■
「依頼された「データ」について、結果が出たよ。」
「い、いよいよ……!」
「ドキドキ……。」
俺たちは廃墟にて漸く探し求めていたG.Bibleを手に入れた後、それの解析をお願いするためにヴェリタスと呼ばれる凄腕のハッカーたちが集まる部活へと来ていた。
そしてその部室は周りにこれでもかというほどのモニターやキーボードなどのハードウェアやサーバー本体らしきものがあり、まさにハッキングの専門家たちの部屋と言った雰囲気を醸し出していた。
「知っての通り私たち「ヴェリタス」は、キヴォトス最高のハッカー集団だと自負してる。」
「システムやデータの復旧については、それこそ数えきれないほど解決をしてきた……。」
「その上で、単刀直入に言うね。」
…そして、ヴェリタスに所属している白い髪のポニーテールをした二年生の小鈎ハレ先輩が、真剣な面持ちで俺たちに解析した結果を言おうとしていた。
果たして、結果は…………
「モモイ、あなたのゲームのセーブデータを復活させるのは無理。」
「うわぁぁぁぁん!もうダメだーーーー!」
「そっちじゃないでしょ!?G.Bibleのパスワードの解除はどうしたのさ!?」
……どうやらハレ先輩はモモイのセーブデータの復旧に取り組んでいたようだった。ミドリの言う通り、俺たちが気にしているのはそっちじゃなくてG.Bibleの方だ。モモイのセーブデータなんざどうだっていい「酷くない!?」
「それなら、マキが作業中ですよ。」
「マキちゃんが?」
G.Bibleについてミドリが聞いたとき、そこへやってきたのは金髪のロングヘアーに眼鏡をしたヴェリタス所属の三年生、音瀬コタマ先輩だった。彼女によれば、解析についてはハレ先輩がしているわけではないらしい。
「あ、おはようミド!来てくれたんだね、ありがと。」
そう言ってミドリへと話しかけていたのは、赤い髪の両サイドに団子ヘアーをした同じくヴェリタス所属の一年生、小塗マキだった。どうやらマキは、モモイとミドリの数少ない友人の内の一人らしい。マキはミドリに対して気楽に話しかけていたことから、仲がとてもいいことなのは分かる。
「うぅ、私のセーブデータが、涙と汗の結晶が……!」
「モモはどうしてこんなに泣いてるの?」
「気にしないで大丈夫……それより、G.Bibleはどうだった?」
「うん、ちゃんと分析できたよ。あれはかの伝説のゲーム開発者が作った神ゲーマニュアル……G.Bibleで間違いないね。」
「や、やっぱりそうなんだ!」
「ファイルの作成日や最後に転送された日時、ファイル形式から考えても確実。作業者についても、噂の伝説のゲーム開発者のIPと一致してた。それと、あのデータはこれまでに一回しか転送された形跡がない。」
「っていうことは……。」
「うん、オリジナルの「G.Bible」だろうね。」
「す、すごい!!」
ミドリは手に入れた物が本物のG.Bibleだと判明して、とても興奮しているようだった。…よし、とりあえず目的の物を手に入れることができた。後は、あのパスワードを解析ができていればいい話だが………。
「でも問題があって……ファイルのパスワードについてはまだ解析できてないの。」
……どうやら、そう上手く話がいくわけではないようだな。…まあ、よくよく考えればあんなに古くて作った奴が身元が不明のやつが普通のパスワードなわけないわな。
「えぇっ、じゃあ結局見られないってことじゃん!?ガッカリだよ!」
「うっ!だってあたしはあくまでクラッカーであって、ホワイトハッカーじゃないし……とにかく!」
「そうは言っても、方法が無いわけじゃない。」
「そうなの?」
…とはいっても手段自体はあるみたいだった。…一体どんな方法なんだろうな。パスワードを解析することから、恐らく別のハッキングの手段か何かだろうとは思うが……。
「あのファイルのパスワードを直接解析するのは、多分ほぼ不可能。でも、セキュリティファイルを取り除いて丸ごとコピーするって手段なら、きっと出来るんじゃないかな……。」
「…えっと、つまりイメージとしては扉の鍵穴を特定すんじゃなくて、扉自体をぶっ壊してこじ開けるってことか?」
「…そうだね。大体そんな感じかな。」
「なるほどな………。」
確かに、その方法ならパスワードの解析なんかしなくてもG.Bibleのデータを見ることはできるだろうな。
……だが、
「……でもよ、そいつをするんには、何か特別なシステムかなんかが必要なんじゃねえのか?」
「……鋭いね。そうだよ。そのためにはOptimus Mirror System……通称「鏡」って呼ばれるツールが必要なの。」
「……やっぱりそうなのか。」
……どうやら、「鏡」と呼ばれるツールがなくてはその方法でパスワード解析ができないらしい。…まあ、頑丈な扉に対して鍵を使わずに壊して開けるんなら、何か破壊する道具なしじゃきついだろうしな。
「ぜ、全然話についていけない……。」
「つまり……G.Bibleを見るためには、その「鏡」っていうプログラムが必要だってことだよね?それはどこにあるの?」
「あたしたち、ヴェリタスが持って……た。」
「何だ。それなら今すぐ……ん、待って?過去形!?」
「……そう、今は持ってない。生徒会に押収されちゃったの、もうっ!」
「この間ユウカが急に押し入って来て、「不法な用途の機器の所持は禁止」って。」
「「鏡」もそうですし、色々と持って行かれてしまいましたね……私の盗聴器とかも。」
「……そうか、そいつは災難だったn――――っては?盗聴器?」
どうやら「鏡」は生徒会に没収されちまったみたいだった。その理由は「不法な用途の機器の所持は禁止」だとかなんとか。……少なくとも盗聴器は押収されて当たり前だとは思うけどな。
「その「鏡」って……そんなに危険なものなの?」
「そんなことは無いよ。ただ暗号化されたシステムを開くのに最適化されたツールってだけ。」
「ただ……世界に一つしかない、私たちの部長が直々に制作したハッキングツールで。」
「部長っていうと……ヒマリ先輩?」
「ヒマリ……?」
アリスは「鏡」を作ったという、ここヴェリタスの部長であるヒマリという人が誰なのか、疑問に思っているようだった。…このハッカー集団をまとめてる人だから、多分相当凄い人なんだろうが……。
「アリスちゃんとアルケーさんはまだ会ったことないよね、ヴェリタスの部長さんなの。ちょっと体が不自由で車椅子に乗ってるから、見かけたらすぐ分かると思う。」
「すごい人でね。身体のことはあるけど、それであの人に同情したり軽視したりするような人は、少なくともこのミレニアムにはいない。天才……って言うのかな。ミレニアム史上、まだたった
「……へえ、確かにそいつはすごいな。」
……要するに、そのヒマリって人はとにかくすごいって訳だな。なんかミレニアムで
「うん、本当にすごい……けど、それはそうとして。その先輩がせっかく作った装備を、どうして取られちゃったのさ。」
「……私はただ、先生のスマホのメッセージを確認したかっただけです。そのために、「鏡」が必要で……。」
「不純な意図は、全く無かったのですが。」
「……つまり、完全にアンタのせいってことっすね。……いや、何やってんですか……。」
どうやら100%自業自得の理由で押収されたみたいだった。っていうか盗聴って犯罪じゃないのか?先生はこのこと知っt――――あぁいやあの顔は知ってるしそれどころか毎度のごとく被害にあってますねあれ。何かめちゃくちゃ苦笑いしてるし。
「うわあぁん!早く「鏡」を探さないと、部長に怒られちゃう!!」
「とにかく……整理すると、私たちも「鏡」を取り戻したい。」
「それに、G.Bibleのパスワードを解くためには、あなたたちにとっても「鏡」は必要……そうでしょ?」
「なるほどね……呼び出された時点で、何かあるのかなとは思ってたけど。だいたい分かったよ。」
「え、も、もしかして……?」
「ふふ、さすがモモ。話が早いね。」
「目的地が一緒なんだし、旅は道連れってね。」
「共にレイドバトルを始めるのであれば、私たちはパーティーメンバーです。」
「……いやちょっと待て。さっきの文脈からして嫌な予感が止まらないんだが。」
俺は先ほどの話から嫌な予感が止まらずにいた。…だってよ、今の話を聞くに俺たちはこれからヴェリタスと一緒に………
「あの、お姉ちゃん、もしかしてだけど……」
「まさかヴェリタスと組んで、生徒会を襲撃するつもりじゃ……!?」
「え?そうだけど。」
「………マジかよ。」
……どうやら、俺の予想通りだったみたいだ。話の流れからしてこいつらは生徒会を襲って無理やり「鏡」を強奪する気らしい。
……やれやれ、こいつらとうとうここまで来たか。これじゃあただの不良集団となんら変わらねえじゃねえか………。
……だが、
「………しゃあねえ。いっちょやるとしますか。」
「あ、アルケーさん!?いいんですか!?」
「……いやまあ、正直なところ全然やりたくない。」
「じゃ、じゃあなんで………。」
「部活が大事なんだろ?だったら、どんな手段だろうが絶対に守らなきゃいけねえ。ただそれだけの話じゃねえのか?」
「そ、それは………。」
……いやまあ、他所の学校に迷惑かけるっていうんなら話は別だが、これなら学校内の出来事で収まりそうだしな。……超ギリギリ許容範囲ってやつだ。
これ以上やべえことをするんなら俺はやらんし無理やりにでも止めるだろうな絶対。……とはいっても、流石のこいつらもそこまではやらねえだろう。
「………分かりました。それなら私もやります。部活を守りたいのは、私も同じですし。」
「……サンキュー、ミドリ。」
ミドリは俺の言葉を聞いて気が変わったのか、その気になったようだった。……とりあえず、これで全員やる気にはなったな。
「……うん!ミドも協力してくれて嬉しいよ!………でも、一つだけ問題があるんだよね。」
「問題?」
……どうやら、生徒会を襲撃するにあたって何か問題があるそうだった。ただまあ、マキの顔を見るにそんなに大した問題じゃなさそうではあるが……。
「「鏡」は生徒会の「差押品保管所」に保管されてるんだけど。そこを守ってるのが実は……」
「メイド部、なんだよね。」
「……え?メイド部って、もしかして……」
「ああ、C&Cのことだよね?ミレニアムの武力集団、メイド服で優雅に相手を「清掃」しちゃうことで有名なあの……」
「そうそう!まあ些細な問題なんだけどさ~。」
「そっか~!そうだねー、うーんなるほど~……」
「諦めよう!!!ゲーム開発部、回れ右!前進っ!!」
「モモイ!?」
マキが問題として取り上げたC&Cが「鏡」のある場所を守っているという話を聞いた瞬間、モモイはもう無理だと云わんばかりに即座に諦めようとしていた。
「待って待って待って!諦めちゃダメだよモモ!G.Bibleが欲しいんでしょ!?」
「そりゃ欲しいよ!でもだからって、メイド部と戦うなんて冗談じゃない!」
「そんなの、走ってる列車に乗り込めとか、燃え盛る火山に飛び込めって言われた方がまだマシ!」
モモイがまるで死んだ方がましだとでも云わんががごとくに拒絶の意を示していた。……そんなにヤバいの?そのメイド部ってやつは。
「で、でもこのままじゃあたし部長に怒られ……じゃなくて!ゲーム開発部も終わりだよ!このままじゃ廃部になっちゃうんでしょ!?」
「廃部は嫌だけど……でもこれは、話の次元が違う。」
「C&Cの「ご奉仕」によって壊滅させられた過激団体や武装サークルは数え切れない……知ってるでしょ?」
「……最後には痕跡すら残さず、綺麗に掃除される。有名な話だね。」
「そりゃ部活は守りたいけど、ミドリにアリス、ユズ、アルケーの方が圧倒的に大事!危険すぎる!」
[………へえ、そこまでやべえ奴らなのか。]
モモイがここまで言うほどだから、思っているよりも相当手練れの奴らだとみた。……正直なところ、そいつらと真正面から戦ってみたいが、そんな悠長なことは言ってられないからな。俺一人ならともかく、今回はモモイやアリス達がいる。
…でも、
「……いや、モモイ。何も正面からたたく必要はねえだろ。そうだろ?マキ。」
「そう!そうだよ!アルケーの言う通り!あくまであたしたちの目標は「メイド部を倒す」ことじゃなくて、差押品保管所から「鏡」を取ってくることだから!」
「そんなに変わらないじゃん!」
「……でも、可能性の無い話じゃない。」
「私の盗ちょ……情報によると、現在のメイド部は完全な状態ではありません。」
「えっ?」
どうやら、ヴェリタスの皆曰く、そのメイド部とやらは100%の状態じゃないらしい。いや、それよりもまたこの人盗聴って言わなかったか?なんでメイド部はこの人を放ってるんだよ………。
「もちろん、メイド部はミレニアム最強の武力集団。」
「どうして「最強」と呼ばれているのか……それはもちろん、素晴らしいエージェントのメイドが揃っているからというのもあるけれど……」
「何よりも大きいのは、「彼女」の存在。」
「………「彼女」だって?一体どんな奴なんですか?そいつは」
俺はハレ先輩の口から出たその「彼女」という人物について興味を持ったので、その人のことについてハレ先輩に聞いてみた。
「……その人はね。」
「メイド部の部長、コールサイン・ダブルオー……ネル先輩。」
「……ネル先輩?」
ネル先輩………その名が呼ばれた瞬間、周りの空気が一瞬だけではあるが、かなりどっしりとした重さがあるものへと変化していた。
……なるほどね。これだけ皆が警戒してるってことは、本当にヤバい人なんだろうなその人は。
「そう。」
「けど、今彼女は…………ミレニアムの外郭に個人的な用事があるみたいでここにはいない。」
「それに……正面衝突を避けて「鏡」だけを持って逃げればいい……。後は私たちの隠れ家に行けば、追われることは無いと思う。」
「正面衝突を避けて、「鏡」だけを奪って逃げる……うーん……。」
モモイはハレ先輩の話を聞いて、どうするかを考えているようであった。……とはいっても、あの様子じゃあ断っちまうかもしれねえな。アリス以外のゲーム開発部の奴らの様子も、どことなく考え込んじまっているようだし。
…仕方ない。ここは俺が「やってみよう、お姉ちゃん。」
……と、どうやら余計なことだったようだな。俺よりも先に、ミドリがモモイに対してやってみようと力強く発言した。
「えぇっ!?でもネル先輩がいないからって、相手はあのメイド部だよ!?」
「分かってる、でも……このままゲーム開発部を無くすわけにはいかない。」
「ボロボロだし、狭いし、たまに雨漏りもするような部室だけど……」
「もう今は、私たちがただゲームをするだけの場所じゃない。」
「……みんなで一緒にいるための、大切な場所だから。」
「だから、少しでも可能性があるなら……私はやってみたい。」
「ううん、もしメイド部と対峙することになっても、それがどれだけ危険だとしても……!」
「守りたいの。」
「アリスちゃんのために、アルケーさんのために、ユズちゃんのために……私たち、全員のために!」
「ミドリ……。」
ミドリは今も暗い表情をして葛藤しているモモイに、部活に対する自身の強い想いを決意を持った表情で紡いだ。
そしてその言葉はモモイに対して、自身らがやるべきことを、進むべき道を明確に指し示すよう、希望のような明るい輝きを放っていた。
「私たちならできます。」
「伝説の勇者は……世界の滅亡を食い止めるために、魔王を倒します。」
「アリスは計45個のRPGをやって……勇者たちが魔王を倒すために必要な、一番強力な力を知りました。」
「一番強力な力……レベルアップ?あ、装備の強化?」
「盗聴ですか?」
「EMPショックとか!?」
「ち、違います……。」
「……仲間です。…仲間がいれば、どんな困難だって乗り越えることができます!」
「アリス……。」
そしてミドリに負けじとアリスも、仲間がいれば大丈夫だと、どんなことでもできると、温かくそして純粋な輝きを持つ笑顔をして、自身の真っすぐな気持ちをモモイに対して照らして示した。
………二人とも、やっぱり本気なんだな。ミドリとアリスがああ言ってんだ。これなら、誰だろうとやる気になっt――――
「………うぅ。」
……あぁいや、まだモモイの奴は迷ってそうだな。……全く、世話の焼ける奴だ。
「モモイ………お前は部活を、ゲーム開発部の皆を守りたいんだろ?」
「…俺はそのメイド部って奴らのことは知らねえけど、モモイの様子を見るにとんでもねえ集団だってことは分かる。」
「…でもよ、そんなことに怯えて逃げてちゃあ、守りたいもんも守れねえぜ?」
「そ、それは……」
「…それに、やんのはお前一人だけじゃねえんだ。アリスやミドリ、ユズ、ヴェリタスの皆が味方なんだ。……もちろん、俺もな。」
「せっかくここまで来たんだ。……別に死ぬわけじゃねぇんだし、最後まで突っ切ってみようぜ?俺たちはどこまでもお前に付き合うからよ。そうだろ?お前ら。」
「「「「「「はい(うん)!」」」」」」
「アルケー、皆……」
未だにやるかどうか悩んでいるモモイに対して俺は説得をすることにして、片目を閉じて笑いながら皆にそう声をかけた。
そうだ。やるのはモモイ一人だけじゃない。ここにいる皆が仲間なんだ。アリスの言う通り、仲間がいればきっとどんなことだろうと突破できる。
………俺が最初にモモイたちのことを手伝おうと思ったのは、ほぼ気まぐれからだった。
モモイたちの事情を聞いたとき、俺はモモイたちから本気であり、そして何よりも純粋な気持ちを感じ取った。
俺にはそれがとても懐かしいもののように思えた。まるで、かつて俺自身が同じようなものを持っていたかのように………。
それを感じたことから、俺は何となくモモイたちのことを手伝いたくなった。でもそのときはあくまでも手伝うだけ。つまり、その時の俺は中途半端な気持ちで手伝っていたってこと、今のモモイたちのように、本気で部活を守ろうとしていなかったってことだ。部活を守り切ればそれでいいと思っていたから、守ったその先は特に何も考えるつもりはなかった。
………でも、俺は次第に変わっていった。モモイたちと一緒に過ごすことによって、俺の中の気持ちが徐々に確実なものへと変わっていった。
TSCをプレイしている時も、その後のテレビゲーム大会の時も、顔をしかめたことはあったが、それでもモモイたちはどんなときでも純粋に……そして、ずっと楽しそうな表情をしていた。それを見て俺自身も自然と同じような表情に変わり、とても愉快な気持ちとなっていた。
……モモイたちが面白くて良い奴なのは初めて部室に来る前から分かっていたが、俺にはあのとても楽しい体験をすることができるモモイたちのことがとても輝いて見えた。
そして俺はこう思った。この輝きを失って溜まるかと……こいつらには、ずっと笑顔でいてほしいと……どんなときでも楽しくいてほしいと……そう強く思い始めた。俺は自然と部活のことを、モモイたちのことを大切に思い始めたんだ。その時に俺は手伝おうという意思から、一緒に守ろうという意思へと変わった。
……だが、一時は俺自身の悩みの問題もあったから、俺は部活を守ることと並行してそいつの解決もやろうとしていた。あの悩みは結構効いていたからな。アリスに話したことである程度緩和できたけど、それでも不安なのは変わらなかった。
………でも、今日ユズが見せたあの勇気を見た瞬間、俺はそんな悩みがちっぽけなものだと思うようになった。ユズのあれは、決して誰にも出せるようなものじゃない。あの勇気は大切なものを、大切な誰かを本気で守りたいという、誰にも負けないような強い
……それなのに俺は、中途半端な気持ちで部活を守ろうとしている……。ユズが自身のトラウマを乗り越えてでも本気で守ろうとしているのに、俺は自身の悩みに葛藤しながら守ろうとしている………。
………情けねぇ。大切なものを守ろうって決めたはずなのに、それがこのざまかと……俺は、自分自身が許せなかった。曖昧な自分が、仲間のように本気になれていない自分自身が……絶対に、許せなかった。
だからこそ、俺は決意した。モモイたちが持つ守りたいという本気の意志を、その大切な
C&Cだろうが何だろうが関係ねぇ。誰が来ようが全部乗り越えてやる。俺たちの大切なものたちは、絶対に誰にも壊させねぇ。
………それが今の俺の、世牙アルケーとしての
「うん、よし。」
「やろう!生徒会に潜入して、「鏡」を取り戻す!」
…おっと、どうやらモモイの奴がやっと決心したみたいだな。よし、これでもう迷ってるやつはいなくなった。後は、このまま突っ切るだけだ。
「ハレ!何か良い計画とか無い!?」
「任せて。」
「ただ、その計画を実行するためには……いくつかの準備が必要だね。さっき言ってた盗聴もそうだし、EMPショックもそう……それに……」
「あとはやっぱり……「仲間」、かな。」
「仲間?」
モモイがハレ先輩に対して、何か案はないかと尋ねていた。そして先輩にはその案があったそうだ。…だが、それには仲間が必要らしい。そして、その言葉を聞いた瞬間アリスの目が輝いていた。きっと、一緒に戦える仲間ができるのが嬉しいんだろうな。
「でも、私たちとはそんなに親しい仲ってわけじゃないから……先生にお願いしないとね。」
“私?私にできることなら、任せて。”
「うん。恐らく彼女たちの力無しに、この作戦は成立しない。」
そう言って、ハレ先輩は俺たちにその仲間が誰なのかを伝えて、その人たちに協力を申し込むように頼まれた。……その人物たちは、俺たちがつい最近お世話になった人たちであった。
■■
「なるほど、それは確かに的確な判断だ。」
「君の言う通り、その方法なら私たちじゃないと難しいだろうね。」
「うん、分かった。協力しよう。」
「……え?マジっすか?」
彼ら、ゲーム開発部の面々と先生は、エンジニア部へと来ていた。……そう、ハレの言っていた仲間というのは彼女たちのことであった。
…そして、いきなり頼んだにも関わらず、エンジニア部の部長であるウタハは即答して協力の申し出を受け入れたのだった。
「ほ、本当に良いんですか?」
「エンジニア部は実績もたくさんありますし、こんな危ない橋を渡る必要は……。」
「そうだね、そうかもしれない。」
「それなのにどうして、メイド部と戦うなんていう危険な計画に乗ってくれるんですか?」
ミドリの言う通り、彼女たちエンジニア部にはたくさんの実績がある。それ故に、メイド部と戦うメリットなど到底見当たらないはずだ。
……だが、彼女たちはそんなことは全くと言って良いほどに気にしていなかった。
「それは……。」
「……うん、その方が面白そうだから、かな。」
「そうです!それに私たちも、もっと先生と仲良くなりたいですから!」
そう。彼女たちには面白そうだからという、仲良くなりたいという、単純でかつ純粋な気持ちだけで十分だった。
…だがしかし、そのような純粋な気持ちからすぐに行動に移すことができるのは彼女たちの魅力であり、そして大きな強みと言えるだろう。
「そうだね、それと……」
「……?」
「………どうしたんすか?ウタハ先輩。」
「いや、今は良いさ。よろしく。」
「あ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします……!」
ウタハはアリスとアルケーの方に何度か目線を映して、何かを考えこんでいるようであった。だがしかし、それもすぐに終わったようだ。
「……それと、さっき君たちは危ない橋を渡ると言っていたが………」
「…それは案外、そうでもないかもしれないよ………。」
「……??」
「…え?どういうことですか?ウタハ先輩?」
「……それは、直に分かるさ。」
ウタハはそう言ってバレないようにアルケーの方へと視線を移し、うっすらと笑みを浮かべるのであった。
ーー・ーー
「これで、メンバーは揃ったよね?」
「うん、準備も出来てる。」
「よしっ!」
エンジニア部への協力の申し出を成功したゲーム開発部の彼らは、一度ヴェリタスの部室へと戻りそのことを報告していた。
…どうやらこれで、盤面はそろったようだ。…いよいよ、その時がやって来る……。
「あ、そういえば、作戦はいつ始まるの?」
「いつ……?」
「もう始まってるよ。」
……否、その時というのはもうすでに来ていたようであった。
アルケー君の悩みについてもう少し説明が欲しい
-
はい
-
いいえ