイリとハイネの叫び。
後ろには怪我人と戦闘不能の冒険者。
俺が逃げたら全員死ぬ。
だが相手は巨躯であり、毒をまき散らす蟲毒のデーモン。
どうするか?
決まってる。
俺はインベントリから十数個の『アンチポイズンポーション』を取り出すと、すべて蟲毒のデーモンに向けて投げた。
瓶が割れ、中身が飛び散る。
と。
「グギャアアア!」
ポーションが触れた場所から蒸気が生まれる。
あれは酸じゃない。
いわゆる浄化って奴だ。
毒系の魔物には有効な手段。
蟲毒のデーモンの動きがやや緩慢になる。
だが奴の足は止まらない。
眼前に迫る魔物。
再びのアイリの叫び。
「マイル、逃げてぇ!」
だが俺は動かない。
巨体が眼前に。
俺は。
――ガギン。
パリィ。
蟲毒のデーモンの軌道が明後日の方向に逸れる。
ズドォン。
そのまま壁に突進。
瓦礫に生まれて、ぴくぴくと痙攣していた。
「…………へ?
い、今……ええ?
う、嘘でしょ……体当たりをパリィしたの!?」
その通り。
パリィは素手や武器の物理攻撃だけでなく、魔術にも使える。
そして、巨大な敵の突進さえも弾けるのだ。
まあ、蟲毒のデーモンは巨躯と言ってもゴルデベルドよりもやや小さいくらい。
もっと巨大な奴にはパリィは使えないんだが。
と。
ドゴォン。
轟音と共に蟲毒のデーモンが起き上がる。
HPはまだまだ残っているらしいな。
まあ、もともと大してダメージ与えてないし当然か。
肩越しに振り返る。
アイリは動揺している様子。
ハイネは動けそうだが逡巡している。
後ろの冒険者たちは大半が動けず、意識さえ戻っていない。
まったく、なんだこの状況は。
俺は現状を受け入れ、そして溜息を漏らす。
やるしかないみたいだ。
「下がってろ、俺が倒す」
「た、倒すって……一人で倒せるわけないわよ!
あ、あたしも」
ガクッと膝を曲げるアイリ。
ここまでの戦いで疲弊している上に、蟲毒のデーモンの毒を吸っている。
あいつの近くで戦うだけで徐々にHPが削られるのだ。
アイリは戦闘不能。
残りはハイネ。
だが、俺はソロ専。
正直、一人で戦う方が楽だ。
「おい、こいつら任せたぞ」
「あ、ああ……わかったっしょ。
でも勝てるんすか、あれに」
「まあ、見てろ」
俺は右手に魔剣イース。
左手に片手斧を装備。
そして。
「ゴルォオォォ!」
蟲毒のデーモンと対峙した。