星見家所有の道場。
静かな空間に、木刀の風切り音が響く。
「……久しいな、ドモン。」
道場の中央。
黒髪。
狐の耳。
整った姿勢。
星見雅。
対ホロウ6課の課長。
そして、新エリー都でも名を知られる現代の虚狩り。
「久しぶりだな、雅。」
ドモンは軽く手を上げる。
「元気そうで何よりだ。」
「お前に言われるとはな。」
雅は小さく息を吐いた。
「相変わらずだ。」
「何がだ。」
「昔から変わらない不愛想なところだ。」
「……。」
ドモンは少し目を逸らす。
幼い頃。
まだ人々が旧都で暮らしていた時代。
二人は何度も顔を合わせていた。
雅は星見家の跡取りとして武術を学び。
ドモンはただひたすら拳を鍛えていた。
あの頃から。
ドモンは無茶ばかりだった。
誰かが困っていれば迷わず助けに行く。
自分が傷つくことなど考えない。
雅にとってドモンは。
強いとか弱いとか以前に。
放っておけない幼馴染だった。
「今日は世間話でもしようと思ったんだが。」
ドモンが言う。
「その前に。」
雅は道着姿で木刀を手に取った。
「手合わせだ。」
「……やっぱりそうなるか。」
「当然だ。」
雅は真っ直ぐドモンを見る。
「久しぶりに会ったのだ。」
「ならば、互いの成長を確かめるのが道理だろう。」
「分かった。」
ドモンは準備運動を始める。
「付き合う。」
◇
最初は徒手格闘。
拳。
蹴り。
体術。
二人の攻防が道場を駆ける。
「……。」
ドモンの拳を雅が受け流す。
そのまま懐へ入り込む。
しかし。
ドモンは紙一重で避けた。
「相変わらず速いな。」
「お前もだ。」
互いに距離を取る。
「だが。」
雅は言う。
「昔より雑になった。」
「雑?」
「力に頼りすぎている。」
◇
次に木刀。
「今度は私の番だ。」
雅が構える。
瞬間。
空気が変わった。
先ほどまでの拳とは違う。
剣士としての雅。
一瞬の踏み込み。
鋭い斬撃。
ドモンは木刀で受け止める。
「……!」
重い。
速い。
正確だ。
「拳ならば互角。」
雅が言う。
「だが。」
さらに一歩。
「剣では私が上だ。」
木刀がドモンの肩へ止まる。
「お前の戦い方は勢いが強すぎる。」
「力で押し切ろうとする癖がある。」
「剣は拳以上に、相手との間合いを見るものだ。」
ドモンは苦笑する。
「なるほど。」
「今度は俺が教えられる側か。」
ドモンは剣などの武器を扱う基礎や技術を師匠のマスター・アジアから叩き込まれてた日々を思い出す。
雅は淡々と答える。
「互いに学ぶものがある。」
◇
修行が終わる。
二人は道場の縁側に座っていた。
「いい鍛錬だった。」
ドモンが言う。
「ああ。」
雅も頷く。
しばらく静かな時間が流れる。
しかし。
雅の表情は次第に真剣なものへ変わっていった。
「……ドモン。」
「なんだ。」
「最近。」
「お前は何をしている?」
「……学校へ行っている。」
ドモンが答える。
だが。
雅は納得しなかった。
「それだけではない。」
「……。」
「お前。」
「ホロウに入っているな。」
ドモンの表情が僅かに変わる。
「どうしてそれを知っている。」
しかし。
雅はその問いには答えない。
「何度もだ。」
「一度や二度ではない。」
「お前は今に至るまで、何度もホロウへ入っている。」
「……。」
ドモンは黙る。
雅は立ち上がった。
「ドモン。」
「昔からそうだった。」
「誰かが危険な目に遭えば、自分のことなど考えず飛び込む。」
「それはお前の良いところだ。」
「だが。」
一歩。
雅が近付く。
「ホロウは違う。」
「エーテリアス。」
「エーテルによる汚染。」
「常識では測れない危険が存在する場所だ。」
「分かっている。」
ドモンは静かに答える。
「ならばなぜ行く。」
「……。」
「お前は確かに身体能力は並外れている。」
「幼い頃から鍛え続けてきたことは知っている。」
「だが。」
雅の目が鋭くなる。
「それだけだ。」
「身体能力が高いからといって。」
「それだけでホロウに挑めるわけではない。」
「力がないなら。」
「そんな危険な場所へ行くな。」
「……。」
ドモンは困ったような表情を浮かべた。
昔から変わらない。
雅はいつも、自分を心配してくれる。
「雅。」
「なんだ。」
「俺には力がある。」
その言葉に。
雅は僅かに目を細める。
「……力?」
「ああ。」
「それは何だ。」
即座に問い返す。
そして。
雅はドモンへ歩み寄った。
「ならば見せてみろ。」
「本当にお前が言うほどの力があるというなら。」
「私に証明してみろ。」
「……。」
ドモンが黙る。
すると。
雅はさらに距離を詰めた。
「ドモン。」
「昔から、お前は一人で抱え込む。」
「大丈夫だと言って。」
「何も言わずに危険へ向かう。」
気付けば。
雅の手はドモンの襟元を掴んでいた。
「……。」
顔と顔が触れそうなほど近い距離。
普段冷静な雅とは思えないほど。
そこには強い感情が滲んでいた。
「私がどれだけ心配していると思っている。」
「……。」
ドモンは困ったような顔をする。
怒っている。
だが。
それ以上に心配しているのだと分かった。
「雅。」
「なんだ。」
「本当に力はある。」
「ならば。」
雅は真っ直ぐ見る。
「その力とは何だ。」
「……。」
ドモンは言葉に詰まる。
シャイニングガンダム。
自分だけの力。
それを話していいのか。
今まで簡単には明かしてこなかった力。
しかし。
このままでは。
雅は絶対に納得しない。
それどころか。
この状態の雅に、これ以上隠し事をすれば。
何をされるか分かったものではない。
「……分かった。」
ドモンは静かに息を吐く。
「証明する。」
雅の手が離れる。
「その力を。」
「ああ。」
ドモンは立ち上がる。
「ただし。」
「ここでは駄目だ。」
「この道場で使えば、被害が出る可能性がある。」
「人がいない場所。」
「そして、多少力を使っても問題にならない場所が必要だ。」
雅は少し考える。
「……心当たりがある。」
「ならば行こう。」
ドモンは頷いた。
◇
新エリー都郊外。
周囲には人の気配はなく、崩れた岩山だけが静かに佇んでいた。
「ここなら問題ない。」
雅が周囲を確認する。
「多少の力を使っても、市街地へ影響は出ない。」
「なるほど。」
ドモンは頷く。
「確かにここなら……。」
拳を握る。
「全力を出せる。」
その言葉に、雅は僅かに目を細めた。
「……全力。」
「そこまで言うか。」
「言ったはずだ。」
ドモンは真っ直ぐ雅を見る。
「俺の力を証明する。」
雅は静かに刀へ手を添えた。
「分かった。」
「ならば、私も本気で受けよう。」
「ただし。」
一瞬。
雅の目が鋭くなる。
「危険だと判断した場合は止める。」
「お前が相手でもだ。」
ドモンは少し笑う。
「昔から変わらないな。」
「何がだ。」
「心配性なところだ。」
「……。」
雅は僅かに眉を動かした。
「余計なことを言うな。」
「構えろ。」
「分かった。」
ドモンはゆっくり拳を握る。
そして。
右手を高く掲げた。
「出ろぉぉぉぉぉっ!!」
雅の目が見開かれる。
「……!」
空気が震える。
周囲のエネルギーが渦を巻き始めた。
エーテルとは違う。
しかし。
確かな力。
「ガンッダァァァァムッ!!」
そして指を鳴らす。
黄金の光柱が空へ伸びる。
轟音。
大地が揺れる。
光の中から、一つの機械が姿を現した。
ブッドキャリアー。
花が開くように展開していく。
その中心
光が収束する。
白い装甲。
青い胸部。
赤い脚部。
額に輝く黄金のV字アンテナ。
鋼の拳士。
シャイニングガンダム。
「……。」
雅は言葉を失っていた。
だが。
そこにいるのは間違いなく。
ドモンだった。
「これが……。」
「俺の力。」
シャイニングガンダムが拳を構える。
「シャイニングガンダムだ。」
雅は静かに呟いた。
「……なるほど。」
「確かに。」
「これは、私の知るどの武術とも違う。」
しかし。
恐怖はなかった。
むしろ。
雅の瞳には、戦士としての興味が浮かんでいた。
「面白い。」
刀を抜く。
妖刀。
骸討ち・無尾。
鞘から抜かれた刃が静かに輝く。
「ならば。」
「その力。」
「私が確かめる。」
◇
先に動いたのは雅だった。
一閃。
音すら置き去りにする斬撃。
しかし。
ギィンッ!!
シャイニングガンダムの腕部装甲が受け止める。
「……!」
雅が目を見開く。
硬い。
だが。
それだけではない。
ドモンの動き。
機械の巨体とは思えないほど滑らかだった。
「なるほど。」
シャイニングガンダムが拳を構える。
「ならばこちらから行く。」
踏み込む。
速い。
雅は紙一重でかわした。
拳が地面を砕く。
「……!」
衝撃波。
「大きな力。」
雅は距離を取る。
「しかし。」
刀を構える。
「動きはドモンそのものだ。」
シャイニングガンダムの頭部が僅かに動く。
「分かるのか。」
「当然だ。」
雅は答える。
「何年、お前の動きを見てきたと思っている。」
「拳の癖。」
「踏み込み。」
「間の取り方。」
「姿が変わろうと、本質は変わらない。」
ドモンは少し驚いた。
「……流石だな。」
「褒めても手加減はしない。」
雅が踏み込む。
連続斬撃。
右。
左。
上段。
シャイニングガンダムは後退しながら避ける。
しかし。
「まだだ。」
雅の姿が消える。
瞬間。
背後。
「!」
刀が迫る。
シャイニングガンダムは振り返りざまに腕を出す。
ギィンッ!
刃と装甲がぶつかる。
火花が散る。
「速い。」
ドモンが呟く。
「お前もな。」
雅は答える。
互角。
いや。
違う。
二人とも相手を理解しているからこそ成立する戦いだった。
◇
しばらくの攻防。
雅は一度距離を取った。
「……。」
息を整える。
「やはり。」
「この姿になっても、お前はお前だな。」
「どういう意味だ。」
「昔から変わらない。」
雅は刀を構える。
「強い力を持っている。」
「だが。」
「その力を振るう理由は変わらない。」
「誰かを守るため。」
ドモンは黙る。
「……。」
雅は続ける。
「だからこそ。」
「私は問いたい。」
「その力を持つ覚悟があるのか。」
その言葉に。
ドモンは拳を握った。
「ある。」
即答。
「俺は。」
「守るために拳を鍛えてきた。」
「そのための力だ。」
しばらく。
雅はドモンを見る。
そして。
小さく笑った。
「……そうか。」
「ならば。」
刀を納める。
「もう十分だ。」
シャイニングガンダムが動きを止める。
「終わりか?」
「ああ。」
雅は頷く。
「お前の力は理解した。」
「そして。」
「昔から何も変わっていないこともな。」
光が収束する。
シャイニングガンダムの姿が消え。
元のドモンへ戻る。
雅は彼を見る。
「一つだけ。」
「なんだ。」
「なぜ、もっと早く言わなかった。」
「……。」
ドモンは少し困った顔をする。
「秘密だったからだ。」
「そうか。」
雅は頷く。
「ならば今後は。」
一歩近付く。
「無茶をする前に相談しろ。」
「……善処する。」
「それは返事ではない。」
「……。」
ドモンは黙る。
雅は小さくため息をついた。
「本当に。」
「昔から変わらないな。」
夕暮れの荒野。
虚狩りと白の機神。
二人の戦いは終わった。
◇
夕暮れの荒野。
二人の間に静かな時間が流れていた。
「……。」
雅は先ほどまでシャイニングガンダムが立っていた場所を見る。
人の常識から外れた力。
本来ならば警戒すべき存在。
だが。
雅には分かっていた。
あの力を扱っていたのは。
昔から知っている少年だった。
「ドモン。」
「なんだ。」
「一つ確認する。」
「何を。」
雅は真剣な表情で尋ねる。
「その力。」
「いつから持っていた。」
「……。」
ドモンは少し考える。
「気が付いた時にはあった。」
「そうか。」
雅は頷く。
「ならば。」
「その力のせいで、今まで一人で戦っていたのか。」
「……。」
ドモンは答えなかった。
だが。
その沈黙が答えだった。
雅は小さく息を吐く。
「やはりか。」
「何がだ。」
「昔から変わらないと言った。」
「お前はいつもそうだ。」
「自分が傷つくことより、誰かが傷つくことを恐れる。」
「だから。」
「誰にも頼らず、自分だけで背負おうとする。」
ドモンは視線を逸らす。
「それが俺のやり方だ。」
「違う。」
雅は即座に否定した。
「それは、お前が選んだやり方ではない。」
「ただ。」
「そうするしかないと思い込んでいるだけだ。」
「……。」
ドモンは黙る。
昔。
道場で何度も聞いた言葉だった。
雅はいつもそうだった。
自分が間違っていると思ったことには、決して譲らない。
「だが。」
雅は続ける。
「その力があるなら話は変わる。」
「?」
「お前はもう、ただの無茶をする少年ではない。」
「その力は。」
「多くの人を守れる可能性を持っている。」
「だからこそ。」
雅はドモンを見る。
「使い方を間違えるな。」
「……。」
「力が大きいほど。」
「背負う責任も大きくなる。」
ドモンは拳を見る。
そして。
静かに頷いた。
「分かっている。」
「俺はこの力を……。」
「誰かを傷つけるためには使わない。」
雅はその答えを聞いて、少しだけ表情を緩めた。
「ならばいい。」
◇
その後。
二人は新エリー都へ戻る道を歩いていた。
「しかし。」
雅が口を開く。
「驚いた。」
「何がだ。」
「お前があれほど巨大な力を隠していたことだ。」
「……。」
「正直。」
「最初は心配していた。」
「お前は昔から身体能力だけで無茶をするからな。」
「だからホロウに入っていると知った時は。」
一瞬。
雅の表情が険しくなる。
「本気で止めようと思った。」
「……。」
「だが。」
雅は横目でドモンを見る。
「今なら理解できる。」
「お前は何も変わっていない。」
「昔も。」
「今も。」
「誰かを守るために戦っている。」
ドモンは少しだけ笑う。
「雅も変わらないな。」
「何がだ。」
「心配性なところだ。」
「……。」
雅は少し黙る。
そして。
「悪いか。」
「いや。」
ドモンは首を振る。
「助かっている。」
その言葉に。
雅は僅かに目を見開いた。
「……。」
「今。」
「何と言った。」
「助かっていると言った。」
「……。」
珍しく。
雅は言葉に詰まった。
「……お前は。」
「昔からそうだな。」
「何がだ。」
「無自覚に、こちらを困らせる。」
「?」
ドモンは本気で分かっていない顔をする。
雅は小さく息を吐いた。
「そういうところだ。」
「全く。」
「昔から変わらない。」
◇
そして。
帰り道。
雅はふと思い出したように尋ねる。
「ところで。」
「なんだ。」
「腹は減っていないか。」
「……?」
「鍛錬後だ。」
「食事は必要だろう。」
「いや、家に帰れば――」
「却下だ。」
即答。
「今日は私が用意する。」
「……。」
ドモンは嫌な予感がした。
「雅。」
「なんだ。」
「まさか。」
「修行後の食事も鍛錬の一環だ。」
「……。」
ドモンは空を見上げる。
「やはり変わっていない。」
「何がだ。」
「昔から強引なところだ。」
「褒め言葉として受け取ろう。」
「褒めていない。」
夕暮れの新エリー都。
虚狩りと、白き機神の力を持つ少年。
二人の関係は。
少しだけ昔へ戻っていた。
---
みなさんお待ちかねぇ!
自宅に帰宅したドモンは、適当に閉じ込められしまった!
果たしてドモンは無事脱出し、六分街に戻れるのでしょうか!
そして!ドモンを攫ったものの正体とは!
次回、ゼンレスゾーンゼロ 流派東方不敗、再臨す「大脱走!大脱走!囚われのドモン」にぃ、レディィィ、ゴォォォ!!
---