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「…ねぇ、お姉ちゃん。」
「うん?どうしたの?ミドリ。」
「なんで二人を部室に連れて来たの!?」ガシッ!
「ちょ、待ってミドリ、首絞めないで…。」
モモイとミドリの二人が所属しているゲーム開発部の部室。俺は、モモイの奴が案があると聞き、その後についていったらこの場所へと来ていた。
ちなみに先生は俺たちを部室へと送った後、急ぎの仕事を片付けるとのことで一度自身の事務所へと帰っていった。明日の朝また必ずここに来るらしい。
…そのことを言うとき、めちゃくちゃ申し訳なさそうな顔をしてたが、別に仕事ならしょうがねぇし、ここに来る道中に聞いたが、モモイとミドリの話によるとシャーレって常に多忙とも噂に聞くらしいからな。その話を聞いた先生も否定はしなかったし、きっとそうなんだろう。
「ミドリ、そこまでにしとけ。モモイの奴泡吹き始めてるから。」
「あ、ごめん。お姉ちゃん。」
「ぜぇ、ぜぇ…うぅ、死ぬかと思った。」
俺はそろそろモモイが死にかけそうになっていたことから、姉の首を絞めつけているミドリのことを止めた。モモイはミドリから解放されたことにより、急いで全身に酸素を取り込もうと呼吸を何度も繰り返していた。
そしてしばらくした後、モモイが落ち着いてきたことから俺はモモイに対して質問を行うことにした。
「…ところで、ミドリの言う通り何で俺たちをここに連れて来たんだ?」
「…それはね、アルケーたちには頼みがあってここに来てもらったんだ。」
「頼み?…まぁ、協力すると言ったのは俺だから別にいいが、G.Bibleはいいのか?」
「確かに、元々私たちはG.Bibleを探すために廃墟に来てたんだけど、それはあくまでも手段のうちの一つでしかないんだよ。」
「どういうこと?お姉ちゃん。」
モモイがG.Bibleを探すのはあくまでも一つの方法でしかないと言って、ミドリは疑問符を浮かべていた。
…だが、俺はそのことを聞いて一つのことが思い浮かんだ。
「……もしかして、あるのか?…廃部を防ぐ方法が、他にも。」
「ふっふっふっ、鋭いねアルケー。その通りだよ!」
「え、そうなの!?お姉ちゃん!?」
「いや、何でミドリが驚いているのさ……。」
…どうやら、俺の予想は当たっていたらしい。だが、肝心の方法が俺には思い浮かばなかった。モモイによれば俺の、というよりも俺とアリスの力が必要みたいだ。
アリスというのは、俺と同じで廃墟で眠っていた長い黒髪をしている少女のことだ。元々AL-1Sという名前があったらしいが、モモイがそれだと呼びづらいということでアリスと名付けて、本人が気に入ったことから最終的にこの名前となった。
AL-1S、か。…何か、どっかで聞いたことがあるような気がするんだよな。
…まぁいいか。とりあえず今はモモイの話を聞くことにしよう。
「元々、廃部を防ぐ方法は二つあったんだよね。」
「そうなのか?」
「うん。そしてそのうちの一つの方法がミレニアムプライスで賞を取ることだったんだ。」
「ミレニアムプライス?なんだそれ。」
「ミレニアムプライスっていうのはね……」
俺はモモイから、ミレニアムプライスなるものを教えてもらった。…どうやらミレニアムプライスというものはここ、ミレニアムサイエンススクール内で特に優秀な成績を残した部や団体が、その成果と共に発表される一種の表彰会のようものだそうだ。ミレニアム以外でも様々な企業や団体が資金を出して行われる大規模なイベントらしく、そこで賞を取ることができれば、廃部は免れるらしい。
…だが
「…そいつで賞を取るってことは、高校球児がいきなりメジャーリーグに出るレベルだと…。」
そう、受賞レベルが段違いに高いということだ。話によれば、このミレニアムサイエンススクールには非常に多くの部活や団体がいて、そいつらを相手して賞をもぎ取らなければならないらしい。
…元々、賞を取れるレベルくらいの実力がこの部活にあればよさそうなんだが、どうやらまともにとった賞が一つしかないらしく、しかもその賞はクソゲーランキング一位とかいうお世辞にも良いとはいえないものだそうだ。
「…なるほどねぇ。だからアンタらはG.Bibleを探してたんだな。そのイベントで賞を取るために、どうしても情報が必要だったと。」
「はい、私たちだけじゃどうしてもできないと思ったので、それで…。」
…確かに、あまり実績がないこの部活では、賞を取ることは厳しいと考えてしまうのは仕方がないだろう。…こいつは、少々絶望的だな。まぁ、だからと言って諦めるわけじゃないが。
「…それで、もう一つの方法ってのは何なんだ?」
「よくぞ聞いてくれた!それはね…」
モモイの話によれば、部員が一定数以上いれば廃部にされることはないとのことだそうだ。今このゲーム開発部には部員が3名いて、そのうちの二人が才羽姉妹なんだと。部活を存続させるためには4名以上の部員がいなきゃいけないらしい。
……ん?ちょっと待て、その方法だと、俺たちがやることって、もしかして……
「……なぁ、モモイ。」
「ん?どうしたの、アルケー?」
「その頼みってのは、もしかしてさ…
俺たちに部員になれってことじゃないよな?」
「良くわかったね!その通りだよ!」
「マジかよ…。」
…確かに、その方法だったら廃部は免れることはできるだろう。…だが、それ以外に重要な問題が残っている。
「何言ってるのお姉ちゃん!?二人はミレニアムの学生じゃないんだよ?!どうやって入部すればいいの!?」
そうだ、俺たちはミレニアムの学生じゃない。それ故に、部活に入ることはできないはずだ。じゃあミレニアム生になればいいだろうって話だと思うが、物事には手順というものがある。
…きっと俺たちがミレニアム生になるのにはかなりの時間を要するはずだ。話によれば、1週間以内に条件を満たさなければならないらしいから、きっとミレニアム生になったときにはすでに廃部にされていることだろう。
…だが、モモイには解決策があるらしい。…嫌な予感しかしないが。
「それに関しては大丈夫!私がヴェリタスに頼んで二人の学生証を作ってもらうよ!」
「ヴェリタス?なんだそれ。生徒会のようなやつか?」
「…ミレニアム屈指の、凄腕のハッカーたちが集まる部活です。」
「…ハッカー?………あっ。」
…なるほど、確かにそれなら問題が解決するだろう。…一方で新たに倫理的な問題が生まれるという点に目を当てなきゃならないだろうが。
「…まぁ確かに、それならいけるからいいか…。」
「アルケーさん!?いいんですか!?」
「いいもなにも、それが一番手っ取り早くて合理的だしな。…確かに倫理的に駄目だとは俺も思うが、部活を守りたいんならそうでもしなきゃ駄目だろ?」
「それは、そうですけど……」
ミドリが納得できないといった様子で俺を見ながらそう言ってくる。…いやまぁ、気持ちは分かるよ。俺だってその方法はできるだけ取りたくない。でもさっきも言ったが部活を守るにはそれが一番いいと思うのも本当だしな…。
「決まりだね!じゃあ私は早速ヴェリタスに行ってくるから、二人はアリスをお願い!」
「…アリスちゃんを?どういうこと、お姉ちゃん?」
ヴェリタスへと行こうとしているモモイが、俺たちに対してアリスのことをお願いと頼んできた。それを聞いてミドリは何のことだか分からないようだったが、俺はモモイが言いたいことを何となく察せられた。
「……アリスの喋り方、だな?」
「あ、確かに、今のこの子の喋り方だと、疑われちゃうから…。」
そう、それはアリスの口調のことだ。…モモイとミドリの話によればアリスは機械の人間、所謂アンドロイドらしく、そのこともあってか今のアリスの喋り方はとても学園の生徒、というよりも人間とは思えないものになっている。
「そう!二人には、アリスに「話し方」を教えてほしいの。」
「なるほどね………俺は別に大丈夫だが、ミドリの方はどうだ?」
「私は……はぁ、仕方ない、やれるだけやってみるよ。」
俺はその理由を聞いてその頼みごとを引き受けることにした。…ミドリの方も、少し納得がいっていなさそうではあったが、しっかりと役目を引き受けてくれるようだった。
「よし、じゃあ任せた!」
「ちょ、ちょっと待って!」
「…行っちまったな。」
モモイはそれを聞いた瞬間俺たちにアリスのことを任せたと言った後、満面の笑みのまま物凄い速度で部室から出て行った。
…さてと、俺たちもやることさっさとやっちゃいましょうかね。
「…よし、んじゃあ早速とりかかろうぜ、ミドリ。」
「はい。でも……」
「ん?どうした?」
「いえ、話し方って、どうやって教えればいいんでしょう…。普通は動画を見たり、周りの言葉を真似していくうちに自然に、って感じだと思いますけど…。」
「…確かにそうだな。…うーん、どうしたもんかねぇ………。」
…言われてみればそうだ。普通話し方ってのは教えるものじゃなくて、人と話していく内に覚えていくものだ。…要所要所指摘して間違ってるところを直すことくらいはできるとは思うが、その方法だと短い時間で話し方を変えることなんてできないだろうし……。
「………」キョロキョロ
「………?」
「正体不明のものを発見、確認を行います。」
「ん?」
「…なんかあったのか?」
俺たちがそれぞれ思い悩んでいる中アリスは部室の中を探検していたらしく、そしてその最中で何かを見つけたようで、手に取ってそれを眺めている。それを、俺とミドリが横から覗いてみると…
「…これは、ゲームの雑誌か?」
「あっ、そ、それは……っ!?」
アリスが手に取ってたものは、“テイルズ・サガ・クロニクル”と書かれていたゲームが載ってある雑誌だった。ミドリはアリスが手に取ったそのゲームを見て少し恥ずかしそうにしていた。そして、ミドリがそれを説明しようとアリスに話しかけた。
「えっと……ちょっと恥ずかしいけど、実はその中に、私たちが作ったゲームが載ってるの。まあ、すごい酷評されちゃったやつなんだけどね。」
[…なるほど、これがモモイとミドリが言ったあの賞を取ったゲームか。]
どうやらアリスが手に取った雑誌に書かれていたゲームはミドリ達ゲーム開発部が作ったものみたいだ。
「あ、そうだ!」
「クソゲーランキングでは1位になっちゃったし、アリスちゃんがどう思うかはわからないけど……」
「アリスちゃん、私たちのゲーム……やってみない?」
「「会話」をしながら進められるから、話し方を覚えるならいいかもだし……どうでしょうか?アルケーさん。」
どうやらミドリはアリスに、自身たちが作ったゲームをやらせたいようだ。そして、ミドリが念のためなのか、俺に対して一度確認をしてきた。
「いいと思うぜ。…確かに、ゲームを通してなら楽しく覚えられるだろうからな。」
「………後、俺自身キヴォトスのことをよく分かってねぇからな………。無責任なことを言っちまうが、キヴォトスにずっと住んでるミドリの判断に従った方が良いと思うんだ………。」
「……そ、そういえばそうでしたね…………。」
俺はミドリの案に賛成した。というのも実は、今の俺は基本的な知識というものは頭の中に入っているらしく、ただしキヴォトス特有の概念に関するものが抜けているみたいなんだ。用語で例えるなら、ミレニアムだとか、シャーレだとか、ヘイローだとか、キヴォトスでしか聞かないものばかりの言葉だ。
まぁつまりだ。今の俺はキヴォトスの人たちの喋り方だとかがどんなものなのかまだ分かっていない。それなら専門家であるミドリの言うことに従った方が良いと思ったって訳だ。ど素人があーだこーだ言ったところで説得力が全くないからな。
…まぁ、というのは建前で、本当のところは…………
「…それに、俺はアンタらが作ったゲームとやらに興味がある。…評判の方はお世辞にも良くないそうだが、お前の言う通り結局はやってみなきゃ分からない。案外その評判が自分にとっては違うものかもしれないしな。」
「アルケーさん。…………ありがとうございます。」
そう。要は俺自身がそのゲームのことを気になっているっていうのが本音だ。
モモイとミドリとはまだ会って本当に間もなくて、ほんの少ししか会話をしていない。でも俺は二人がとても愉快で、そして物凄く仲間を想える良い奴らだと知った。
だからこそなんだろうな。俺はもっと知りたくなった。こいつらのことを、ゲーム開発部のことを。それでその第一歩として、まずはこいつらが作ったゲームを知ることから始めようと考えた訳だ。
「……とはいってもまぁ、結局は本人がやるかどうか次第なんだが……」
そう言って俺はアリスの方へと目線を移した。本人の方はどうやらよく分かっていないのか、首をかしげてキョトンとしている。
「……?」
「ここまでの言動の意図、完璧には把握しかねます。しかし……」
「……肯定、アリスはゲームをします。」
「ほ、本当に!?ちょ、ちょっと待ってて、すぐにセッティングするから!」
アリスがゲームをすると言った否や、ミドリは急いでゲームのセッティングをし始めた。…余程嬉しかったのか、動作の一つ一つがはきはきしているように見える。
そうして、しばらくした後…
「よし、準備完了!」
「ほらよアリス。コントローラーだ。」
「はい。ありがとうございます。」
ミドリはゲームのセッティングが終わったようなので、俺はミドリに教えてもらったゲーム機のコントローラーをアリスへと手渡した。
「アリス、ゲームを開始します……」
アリスが宣言した後、ミドリとモモイたちが作ったゲーム、テイルズ・サガ・クロニクルが起動された。
…さて、一体どんなゲームなのか、楽しみだな。
ーー・ーー
「タイトルから分かるかもしれないけど、このゲームは童話テイストで、色彩豊かな王道ファンタジーRPGなの。」
――コスモス世紀2354年、人類は却下の炎に包まれた……
「……?」
「…なんじゃこりゃ。」
早速ゲームが始まったと思った否や、コスモス世紀だとか何やらよく分からない単語が出てきて、俺とアリスは何が何だが分からず困惑していた。
…王道って、ここキヴォトスではこういった表現が普通なのか?なんか凄ぇぐちゃぐちゃに感じるんだが……。
「えっと、王道とはいっても、色々な要素を混ぜてたりするんだけどね。トレンドそのままでもダメだけど、王道に拘りすぎても古くなるからってことで。」
「な、なるほどな…。」
確かに、古い表現に拘りすぎても、使いすぎて逆に飽きてきてしまうだろうからな。それだったら納得できる。
「……。」
「ボタンを押します……」
――チュートリアルを開始します。
――まずはBボタンを押して、目の前の武器を装着してみてください。
「お、始まるようだな。」
俺は先ほどのよく分からなかったプロローグは一旦置いておくことにして、チュートリアルが始まったのでそっちの方に意識を向けることにした。
「Bボタン……」
ゲームのチュートリアルが始まり、モニターにはBボタンを押してみろと書かれていた。それを見てアリスは自分の手元のコントローラーを見てBボタンを探し、指示通りに押すことにした。
……すると
(ドカ――――ン!!)
「???」
「…ん?」
アリスがBボタンを押した後、モニターには何やら爆発したかのような演出が描写されていた。
……へぇ。爆発の演出の中で装備をするって、このゲーム結構派手な描写をするんだな。人によっては押し間違えたか不安になりそうだが、この演出からこのゲームは常識が通用しないぞってメッセージが何となく分かるし、これはこれで独特で面白く感j――――
<GAME OVER>
「!?!?」
「……へ?」
爆発の演出の後、モニターへと表示されていたのはGAME OVERという文字だった。…それを見た俺とアリスは何が起こったのか理解できず言葉を失うほどに唖然としてしまっていた。
…いや、マジでどういうことだよ!?あの爆発はただのまやかしじゃなかったのか!?アリスはしっかりとBボタンを押してたから押し間違えじゃあ絶対にねぇし……。
ハッ!ま、まさかこれは負けイベとかそういうのだったり………いやチュートリアルで負けイベ作るってどんなゲームだよ!それも指示通りの操作で強制ゲームオーバーとか理不尽過ぎんだろ!?
「あははははっ!」
「予想できる展開ほどつまらないものはないよね!本当はここで指示通りじゃなくて、Aボタンを押さなきゃいけないの!」
「お姉ちゃん……?学生証を作りに行くって言ってなかった?」
「行ってきたんだけど、遅い時間だったからか誰もいなかったの。また明日行く。」
…俺とアリスがいまだに困惑しているところに、先ほどヴェリタスへと向かっていったモモイが部室へと戻ってきていた。どうやら、遅い時間だったため誰もいなかったそうだ。
「それはさておき、あらためて見てもこの部分はちょっと酷いと思う。」
「…そうだな。流石の俺でもこれはないと思う。いくら何でもチュートリアルでこんな初見殺しをされるなんて、理不尽にも程があると思うぞ…。」
「うっ……そ、そこまで言わなくても良いじゃん!」
モモイは俺とミドリの指摘を受けて耳が痛いと云わんばかりの反応をしていた。…いや、確かに予想できる展開を変えるって案自体はいいが、流石にチュートリアルは指示通りにしといた方が良いと思うぜ……。
「も、もう一度始めます……。」
今もなおゲームの理不尽要素に混乱をしていたアリスだったが、とりあえずゲームを進めるために気持ちを切り替え、再度プレイを開始した。
…そこからは、地獄のようなものだった。序盤で現れる敵が銃を持ってたり、「ごめんなさい。私は植物人間ですので、女性に対して気軽に声をかけることはできません」という訳分からんテキストが出たり、さらにヒロインが母親で、それでいて実は前世の妻でその妻の元に、子供の頃に別れたきりの腹違いの友人がタイムリープしてきているという、もはや自分でも何言ってるのか分からない設定があったりした。…ていうか腹違いってなんだよ。んな言葉聞いたこともねえぞ……。
アリスはそれらのものを見て、意識を一瞬失ったり、脳みそがバグったのか「エラー発生、エラー発生!」と言って頭に湯気が立ち上っていたりしていた。
…だが、アリスはそれでも時間が経った後必ずゲームを再開していた。
そして実は道中、とあるボスが現れてアリスが全くクリアできないところがあった。そこで俺はこのゲームをやってみたかったのもあって、その時だけアリスと変わってゲームをプレイしてみたが、鬼畜過ぎて一瞬やめたくなった。
……だがそれでも、変わったからにはしっかりとやりきりたいというのもあって、大体30分くらいかけてそのボスを討伐した。
そして、アリスがゲームをやり始めてから3時間が経過した後、ようやく……
「こ、ろ、し、て……」
「すごいよアリス!開発者二人が一緒とはいえ、3時間でトゥルーエンドなんて!」
「…よく頑張ったな、アリス。お疲れさん。」
アリスは苦闘の末にトゥルーエンドに到達することに成功していた。…いや、マジですごいと思う。俺はほとんど見ているだけだったが、結構精神が擦り切れそうだったぞ。
…いや、っていうかそれよりも
「そ、それもそうだけど、」
「もしかして、本当にゲームをやればやるほど……」
「アリスちゃんの喋り方のパターンが、どんどん多彩になってきてる……!?」
「…まさか、ここまでだとはな……。」
「勇者よ、汝が同意を求めるならば、私はそれを肯定しよう。」
「うん、確かにそう……かも?」
「ゲームからそのまま覚えたせいで、ちょっとまだ不自然かもだけど……言葉を羅列してただけの時よりは、かなり良くなったと思う!」
実は、アリスの喋り方のレパートリーがゲームを始める前と比べたら急激に増えていたのだ。…まさか、こんなに上手くいくとはな……。正直なところ、少し驚いている。
「と、ところでその……」
「こういうのを面と向かって聞くのは緊張するんだけど……」
「わ、私たちのゲーム、どうだった?面白かった!?」
ミドリは少し恥ずかしながらもアリスに対してゲームをプレイしてどうだったかの感想を聞いた。
…まぁ、そうだよな。そりゃ自分たちが作ったゲームなんだから、その製作者としてその感想は是非とも聞きたいところだろう。…その言葉を受けて、アリスは考えているのか静かになっていた。
……そして、
「……説明不可。」
「え、えぇっ!?なんで!?」
「……類似表現を検索。ロード中……」
「も、もしかして、悪口を探してる……?そんなこと無いよね?」
アリスが説明できないといい、どうやら他に似た表現方法を探しているようだった。そしてそれに対して、モモイとミドリは驚いているようで、ミドリに至っては悪口を探してるんじゃないかと思っているようだった。
…だが、俺の見立てによれば、恐らくアリスは……
「……面白さ、」
「それは、明確に存在……」
「おおっ!」
「プレイを進めれば進めるほど……」
「まるで、別の世界を旅しているような……」
「夢を見ているような、そんな気分……もう一度……」
「もう一度……」
「……」
ポロッ
「ええっ!?」
「あ、アリスちゃん!?どうして泣いてるの!?」
「決まってるじゃん!それぐらい、私たちのゲームが感動的だったってことでしょ!」
「い、いくらなんでもそれは……というかこのゲーム、ギャグ寄りのRPGのはずだし……。」
「いや、多分モモイの言う通りだと思うぜ。だってアリス、ゲームしてるとき心の底から楽しんでるように見えたぞ?」
「え!?そ、そうなんですか!?」
「あぁ。…とはいっても、まさか泣くほどだとは思わなかったけどな。」
アリスは実際にゲームをプレイしてみた結果、涙を流すほど感動しているようであった。
…実のところ、俺は心配でたびたびゲームをしているアリスの顔を横から見つめていたんだが、その表情は嫌がっているどころかむしろ楽しんでいるように思えた。
……まぁ、気持ちは理解できる。かくいう俺だって………
「そういえばさ、アルケーにも感想言ってもらってなかったよね?」
「……え?俺も言うの?」
「もちろんだよ!アルケーにも私たちのゲームがどうだったか教えてもらいたいし!」
「私も、お姉ちゃんと一緒でアルケーさんにも感想を教えてほしいです…。」
…どうやら俺も言わなければいけないようだ。いや、俺基本的にアリスがゲームしてたの見てただけだし、やったのあのボスくらいなんだが。
…まぁ、教えてほしいと言われたからには、言わせてもらうか。
「そ、そうか…。それじゃあ、言わせてもらうが……」
「う、うん……。」
「まず結論から言わせてもらうと……面白かったぜ。」
「ほ、本当!?」
「あぁ。……最初から最後まで通して全部は分からなかったが、それでもゲームに対する物凄い情熱があるのは分かった。」
「他の人がどうとか関係ない、お前たちのゲームに対する圧倒的なこだわりが常に出ていて、お前たちがこのゲームを本当に愛しているんだってことが理解できた。」
「それにゲームプレイの方面も結構楽しかった。あのボスをぶっ倒すまでの過程ではめちゃくちゃ苦労したが、やりきった後の達成感がめちゃくちゃあって、とてもスッキリした気分になった。」
「ゲームプレイの方は30分くらいしかできなかったが、俺は少なくとも見ててもやってても楽しかったし、何なら最初からもっかいやってみたいとも思ったな。」
俺はゲームを見ていた時間とゲームをプレイした30分という短い時間を通して、自身が得た純粋な感想を口に出した。確かに全体を通してどこか引っかかる部分ってのはあった。でも実際に俺はこだわりがあって面白いと思ったし、もう一度やりたいと感じたのも本当だ。
「アルケーさん……。ありがとうございます!」
「……別に、俺はただ思ったことを言っただけだ。」
「それでもだよ!面白かったって言ってくれるだけでよっぽど嬉しいよ!」
「アリスもありがとう!その辺の評論家の言葉なんかより、その涙の方が100倍嬉しいよ!あー、早くユズにも教えてあげたい……!」
「ユズ?誰のことだ?」
「あっ、アルケーには言ってなかったね。ユズはゲーム開発部の部長で、さっきやったテイルズ・サガ・クロニクルのデモ版を作った人でもあるんだ!だから、早くユズにこのことを教えたいんだけど……。」
…なるほど、そういやモモイは今のゲーム開発部のメンバーは3人いるって言ってたな。その内の一人がそのユズって奴か。…そしてどうやらモモイは、そのユズに対して俺たちの感想を伝えたいそうだ。
だが、恐らくそれは……
「…それなら、多分今すぐ叶えられると思うぜ。」
「「……え?」」
「そこのロッカーにいるのは分かってるぜ。早く出てきたらどうなんだ?」
ガタッ!
「え!?今、ロッカーが…」
…俺がロッカーに誰かがいることを指摘したら、ロッカーが一瞬音を立てて揺れた。…そうしてしばらくした後、4人の視線を受けて観念したのか、ロッカーから赤い髪をした少女が出てきた。
「……い、一体いつから、気づいていたんですか…?」
「この部室に来てから気づいてたぞ。…それで、お前さんがユズで合ってるよな?」
「え、えっと……うぅ……。」
…俺がロッカーにいることに対して気づいていたせいなのか、俺に対してひどく怯えているように思える。
俺は最初部室に入ったとき、ロッカーから何となくだが警戒しているような人の気配を感じた。つってもそのときは何となくだから確定しないうちは放置することにしていた。
だがアリスがゲームの感想を言った瞬間警戒心が一気に薄れたように感じたから、そこで少なくともロッカーの中に人がいるのは分かった。
そしてモモイが目の前の赤髪の少女、ユズのことを探そうとしている時に、もしかしたらと思って指摘してみたが、やっぱり言わなかった方が良かったかもしれん……。
そうしてアリスが不思議そうに、そしてモモイとミドリは驚きながらゲーム開発部の部長、ユズのことを見つめていた……。
■■
「…落ち着いたか?」
「…はい、すみませんでした……。」
「いやいいよ。よくよく考えたら物音立てずにロッカーの中に隠れてたのにそれでバレたんだからな。誰だってビビるさ。」
アルケーはゲーム開発部部長、花岡ユズに対して自身のことをひどく怯えていたことから、丁寧にゆっくりと話をしながら彼女のことを落ち着かせていた。
「……ところで、ユズは一体いつからロッカーの中にいたの?」
「…え、えっと、いつかは忘れちゃったけど、この人の言う通り、みんなが廃墟から帰って来た時にはすでにロッカーにいたよ。」
「だいぶ前じゃん!?その時からずっとロッカーの中にいたの?あ、もしかしてアリスちゃんとアルケーさんが怖かったから?」
「モモトークか何かで伝えてくれれば良かったのに、びっくりしたよ……。」
ミドリはユズが自身らが廃墟から帰って来た時にはすでにロッカーの中にいたことに対してひどく驚いていた。…それも無理はない。何故なら、彼女は最低でも3時間以上はロッカーの中にいたことになるのだから。
「あ、アリスは初めてだよね。この人が私たちゲーム開発部の部長、ユズだよ。」
「………。」
「?」
モモイがアリスに対してユズのことを紹介した後、ユズは少し抵抗がありつつもアリスに対して少しずつ、少しずつ近づいていっていた。
そして…
「えっと、あの、その……。」
「あ、あ、あ……」
「あ……?」
「……ありがとう。」
「ゲーム、面白いって言ってくれて……もう一度やりたいって言ってくれて……。」
「泣いてくれて……本当に、ありがとう。」
「???」
「面白いとか、もう一度とか……そういう言葉が、ずっと聞きたかったの。」
「ユズちゃん……。」
…ユズは、アリスに対して自身が作ったゲームのことを面白いと、もう一度やりたいと、そう言ってくれたことに対して感謝の言葉を送っていた。
そして……
「…そ、それと!」
「……俺のことか?」
「は、はい…。あ、あなたにも、お礼を言いたくて……。」
「…あ、ありがとうございます。…あなたも、面白いとか、もう一度やりたいとか、そう言ってくれて……。」
「……あいよ。アンタも、こんなに面白いゲームを作ってくれてありがとな。すっごく楽しかったぜ。」
「……は、はい!」
ユズは、アリスと同様に自身のゲームを評価してくれたアルケーに対しても感謝の言葉を述べた。…アルケーは、先ほどのアリスや自身に対して感謝をするユズの様子を見て、ユズに何かしらの事情があることを何となくではあるが察した。
…それが故なのだろう。モモイとミドリから感謝の言葉をもらって、アルケーは自身にとってはただ感想を述べただけだと言って素直には受け取らなったが、ユズが勇気を持って必死に述べたお礼はしっかりと受け止めて、そして自身が持つ本心からの感謝を、精いっぱいの笑顔を作って言った。
…それを受けたユズも返事をしたが、その顔は嬉しかったのか、とても微笑んでいるように見えた……。