レベルカンストした俺は2周目に突入する ~永続ボーナスや特典能力を貰ってレベル1からやり直していたら噂が広まりすぎて、周りが放っておいてくれないんだが~ 作:鏑木カヅキ
「やっと外に出られた……ふへぇ、疲れたぁ。
もう限界よ……一度、街に戻りましょ」
『青毒沼の洞窟』を出た途端に俺以外の全員が地面に座り込む。
死にかけていた冒険者連中も解毒はできているし、治癒やらポーションやらで回復している。
ただ疲労だけは簡単に取れるものではない。
まあ、俺はまったく疲れてないけどな。
「……ねえ、あなたどれくらいこの洞窟に籠ってたの?」
「一週間ってところだな」
「一週間……もう『青毒沼の洞窟』の主ね。
ま、まさか、あの日からずっと籠ってたわけじゃないわよね!?」
「いや、おまえを助けてすぐに出たぞ。
そもそも一年以上前だしな」
「そ、そうよね。
さすがに休まないと死んじゃうものね。
ってことは結構な時間、ここでレベル上げしてるのね。
そりゃそうよね。簡単にレベルなんて上がらないもの。
さてと、それじゃ街に戻りましょうか。
あなたは残るの?」
「ああ、狩りを続ける」
「そ、そう。タフね。ほんとに」
若干引いているみたいだが、なぜなのか。
アイリは表情を取り繕うと、すぐに人好きのする笑みを浮かべた。
「改めて! ありがと、あなたのおかげでほんっとうに助かった!
あたしたちだけじゃ、たぶん全滅してたわ。ね?」
「間違いないっしょ。
むしろボス部屋にも行けなかったっしょ」
「最初は疑ってたけどな。狩り男の噂。
でも真実だってわかった。
疑って悪かったな!」
「助かったぞ、狩り男!
あんたのおかげで命拾いした!
本当に……本当にありがとうな!」
アイリ、ハイネ、冒険者たちが口々に感謝を述べる。
そんなに大したことはしてないんだけどな。
でも。
(感謝されるのは悪い気はしない。
……ただ早く狩りに行きたいなとは思うが)
俺は苦笑する。
我ながら頭に狩りのことしかないな。
「俺は狩り男に約束の情報を教えるっしょ。
姐さんたちは先に行っててくれるっすか?」
「あ、そうだったわね!
わかった、じゃああなたとはこれでお別れね。
あ、連絡先とか! 教えてよ!
ほら、普段よく使う根城とかギルドとか宿とか酒場とかあるでしょ!」
「稀にプラチナムに行くくらいだ。
よく使う宿とかはない」
「な、ない?
ないわけないでしょ。
冒険者なら拠点があるものよ。
ほら、あるでしょ。街で休む時とかどこ使ってるの?」
「街で休む?」
「…………あ、あのもしかしてだけど、その反応。
ま、まさか街で休まない?」
「休まない。
時間がもったいないからな」
不穏というか戸惑う空気が流れる。
さっきまでの、やったな俺たちムードはどこへやら。
アイリとハイネが顔を見合わせ、冒険者たちが動揺していた。
「えーと?
つまり、あなた……ずっとダンジョンに?」
「おいおい、俺を魔物みたいに言うなよ。
ずっとダンジョンにいるわけないだろ。
たまに街で道具とかは仕入れるぞ」
「でも寝るのは?」
「ダンジョンか野営だな」
「宿は!?」
「使ったことがない。
一度も」
「一度も!?」
魚のように口をパクパクするアイリ。
他の面々も同じ顔をしていた。
なぜそんな顔を?
「あ、あなたよくそれで生きてるわね」
「安らぎの聖石の近くなら安全だからな。
野営も聖水使えば大抵は問題ない。
宿で休むと時間を食う。
可能な限り移動するか、ダンジョンに泊った方が狩り効率がいいだろ。
俺からすれば宿で休む意味がわからない」
しーん。
ピィピィ。
全員が静まり返る中で、鳥の鳴く声と風の音だけが響き渡る。
ふぅ、自然っていいよな。
と。
「……ぷっ。あは、あははははは!
なんなのあなた。ほんと、変な人!
変ってか、めちゃくちゃ変!
すっごい変! はちゃめちゃだわ!」
ビシッと俺を指さすアイリ。
おい、毎回毎回人を指さすな。
「でも、いい人ね、あなた!
狩り中毒なのに、こうやって付き合ってくれるんだもの!」
「ああ、狩り中毒だから、早く狩りに戻らせてくれるか?
うずうずして手が震えてきた」
「あはは、それはごめんなさい。
じゃあ、そうね。プラチナムにはたまに行くのね?
だとしたら冒険者ギルド……中央支部の方に伝言を残すわ。
寄った時は確認して頂戴!」
「伝言……?
何を連絡する必要が」
「新ダンジョンとか最近発見されてるじゃない。
他にも魔物とかね。そういうの。
あなたが知りたそうな、でもソロだと手に入りにくい情報。
欲しいでしょ?
色々と恩もあるし、手に入ったら情報残しておくから!」
ニッと笑うアイリ。
今まではわがままで猪突猛進な性格なのかと思っていたが。
案外、人懐っこい性格なのかもしれない。
俺でさえ思わず、それくらいならまあいいかと思ってしまった。
「……わかった。
だが面倒だから基本的に俺からは伝言を残さないぞ。
それと依頼も基本的には受けない」
「狩りに関連すること以外は、でしょ?
特ダネ手に入ったら、あなたの気も変わるかもね」
強かな女だ。
だが嫌いじゃない。
「じゃあ、あたしたちは行くわ。
またね、狩り男……ううん、マイル!」
「ああ、またな。
……アイリ」
俺が言うと、アイリは少しだけ目を見開き。
そして嬉しそうに相好を崩す。
「そう! あたしはアイリ。
疾風迅雷のアイリよ!」
ぶんぶんと手を振るアイリ。
そしてそれに続く冒険者たち。
「ありがとな、狩り男!」
「絶対に死ぬなよ!
狩りもほどほどにな!」
「街に来たら酒奢ってやるから!
覚悟しておけよぉ!」
全員が元気よく手を振る。
全員が笑顔を浮かべている。
そして全員の姿が見えなくなった。
人と関わるのも悪くはないな。
狩りの効率は下がったけどな。
……くっ!
「かかかか!
面白いっしょ、あんた。
笑ったと思ったら、突然、苛立って。
そんなに狩りが好きなんすか?」
「……狩りは好きだ。
だが俺が大好きなのはレベル上げだ。
レベルが上がる瞬間が最高に快感なのさ。
あの感覚が忘れられず、俺はずっと狩りに魅入られているってわけだ」
「それが狩り男、マイルという男、か。
なるほど、面白いっしょ」
「で? 情報は?
早く狩りに行きたいんだが」
「新ダンジョンのことっすね。
それは――」
シュバッ。
風切り音と共に眼前に迫る刃物。
俺はそれを首を傾けるだけで回避。
ブン。
長剣を即座にインベントリから出して、薙ぎ払う。
が、ハイネはそれを完璧に回避した。
「いきなりご挨拶だな。
どういうつもりだ?」
「情報を聞きたけりゃ俺を倒すんだな。
ってところっすかねぇ」
ハイネは短剣を左右の手に持ち、身構える。
二刀流か。
今までは短剣のみの装備だったはず。
そしてさっきの身のこなし。
「おまえ、今まで実力隠してたのか」
「手の内を敵に晒すのは愚の骨頂っしょ」
「なぜ俺を敵とみなすのか。
理由はわからんが、俺は敵に容赦はしない。
おまえも経験値になるか?」
俺は左手に片手斧を出して、二刀流の構え。
「……はっ。
狩り男。あんたは確かに強い。凄まじいっす。
けどなぁ、それは魔物相手の場合。
対人戦だったら、俺の方が上っしょ!
数百の人間を狩ってきたこの『死刃のハイネ』の方が!」
「そりゃすごい。
そして教えてやる。
俺は対人戦は一度しかしたことがないぞ」
「それを聞いて安心したっしょ!」
ハイネが地を蹴る。
スキル『疾風迅雷』の加速。
なるほど。
実際に受けるとこれは凄まじい。
人間が反応できる速度じゃない。
俺は『完全にハイネを見失ってしまった』。
「終わりっしょ!」
まっすぐ、俺の眼に向かう凶刃。
俺は――。