「というワケだからさ、行ってくるよ。2~3日で帰ってくるから心配しないで」
その日の昼過ぎ時、レックスは依頼を受けた事をセイリュウに報告する
「というワケだからさーじゃないわい!そんなわけのわからん仕事を引き受けおって、依頼主の素性もわからんのじゃろ?」
案の定レックスはセイリュウに叱られた。まぁ触り程度の内容で了承するのは商売上誉められたものではない
「会長直々の仕事だよ?それにケンさんもいるから大丈夫だって!じゃあ行ってくる。じっちゃんはここでのんびりしててよ」
「お、おい!待つんじゃレックス!レックス!」
レックスは小言を言われる前に退散して集合場所へと走っていく
「全く、無鉄砲な所はどうにかならんもんかの・・・」
「そう言わないでやって下さいセイリュウさん。レックスは村に恩返ししたいんでしょう」
その隣に係留延長の手続きと自身の船で必要な装備を身に着けたケンがやって来る
「今回の依頼、どうも怪しすぎる。ワシとしては関わってほしくないんじゃが・・・」
「僕が着いて行きます。依頼中にもしも危険な感じがしたら途中で離脱も視野に入れるのもやむを得ないでしょう」
「はぁ・・・苦労かけるの」
「いえ、一応先輩ですから」
それから後、レックスとケンは集合時間になるまでにの数時間を商船の宿屋で過ごすことにした。宿の一室で二人は装備の確認と整備をしていた
「そういえばケンさんってメロロさんから報酬貰う時何割か受け取らないで預けてるよね。あれってなにしてるの?」
商売道具のアンカーショットのワイヤーに損傷がないか確認しながら巻き直しながら交易所での出来事を思い出しケンに質問する
「ん?ああ、あれは投資だよ」
「そっか、投資だったんだ。いっつもメロロさんにお金預けてたからなにしてるんだろって思ってたんだ」
潜水ヘルメットの面ガラスと側面ガラスのパッキン部分を確認しながらケンが応える
「面向かって言うとそれを聞きつけたごろつきに絡まれるかもわからないからね。メロロさんを通じてバーン会長と取引をしてるんだよ」
「だから上客っていってたんだね」
ワイヤーを巻き直して準備が完了したレックスは食堂で買った食糧にかぶりつく
「あの時の依頼も本来ならレックスに指名が入ったんだろうけど、バーン会長が無理矢理捻じ込んだと思う。そうすれば報酬の半分ぐらいが資金として入ってくると見越してね」
「なんか、生々しいね・・・」
社会の一端を垣間見たレックスは明らかに引いている
「でも悪い事じゃないよ、協力している分此方の要求もある程度こたえてくれるよ」
「だから宿代タダにしてくれたんだ」
ケンも整備を終えてヘルメットを机の上に置く
「後は今回の依頼が事がうまく運ぶかどうかだけどね」
~
夕暮れ時、2人は目的地に向かう為、商船の隣に止められているアルス船のウズシオの前に来ていた
「ウズシオを出すのかぁ、会長も豪気だなぁ」
「バーン会長、今回の事業かなり乗り気みたいだね」
「この程度の船でナニ感動してんのさ。本っ当に子供なんだから」
そんな2人の後ろからニアとビャッコがやってきた
「子供とか大人とか関係ないだろ。この船のすごさがわかんないのかよ?」
「世間知らずはめんどくさいって言ってんの」
「同い年くらいのクセに偉そうに・・・」
売り言葉に買い言葉の応酬の中レックスはニアが短艇索を踏んでいる事に気づく
「あ、そこのロープ。踏んづけてると出航の時に巻き込まれて足が千切れるぞ」
「ええっ!?」
「嘘だけど」
「アンタねぇ!!」
「世間知らずはお互い様みたいじゃないか」
実際には足こそ千切れはしないが骨折や圧死することがあるので注意が必要ではある。2人の口喧嘩にケンはどうしようか悩んでいると今回の仕事を統括するサルベージャーの責任者がやってくる
「ここにいたのか。そろそろ出航するぞ、2人とも別に見送りはいないんだろ?レックス、お前は夜更けから見張りをしてもらうからそれまで中で休んでいろ。ケンは目的の物を引き上げる為のクレーンの準備と不備がないかの確認を手伝ってもらいたい」
「わかりました」
「りょーかい、じゃーな」
「ふんっ」
2人がウズシオに先に乗り込みその後依頼主が乗船してしばらく後、アルス船は目的地に向かって出航した
~
日が沈み、責任者の指示に従いレックスは見張りに向かいケンは外でクレーンの点検作業をしている。当番以外は酒盛りを始めているがそれには気にも留めずボルトやワイヤーの緩みがないかのチェックをしていた
「・・・」
ケンは自分の背後から気配を感じるが気にせず作業を続ける
「なにか御用ですか?」
その気配の正体はあの仮面の男だった
「・・・一つ聞きたい」
「はい、何でしょう」
「お前はこの世界をどう思っている」
「・・・と、いうと」
「アルスが死に、住める地がなくなりつつあるにも関わらず人は尚も争い続ける。過ちを繰り返す人とこの時代にお前はどう思う」
仮面の男の質問を背中で聞きつつボルトを工具で締め直す
「・・・サルベージャーのお前に聞いても無駄だったか」
背を向けて船内に向かおうとしている仮面の男にケンはボルトを締めて工具を直すと口を開く
「争い自体は、この先も続くでしょう。例え国同士の戦いがなくなっても大小問わずの争いはなくならないと思います」
思いがけない答えだったのか、仮面の男の足が止まる
「・・・随分と、投げやりな見方をするものだな」
「投げやりというより、事実としてそう思っているだけです。人は、そう簡単には変わらないものですから」
「では、お前もまたこの世界に何も期待していない、ということか」
工具箱に工具をしまいながら、ケンは少し間を置いて答える
「そうではありませんが・・・。ですが、それとこれとは別の話にはなります」
「――別、とは」
「争いが続くかどうかと、戦火に巻き込まれて助けを求めている人を放っておくかどうかは、別の話だと考えています」
仮面の男は、しばしその場に立ち尽くしたまま、何も言わなかった
「・・・お前は、それで満足なのか。世界が変わらずとも、目の前の一人を救えれば、それでいいと」
「満足かどうかとは、考えたことはありません。ただ、1人を助けられずに全てを救うことはできません。壊したり傷付けるのは容易い、ですが救けるのは極端に難しい、1人を救うのが精一杯の事など殆どです」
「――1人を救うのが精一杯、か」
仮面の男の声に、微かな苦さが滲む
「俺には、逆に見えるがな。目の前の1人を救うことに逃げているだけで、本当は、この世界そのものに、何か思うところがあるんじゃないのか」
「どうでしょう。僕には、大きすぎる話です」
「・・・そうか」
仮面の男は、それだけ言うと、再び船内へと足を向ける
「――もしいつか。この世界の在り方そのものを、作り直した方がいいと誰かが言い出す時が来たとして」
歩きながら、独り言のように、その声が続く
「その時、お前はどちらに立つ」
ケンは、その背中に向けて短く答える
「――誰のための作り直しなのか。それ次第でしょうか」
仮面の男の足が、ほんの一瞬、止まる
「それに、貴方の様な目をしていた人を知っています。氷の様に冷たい表情をしていても悲しみに満ちた目をした人を」
「・・・面白いことを言う」
それだけ返すと、仮面の男は今度こそ、振り返ることなく船内へと消えていった。ケンはそれを横目に遠くで商会に停泊していた黒い船がウズシオを追跡しているのが見えた
~
仮面の男と問答をした次の日の夜、激しい雷雨に見舞われる中ウズシオが進む。船員部屋でレックスは寝台で、ケンが椅子に座り腕を組んで眠っている所で部屋に付いている伝声管から声が響く
『現地到着、各作業員は持ち場に着け!サルベージャーは装備を整えハッチに集合!』
その声を聞いた2人は素早く立ち上がり集合場所に向かう
「目標は海面から深度450の沈没船の中にある。雲海中に没したままの船内を探索は困難を要する。先ずはフロートとクレーンで船体を引き揚げた後、各班に分かれ船内を探索、目標を発見次第改修作業を開始とする。では初めにフロートの取付作業から開始する、持ち場に付け!」
責任者の指示で外へと向かおうとした時上からニアが声を掛ける
「高い金払ってんだから、しっかりやれよ!」
「偉そうに・・・」
「まぁまぁレックス、先ずは仕事を果たそう」
「わかってるよ」
「よし、潜行開始!」
ケンが諫め、他のサルベージャーに続くように雲海に跳び込んでいった。引き揚げクレーンの降下と共に暗い雲海を進む、ライトの無数の明かりが闇を照らす、やがて暗い底からウズシオを遥かに上回る巨大な船体の影が見えた。レックスとケンは一旦別れお互い片側で作業を開始する、船体が傾かない様にクレーンで掴ませ次に浮かせるためのフロートを取りつける。熟練したサルベージャーで構成されたチームはこの作業を短時間かつ的確に完了させる。フロートの膨張に巻き込まれないよう距離を十分に取るとそれが一気に膨らみクレーンが古代船が金属特有の軋みを響かせながらその船体が上へと浮き上がる。それから少し後、古代船は遂に海面からその巨体を現した
「大きい・・・」
「見てくれは情報通りだな。問題は中身・・・か」
ニアはこれまでそのサイズの船を見たことがないのか驚いている、メツは何かを臭わせる
「固定完了、内部探索に移行する」
仮面の男は何も言わず古代船に向かう為背を向けた。仕事を終えたレックスとケン、そこにニアとビャッコが近づく
「見事な手際だった。なかなかやるじゃない」
「本業をなめるなって」
「準備ができた者から作業開始!」
「さて、俺達も行くか」
メツが船の入り口へと歩を進めるが仮面の男がレックスの方を見る
「お前も来い」
「え?」
「こいつも連れて行くっていうの?シン」
レックスに付いてくるよう指示したニアが予想外の事に理由を質問するがメツが代わりに応える
「お前らだけじゃ不安だとよ」
「なっ!?」
笑って進むメツを睨むニア
「何ボーッとしてんのさ、言われたろ、着いてくるんだよ」
八つ当たりを含んだ言動にレックスは何も言えなかった
「レックス、ここは彼らと同行しておいた方がいい。僕は他の人と一緒にめぼしい物を探しておくよ、君の分までね」
「・・・わかったよ、なんか釈然としないけどさ」
すっきりしないレックスの肩にケンは手を置いて頷く、思う事があるが仕事と割り切りレックスはニア達に付いて行く。ケンはその後ろ姿を見送った
続く
次からグーラに入れればと思います