レベルカンストした俺は2周目に突入する ~永続ボーナスや特典能力を貰ってレベル1からやり直していたら噂が広まりすぎて、周りが放っておいてくれないんだが~ 作:鏑木カヅキ
「狩り男って知ってるか?」
冒険者ギルドの酒場。
屈強な男たちが酒盛りに明け暮れている。
二人の男もご多分に漏れず、エール片手に今日の疲れを癒していた。
「狩り男? なんだその変な名前は」
「危険な狩場に出現する、ソロ狩り専の冒険者。
それが狩り男さ」
「ソロ?
フィールドで魔物から逃げ回ってるってとこか?」
「いや、奴が現れるのはダンジョンらしい」
はっ、と鼻で笑ったのは髭面の男だった。
エールの泡が髭についているが気にする素振りもない。
「バカらしい。
ダンジョンでソロ狩り?
ありえねぇだろ。作り話にもほどがある」
「中堅ギルド『暁(あかつき)』の疾風迅雷のアイリがその話をしていたらしい」
「あのアイリが?
出会った魔物は風に巻かれるみてぇに切り刻まれるって噂の?
確か『暁』は『青毒沼の洞窟』攻略に行ったんじゃなかったか?」
「失敗したらしいぜ」
大柄の男の言葉に、髭面の男が、馬鹿にするように笑う。
「中堅ギルドが功に焦って超高難易度ダンジョンに挑むからだ。
上級ギルドの連中は『青毒沼の洞窟』には興味なかったみたいだしな」
「初回攻略して、箔をつけたかったんだろうな。
だがあそこは毒系の魔物や罠が多い。
誰も好んで行きやしない。
結果、アイリは一人で逃げることになったらしいぜ」
「そこで狩り男と出会った?」
「そうだ。どうやら助けられたらしい。
グレーターデーモンを一撃で倒すくらいの強さだったとか」
「グレーターデーモン!?
レベル58くらいじゃなかったか?
それを一撃……レジェンド級の冒険者じゃなきゃ無理じゃねぇか?」
「それくらい強いってことだろうな」
口角を上げる大柄の男。
髭面の男も同じような顔をする。
「「噂が本当ならな!」」
がははと嘲笑する二人。
周りの連中が二人をちらっと一瞥してきた。
酒が周り、少し声が大きくなっている。
その事実に二人は気付いていない。
「くくく! まったく、くだらない話だよな。
ソロだの、ダンジョンに籠っているだの、一撃で強敵を倒すだの。
しまいには帰りに金と食料までくれるらしいぜ?」
「がはははは! 馬鹿らしいにもほどがあるな!
どうせ、攻略に失敗した言い訳のために用意した空想だろ。
実際は敵前逃亡したってとこか?
誰かに助けられなけりゃ逃げ切れないほどに危なかった、って言えるもんなぁ?」
「違いねぇ。くだらねぇよな。
狩り男だとさ!」
「がはははははは!
疾風迅雷のアイリが聞いてあきれるぜ!」
噂話に花を咲かせる。
だが酒場内が妙に静かになっていた。
その事実に二人は気付かず。
「疾風迅雷の逃げ腰ってか?
やっぱり女ってのは根性がねぇよなぁ?」
「短剣じゃなくて、男の上で腰でも振ってんじゃねぇのか?
仲間が殺されて一人逃げるような奴だからな!
男に取り入るのが上手いんだろうな!」
ギャリィ。
金属音と共に、髭面の男の喉に何かが触れた。
鋭い痛み。
これを男は知っている。
刃物による痛みだと。
「誰が逃げ腰だって?」
短剣が喉に触れた状態のまま、片耳から女の声が聞こえた。
顔は動かせず、視線だけでそちらを見やる。
アイリだ。
「男の上で腰を振ってる?
このあたしが?」
「お、落ち着け、アイリ。
じょ、冗談だったんだ。
べ、別にあんたをあばずれだと思っているわけじゃ」
「あばずれだと思っていたんだ?
舐めてんのか? あたしのこと」
喉にナイフが埋まっていく。
アイリは本気だ。
このままだと殺される。
「わ、悪かった……!
さ、酒のつまみのつもりで」
「つまみ?
30人の仲間が全滅した、あたしのことを茶化して?
それがつまみになるのかい?
だったら、今、あんたの喉にこいつをぶち込んでやろうか?
そしたら腹を抱えて笑ってやるよ」
「ひ、ひいぃ!?
ゆ、許してくれ! 頼む! 頼むぅ!」
涙ながらに謝罪する髭面の男。
アイリは射殺すような視線を男たちに向けていた。
が、やがて小さく嘆息すると、ナイフを引いた。
二人の男は安堵のため息を漏らす。
次の瞬間。
男二人は宙を舞っていた。
「がっ!?」
アイリが二人を蹴り上げたのだ。
空中に舞った男二人を、アイリは回し蹴りで吹き飛ばす。
ドガッ。
鈍い音と共に男たちは酒場の扉を弾き飛ばしながら、外へと飛んでいく。
アイリの倍はある男たち。
それを蹴りのみで吹き飛ばしたのだ。
「が……は……!」
髭面の男と大柄の男は、地面をのた打ち回っている。
激痛で息ができないらしい。
「他にあたしの噂をしてる奴いたら、相手になるよ。
この疾風迅雷のアイリがね!」
冒険者たちは肩をすくめて、アイリから視線をそらした。
レベル50を超える冒険者は多くはない。
『暁』は中堅ギルドと言っても、アイリレベルの冒険者はそう多くはなかった。
そんなアイリを小馬鹿にするほど愚かな連中は少ない。
アイリが『暁』に入ったのは最近。
正直、仲間の顔や名前もほとんど覚えていない。
しかし、ここまで馬鹿にされて黙ってはいられなかった。
まあ、大半は自分への批判に対しての苛立ちだが。
(ぎぎぎぎぎぎ! 腹立たしい!
仲間のためっていうか、あたしのためっていうか!
とにかくムカつく!)
今すぐは無理でも、必ずまた再挑戦する。
『青毒沼の洞窟』はクリアすると心に決めた。
そう考えると少しだけ冷静さを取り戻した。
思い出すのは、あの男。
ふと、少しだけ不安がこみ上げてくる。
(……あの狩り男。
あいつ一人でダンジョンボスを倒したりしてないよね?)
『青毒沼の洞窟』を狩場にしていたとしても、ダンジョンボスをソロで倒すのとは別の話だ。
さすがにソロで倒すのは無理だろう。
ダンジョンボスの部屋に入るには条件があり、人数制限や入場条件などがある。
ダンジョンによっては前段階で特定の敵を倒す必要があったり、鍵となるアイテムが必要だったりする。
大抵は10人以下でボス討伐する。
その人数までしか入れないからだ。
そして他のパーティやアライアンスは外で待機する。
仮にボス部屋まで行っても、ソロで勝てるはずがない。
(あの人……今もあのダンジョンに籠ってるのかな)
恩義を感じている。
ただ同時に興味も抱いている。
あの男は何者で、どれほどの実力者で、どれほどの知識を持っているのか。
そして、今現在何レベルなのか。
次に会った時はもっと話を聞きたい。
(んん? ちょっと待って)
アイリは、思わず考える。
あの男、尋常ならざらぬほどの実力者だった。
グレーターデーモンを一撃で倒していたのだ。
しかもなんか攻撃を弾いていたし、無駄のない動きをしていた。
あんな動きは今まで見たことがない。
(もしかしてあの人がいたら、未攻略ダンジョンも攻略できるんじゃ?
そしたら初回クリアの称号を手に入れられる。
名が売れたら優秀な人間も集まるし、依頼も集まる。
貴族とか、王族……あるいはレジェンド級の冒険者と懇意になれるかも!
そしたらあたしの人生黄金虫色! もう勝ったも同然じゃ!?)
アイリはぐふふと笑いながら私利私欲にまみれた考えを浮かべる。
狩り男は一人で行動している。
仲間にできれば……あるいは攻略だけでも手伝ってもらえれば。
先行きは明るいかもしれない。
(……『暁』のみんな。
短い付き合いだったけど、あんたたちの無念はあたしが晴らしてあげる。
『青毒沼の洞窟』……いや、それ以外の未攻略ダンジョンもあたしが真っ先に攻略して!
そんで有名になって、金持ちになって、偉い人と懇意になって!
幸せになってやるんだから!)
アイリは拳を高く振り上げた。
やるべきことは決まった。
あの狩り男を見つけることから始めるのだ!