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「ハ~イ、ゲーム開発部のちびっ子たち!マキちゃんからプレゼントのお届けだよ!」
「おぉ!……遂に!」
アルケーたちゲーム開発部は、生徒会からの襲撃をなんとか乗り越えることに成功し、手に入れた「鏡」をヴェリタスの元へと届けた後部室へと帰っていった。
そして時間が経ち、どうやらとうとうG.Bibleの解析が終わったらしく、マキがそれを部室へと持ってきてくれたようだ。そこには【G.Bible.exe……実行準備完了】というテキストが表示されており、モモイたちはそれを見て興奮を覚えていた。
「遅れてごめんねー。「鏡」をセミナーに返すことになって、その件でちょっとバタバタしちゃって。」
「ええっ、「鏡」返しちゃったの!?」
「実は、ヒマリ先輩は最初から全部知ってたみたい。それくらいあげてもいいから、これからはあんまり無理しないでって。えへへっ。」
「……なるほどな。道理でユウカ先輩がもう俺たちを追わなくなったわけだ。」
マキがセミナーに「鏡」を返したことを告げる。
モモイはそれを聞いてビックリしたが、アルケーはそのことを聞いてユウカが自分たちを追わなくなった訳を理解した。
そう。実のところ彼女たちゲーム開発部は、生徒会を襲撃して「鏡」を奪い去ったことから、しばらくの間生徒会から追われる羽目になると考えていた。
だがしかし、それが実行されることはなかった。彼女たちゲーム開発部は追われることはおろか、生徒会のメンバーに見つかってもそのままにされて見逃されていたのだ。
それを受けてモモイたちは追われないならそれでいいと考えていた。だがしかし、アルケーだけはそれに対して心底疑問に思っていた。
自身たちは規則を破って犯罪じみたことをしたのだ。それなのに追われるどころかそのままにされるだなんて、はっきり言って異常としか思えなかったのだ。
だが、マキが告げた「鏡」を返したと言う発言を聞いてアルケーは、生徒会が自身らを追う理由がなくなったと解釈し、その疑問との向き合いを無事に終えられたようだ。
………とはいえ、それは今この場にいないシャーレの先生が生徒会へと説得したのもあるのだが、それを知る由はアルケーにはなかったのであった。
「あ、それでね。G.Bibleを開いてた時にこの、<Key>っていうフォルダを見つけたの。」
「………何?」
話は変わり、何やらマキはG.Bibleを開いてた最中に<Key>というフォルダを見つけたそうだ。確かに、ゲーム機の中にそのような名前のフォルダが載ってある。
「何これ……ケイ、って読むのかな?」
「……ケイ?」
「「キー」でしょ!お姉ちゃんは本当に高校受験合格したの!?」
「ヴッ!?」
[……いや、ミドリさん、ちょっと辛辣過ぎませんかね………?]
モモイはこの<Key>という文字を「ケイ」と読む。だがしかし、傍から見たらこの文字はミドリの言う通り「キー」と読むのが一般的であろう。
ミドリからの鋭い言葉のナイフによって急所を刺されてしまったモモイ。それを見てアルケーは、あまりの辛辣さについ心の中で突っ込みを入れてしまうのであった。
[……にしても、<Key>と「ケイ」……か…………。]
[……何かそいつら……どっかで確かに聞いた気がすんだよな………。]
[………多分、廃墟で見つけたあのDivi:Sionっちゅう奴と何かしらの関係があるんだろうけど……それ以上のことは分かりそうもねぇな………。]
どうやらアルケーはその<Key>という言葉………そして、「ケイ」という発音に対して聞き覚えがあるそうだ。
彼によれば、廃墟で発見したあのDivi:Sionというコンピュータと何かしらの結びつきがあるそうだが、それ以上のことは分からないようだ。
[……それに、ミドリはああ言ってたけど、案外モモイの読み方も間違ってないような気がするんだよな。]
[……でも、ミドリの言っていることも間違ってねぇんだよな。<Key>は確かに「キー」と読むし、“鍵”という立派な意味を持っている。」
[………不思議だよな。読み方が複数あって、それも片方は普通なら間違ったもののはずだ。]
[それなのに二つとも同じものを、<Key>を指しているだなんて、おかしいったらありゃしねぇ……。]
アルケーは<Key>の読み方として、「キー」だけでなくモモイが述べたように「ケイ」という読み方もあると考えているようだ。
だがしかし、それが意味することはその<Key>というものは二つの呼称があるということ、「キー」のように“鍵”としての読み方以外に、「ケイ」という何かの意味を持つ読み方があるということを指す。
矛盾しているようで矛盾していないこのパラドックス。アルケーはそれに疑念を持っているが、何故か確信めいているものを持っている自分自身がいることから、奇妙な感覚を覚えていた。
[……でも、「ケイ」って読み方の方は、どこかもやっとするんだよな………。まるで、そいつは<Key>という存在を指しているけど、<Key>そのものは指していないような、そんな気が……。]
[……………ダメだ。考えれば考えるほど分からなくなっちまう。……やっぱり、こんな曖昧な状態の記憶じゃあ考えるのは無理があるか。]
だがしかし、アルケーは「ケイ」という読み方に対してどこか違和感を覚える。
そのことを受けてアルケーは<Key>と「ケイ」について、何とか自身の記憶を正確に掘り出して結び付けようと試みるが、どうやら今の彼では無理なようだ。考えれば考えるほど思考がぐちゃぐちゃなものへと移り変わってしまうらしい。
[……でも、これだけのピースが揃ってんだから、そろそろ何かを思い出してもおかしくねぇはずなんだけどな。]
[……もしかして、記憶を思い出すには他の何かが必要だったりするのか?……いや、仮にそうだったとしても、一体どうすれば………]
[……あぁクソっ!マジで一向に記憶が戻る気配がしねぇ。一体、いつになったら俺は全部思い出せるんだ?全く………。]
アルケーはまたもや聞き覚えのある言葉を知った。だがしかし、今の時点でも彼には記憶の材料となる情報は多くあるはずなのに、それでも一向に何も思い出せなかった。
アルケーはそれを受けて、情報はあるのに何一つ思い出すことが出来ない自身に対して嫌気が指してきたそうだ。それは彼の表情が皺を持つしかめっ面と化していたことから、その程度は想像に容易い。
[……まぁ、つっても思い出せないものはしょうがない。あの工場で起きたときからまだそんなに時間が経ってねぇのもあるだろうし、今は放置しておくしかねぇな。]
[………それに、そんなことよりももっと重要なことが目の前にある。そいつの解決を最優先にするのが今の俺がすべきことのはずだ。]
とはいっても、思い出せないものは仕方がないことと、今は別のことに集中すべきであることから、彼は気にしないことにして意識を瞬時に切り替えたのであった。
「実は、こっちについては何一つ分からなくって。ファイルは壊れてなさそうだけど……こっちも私たちの知ってる機械語じゃ解読できない、信じられないような構成をしている。」
「G.Bibleの方はきちんと開けたけど、こっちはちょっと見ただけじゃ何にも分からなかったの。この<Key>のこと、何か知ってたりする?」
「いや、私たちも全然……。」
「………………。」
「もしかして……あの時の……?」
マキは<Key>の方は解析ができなかったと言った。モモイは心当たりがないそうだが、ミドリはマキの疑問に対してアルケーと同じく、あの時の廃墟の出来事のことを思い浮かべたようだ。
「ふうん、何かあったの?ま、でもとりあえず今はG.Bibleの方でしょ。」
「<Key>についてはまた今度ね。時間があったら頑張って分析してみるよ。」
「じゃ、間違いなく渡したから。またね!」
「マキちゃん、ありがとね!」
「今度会う時は、秘書を通して連絡してね!なにせ私たちは、「TSC2」で大ヒットする予定だから!」
「あははっ、楽しみにしてるよ!」
マキはそう言って、笑みを浮かべながら部室から去っていった。…彼女の言う通り、今はまず当初の目的であったG.Bibleの方に集中するべきだ。
…何故なら、ゲーム開発部の彼女らにとっては、ここからが本番なのだから……。
ーー・ーー
「みんな、集まって!」
「あらためて……G.Bible、見よっか。」
「みんな知ってる通り、この中に何が入ってるのかについては、ほとんど誰も知らない。ただ最後にG.Bibleを見たと噂される、あるカリスマ開発者によると……」
「ゲーム開発における秘儀。みんなが知っているようで、誰も知らなった奇跡」……って言われてる。」
「私は、それが知りたい。」
今現在ゲーム開発部の面々は、廃墟から手に入れて解析を終えたG.Bibleを開かんとしていた。
「うん……最高のゲームを作るために。」
「そう。それが出来れば、これからもみんなでこの場所にいられる。」
「もし失敗したら……ユズは寮に戻って、会いたくもないやつらに会わなきゃいけなくなる。それに、アリスとアルケーは……。」
そうだ。もし彼女らが作るゲーム、TSC2がミレニアムプライスに受賞されなければ、ゲーム開発部は廃部となりそれぞれがバラバラになってしまう。それだけは絶対に避けなければならないのだ。
「……もしものことは考えたくないけど。その時はきっと先生が、シャーレが助けてくれるよ。」
「シャーレ……?先生と一緒なのは、とっても嬉しいのですが……。」
「アリスはもうここに……みんなと一緒には、いられないのですか?」
「……っ!」
「そんなことはない!私たちは絶対に、最高のゲームを作るんだから!」
「大丈夫、「TSC2」もアリスにとっての「神ゲー」になるよ。」
…もしも廃部になることがあれば、アリスとアルケーはシャーレに保護されることになるだろう。
だがしかし、結局のところゲーム開発部がバラバラになるのは変わらない。モモイはアリスの不安の言葉を受けたが、それでも負けずにはっきりと大丈夫だと答えた。
……そして、
「……大丈夫だろ。ここまでやったんだ。きっと何とかなるさ。…それに、何度も言うが、別に死ぬわけじゃねえんだからな。」
「……それもそうですね。」
アルケーも、モモイたちと同じように心配をしている様子はなかった。
……とはいっても、彼も多少は不安になっている。彼も同様に、ゲーム開発部の皆と一緒にいたいのだ。
…だが、不安になっていても仕方がない。そう思っている彼は、自身の平静を保らせていたのであった。
「さて、それじゃあ……。」
「始めよう、アリス!」
「はい!」
モモイが始めの合図をアリスへと送り、アリスはG.Bibleを起動しようとしていた。…いよいよ、その秘訣が明かされる。
…果たして、この中には一体……どんなことが書かれているのであろうか……?
――・――
「あの、モモイ……デイリークエストしないのですか?」
「いつも、「デイリークエストより大事なものなんてない」と言っていたのに……。」
「アリス……私のHPはもうゼロだよ……。」
モモイはいつものように溢れ出ている元気が消え、力なくそう言葉を告げる。
「えっと……。」
「ミドリ……?」
「ごめんね、アリスちゃん……知ってたけど、現実って元々こういうものなの……そう、つまりこれがトゥルーエンド……ハッピーエンドとはまた別の到達点……。」
…ミドリも、モモイと同様にかなり落ち込んでいる様子をしながら言葉を紡ぐ。
「ゆ、ユズは……ユズはどこに?」
「多分、またロッカーの中に引きこもってるんだと思う。よく見て、ロッカーがたまにプルプルしてるでしょ?」
…ユズに至っては、何も言葉を発さずに自身のロッカーの中に震えながら引きこもっていた。
「……あ、アルケー………?」
「…アリス、お前の言いたいことは分かる。」
「……でも、今はちょっとだけ放っておいてくれないか?まだ、上手く現実を受け入れられていないんだ………。」
「……そ、そんな………アルケーまで………。」
そして、あのアルケーまでもが、顔を顰めて目線を逸らしながらそう言葉を出した。
「……み、みんな………一体、どうしたのでしょうか………?」
そんな皆の現状を見て、アリスは何が何だか分からず思考のまとまりができずにいた。
皆が異常なまでに絶望している。だがしかし、自分自身だけは平常心を保てている。むしろ、どうして皆がそこまで落ち込んでいるのかがアリスには理解できなかった。
……では、一体何があったのか?
その答えは、G.Bibleにある。
結論から言うに、伝説とされているG.Bibleの存在が、ホラそのものだったのだ。
G.Bibleに書かれていた内容はただ一つ、ゲームを愛しなさいと、ただそれだけであった。
モモイたちはそれを見て大きく動揺し、きっとバグが起きたに違いないと、ゲーム機を操作していた。
……むしろ、そうであってくれと願いながら。
……だがしかし、現実は非情であり、G.Bibleはまるでそんなモモイたちへと追い打ちをかけるかのように、わざわざこれはバグではないと、テキストに表示した。
そうだ。G.Bibleにはバグなんてものは一つも存在しなかった。G.Bibleは、製作者によって望んだ動きをするように組まれたプログラムを、完璧に実行してみせていたのだ。
……そして、これを見たモモイたちは果たしてどう思うであろうか?
「うぅ、もう終わりだぁ………私たちの部活は、このまま廃部になっちゃうんだぁ………。」
「も、モモイ………。」
……その答えは当然、絶望以外の何ものでもないだろう。
彼女たちゲーム開発部は、多くの徒労をかけてこのG.Bibleを手に入れた。だがしかし、その過程を得て勝ち取った物が、ただのホラ吹きが書いたちっぽけな物でしかなかったのだ。
アリスはその純粋さゆえに、G.Bibleに書かれていた内容をしっかりと納得して受け止めることができたが、他の者たちはそうはいかない。
最後の手段として縋りついていた物に裏切られた気分となった今のモモイたちは、もうお終いだと、自分たちじゃどうしようもできないんだと、その声で絶望の歌を奏でるしかなかった。
[……はぁ。まさか、G.Bibleの内容があんなにちっぽけなものだったとはな。……本当に拍子抜けしたぜ、全く………。]
[……でも、うだうだ言ってても仕方ねぇ。G.Bibleに頼れないと分かった以上、他に手を考えるしか方法はない。]
[……こんなところで、終わって溜まるか……!どうにかして、策を練らねぇと………!]
アルケーは、G.Bibleの内容を見たことによりしばらく気力を無くしていた。だがしかし、彼はやがて心の中で自身の頬を叩き、意識を切り替えて別の手段を模索し始めた。
[……モモイとミドリ、ユズはダウン。今、唯一動けるのは俺とアリスだけ。]
[………これじゃだめだ。こいつは、俺とアリスの二人だけでどうにかなる問題じゃない。]
[……まずは、三人を何とかするところから始めねぇと………。]
最初の段階としてアルケーは、現在の状況整理を行う。
彼の言う通り、今行動可能なのはアルケーとアリスの二人だけだ。だがしかし、これは二人だけで解決できる問題ではない。
だからこそアルケーは、何とかして三人の正気を取り戻そうと紡ぐ言葉を考えるが………
[……ダメだ。かける言葉が、何一つ思い浮かばねぇ………。]
[……いや、言葉が思いついても、もしものことをつい考えちまって、どうしても日和っちまう………。]
[クソっ!俺じゃ、こいつらを元に戻すことができねぇっていうのか………!]
……残念なことに、アルケーはモモイたちを元気づける言葉を紡ぐことは出来ないそうだ。
仮に思いついたとしても、これで落ち込んでしまったらどうするんだと、他にいい言葉があるんじゃないかと、やってすらいない段階なのに対して、彼は本能でそう考えて狼狽えてしまう。
……そんな自分を受けてアルケーは、肝心な時に行動をすることが出来ない自身の腑抜けさを心の底から恨み、そして、歯を食いしばるほどに悔やむのであった。
……だが、それも無理はない。
アルケーは精神に多大なダメージを負いながらも、ほとんど自身の気合のみで正気を保っていた。
だが、それはただ強引に耐えているだけにすぎない。この問題は、アルケーがしたように単純な精神論で解決できるものではないのだ。
それが故に、彼は言葉を紡ごうにもどうしてもためらってしまうのだろう。彼は、気合で乗り切った以上、身も蓋もないただの精神論でしか自信を持って話すことができないのだから。
……むしろ、あれだけ多くの苦労をしたのに対して得られたものがあんなものだったのだ。気合だけでその事実にどうにか耐えて、今も必死に問題を乗り越えようとしているだけでも十分と言えるだろう。
……それは、今のモモイたちのことを見れば明らかなことであった。
「はぁ……。」
「ごめんね、アリスちゃん……私たちは……G.Bible無しじゃ、良いゲームは作れない……。」
「………っ。」
ミドリは、G.Bible無しじゃ良いゲームを作れないと、力ない言葉なのに対して、強くそう言い切ってしまう。
それを受けてモモイは何も言い返せずにただ呻き声を上げ、ユズはロッカーをかすかに震わすことしかできなかった。
そして、その現状を見たアルケーは、彼女たちに何一つ言葉を紡ぐことができなかった。
……彼もまた、その状況に絶望している人物の内の一人なのだ。
この状況を突破するには、アルケーだけでは力不足だった。……絶望している者だけでは、彼女たちを救えることはできなかったのだ……。
……だが、
「……いいえ。否定します。」
「…えっ?」
「………っ?」
……そんなミドリの言葉を受けてもただ一人、彼女たちへと声をかけられる者がいた。
「アリ、ス………?」
「………………。」
………その者の名は、天童アリス。彼女はミドリの言葉、そしてモモイたちの様子を見て、心を込めた力強い発言をしてそう言い切ったのであった。
そんなアリスに皆は混乱するが、アリスはそれでもモモイたちへと言葉を紡ぐ。
「アリスは「テイルズ・サガ・クロニクル」をやるたびに思います。」
「あのゲームは、面白いです。感じられるのです。」
「モモイが、ミドリが、ユズが……。このゲームを、どれだけ愛しているのかを。」
「そんな、たくさんの想いが込められたあの世界で旅をすると……」
「……胸が、高鳴ります。」
「仲間と一緒に新しい世界を旅する、あの感覚は……。」
「夢を見るというのが、どういうことなのか……その感覚を、アリスに教えてくれました。」
「だから、待望のエンディングに近づくほどに、あんなに苦しんだのに、思ってしまうのです……。」
「この夢が、覚めなければいいのに……と。アリスは、そう思うのです。」
「あ、アリス……。」
……アリスは初めてのゲームとして、モモイとミドリ、そしてユズが作ったものである、テイルズ・サガ・クロニクルをプレイした。
そしてアリスはそのゲームをプレイして、確かに面白いと感じていたのだ。それも、自身の言葉で正確に言い表せるほどに……。
自身の気持ちを、伝えたいことを言葉で正確に表現することは、決して簡単なことではない。それができるのは伝えたいことを深く考慮して、自身の心に取り込めている者だけ。
アリスはまだ、喋り方を学び始めて間もない。それなのにゲームの面白さを、自身の言葉で正確に表現できるのだ。きっと、彼女はそれだけ面白いと、大きな感動をしたはずだ。
アリスの言葉を聞いた皆は、彼女が持つ本心からの気持ちを受けて、ないと思っていたはずの希望が生まれてくる感覚を覚えていた。
「……………そうだな。確かにその通りだ。」
「………えっ?」
「あ、アルケー、さん………?」
そしてそんなアリスの言葉を受けて、今度はアルケーがモモイたちへと言葉を紡ぎ始める。
「アリスの言う通り、あのゲームは確かに面白かった。……少なくとも俺は、あんな評価にそぐわない作品だと思っている。」
「……引っかかることはあった。でも、そんなことなんか気にしてられないくらいに、俺はあのゲームから強い情熱を感じたんだ。」
「……そして俺は、そいつが物凄く輝いて見えた。……あれは、絶対に他のゲームじゃ見れないものだったんだ………。」
「……だから、俺もお前たちが最高のゲームを作れないだなんて思えない。もしも本当に作れないんだとしたら、ここに感動する奴が二人もいるわけないだろ?」
「……あ、アルケー………。」
アルケーの言葉を受けて、更に強く心を打たれるモモイたち。
……今の彼の表情に、決して迷いは存在しなかった。彼は、アリスの気持ちをしっかりと聞いたことにより、あの「鏡」のときのように………いや、それ以上の力強い熱意と自信を発しながら、モモイたちへと自身の言葉を告げられていたのだ。
そしてそれは、アルケーもアリスと同様に、モモイたちが作ったゲームに大きく感動していたから紡げた言葉だ。元気づけようと考えられた言葉ではない。アルケーが持つ、本心からの気持ちを込めた言葉なのだ。
……そうだ。大事なのは言葉ではなく、気持ちなのだ。例え言葉が分からなくても、自身が持つ本心からの気持ちは、決して嘘をつかないのだ。だからこそ、彼は今この場で最も必要なことは何なのかを理解し、モモイたちへとその想いをはっきりと告げたのであった。
「……作ろう。」
「え?」
「ゆ、ユズちゃん……?」
アリスとアルケーがモモイたちにへと自身らの気持ちを伝えていた時、ユズがいつの間にかロッカーから出てきていたようだ。
…そしてユズは、決意した表情をしながら、モモイたちへとそう言葉を告げたのであった。
「わたしの夢は……わたしが作ったゲームを、みんなに面白いって言ってもらうこと。」
「でも、わたしが初めて作った「テイルズ・サガ・クロニクル」のプロトタイプは……四桁以上の低評価コメントと、冷やかしだけで終わっちゃって……。」
「それが辛くて、ゲーム開発部に引きこもってた時……。」
「二人が、訪ねてきてくれた。」
……ユズは、かつて自身が作ったゲームである「テイルズ・サガ・クロニクル」のプロトタイプ……それの評価を受けたことにより、心が衰弱しきっていた。
だがしかし二人が、モモイとミドリの二人が部室へと来てくれて……そのゲームのことを、面白いと言ってくれたのだ。
……きっと、ユズは嬉しかったはずだ。何故なら、自身が頑張って作ったゲームが今まで散々な評価を受けてきたのに、それでも確かに、面白いと言ってくれる人がいたのだから。
「一緒に「テイルズ・サガ・クロニクル」を完成させて……今年のクソゲーランキング1位になっちゃったけど……。」
「その後、アリスちゃんとアルケーさんが訪ねてきてくれて……。」
「面白いって、言ってくれた。それで、わたしの夢は叶ったの。」
「心の通じ合う大事な仲間たちと、一緒にゲームを作って、それを面白いって言ってもらう……ずっと一人で思い描いているだけだった、その夢が。」
「これ以上は、欲張りかもだけど。叶うなら、わたしはこの夢が……この先も、終わらないでほしい。」
「ユズちゃん……。」
彼女は自身の夢を……心が通じる大切な仲間との作品を、面白いと言ってもらう夢を、既に叶えていた。
それは、一緒にゲーム作りを楽しんだ大事な仲間たちであるモモイとミドリ、そしてそのゲームを面白いと言ってくれた、アリスとアルケーがいたから叶えられたものだった。
そしてユズは、叶えられた夢が終わらないでほしいと、ずっと続いてほしいと、そう願った。彼女は、例えG.Bibleが頼れない物だったとしても、自身が望んだ夢をこの先も続けていくために、諦めずに最後まで抗い続けると決めたのだ。
「……うん、よし!」
「ねえ、今からミレニアムプライスまで、時間どれぐらい残ってる?」
「お姉ちゃん……!」
「後6日だ。多分間に合うだろ。」
「正確には、6日と4時間38分です。」
「…アルケーの言う通り、それだけあれば十分。」
アリスとアルケー、そしてユズの言葉を受けて完全に活気を取り戻したモモイとミドリ。
残された時間を知ったモモイはまだ間に合うことを理解し、気合を入れ直して次の段階へと進もうとしていた。
「さあ、ゲーム開発部一同!」
「「テイルズ・サガ・クロニクル2」の開発、始めよう!!」
「「「「うん(はい)(あぁ)!!!」」」」
…こうして、彼女らの部活の存続をかけたゲーム開発、テイルズ・サガ・クロニクル2の制作が始まった。果たして、彼女たちは最高のゲームを作り、見事ミレニアムプライスへと受賞することができるのであろうか………。
少なくとも、それは今の私たちでは分からない。だが、彼女たちはそれでも決して止まるようなことはないだろう。
きっと上手くいく……そう信じて彼女たちは、真っすぐ突き進んでいくのであった………。