魔法少女の敵役、命欲しさにドノツラフレンズになる。 作:ドノツラフレンズ
俺!悪の組織辞めるわ!!
転生XX日目。今日、俺はその決意をした。
順を追って話そう。
俺は一度死んで蘇った人間だ。
有り体に言えば『転生』……そんな経緯をもってこの世界に生まれてきた。もう一度生きるチャンスを神は俺に与えてくれたのだ。
前世の俺は17歳……青春を謳歌していたとは言わないが、それなりに楽しい日々を送っていた所で交通事故で死亡! 深夜のコンビニ帰り、信号無視の大型トラックに巻き込まれた。
痛みすら感じる暇もなかったのが、せめてもの救いだったかもしれない。
正直やりたいことやり残したこといっぱいあったから、こうしてまた再び生きる事が出来るのは何よりの幸福だった。
受験も、青春も、莫大なソシャゲの課金も、全部中途半端なまま置いてきちまったからな。
ありがとう神様!信仰はしないけど感謝はします!
そして神様!俺は貴方に言いたいことがもう一つあります!
『征け!我が下僕
「御意!」
……いや、待て待て待て。俺は今、自分の口から出た「御意」の二文字に一番驚いている。生まれたての意識のはずなのに、体の方が勝手に忠誠を誓っていやがる!?
何だこの躾の行き届いた下僕根性は!?前世でブラック企業にでも勤めてたのか俺、学生やっちゅーに!?
何故俺をこんな悪の組織匂プンプンな場所出身にしやがった!?目の前の明らかなラスボスさんが人間達の命狩り取る言う取りますけど!?
もっと普通の……現代日本に転生させてくれなかったんですか!?せめて村人Aとか、高貴な家庭の三男坊とか、そういう無難な枠は無かったんですか!?
ねぇ神様ァ!聞いてるのかあんたァッ!!
――――――――――――――――――――
ふぅ、落ち着いて現状を報告しよう……俺が今いるのは『魔界』と呼ばれる……まぁ、悪魔だの魔物だの、そういった化け物が暮らす世界だ。
空は常に紫がかった曇天で、地面からは黒い瘴気がゆらゆらと立ち上っている。景観としては最悪だ。間違ってもここに好んで暮らしたい人間はいないだろう。俺もいるだけでSAN値が削れそうだ。
ついでに言うと、俺自身の姿も大概だった。近くの黒い水たまりに映った自分を覗き込んで、俺は静かに絶望した。
狼の悪魔だ……名前は
様々な世界に侵攻し、そこにある命を根こそぎ奪い取り今日の獲物に変える……厳密には、この魔界の支配者『ギルアクド』の贄にするのだ。
ちなみにこのギルアクド、体長は俺の十倍近くあり、口から常時黒い炎を垂れ流している、絵に描いたようなラスボスビジュアルをしている。あの見た目で「御意」以外の返事を許されるとは思えない。発した瞬間燃やされそうだ。
そんなギルアクドの次なる標的は人間界……俺も嫌な予感がしたけど、うん!バリバリ現代日本だったね!いやぁ斥候として送られたけど、懐かしかったよ!俺がいた現代とはまた違った雰囲気だったけどね。
街並みも微妙に違うし、コンビニの看板の色や名前も違う。多分並行世界的な何かなんだろう、細かいことは気にしたら負けだ。
斥候の任務自体は単純明快、人間界の防衛体制や有力な戦力を調べて報告するだけ。楽勝だと思っていた。俺だって前世で17年間くらいは人間やってたんだ、人間界の偵察くらい朝飯前だと高を括っていた。
人間に擬態するのも朝飯前……何せ元が人間だったんだからな。擬態自体が悪魔に備わった古典的な能力の一つらしいが、馴染みのないものに擬態するのは皆苦戦するらしい。
そんな中であっさりと人間に擬態できたからこそ、俺は斥候の任務を与えられて人間界に降りることができたというわけだ。
そんでまぁいつも通りギルアクドの……魔界の悪魔達による侵攻が始まったんだが、そこで斥候として経過を観察していた俺は俺は驚くべき物を目にした。
「『マジカ・スラッシャー』!!」
「グアアアアアア!?!?」
派手で星型の舞うようなエフェクトの付いた強大な魔力の秘めた斬撃が、人間界に現れた尖兵の一人を薙ぎ払う。
魔界では魔力と言う力はありふれたものだ、地球で言う酸素や二酸化炭素と同じように当たり前にあるものだ。だからこそ、その一撃に込められた密度が異常だってことだけは、俺にも肌で分かった。
問題なのはその魔力を放った張本人である。ピンク色の髪をツインテールにしたフリルのついた派手なドレスを纏いながら、片手に剣を携える。
腰には小さなリボン型の武器入れ、足元にはハートを模った光の紋章。その出で立ちを、ひと言で表すなら……そう。
(この世界、魔法少女モノの世界だコレ!?!?)
魔法少女……日曜日朝から子どもたちに見せる楽しい番組もあれば、深夜に大きなお友達を熱中させ最終的に嗚咽と涙できったない顔にさせる作品と幅広く存在する。
目の前の彼女がどちら側の出身なのかは分からないが、少なくとも戦闘力に関してはガチ中もガチ、シリアス方面のそれだった。普通にばっか強い。
まだどんな世界かは断定はできないが、間違いない……この世界は俺の知ってる現代日本とはまた違う…………魔法少女モノの世界だ!! しかも主人公が最初からなんかすげぇ強ええタイプだ!
そうなると、ちょっと今の俺の立場をどうしようか考えてしまう。だって俺このままだと死ぬじゃん!?
あの斬撃、たぶん俺受けたら普通に死ねる!いやだ!せっかく生き返ったのに再び地獄行きとかごめん被るんだが!?
と言うな魔法少女モノでウチみたいなコテコテな悪の組織が勝てるわけねぇだろ!?と言うか魔法少女モノで勝ち逃げする悪の組織とか見たくないわ俺!!前世で散々そういう作品見てきたから分かる、悪の組織は最終回までに必ず退場する運命にあるんだよ!!
それに何より、折角現代日本と繋がりを持てたのだ。その繋がりをみすみす手放すのも惜しい……
主に食!もう魔界で魔物を狩って食べるのは嫌だ!和食洋食中華が食いたい!ラーメン食いてぇしハンバーガー食いてぇしそろそろ寿司を食べないと死ぬぜ!!
魔界の飯なんて瘴気の匂いが染み付いた謎肉のスープばっかりだぞ、あんなもん三食続けたら味覚どころか精神まで死ぬ。
おかげで俺すっかり粗食になってさぁ……人間界の飯がいかにうまそうに思えたか……金無いからどうにもできなかったけど。
それに何より、俺はこうして魔界の悪魔として転生と言う形で再び生き返る事が出来たのに、俺が安心して生きる為に同じ死をこの世界の誰かに押し付けるのは気が引けた。
人間界の人々にも、それぞれの前世ならぬ「今生」があるはずだ。俺が生き延びるために誰かの命を終わらせるなんて、目覚めが悪すぎる。
その死の中に一応は同胞である悪魔や魔物の死が入ってこないあたり、俺は本当に心の奥から人間なんだと実感できて、その歪さがどこか嫌になってくる。
悪魔に転生したくせに、悪魔の仲間の心配より人間の命の方を優先してしまう、この根本的なズレ……そこにどうしょうもない矛盾を抱え感じながらも、俺は考える。
(こうなりゃ俺がやれることは一つだ……)
……美味いこと魔界側を寝返って、魔法少女相手にいいタイミングでドノツラフレンズバリの味方化するしかねぇ!!
もう俺の生き延びる道はそれしかねぇ! ラーメンと寿司の為なら、俺は今日この時をもって寝返る覚悟がある。ギルアクド様、大変申し訳ありません!俺アンタの部下辞めます!!
大丈夫!斥候ならまだ何人もいるから!1人くらい抜けても大丈夫でしょう!!
悪魔が暴れて瓦礫の山となった街に潜みながらそう考えて笑う……瓦礫の街にいる理由?あの悪魔が暴れたのに巻き込まれたんだよ。
全く……力任せのバカに暴れられるとコレだから困るぜ………兎に角一先ずここは退散しよう……と思ったのも束の間だった。
「――っ!!」
視界の端で、崩れかけたビルの壁面がずるりと傾くのが見えた。瓦礫の下敷きになっているのは、逃げ遅れた小さな影。四、五歳くらいだろうか、瓦礫の隙間にしゃがみ込んだまま、腰が抜けたように動けなくなっている子どもだった。
いや待て、俺は今から寝返る決意を固めたばかりだからってこんな試すような真似することないだろ神様ァッ!?人の命をなんだと思ってんだよ!俺がいえた口じゃないかもだけど!
そんな事を考えながらも気づいたら体が動いていた。
「うおおおおおおおおッ!!」
悪魔の脚力ってのは反則みたいに速い。特に俺みたいな陸地を駆ける狼の悪魔のは特にだ三歩で距離を詰め、崩れ落ちてくる壁面の下に滑り込むと、片腕で子どもを抱え込み、もう片方の腕でどうにか瓦礫の直撃を受け止める。
嫌な音と共に、肩から二の腕にかけて衝撃が走った。人間の体だったら間違いなく即死だった自信がある。悪魔の体で良かったと、初めて心から思った瞬間だった。
「……い、痛って……」
装甲のおかげで骨までは砕けなかったが、そこそこ効いた。まったく、悪魔の体ってやつも結構便利だな……やっぱ、こういう時だけは仕事するじゃねぇか。
腕の中の子どもは、目の前に突如現れた狼の悪魔――俺――を見て、案の定固まっている。そりゃそうだ、瓦礫から助けてくれた相手が明らかな化け物の面してたら誰だって固まる。
「あ……あくま……?」
「えっ、まぁそうなるの……か?まぁも少し待ってろ。」
自分で言ってて説得力の欠片も無いのは分かっている。だが今はそれどころじゃない、まだ余震のように瓦礫が崩れ続けていて、ここに突っ立っていること自体が危険だ。
「ほら、掴まれ。今のうちに逃げるぞ」
子どもを小脇に抱えたまま、俺は瓦礫の隙間を縫うように走り出した。悪魔の身体能力様々だ、前世の俺だったら絶対に無理な跳躍で瓦礫の山を飛び越え、崩壊した街の外れまで一気に駆け抜ける。
安全そうな路地裏まで辿り着いたところで、ようやく子どもを地面に降ろす。
「大丈夫か、怪我は」
子どもはこくこくと頷くだけで、まだ状況が飲み込めていない様子だった。まあそうだろう、突然街が壊れて、突然悪魔に助けられたんだから。俺が同じ立場でもフリーズする。
「よし、なら親御さん探して合流しろ。俺はこの辺で……」
すると子どもは俺をじっと見上げたまま、小さな声で言った。
「……ありがと」
その一言に、俺は柄にもなく胸の奥がぎゅっとなった。悪魔の体してるくせに、こういうところだけは前世の人間の心のままなんだから困る。
「……いいから早く行け。次は助けてやれるかわかんねぇぞ。」
照れ隠しに乱暴な口調で言うと、子どもは何度も振り返りながら路地の向こうへ走っていった。
その背中を見送りながら、俺は改めて自分に呆れる。寝返る計画を立てたその日のうちに、もう魔法少女側の被害者を助けてどうする。ギルアクドが知ったら間違いなく粛清案件だ。バレてないことを願う。
でもまあ、いいさ。どうせ寝返る予定だったんだ、今日一日くらい前借りでヒーロームーブしたって罰は当たらないだろう。
瓦礫の粉塵で汚れた自分の腕を見下ろしながら、俺はそっと路地裏の闇に紛れ込んだ。
(さて……次はどうやって「敵じゃありません」を証明したもんかね)
まだ何も始まっていないくせに、頭の中はすでに次の作戦会議で忙しかった。この光景を、誰かに見られていたらなんて考えは、とっくのとうに抜け落ちてしまっていた。