魔法少女の敵役、命欲しさにドノツラフレンズになる。 作:ドノツラフレンズ
私の名前は『柊アカネ』!
ごく普通の中学2年生……だったんだけど、ある日不思議なマスコット動物の『ミル』と出会って、私は魔法少女に変身する力を手にしました!
出会ったっていうか、正確には下校中いきなり空から降ってきたんだけどね。びっくりして悲鳴上げたら「落ち着くミル!人間!この程度で悲鳴を上げるなミル!」とか偉そうに言われて、その時点でもう色々おかしいと思った。
普通しゃべる生き物は空から降ってこないよ……アニメじゃないんだから……
しかも降ってきた着地の仕方が普通に顔面からダイブしてきて土煙上げてたし。私一瞬空からレンガでも落ちてきたのかと思っちゃったもん……あんなモフモフなマスコットだとは思わなかったよ。
それで、ミルが言うには『魔界』って呼ばれる世界が私達の世界を侵略しようと企てていて、それを抑えるために天界って呼ばれる場所からミルは派遣されたんだって。
「まぁミルが来たからには安心すると良いミル!」
見た目はモフモフの白いウサギみたいな感じなんだけど、態度だけは妙に偉そう。天界のエリートらしいけど……本当だろうか?さっき顔面からダイブしてきた情けない子とは同一個体とは思えないくらい偉そうにしてる。でもまぁ……可愛いから許す!!
改めて……魔界から現れる悪魔に効くのは魔力を用いた攻撃……その魔力を最大限の効率と出力で操れるのが魔法少女……って用語だらけで訳わかんないよね!私もよくわかってない!
ミルに「要するにどういうこと?」って聞いたら「要するに、ミルと契約して魔法少女になってよって奴ミル」って言われた。聞いたことあるフレーズだけど大丈夫かなそれ。
一応聞いておいたけど、ミルは「何のことミル?」って首を傾げるだけだった。正直明らかにとぼけてたと思う。
兎に角、世界がピンチだからどうにかしないといけない…………でも、そうはいきなり言われても中々実感できないし不審に思うのが普通。
でも、その考えを改めるのに時間は必要なかった。ミルと出会って暫くすると……突然町中に全身トゲトゲした、ミルの言う悪魔が街に現れて、私の故郷を滅茶苦茶にし始めました。
建物は壊れるしありとあらゆる場所から人の悲鳴が聞こえる……見慣れたはずの通学路が、あっという間に瓦礫だらけの知らない景色に変わっていくのを見て、私は自分の足が震えているのに気づいた。
でも同時に、こんなの見過ごせるわけないじゃんって気持ちの方が強かった。
「アカネ、決断はアカネ次第ミル。でも――」
「うん、分かってる」
ミルが最後まで言い終わる前に、私は答えを決めていた。
私は居ても立っても居られなくなり、ミルと契約して魔法少女になって魔界の悪魔と戦う道を選びました!
正直変身する前は「私にできるかな……」ってちょっとだけ怖気づいたけど、変身した瞬間なんかテンションおかしくなって「マジカ・スラッシャー!」とか叫んでる自分がいた。魔力ってメンタルにも作用するのかな、ちょっと怖いです。
というか自分でもびっくりするくらい声出てたし、決めポーズまで勝手に取ってた。変身って人を変えるんだね……変身前の私は絶対あんな大声出せるタイプじゃなかったのに。
……でも一番驚いた場面は、そのマジカ・スラッシャーで現れた悪魔を倒した後かな。
変身してからまだ数分しか経ってないのに、もう結構な数を相手にしている。魔力は無限じゃないってミルに言われてるから、あんまり派手な技ばっかり連発してると後半息切れするんだね。今度から気をつけよう……そんな事を考えてる時だったよ。
「アカネ、後ろ!」
ミルの声に反射的に振り返る。……でも敵は見当たらない。代わりに目に入ってきたのは、崩れかけたビルの外壁が、ずるりと傾いていく光景だった。
その真下に、小さな子どもがしゃがみ込んでいる。
「――ッ!!」
血の気が引いた。距離がある、間に合わない。魔力で足止めするにも、この距離じゃどうやっても守りきれない……頭の中で最悪の想像が一瞬よぎって、それだけで足が竦みそうになった。
でも次の瞬間、私が動くより先に、何か黒い影が瓦礫の中に飛び込んでいった。
「うおおおおおおおおッ!!」
雄叫びと共に、崩れ落ちてくる外壁の下に滑り込んだのは――狼みたいな見た目をした、丁度さっき私が戦っていた相手と同じような全身トゲトゲの悪魔だった。
片腕で子どもを抱え込み、もう片方の腕で瓦礫の直撃をまともに受け止めている。
鈍い音と共に瓦礫が砕け散り土煙が晴れた先で、悪魔は苦しそうに顔を歪めながらも、しっかり子どもを腕の中に守り切っていた。
「……え?」
思わず声が漏れた。頭が状況についていかない。だって、目の前で起きたことは、さっきまで私が見ていた「悪魔」のイメージと真逆すぎた。
悪魔って、人間を襲う側でしょ。街を壊して回るのも、瓦礫の下に子どもを取り残す原因を作ったのも、全部あいつらのはずでしょ。それなのに、なんで今、その悪魔が身を挺して子どもを庇ってるの。
「ミル……今の、見た?」
「……見たミル。変な悪魔ミル……何が目的ミル?」
いつも自信満々なミルの声にも、珍しく戸惑いが混じっていた。天界のエリートさんでも予想外の光景だったらしい。
悪魔は子どもを抱えたまま、瓦礫の隙間を縫うように猛スピードで駆け出していく。人間離れした跳躍力で瓦礫の山を飛び越えながら、あっという間に安全そうな場所まで子どもを運んでいった。
私は追いかけようとして、寸前で足を止めた。
攻撃するべきなのは分かってる。相手は魔界の悪魔で、私はそれを倒すために変身したんだから。ここで見逃す理由なんて、本当は無いはずだ。
でも、私の身体は動かなかった。
だって、あの光景を見た後で、あの悪魔に斬りかかるのは……なんか、違う気がした。理屈じゃなくて、感覚的な話で。
路地裏の陰から、悪魔が子どもに何か話しかけているのが見える。声までは聞こえないけど、身振りからして、優しく諭しているみたいだった。子どもも最初は怯えてたのに、最後には小さく頷いて、自分の足で走り去っていく。
悪魔はそれを見送って、少しだけ照れくさそうに頭を掻いていた。
……いや、悪魔が照れくさそうにするってどういうこと。私がさっき戦ってた悪魔は、あんな人間らしい仕草見せなかったよ……あの悪魔だけ明らかになんか様子が違う。
「アカネ、追撃なら今ミル!!」
「……うん、今回はいいや」
「なんでやめるミル!?悪魔に逃げられちゃうミル!」
「なんとなく。……あの悪魔、なんかちょっと変な感じがする」
するとミルは私のツインテールの髪型をゲシゲシと引っ張って私を動かそうと躍起になる。
「待つミル!相手は悪魔ミル!何を考えてるかわからないミル!あの光景を見て手が緩むのはわかるけど、早く倒したほうがいいと思うミル!」
ミルの言い分も分かるけど、私にはまだあの悪魔が敵とは思えなかった。
悪魔は路地裏の闇に紛れるようにして、あっという間に姿を消していった。追おうと思えば追えたけど、私はその場に立ち尽くしたまま、しばらく動けなかった。
「敵……なのかな……あの悪魔も……」
自分に言い聞かせるように呟く。ミルの説明を信じるなら、魔界から来る存在は全部私たちの敵だ。倒すべき相手だ。
でも、さっきの光景がどうしても頭から離れない。あんな風に、命懸けで子どもを守るような悪魔が、本当に「敵」って一言で片付けていい存在なのかな。
崩壊した街並みを見渡しながら、私は複雑な気持ちを抱えたまま、その日は私は変身を解除していた。ミルには「甘ちゃん甘ちゃん!」ってしこたま怒られたけど、それでも私から見てあの悪魔は……何処か「人間らしさ」を感じずには居られなかった。