レベルカンストした俺は2周目に突入する ~永続ボーナスや特典能力を貰ってレベル1からやり直していたら噂が広まりすぎて、周りが放っておいてくれないんだが~ 作:鏑木カヅキ
「…………は?」
素っ頓狂な声を上げたのはハイネだった。
それもそのはず。
ハイネの攻撃は俺の眼前まで迫っていた。
避けることは不可能。
防御も不可能。
だが。
ハイネの攻撃は弾かれている。
と。
ブン。
「くっ!」
俺の剣はハイネが屈むことで避けられる。
俺は即座に膝蹴りを繰り出す。
ハイネは腕でガードしつつ飛び退いた。
「……ど、どういうことっしょ!
今、確実に当たったはず!
なのにどうして!?」
ハイネは驚きのまま叫ぶ。
比較的、冷静沈着な男だと思っていたのだが。
それほど予想できないことだったのか。
もう一度言うが『俺は完全にハイネを見失っていた』。
そして相手の動きが速すぎて俺は反応できなかった。
だから俺が動くことで攻撃を弾くことは不可能だった。
だが『俺はハイネの攻撃を予測』していた。
ダンジョン攻略をしている最中、ハイネの攻撃の癖を無意識の内に覚えていたのだ。
そしてほんの僅か、一瞬だけ視界に入った瞬間。
俺は『インベントリ』からアイテムを取り出した。
俺の眼前に出るようにだ。
地面には『アンチポイズンポーション』の瓶が二個落ちている。
当然、割れた状態だ。
つまり。
『アイテムをインベントリから取り出すことで攻撃を受け流した』のだ。
これはゲームにはないテクニック。
この世界で俺だけが使えた(・・・)技術だ。
「手の内を晒すわけがない。
それには完全に同意だな」
俺は一歩前に進む
ハイネが一歩後ろに下がる。
「俺はな、この世界(ゲーム)を知り尽くしてるんだよ。
だからな、こういう発想もできる。
パリィとかヒットアンドアウェイとかそういうのは、基本的なもんだ。
俺がどれだけ、この世界で、ソロで、狩りだけのことを考えて、生きてきたと思う?」
「うっ」
俺は再び一歩前へ。
ハイネは一歩下がる。
「ハイネ。
おまえは言ったな。
対人戦だと自分の方が経験がある。上だと。
だが考えてみろ。
魔物には人型がいる。手足が何本もある奴、巨大な奴、虫や動物みたいな奴。
そんな奴らをソロで相手してたんだ。
人との戦いなんてもんはな、大したことじゃないんだよ」
「う、うおおおおぉ!」
俺が一歩前に出ると同時に、ハイネが雄たけびを上げる。
激しい攻撃。
短剣二刀流は攻撃力は低いが、攻撃速度は一級品。
すべてを完全に防ぐのは不可能とされている。
俺以外には。
ギンギンギン。
俺は剣と斧を操り、短剣の軌道を反らす。
時に優しく、時に柔らかく、時に激しく。
「俺の攻撃をすべて防御した!?」
「終わりか?
じゃあ、次はこっちの番だ。速度を上げるぞ」
俺のAGIは永続ボーナスのおかげでレベルを遥かに超えた領域に到達している。
AGIは俊敏性。
当然、攻撃回数は著しく増える。
軽く武器を振ると、凄まじい速度の攻撃が発生する。
「くっ!? くそぉ!」
ハイネはぎりぎりで攻撃を防御し続けている。
キキキキキ。
だが俺の速度も徐々に上がっていく。
俺の手は見えなくなる。
ハイネの短剣二刀流の攻撃速度を優に超える速度。
「まだこんなものじゃないぞ」
「こんなの! 捌ける! わけが! ないっしょ!!」
ハイネの体に無数の傷が生まれる。
だが俺は攻撃の速度は緩めない。
さらに加速。
残像が生まれるほどの速度。
耳をつんざくほどの風音。
我ながら人間業じゃない。
これがカンストした人間の力。
永続ボーナスの暴力だ。
ハイネの顔が絶望で染まる。
だが。
「くそおおぉっ!」
ハイネは自棄気味に剣を振るった。
ガギン。
パリィ。
ハイネの体勢が崩れる。
俺はその大きな隙を逃さず『武器をインベントリ』に収めて、拳でハイネの腹を思い切り殴った。
「ごあっ!」
ハイネの声音が響く。
ハイネは大きく飛び退き、短剣を身構えた。
素手の攻撃には慣れてないからな。
ダメージが低かったらしい。
俺は即座に『インベントリ』から武器を取り出し、再び二刀流。
「な、なぜ殺さない」
「殺すつもりはないさ。
殺す理由がないからな」
「俺を舐めているんすか!?」
ハイネの攻撃は異常に早い。
今まで戦った敵の中でトップクラスだ。
だが俺には勝てない。
永続ボーナスがあるから?
それだけじゃない。
戦って分かった。
俺とハイネとの間には大きな差があるということを。
「くそおぉぉぉ!!」
ハイネが動く。
フェイントを織り交ぜる攻撃。
並の人間なら反応してしまうだろう。
だが俺には通用しない。
この『ブラッドループ』の世界の魔物は非常に狡猾で、いやらしい攻撃をする奴らばかりだ。
ディレイやフェイント、体幹が異常に強い、即死攻撃などなど。
当たり前のようにやってくる。
そんな魔物を狩り続けた俺に通用すると思うか?
ギンギンギン。
俺はすべてを受け流し、弾く。
フェイントをすべて看破して。
そして。
ガギン。
一つの攻撃を選んでパリィ。
再び武器ではなく拳で殴る。
「がはっ!」
ハイネはその場にくず折れる。
横隔膜を二度殴った。
呼吸困難に陥っている。
終わりだ。
「は、はは……な、何もできない……っしょ。
なんて強さ。この『死刃のハイネ』が。
まるで赤子っしょ」
「経験と知識不足だな」
「……くくく、俺に経験と知識が足りてない?
初めて言われたっしょ、そんな言葉」
ハイネは自嘲気味に笑い、短剣を落とした。
そしてその場に座り込み。
ふぅと大きく息を吐いた。
「……新ダンジョンの推奨レベルは不明。
『灰城メナス』の地下にあるっしょ。
数十人のアライアンスが攻略しようとして、全滅しかけた中で見つけた。
食堂の暖炉の奥に隠し扉があり、その奥に牢屋があって、そのさらに奥にあると。
そこは暗く、深く、そして瘴気が溢れている。
『奈落の底』だと」
ふむ、いいネーミングだ。
不気味で恐ろしく、そしてワクワクするじゃないか。
『灰城メナス』は何度か行ったことがある。
ただ思ったよりも経験値が不味かったので、もう行くことはないと思っていた。
なるほど、そういうことか。
まだ先があったと。
俺は武器をインベントリに戻すと『灰城メナス』に向かうべく歩き出す。
「いい情報だ。感謝する。
じゃあ、俺は狩りに戻るぞ」
「……それだけっすか?
俺はあんたを殺そうとしたんすよ?」
「本気じゃなかっただろ。
まあ、目の一つくらいは持っていこうとしてたみたいだが。
殺意というよりは、俺を止めるみたいな感じだったな。
いや、違うか。俺を試していたのか?」
「……お見通しっすか。
そうっす。俺は『青騎士団(アズールオーダー)』の副団長っす。
団長から狩り男の調査を頼まれたっしょ」
「…………ん?
で、なぜ俺を襲うことに?」
「見定めろと。
大手ギルドにふさわしい人間なら勧誘しろ、そういうお達しっしょ。
あんたは良い奴だ。そして強い。
だが魔物相手だけなのかどうか知りたかったっしょ」
「それで襲い掛かるってどんだけ好戦的なんだおまえ」
「ははは、まあ、戦闘は好きっしょ。
強い奴を見ると戦いたくなるっすからねぇ。
……ま、そういうことっしょ。
こっちの身勝手な理由であんたに迷惑をかけたわけで」
「話は終わりか?」
「へ? あ、ああ、終わりっしょ」
「そうか。じゃあ俺は行くぞ。
狩りが待ってるんでな」
俺はハイネに背を向けて、手を上げて別れを告げる。
「こ、殺さないんすか!?
なんで見逃すんっしょ!」
「興味ない!
それにおまえは嫌いじゃない!
それだけだ!」
ひらひらと手を振る。
と。
俺はすぐに気分を切り替える。
次の狩場。
新しい狩場。
どんな魔物がいるのか。
どんなダンジョンなのか。
そしてどれほどの経験値をくれるのか。
今から楽しみでしょうがなかった。
疲れ? ないない。
空腹? どうでもいい。
眠気? ここ数日寝てないけどぴんぴんしてる。
そんなことは気にすんな!
さあ、行こうぜ!
新しいダンジョンに!