レベルカンストした俺は2周目に突入する ~永続ボーナスや特典能力を貰ってレベル1からやり直していたら噂が広まりすぎて、周りが放っておいてくれないんだが~ 作:鏑木カヅキ
「遅い……ッッ!」
ドゴォン。
怒り心頭に発しながら、地面に大斧を振り下ろす巨躯。
魔の王、ゴルデベルドだった。
彼の王は玉座に座り、じっと入り口を凝視している。
だが来ない。
あいつは。
あの狩り狂いは。
まーーーったく来ないのだった。
「遅い遅い遅すぎる……ッ!
いつも以上に時間がかかっているではないかッ!?
余をまた小馬鹿にしておるのか、あの男は!」
ついには立ち上がり、うろうろとし始めてしまう。
王としての威厳は微塵もない。
さながら想い人を待つ、恋する乙女のようだった。
すこしばかりその表現は荒々しいが。
と。
ズゥン。
大斧を下ろし、顔に手をやる。
「もしや……またか? またなのか!?
あの男、また余を謀り、蔑むか!
カンストしてから、しばらくしたらまた来ると言っていたはず!
しかぁし! また別事に気を取られているのではないか!?
……新しいダンジョンが生まれていると小耳にはさんだが……はっ!?
まさか!?」
魔の王、ゴルデベルドは顔を上げる。
まさか、そんな、あり得ない。
「あ、あやつ! もっと経験値効率がいい相手を見つけたのでは!?
そ、そんなはずはない。
王たる余を超える経験値を持つものなど……」
そう、それはあり得ない。
なぜならゴルデベルドこの大陸を統べる魔の王だからだ。
自身を超える経験値を持つ魔物は存在しない。
そうだ。当たり前のことではないか。
ゴルデベルドは安堵する。
だが次の瞬間、ふと閃いてしまう。
「……例えば魔物やボスの経験値が効率が良く、そしてその数が多ければ?
狩りルートを構築すると考えて……最終的に余よりも経験値が多ければ!?
時間効率が上がる可能性があるとしたら!?
そうなれば、どうなる!?」
狩り狂いはもうここへは来ないだろう。
間違いない。
あの狩り馬鹿クソ雑魚人間は間違いなく来ない。
こっちの方が経験値効率がいいんだから、行く意味あるか? とか言うに決まっている。
浮かんだ。
その情景が。
腸が煮えくり返る。
「狩ぁりぃ狂ぅいぃぃーーーーッッ!
許さん! それは許さぬぞぉ!
散々、余を弄び、余で経験値を得て、レベリングしたというのに!
不要になったら捨てるなぞと!
この! 魔の王! ゴルデベルドを!
そのような扱いをするのは、断じて許さぬぞーーッッ!」
ゴルデベルドは憤っていた。
あの邪知暴虐の狩り狂いを縊り殺さんと。
ドゴォンゴガァ。
その場で暴れまわる。
柱や壁や地面は隆起して、まともな部屋とは思えなかった。
だが、すでにあの狩り狂いとの戦いで元々破壊されつくされている。
それを見ると、なぜか余計にイライラが強くなった。
過去の情景が浮かんでしまう。
あの男との戦い。
あの男とのやり取り。
そして。
「逃がさぬ……絶対に逃がさぬぞ、狩り狂いぃぃぃ!
余はここから出てやる……この忌々しい封印を!
聖神の茨を! 破壊せしめ、そして貴様を追ってやる!
ぬおおおおおおおおおお!
御覧じろ! 魔の王ゴルデベルドの生き様を!」
ゴルデベルドは謁見の間、扉に貼られた聖なる壁を殴りつける。
轟音と共に衝撃が走る。
しかし靄(もや)、もとい聖なる壁は微動だにしない。
だが構わない。
こんなことは過去に何度も起きている。
だから知っている。
この壁がどれほど強固かを。
だとしても。
「ぐおおおおおおお!」
ゴルデベルドを止めることはできない。
触れた箇所が浄化する。
激痛が走る。鎧が、兜が溶ける。
だが、それがどうした?
構いはしない。
ここでずっと閉じ込められ。
孤独に生きていた。
たった一人の王。
家臣も敵も、誰もいない。
時折聞こえる臣下の囁きが耳朶を震わすだけ。
それ以外には何もない。
孤独な世界。
そんな場所に悠久の中で現れた男。
自身を蔑み、謀り、虐げ、殺し尽くした男。
その男と相まみえるため。
ゴルデベルドはその身が砕けようと止まらない。
寂しさ? 悲しさ?
そんな俗物的な感情ではない。
これは矜持だ。
これは誇りだ。
ゆえに今までとは違う。
外に出るという強固な意志があった。
鎧が腕が髪が兜が焼ける。
それがどうした?
行け。
行け!
行けぇっ!!
「わが身を外へ!
行け! 行けぇ!!」
ゴルデベルドは前へと進む。
憎き聖神の制約を砕くため。
そしてあの狩り狂いに相まみえるため。
この世界との隔たりを壊すため。
絶えず進み続け。
そして。
砕けた。
●◇●◇●◇
「なんだ? 今、誰かの声が聞こえたような」
『灰城メナス』の牢屋に俺はいた。
なぜか声が聞こえたような気がして振り返ったのだが、誰もいない。
どうやら気のせいみたいだな。
「おお、情報通り。牢屋の中に穴があるな」
奥は暗闇に覆われている。
俺はインベントリから松明を取り出し、着火。
巨大な穴があり、梯子と脆そうな足場があるだけだった。
足場は奥へ奥へと続いている。
こんな場所があるなんて。
ネット上にもこんな場所の情報はなかった。
もしかしてこの世界だけか?
真っ暗闇。
だが俺は恐怖よりもワクワクしていた。
「まったく、この世界は楽しませてくれるな」
レベル上げだけでなく、レリック、そして新しい敵。
経験値はどれくらい貰える?
効率は?
さらに追加される要素はあるのか?
ああ、楽しみでたまらない。
こんな場所で一人悦に浸っている。
それが異常だという自覚はなくもない。
だが。
それでいい。
俺は狩りをして、レベルを上げる。
それが好きで好きでしょうがないんだから。
さあ、行こう。
新しいダンジョンへ。
そして無限にレベルを上げ続け、カンストさせるのだ。
「待ってろよ、経験値ちゃんたち!」
俺はそう叫びながら。
新たなダンジョン『奈落の底』へと向かったのだった。