レミエールはいいぞ。
第三話 倒せ!GOD FINGER
ある日の六分街。
ドモンはビデオケースをカウンターへ置く。
「毎度ー。」
リンが笑顔で手を振る。
「ねえねえ!あの映画、どうだった?」
アキラが尋ねる。
「悪くなかった。」
ドモンは短く答える。
「最後の展開は予想できたが、アクションは見応えがあった。」
「相変わらず渋い感想だね。」
アキラは苦笑する。
「もっと『面白かった!』とかないの?」
「面白かった。」
「いや、そうじゃなくて……。」
リンは思わず肩を落とした。
そんな二人の様子に、ドモンはほんの僅かだけ口元を緩める。
店内には穏やかな時間が流れていた。
しばらく世間話を続けた後、ドモンは壁に掛けられた時計を見る。
「長居するのも悪いな。」
「今日はこの辺で帰る。」
「またね、ドモン。」
「ああ。」
ドモンは軽く手を上げると、ビデオ屋『Random Play』を後にした。
◇
六分街の通りを歩く。
現在、ドモンは六分街のアパートで一人暮らしをしていた。
両親は健在だ。
離れた場所で静かに暮らしており、ときどき野菜や米、保存食などを仕送りしてくれる。
そのおかげで食費にはあまり困らない。
「今日は……カレーにするか。」
じゃがいも。
玉ねぎ。
人参。
肉もまだ残っていたはずだ。
献立を考えながら歩いていると、一軒のゲームセンターが目に入る。
大きな看板。
そこには力強く書かれていた。
**『GOD FINGER』**
「……。」
ドモンは思わず立ち止まる。
「ゴッドフィンガー、か。」
懐かしい響きだった。
前世では幾度となく叫んだ、自らの必殺技。
自然と口元が緩む。
「少しだけ寄るか。」
そう呟き、店内へ入った。
◇
ゲームセンターの中は、多くの学生で賑わっていた。
クレーンゲーム。
音楽ゲーム。
レースゲーム。
その奥に並ぶ対戦格闘ゲームの筐体。
ドモンは空いている席へ腰掛ける。
コインを投入。
対戦開始。
相手はすぐに現れた。
しかし――
「KO!」
一試合。
「PERFECT!」
二試合。
「WINNER!」
三試合。
負けない。
圧倒的だった。
前世で極限の戦いを潜り抜けてきた反射神経は、ゲームの世界でも健在だった。
「なんだあの人……。」
「強すぎるだろ。」
「一回も攻撃当たらねぇ。」
周囲に人だかりができ始める。
「ドモン!」
聞き覚えのある声だった。
振り返ると、リンとアキラが立っていた。
「遊びに来たら、なんかすごい人がいるって聞いてさ。」
「まさかドモンだったとは。」
「勝負しよう!」
「いい。」
二人も席に座る。
結果は――
「PERFECT!」
「あー!」
「負けた!」
「もう一回!」
「構わない。」
何度挑んでも結果は同じだった。
「強すぎる……。」
リンが机に突っ伏す。
「ゲームでも容赦ないね。」
アキラも苦笑するしかない。
その後も挑戦者は絶えなかった。
中には途中で対戦を切断する者まで現れる。
「うわ、切った!」
「そこまでして負けたくないのか……。」
周囲から苦笑が漏れた。
気づけば夕日が街を赤く染めていた。
挑戦者も少なくなり、リンとアキラも店へ戻っていった。
「そろそろ帰るか。」
ドモンは席を立とうとする。
その時だった。
対戦受付のランプが点灯する。
「最後に一戦だけ。」
ドモンは再び座った。
対戦開始。
「……。」
強い。
今までの相手とは明らかに違う。
読みが鋭い。
反応も速い。
ドモンも自然と表情が引き締まる。
互いに一歩も譲らない攻防。
店内には操作音だけが響く。
激戦の末――
「WINNER!」
ドモンの勝利だった。
「いい勝負だった。」
思わずそう呟く。
相手にも一言伝えようと、筐体の裏側へ回った。
そこにいたのは――
漆黒のドレス。
夜のように黒い翼。
そして、鮮やかなピンク色の髪。
一人の女性が静かに立ち上がる。
「負けちゃった。」
女性は肩をすくめ、くすりと笑った。
「久しぶりに楽しかったよ。」
「お前が対戦相手か。」
「うん。」
女性は優雅に一礼する。
「初めまして。」
「ラミル。」
「そう名乗ってる。」
ドモンも軽く頷く。
「ドモンだ。」
「ドモン。」
ラミルはその名前を一度口にすると、楽しそうに微笑んだ。
「いい名前。」
「気に入った。」
「そうか。」
短い返事。
だが、それだけで会話は終わらなかった。
「ねぇ。」
ラミルはドモンの腕を軽く引く。
「ちょっと付き合って。」
「……?」
「面白い人を見つけたから。」
「今日は暇でしょ?」
「いや、夕飯の支度を――」
「なら食べさせてくれる?」
ラミルは悪びれもせず笑う。
「断る。」
ドモンは即答した。
「そう?」
ラミルは首を傾げる。
「一人分も二人分も、そんなに変わらないでしょ?」
「変わる。」
「食材の量もある。」
「なにより君をそこまで知らない。」
「ふーん。」
ラミルは一歩近付く。
「じゃあ、お買い物から付き合う。」
「断る。」
また一歩。
「料理を見てるだけ。」
「断る。」
さらに一歩。
「味見だけ。」
「断る。」
気付けば二人の距離は随分と縮まっていた。
「……。」
(近い。)
ドモンは一歩後ろへ下がる。
しかしラミルも一歩前へ。
「……。」
このままでは埒が明かない。
ドモンは小さく息を吐くと、不意に空を見上げた。
「あ。」
「どうしたの?」
「用事を思い出した。」
「そう。」
「失礼する。」
次の瞬間だった。
ドンッ!!
地面が弾けるような音と共に、ドモンの姿が消えた。
「……!」
ラミルは一瞬だけ目を丸くする。
「速い。」
しかし。
その口元には楽しそうな笑みが浮かんでいた。
「そう来るんだ。」
バサッ――。
漆黒の翼が大きく広がる。
「じゃあ。」
「追いかけよう。」
◇
夕暮れの六分街。
道路を駆け抜ける一人の少年。
その後ろを追う黒い翼の女性。
「待ってよー!」
「待たん!」
ドモンは振り返りもせず答える。
「食事くらいいいじゃない!」
「よくない!」
角を曲がる。
階段を飛び越える。
手すりを蹴り、屋根へ飛び移る。
普通の人間なら到底追いつけない速度だった。
だが。
「もう少し!」
ラミルは翼を羽ばたかせ、建物の上空を一直線に飛ぶ。
「あっちだ。」
「逃がさない。」
「……。」
ドモンは思わず顔をしかめた。
(空を飛ぶのは反則だろ。)
さらに速度を上げる。
六分街を縦横無尽に駆け抜ける。
数分後――。
「……。」
ドモンは足を止めた。
周囲を見回す。
気配はない。
「撒いたか。」
小さく息を吐く。
「さすがに追っては来られまい。」
そう呟くと、アパートへ戻る。
階段を上り、自室の前へ。
鍵を開ける。
ガチャ。
扉を開いた。
「おかえり。」
「……。」
部屋の中。
テーブルの前に、ラミルが座っていた。
ドモンの動きが止まる。
「……なぜいる。」
「窓。」
ラミルは当然のように答える。
「開いてたから。」
「ちゃんと戸締まりしないと駄目だよ?」
「泥棒が入る。」
「お前が言うな。」
ドモンは即座に突っ込んだ。
「まあ、細かいことはいいじゃない。」
ラミルは悪びれる様子もなく笑う。
「上から見てたら、この部屋に入るのが見えたから。」
「窓から失礼したよ。」
「……。」
ドモンは額に手を当てる。
(空から追跡していたのか。)
普通なら思い付かない方法だった。
いや、思い付いても実行できない。
「逃げるのは諦めた?」
「……。」
ドモンはしばらく黙っていた。
再び逃げても、また追ってくる気がした。
それに。
ここまで執着される理由も気になる。
「分かった。」
「食事だけだ。」
ラミルの表情がぱっと明るくなる。
「やった。」
「ありがとう。」
ドモンは小さくため息をつく。
「期待するほどのものではない。」
「構わない。」
「君の料理が食べたいだけだから。」
その一言に、ドモンは少しだけ首を傾げた。
「……変わった奴だ。」
「よく言われる。」
ラミルは楽しそうに笑う。
ドモンはキッチンへ向かい、仕送りでもらった野菜を取り出す。
玉ねぎ。
人参。
じゃがいも。
そして肉。
「予定通り、カレーにする。」
「うん。」
ラミルは椅子に座り、どこか嬉しそうにその背中を眺めていた。
◇
キッチンに立つドモン。
包丁を握り、野菜を切る。
トントントン――。
規則正しい音が部屋に響く。
ラミルは頬杖をつきながら、その様子を眺めていた。
「……。」
「なにか言いたいことがあるなら言え。」
ドモンは手を止めずに言う。
「え?」
「さっきから見ている。」
「ああ。」
ラミルは小さく笑った。
「いや。」
「少し意外だっただけ。」
「何がだ。」
「君みたいな人が。」
「普通に料理するんだなって。」
ドモンは少し黙る。
「料理くらいする。」
「生きていくためには必要だ。」
「ふーん。」
ラミルはテーブルに置かれた食材を見る。
「自分で買ったもの?」
「違う。」
「両親から送られてきた。」
その言葉に。
ラミルの表情が僅かに変わった。
「……両親。」
「ああ。」
「元気なの?」
「健在だ。」
ドモンは鍋を火にかけながら答える。
「旧都が落ちた時も。」
「俺が助けた。」
「だから今は離れた場所で暮らしている。」
ラミルは静かに聞いていた。
「そっか。」
「大事にしてるんだね。」
「当然だ。」
ドモンは即答する。
「家族だからな。」
その返事に。
ラミルは少しだけ目を細めた。
「……。」
「何だ。」
「いや。」
「やっぱり面白いなって。」
「君。」
ドモンは首を傾げる。
「俺の何が面白い。」
「強いのに。」
「妙に普通で。」
「普通なのに。」
「全然普通じゃない。」
「……。」
◇
しばらくして。
部屋には香辛料の香りが広がっていた。
「完成だ。」
テーブルに二つの皿が置かれる。
湯気の立つカレー。
ラミルは目を輝かせる。
「いただきます。」
「……。」
ドモンは少し驚いた。
「意外だな。」
「何が?」
「もっと勝手に食べると思っていた。」
「失礼だなぁ。」
ラミルは笑う。
「食事の前の挨拶くらいするよ。」
「一応、育ちはいいから。」
「そうか。」
二人はスプーンを手に取る。
一口。
ラミルが目を見開いた。
「……。」
「どうだ。」
「……おいしい。」
「そうか。」
「もっと喜んでもいいんじゃない?」
「褒められることに慣れていない。」
「本当に?」
「ああ。」
ラミルは少しだけ笑う。
「変なの。」
「料理上手なのに。」
「強いのに。」
「褒められるのが苦手。」
「……。」
ドモンはカレーを食べながら答える。
「俺はただ。」
「できることをしているだけだ。」
「それだけだ。」
ラミルはその横顔を見る。
「……。」
その目には。
先ほどまでの興味とは少し違うものが浮かんでいた。
夜。
食事を終え、片付けも終わった頃。
ラミルは椅子に座ったまま、ふとドモンを見る。
「ねぇ。」
「なんだ。」
「ドモンってさ。」
「何歳?」
突然の質問。
ドモンは少しだけ目を瞬かせる。
「……17歳だ。」
即答。
しかし。
ラミルは数秒黙った。
そして。
「嘘。」
「……。」
ドモンの動きが止まる。
「なぜそう思う。」
「雰囲気。」
ラミルは頬杖をつく。
「仕草。」
「言葉遣い。」
「それに。」
少しだけ笑う。
「目。」
「17歳の目じゃないよ。」
「……。」
図星だった。
前世の記憶。
戦いの日々。
失ったもの。
背負ってきたもの。
それらは、どれだけ姿が若返っても消えることはなかった。
「……。」
ドモンは黙り込む。
言うべきか。
隠すべきか。
普通なら。
答える必要などない。
だが。
目の前の女には。
なぜか話してもいい気がした。
「……138歳だ。」
「え?」
ラミルの表情が固まる。
「俺の本当の年齢だ。」
「138歳。」
しばらく。
部屋に沈黙が流れた。
「……。」
ラミルはドモンを見る。
冗談ではない。
その目がそう語っていた。
「そっか。」
「やっぱり。」
小さく呟く。
「薄々は感じてた。」
「君が普通じゃないって。」
「でも。」
ラミルは苦笑する。
「まさかね....」
「……。」
ドモンは首を傾げる。
「驚かないのか。」
「驚いてるよ。」
ラミルは即答した。
「かなり。」
「でも。」
「私自身が普通じゃないからね。」
「人のこと言えない。」
その言葉に。
ドモンは目を細める。
「……。」
「今度はこちらの番だ。」
「え?」
ドモンはラミルを見る。
「お前が名乗った名前。」
「本当の名前ではないだろう。」
一瞬。
空気が変わった。
ラミルの笑顔が僅かに止まる。
「……。」
「ラミル。」
「それは偽名だ。」
「違うか?」
沈黙。
やがて。
ラミルは小さく笑った。
「すごいね。」
「そこまで分かるんだ。」
「目だ。」
ドモンは答える。
「お前も。」
「何かを隠している目をしている。」
「……。」
ラミルはしばらくドモンを見つめる。
そして。
「ごめん。」
「それはまだ教えられない。」
「理由は。」
「秘密。」
悪びれもせず笑う。
「そうか。」
ドモンはそれ以上追及しなかった。
無理に聞くことではない。
自分もそうだったから。
◇
しばらくして。
ラミルは立ち上がる。
「じゃあ。」
「今日は帰ろうかな。」
「そうしてくれ。」
即答。
「冷たいなぁ。」
ラミルは笑う。
そして。
玄関へ向かう――と思った。
しかし。
次の瞬間。
振り返る。
「ねぇ。」
「なんだ。」
「泊まっていっていい?」
「……。」
ドモンは数秒。
完全に思考を停止した。
そして。
「断る!!」
即答。
六分街の夜に。
ドモンの声が響いた。
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なさんお待ちかねぇ!
虚狩り、星見雅!
ドモンに戦いを挑むため、修行と言いドモンを道場に呼び出す!
そして怒った雅は郊外に颯爽と出陣!荒野を舞台にガンダムと武士道が激しくぶつかり合います!
次回、ゼンレスゾーンゼロ 流派東方不敗、再臨す「いざ勝負!虚狩り」にぃ、レディィィ、ゴォォォ!!
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