ゼンレスゾーンゼロ 流派東方不敗、再臨す   作:猫ロボF

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めっちゃ長くなってしまった。

ドモンの性格に少し粗が出始めていたので、この話で性格を直します。

どうやって性格を直すかだって?

本編に書いてるよ。


第五話 大脱走!囚われのドモン 下

ホロウの空気が震える。

 

儀玄の周囲を、無数の墨が漂う。

 

それは怒気。

 

いや。

 

抑え切れなくなった感情そのもののようだった。

 

「ドモン。」

 

もう一度、その名を呼ぶ。

 

「お前は。」

 

「私が何を思って、あそこへ連れて行ったと思う。」

 

「……。」

 

ドモンは答えない。

 

「休ませたかった。」

 

「それだけだ。」

 

「少しでも眠れば。」

 

「少しでも身体を休めれば。」

 

儀玄は一歩踏み出す。

 

「だが。」

 

「お前は。」

 

「その日のうちに逃げ出した。」

 

「儀玄。」

 

ドモンが口を開く。

 

「聞いてくれ。」

 

「聞かん。」

 

即答だった。

 

「今のお前の言葉など。」

 

「何一つ信用できない。」

 

「……。」

 

「大丈夫だ。」

 

「心配するな。」

 

「無茶はしていない。」

 

「昔から。」

 

「お前はそう言ってきた。」

 

儀玄は真っ直ぐドモンを見据える。

 

「そして。」

 

「毎回。」

 

「傷だらけになって帰ってくる。」

 

「違うか。」

 

「……。」

 

否定できない。

 

「私は。」

 

「お前を止めた。」

 

「それでも。」

 

「お前は聞かなかった。」

 

「だから。」

 

儀玄はゆっくりと右手を上げる。

 

墨が集まる。

 

幾重もの陣が展開される。

 

「言葉では。」

 

「もう足りん。」

 

「儀玄!」

 

ドモンが一歩踏み出す。

 

「俺は――」

 

「黙れ。」

 

低い声。

 

その一言だけで。

 

周囲の空気が張り詰める。

 

「私は。」

 

「怒っているんじゃない。」

 

「……。」

 

「怖かったんだ。」

 

その言葉に。

 

ドモンの動きが止まる。

 

「港で。」

 

「術式が示した先が。」

 

「ラマニアンホロウだった。」

 

「その瞬間。」

 

儀玄は目を閉じる。

 

「間に合わなかったと思った。」

 

「また。」

 

「失うと思った。」

 

「……。」

 

ドモンは目を見開く。

 

儀玄は静かに続ける。

 

「残された者が。」

 

「どれほど苦しいかを。」

 

「私は。」

 

「もう二度と。」

 

「味わいたくない。」

 

その言葉には。

 

一人の女性としての。

 

本心が込められていた。

 

「だから。」

 

儀玄はドモンを見る。

 

「今日は。」

 

「お前を叩きのめす。」

 

「……!」

 

「身体で覚えろ。」

 

「お前が無茶をするたびに。」

 

「どれだけ周囲が心配するのかを。」

 

「それが。」

 

「今のお前に必要な修行だ。」

 

ドモンは静かに拳を握る。

 

「……分かった。」

 

ゆっくりと構えを取る。

 

「なら。」

 

「俺も逃げない。」

 

 

「来い。」

 

ドモンの言葉と同時に。

 

墨の陣が弾けた。

 

空中に浮かぶ無数の墨が形を変える。

 

鳥。

 

刃。

 

槍。

 

それぞれが意思を持つかのように、ドモンへ向かって殺到する。

 

「……!」

 

ドモンは踏み込む。

 

拳。

 

蹴り。

 

体捌き。

 

飛来する墨の攻撃を、最低限の動きで避けていく。

 

「……。」

 

儀玄は目を細めた。

 

「悪くない。」

 

「昔よりも、随分と無駄が減った。」

 

「だが。」

 

次の瞬間。

 

儀玄の姿が消える。

 

「――!」

 

背後。

 

反応する。

 

ギリギリで腕を上げる。

 

ドンッ!!

 

掌底。

 

衝撃。

 

ドモンの身体が吹き飛ぶ。

 

「ぐっ……!」

 

地面を転がる。

 

すぐに起き上がる。

 

「……。」

 

息を整える。

 

「やはり。」

 

「強いな。」

 

「当たり前だ。」

 

儀玄は静かに歩く。

 

「お前がいない間も。」

 

「私は修行を続けていた。」

 

「……。」

 

「お前だけが成長していると思うな。」

 

ドモンは笑う。

 

「そういうところだ。」

 

「何がだ。」

 

「昔から負けず嫌いだ。」

 

「お前に言われたくない。」

 

即答。

 

一瞬。

 

二人の間に昔の空気が戻る。

 

しかし。

 

次の瞬間。

 

儀玄の表情が変わった。

 

「だが。」

 

「今は違う。」

 

「……。」

 

「これは修行ではない。」

 

「お前を止めるための戦いだ。」

 

再び墨が集まる。

 

「来い。」

 

「ドモン。」

 

ドモンは走った。

 

生身。

 

シャイニングガンダムの力を使わない。

 

拳と拳。

 

それが自分と儀玄の始まりだったから。

 

「せいっ!」

 

拳を放つ。

 

儀玄は受け流す。

 

力を逃がし。

 

逆にドモンの体勢を崩す。

 

「甘い。」

 

「……!」

 

足払い。

 

ドモンは跳ぶ。

 

空中で身体を捻り、蹴りを放つ。

 

しかし。

 

儀玄は呪符を足場に空中へ移動。

 

墨の帯がドモンの腕へ絡みつく。

 

「!」

 

一瞬。

 

動きが止まる。

 

「今だ。」

 

儀玄が距離を詰める。

 

掌。

 

「――!」

 

ドモンは咄嗟に防御する。

 

しかし。

 

重い。

 

圧倒的に重い。

 

「ぐ……っ!」

 

吹き飛ばされる。

 

岩壁へ激突。

 

「……。」

 

ドモンは倒れる。

 

身体中に傷。

 

息も荒い。

 

儀玄が呟く。

 

「昔から。」

 

「本当に頑丈だな。」

 

「それだけが取り柄だからな。」

 

ドモンは笑う。

 

しかし。

 

儀玄は笑わない。

 

「違う。」

 

「……。」

 

「お前の取り柄は。」

 

「強さだけではない。」

 

「だからこそ。」

 

「私は怒っている。」

 

その言葉。

 

ドモンの胸に刺さる。

 

「……。」

 

それでも。

 

儀玄は止まらない。

 

「まだ分からないか。」

 

「その身体で。」

 

「その力だけで。」

 

「ホロウに入り続けることが。」

 

「どれほど危険なのか。」

 

立ち上がる。

 

しかし。

 

膝が僅かに震える。

 

「まだやるか。」

 

儀玄が問う。

 

「当然だ。」

 

ドモンは答える。

 

「俺は。」

 

「逃げないと決めた。」

 

「……。」

 

儀玄は目を細める。

 

「そういうところだ。」

 

「本当に。」

 

「昔から変わらん。」

 

ドモンは拳を構える。

 

「儀玄。」

 

「俺は。」

 

「お前の言っていることが間違いだとは思わない。」

 

「……。」

 

「心配してくれていることも。」

 

「分かっている。」

 

儀玄の表情が僅かに揺れる。

 

「ならば。」

 

「なぜ。」

 

「それでも戦う。」

 

ドモンは拳を見る。

 

「俺には。」

 

「守りたいものがある。」

 

「だから。」

 

「戦う力を失うわけにはいかない。」

 

「……。」

 

「でも。」

 

一呼吸。

 

「お前が言ったことも。」

 

「忘れない。」

 

儀玄は黙る。

 

そして。

 

小さく息を吐いた。

 

「本当に。」

 

「面倒な奴だ。」

 

「……。」

 

「昔から。」

 

「人の言葉を聞いているようで。」

 

「最後には自分の道を行く。」

 

「悪いか。」

 

「悪い。」

 

即答。

 

「だが。」

 

儀玄は構える。

 

「それがお前だ。」

 

墨が集まる。

 

「だからこそ。」

 

「私は。」

 

「本気で止める。」

 

ドモンも構える。

 

しかし。

 

次の瞬間。

 

儀玄が違和感に気付く。

 

「……?」

 

ドモンの周囲。

 

空気が変わる。

 

今までとは違う。

 

身体から発せられる気。

 

いや。

 

それだけではない。

 

エーテルとは違う。

 

術法とも違う。

 

未知の力。

 

「……ドモン。」

 

儀玄が問う。

 

「何だ。」

 

「お前。」

 

「まだ何か隠しているな。」

 

「……。」

 

ドモンは沈黙する。

 

儀玄は目を細める。

 

「答えろ。」

 

「その力は。」

 

「一体なんだ。」

 

ドモンは空を見る。

 

そして。

 

静かに右手を掲げた。

 

「出ろぉぉぉぉぉっ!!」

 

「……!」

 

空気が震える。

 

周囲のエネルギーが渦を巻き始めた。

 

エーテルとは違う。

 

しかし。

 

確かな力。

 

「ガンッダァァァァムッ!!」

 

そして指を鳴らす。

 

黄金の光柱が空へ伸びる。

 

轟音。

 

大地が揺れる。

 

光の中から、一つの機械が姿を現した。

 

ブッドキャリアー。

 

花が開くように展開していく。

 

その中心

 

光が収束する。

 

白い装甲。

 

青い胸部。

 

赤い脚部。

 

額に輝く黄金のV字アンテナ。

 

鋼の拳士。

 

シャイニングガンダム。

 

「……。」

 

静寂。

 

儀玄は目の前に立つ存在を見つめていた。

 

人の形をした機械の身体。

 

しかし。

 

そこにいるのは。

 

別の何かではない。

 

「……。」

 

儀玄の瞳の濁りが晴れ、金色へと戻る。

 

そして儀玄の金色の瞳が細くなる。

 

「ドモン。」

 

「それが。」

 

「お前の力か。」

 

シャイニングガンダム

 

ドモンは静かに頷く。

 

「ああ。」

 

「俺と共に戦ってきた力だ。」

 

「……。」

 

儀玄はゆっくりと歩く。

 

警戒している。

 

だが。

 

恐れてはいない。

 

「なるほど。」

 

「術法ではない。」

 

「エーテルでもない。」

 

「だが。」

 

儀玄は拳を握る。

 

「確かにお前の一部だ。」

 

「……。」

 

「これがあるから。」

 

「お前はホロウへ入ったのか。」

 

ドモンは答えない。

 

その沈黙が答えだった。

 

儀玄は小さく息を吐く。

 

「ならば。」

 

「話は簡単だ。」

 

「……。」

 

「来い。」

 

「ドモン。」

 

「その力を証明してみろ。」

 

シャイニングガンダムが拳を握る。

 

「分かった。」

 

「なら。」

 

「俺も本気で行く。」

 

 

次の瞬間。

 

二人の姿が消えた。

 

轟音。

 

拳と拳がぶつかる。

 

「……!」

 

儀玄は目を見開く。

 

先ほどまでとは違う。

 

速度。

 

威力。

 

反応。

 

全てが跳ね上がっている。

 

「これが……。」

 

「お前の力か。」

 

シャイニングガンダムの拳を受け流す。

 

しかし。

 

衝撃だけで足元の地面が砕ける。

 

「重いな。」

 

「儀玄!」

 

ドモンは踏み込む。

 

連続攻撃。

 

拳。

 

蹴り。

 

回転。

 

武術の動きは先ほどと変わらない。

 

だが。

 

一撃一撃の重さが違う。

 

儀玄は後退しながら墨の陣を展開する。

 

空中に広がる黒い陣。

 

無数の墨が刃となる。

 

一斉射出。

 

シャイニングガンダムへ迫る。

 

しかし。

 

ドモンは避けない。

 

腕を交差する。

 

装甲が墨の刃を受け止める。

 

「……!」

 

儀玄の表情が変わる。

 

傷一つない。

 

「防御力も高いか。」

 

「だが。」

 

儀玄は一瞬で距離を詰める。

 

「隙はある。」

 

掌。

 

ドモンの胸部へ叩き込む。

 

ドンッ!!

 

衝撃。

 

シャイニングガンダムが後退する。

 

「……!」

 

「どうだ。」

 

儀玄は言う。

 

「装甲があろうと。」

 

「動かしているのはお前自身だ。」

 

「焦り。」

 

「怒り。」

 

「迷い。」

 

「それらは隠せん。

 

シャイニングガンダムの拳が構え直される。

 

次の瞬間。

 

儀玄の姿が消えた。

 

「――!」

 

速い。

 

今まで以上に。

 

墨の翼。

 

青溟鳥。

 

無数の術式。

 

全てが一つの流れになる。

 

「もはや。」

 

「命数は尽きた。」

 

黒い影が迫る。

 

ドモンは防御する。

 

だが。

 

遅かった。

 

「……!」

 

一撃。

 

それは。

 

今までの攻撃とは比べ物にならなかった。

 

シャイニングガンダムの装甲が軋む。

 

「ぐ……っ!」

 

膝をつく。

 

「ドモン!」

 

儀玄自身が驚く。

 

だが。

 

止められない。

 

放った力は。

 

完全に直撃していた。

 

「……。」

 

視界が揺れる。

 

音が遠ざかる。

 

「儀……玄……。」

 

「ドモン!」

 

儀玄の声が聞こえる。

 

そして儀玄が涙を流す。

 

しかし。

 

もう。

 

意識は保てなかった。

 

 

白。

 

何もない空間。

 

音もない。

 

感覚もない。

 

「……。」

 

ドモンは目を開く。

 

「ここは……。」

 

見覚えのある場所。

 

だが。

 

同時に。

 

忘れていた場所。

 

「精神世界……か。」

 

その時。

 

背後から声が響いた。

 

「情けない。」

 

「……!」

 

振り返る。

 

そこにいたのは。

 

一人の男。

 

鍛え抜かれた肉体。

 

特徴的な髭。

 

鋭い眼光。

 

そして。

 

圧倒的な存在感。

 

「東方不敗……。」

 

男は腕を組む。

 

「久しいな。」

 

「ドモン・カッシュ。」

 

ドモンは目を見開く。

 

「なぜ……。」

 

次の瞬間。

 

ドゴォンッ!!

 

拳が飛んできた。

 

「ぐあっ!?」

 

ドモンの身体が吹き飛ぶ。

 

「な、何をする!?」

 

「何をする、だと?」

 

東方不敗は怒鳴る。

 

「貴様。」

 

「また大切な者を泣かせているではないか!」

 

「……!」

 

「昔からそうだ!」

 

「口数は少ない!」

 

「態度もぶっきらぼう!」

 

「愛想もない!」

 

「だが!」

 

一歩近付く。

 

「根の部分では。」

 

「誰よりも優しい。」

 

「だからこそ。」

 

「周囲の者は貴様を心配するのだ!」

 

ドモンは黙る。

 

「儀玄。」

 

その名前が出る。

 

「……。」

 

「分かっているのか。」

 

東方不敗は続ける。

 

「あの娘が。」

 

「どれだけお前を大切に思っているか。」

 

「幼き頃から。」

 

「互いに鍛え。」

 

「互いを認め。」

 

「お前が苦しい時には支え。」

 

「お前が迷った時には道を示した。」

 

「それでも貴様は。」

 

「また一人で背負おうとした。」

 

「……。」

 

「それは。」

 

「強さではない。」

 

「ただの不器用さだ。」

 

ドモンは拳を握る。

 

「……。」

 

「俺は。」

 

「守りたかった。」

 

「分かっている。」

 

東方不敗は即答する。

 

「だからこそ怒っている。」

 

「貴様の優しさは。」

 

「時に。」

 

「周囲を傷付ける。」

 

その言葉。

 

ドモンの胸に刺さる。

 

「……。」

 

「思い出せ。」

 

東方不敗が構える。

 

「お前が何者なのか。」

 

「拳だけではない。」

 

「力だけでもない。」

 

「心だ。」

 

「流派東方不敗とは。」

 

「己のためだけに振るう拳ではない。」

 

「守るために振るう拳だ。」

 

白い空間が揺れる。

 

ドモンの記憶が流れ込む。

 

幼い頃。

 

修行の日々。

 

敗北。

 

悔しさ。

 

出会い。

 

そして。

 

失ったもの。

 

全て。

 

「……。」

 

ドモンは顔を上げる。

 

「俺は……。」

 

東方不敗が笑う。

 

「身体は覚えている。」

 

「技も。」

 

「魂も。」

 

「貴様が積み重ねた全ては。」

 

「消えてなどいない。」

 

拳を握る。

 

その瞬間。

 

力が戻ってくる。

 

身体能力。

 

そして。

 

流派東方不敗。

 

完全な形で。

 

「立て。」

 

「ドモン・カッシュ。」

 

「貴様は。」

 

「こんなところで倒れる男ではない。」

 

ドモンはゆっくり立ち上がる。

 

「師匠。」

 

「なんだ。」

 

「……ありがとう。」

 

東方不敗は鼻を鳴らす。

 

「礼を言う暇があるなら。」

 

「さっさと戻れ。」

 

「待っている者がいるだろう。」

 

「……。」

 

ドモンは目を閉じる。

 

そして。

 

白い光が全身を包む。

 

「戻る。」

 

「俺は。」

 

「もう一度。」

 

「あいつと向き合う。」

 

光が弾ける。

 

 

ラマニアンホロウ。

 

倒れていたシャイニングガンダムの目に。

 

再び光が灯る。

 

「……。」

 

儀玄は息を呑む。

 

「ドモン……?」

 

「……。」

 

シャイニングガンダムが、ゆっくりと立ち上がる。

 

先ほどまでとは違う。

 

立ち姿。

 

呼吸。

 

構え。

 

全てが変わっていた。

 

「……。」

 

儀玄は黙って見つめる。

 

その姿は同じ。

 

だが。

 

そこに立っている男は。

 

どこか別人のようだった。

 

「ドモン。」

 

静かな声。

 

「意識はあるのか。」

 

数秒。

 

沈黙。

 

そして。

 

「……ああ。」

 

短い返事。

 

それだけだった。

 

しかし。

 

その声は。

 

どこか穏やかだった。

 

「心配を掛けた。」

 

「すまない。」

 

「……。」

 

儀玄が目を見開く。

 

謝罪。

 

昔のドモンなら。

 

まず口にしなかった言葉だった。

 

「お前……。」

 

「師匠に。」

 

ドモンは静かに空を見上げる。

 

「叱られた。」

 

「師匠?」

 

「……。」

 

「そうか。」

 

儀玄は深くは聞かなかった。

 

今は。

 

それよりも。

 

目の前の変化の方が大きかった。

 

「儀玄。」

 

ドモンは視線を向ける。

 

「お前が言っていたことは正しかった。」

 

「俺は。」

 

「自分のことを軽く見過ぎていた。」

 

「……。」

 

「お前を。」

 

「心配させた。」

 

「怖い思いをさせた。」

 

「悪かった。」

 

静かな声。

 

飾らない言葉。

 

儀玄は何も言えなかった。

 

今まで。

 

何度言っても届かなかった言葉が。

 

ようやく。

 

彼自身の口から出た。

 

「……。」

 

「だが。」

 

ドモンは拳を握る。

 

「それでも。」

 

「俺は戦う。」

 

「助けを求める人がいるなら。」

 

「放っておけない。」

 

「子供ならなおさらだ。」

 

「泣いている顔を見るのは。」

 

「好きじゃない。」

 

ぶっきらぼうな口調。

 

それでも。

 

その声には優しさが滲んでいた。

 

「だから。」

 

「俺は力を振るう。」

 

「でも。」

 

一拍置く。

 

「今度は。」

 

「一人では抱え込まない。」

 

儀玄を見る。

 

「相談する。」

 

「頼る。」

 

「……お前にも。」

 

その言葉に。

 

儀玄の肩が僅かに震えた。

 

「ようやく。」

 

「そんな言葉が言えるようになったか。」

 

「師匠に殴られたからな。」

 

ドモンは小さく苦笑する。

 

「痛かった。」

 

「.........当然だ。」

 

儀玄も僅かに口元を緩める。

 

「昔から。」

 

「お前は殴られないと分からん。」

 

「否定できない。」

 

短く返す。

 

そのやり取りは。

 

幼い頃と何も変わらない。

 

「……。」

 

だが。

 

儀玄は再び構えた。

 

「話は終わりだ。」

 

「?」

 

「私はまだ。」

 

「お前の力を見ていない。」

 

ドモンは首を傾げる。

 

「さっき十分見ただろう。」

 

「違う。」

 

儀玄は首を振る。

 

「さっきのお前は。」

 

「迷っていた。」

 

「今のお前は違う。」

 

墨が静かに舞う。

 

「その力が。」

 

「本当にお前の覚悟と共にあるものなら。」

 

「私に勝ってみせろ。」

 

「……。」

 

ドモンは少し困ったように頭をかく。

 

「本当に。」

 

「昔から容赦がないな。」

 

「誰のせいだと思っている。」

 

「……俺か。」

 

「そうだ。」

 

即答だった。

 

ドモンは小さく息を吐く。

 

そして。

 

ゆっくりと構える。

 

シャイニングガンダムも同じように拳を握る。

 

その構えは。

 

以前とは比べものにならないほど自然だった。

 

「儀玄。」

 

「なんだ。」

 

「終わったら。」

 

「飯でも食いに行くか。」

 

突然の言葉。

 

儀玄は一瞬だけ固まる。

 

「……ああ!」

 

ドモンは苦笑した。

 

その笑みは。

 

不器用で。

 

少し照れ臭そうだった。

 

だが。

 

昔よりずっと柔らかい。

 

儀玄も。

 

ほんの僅かに笑う。

 

「その笑顔なら。」

 

「子供も安心するだろう。」

 

「笑うのは得意じゃない。」

 

「知っている。」

 

「だが。」

 

「悪くない。」

 

ホロウに吹く風が止む。

 

二人は静かに向かい合う。

 

もうそこに。

 

怒りだけはなかった。

 

互いを認め合う。

 

二人の拳士だけが。

 

静かに拳を構えていた。

 

 

次の瞬間。

 

二人が同時に踏み込んだ。

 

ドンッ!!

 

拳と掌が激突する。

 

衝撃が周囲へ走る。

 

ホロウの地面がひび割れ。

 

砕けた岩が舞い上がる。

 

「……!」

 

儀玄は驚く。

 

違う。

 

先ほどまでとは。

 

力任せではない。

 

相手の力を受け。

 

流し。

 

返す。

 

流派東方不敗の技が、完全な形で蘇っていた。

 

「そうか。」

 

「それがお前の本来か。」

 

「……。」

 

ドモンは答えない。

 

無駄な言葉はない。

 

その代わり。

 

拳が語る。

 

踏み込み。

 

肘。

 

裏拳。

 

回し蹴り。

 

全てが一つの流れとなって襲い掛かる。

 

「見事。」

 

儀玄は呟く。

 

呪符を踏み。

 

宙へ舞う。

 

墨が龍となり。

 

ドモンへ襲い掛かる。

 

「!」

 

シャイニングガンダムが拳を握る。

 

「はあっ!」

 

拳が龍を貫く。

 

墨が霧散する。

 

しかし。

 

その瞬間には。

 

儀玄が懐へ入っていた。

 

「そこだ。」

 

掌打。

 

ドモンは身体を半歩ずらす。

 

掌は装甲をかすめるだけで終わる。

 

「避けたか。」

 

「危なかった。」

 

短いやり取り。

 

それだけで互いの力量を理解する。

 

「……面白い。」

 

儀玄は初めて戦いの中で笑った。

 

「ようやく。」

 

「本当のお前と拳を交えられる。」

 

「俺もだ。」

 

ドモンも僅かに笑う。

 

「昔は。」

 

「負けっぱなしだったからな。」

 

「今も勝たせるつもりはない。」

 

「厳しいな。」

 

「当然だ。」

 

儀玄は墨を纏う。

 

ドモンは静かに目を閉じる。

 

儀玄も静かに両手を広げる。

 

無数の呪符が宙へ舞い。

 

墨が巨大な円陣を描く。

 

儀玄の周囲に、無数の呪符が舞う。

 

その一枚一枚に込められた力は。

 

先ほどまでとは明らかに違っていた。

 

「……。」

 

ドモンは静かに立つ。

 

焦りはない。

 

怒りもない。

 

ただ。

 

真っ直ぐに儀玄を見ていた。

 

「来い。」

 

儀玄が告げる。

 

「これが。」

 

「今のお前と私の全力だ。」

 

「……。」

 

ドモンは拳を握る。

 

「分かった。」

 

短い返事。

 

次の瞬間。

 

儀玄が動いた。

 

「――!」

 

墨が一斉に放たれる。

 

刃。

 

槍。

 

獣。

 

龍。

 

無数の攻撃がシャイニングガンダムへ殺到する。

 

しかし。

 

ドモンは動かない。

 

ただ。

 

目を閉じる。

 

「……。」

 

静寂。

 

戦場の音が遠ざかる。

 

儀玄は眉をひそめた。

 

「何をしている。」

 

答えはない。

 

ドモンは感じていた。

 

機体。

 

自分の身体。

 

そして。

 

心。

 

全てが一つになっていく感覚。

 

守りたい。

 

傷付けたくない。

 

もう誰かを悲しませたくない。

 

その想いが。

 

怒りではなく。

 

純粋な力へ変わっていく。

 

「……これが。」

 

「俺の答えか。」

 

次の瞬間。

 

シャイニングガンダムの装甲が震えた。

 

シャイニングガンダムの頭部のフェイスカバーが開き、バーストコアが露出する。

 

肩部フィールド発生器が展開し、ふくらはぎのレッグカバーが開いて内部バーニアが露出する。

 

そして。

 

白い装甲。

 

青い胸部。

 

赤い脚部。

 

その全てが。

 

黄金へ染まっていく。

 

「……!」

 

儀玄が息を呑む。

 

機体から溢れる力。

 

先ほどまでとは比べ物にならない。

 

「色が……変わった?」

 

黄金に輝く機体。

 

その姿は。

 

まるで太陽そのものだった。

 

ハイパーモード。

 

ガンダムファイターの精神が。

 

明鏡止水の境地へ達した時のみ到達できる姿。

 

機体と操縦者。

 

その心が完全に重なった証。

 

「ドモン……。」

 

儀玄は呟く。

 

「これが。」

 

「お前の本当の力か。」

 

シャイニングガンダムがゆっくりと拳を構える。

 

「違う。」

 

ドモンの声が響く。

 

「これは。」

 

「俺一人の力じゃない。」

 

「……。」

 

「俺を信じてくれた人達。」

 

「俺を心配してくれた人達。」

 

「その想いがあるから。」

 

黄金の拳が輝く。

 

「俺は戦える。」

 

儀玄は目を細める。

 

そして。

 

最後の術式を展開した。

 

「ならば。」

 

「受け止めてみろ。」

 

墨の全てが一つになる。

 

巨大な黒い掌。

 

ホロウ全体を覆うほどの力。

 

「これが。」

 

「私の想いだ。」

 

「ドモン。」

 

ドモンは静かに頷く。

 

「なら。」

 

「俺も。」

 

「俺の想いをぶつける。」

 

黄金の輝きがさらに増す。

 

右腕へ全ての力が集中する。

 

そして。

 

ドモンは叫んだ。

 

「俺のこの手が光って唸る!!」

 

黄金の光が爆発する。

 

「お前を倒せと輝き叫ぶ!!」

 

右手が巨大な光を纏う。

 

「必殺!!」

 

一歩踏み込む。

 

「シャァァァイニングゥゥゥ!!」

 

拳を突き出す。

 

「フィンガァァァァァァ!!」

 

黄金の掌が。

 

黒い墨の掌を真正面から打ち砕く。

 

ドォォォォォンッ!!

 

衝撃波がホロウを駆け抜ける。

 

墨が消える。

 

呪符が舞い散る。

 

そして。

 

黄金の右手は。

 

儀玄の目の前で止まった。

 

寸前で。

 

ドモンが力を制御した。

 

破壊ではない。

 

勝利の証として。

 

「……。」

 

儀玄は動かない。

 

やがて。

 

小さく息を吐いた。

 

「……負けたな。」

 

ドモンはハイパーモードを解除する。

 

黄金の輝きが消え。

 

いつものシャイニングガンダムへ戻る。

 

「儀玄。」

 

「……なんだ。」

 

「ありがとう。」

 

儀玄は少し目を伏せる。

 

「礼を言うのはこちらだ。」

 

「……。」

 

「お前が。」

 

「まだ誰かの想いを受け取れる人間で。」

 

「少し安心した。」

 

ドモンは視線を逸らす。

 

「……。」

 

「素直じゃないな。」

 

儀玄が小さく笑う。

 

「お互い様だ。」

 

ドモンも僅かに笑った。

 

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