スーパー負けヒロイン大戦 〜選ばれなかった16人の未練を断ち、最高のハッピーエンドを掴み取るIF救済劇〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「あなたは彼を愛したのではない。彼に必要とされる自分を愛したのよ」
黒猫の宣告に、レムは目を伏せなかった。
「それが本当かどうか、あなたが確かめてください」
鐘が鳴る。
第2回戦、勝者組。領域へ青い屋敷と黒い礼拝堂が同時に現れた。屋敷では誰かを支えるための日常が繰り返され、礼拝堂では自分を守るための言葉が壁を埋める。
レムの背後に『献身連星』の鎖が現れる。黒猫の足元には『黒歴史巡礼』の足跡。そのどちらも、1回戦でさらした弱さを隠さず再構成した武装だった。
黒猫は黒い頁を宙へ並べる。
「あなたは自分の価値を、彼の役に立てるかどうかで測った。必要とされれば生きられる。必要とされなければ、自分など消えてよい」
頁から黒い針が降る。
レムは鎖を振り、針を弾く。しかし1本が肩へ刺さり、「不要」の文字が青い服へ広がった。
「彼が立ち直ったあと、あなたが要らなくなったら?」
2本目の針。
「彼があなたの助けなしで幸福になったら?」
3本目。
「それでも彼を愛する自分に、意味を見つけられる?」
レムの鉄球が重くなる。日常の残像が1つずつ消え、屋敷の部屋が暗くなった。
俺は息を詰める。
1回戦で、レムは報われたい欲を認めた。だが黒猫はさらに深い層を突いている。献身が愛の表現であるだけでなく、自己価値を確保する手段になっていた可能性。
「黒猫の攻撃は、レムからスバルへの愛を奪おうとしていない」
解説しながら、俺は自分の胸にも刃が入るのを感じる。
「スバルを必要としないレムを想像させている。彼へ尽くせないとき、レム自身に何が残るかを問う攻撃だ」
黒猫が笑う。
「最高審判も、自分へ同じ問いを向けたほうがいいわ。彼女たちの救済に役立たないあなたに、何が残るのかしら」
掌の印が焼けた。
観戦者のはずの俺へまで、言葉が届く。
レムが鉄球を地面へ下ろした。
「ありません」
控え室がざわつく。
「レムには、スバルくんの役に立つこと以外、何もないと思っていました」
屈服判定が集まり始める。
黒猫は頁を閉じる。
「ならば終幕ね」
「思っていました。ですが、今は1つあります」
レムは鉄球から手を離す。
鎖がほどけ、彼女の手首へ青い輪として残った。
「スバルくんが要らないと言っても、レムが愛したかったという意志です」
屋敷の暗い部屋に、1本ずつ灯りが戻る。
「必要とされるから愛すのではありません。役に立てない日も、隣にいられない日も、レムが選んだ気持ちとして持ち続けます」
『無用の献身』。
矛盾した名の武装だった。役に立たなくても消えない献身。結果を生まなくても、自分の選択として存在する愛。
青い輪から光が広がり、黒い針を溶かした。
黒猫の眉が寄る。
「意志だけで自分を名乗れると思う?」
「あなたは、そうしてきたのでしょう」
レムの返しに、黒猫が一瞬黙る。
「誰にも理解されなくても、五更瑠璃さんは黒猫であることを選んだ。レムも、必要とされなくてもレムの愛を選びます」
礼拝堂の壁に亀裂が走った。
自分を名付ける強さを武器にした黒猫へ、その論理をそのまま返した。
黒猫は黒頁を翼へ変える。
『永劫自称・夜の女王』。
翼が闘技場を覆い、屋敷の灯りを消す。影の中で、黒猫の声だけが響く。
「綺麗な結論ね。でも、あなたはまだ彼の名前なしでは自分の愛を説明できない。スバル、スバル、スバル。あなたの言葉はすべて彼を中心に回っている」
影から鎖文字が飛び、レムの青い輪へ巻き付く。
「私は京介なしでも黒猫よ。あなたは、スバルなしでレムと言える?」
青い輪が締まった。
レムの表情に初めて苦痛が浮かぶ。
それは強烈な問いだった。愛が自分の選択だとしても、選択の対象が消えれば自己像まで失うのか。
レムは答えられない。
黒猫が影から現れ、鎖を引く。レムの身体が前へ崩れ、黒い翼に包まれた。
「あなたは自分を消すことで、誰よりも純粋な愛を演じた。その純粋さに他人が反論しにくいことも知っていた」
「違います」
「なら、スバルのいないあなたを見せなさい!」
黒い翼が閉じる。
精神的屈服の光がレムへ落ちかけた。
俺は審判台で拳を握る。助言はできない。解説はできても、答えを与えれば判定を汚す。
レムは影の中で目を閉じた。
しばらくして、青い光が1つ灯る。
それはスバルとの記憶ではなかった。
姉へ抱いた敬意。屋敷の人々へ向けた親愛。仕事をやり遂げた誇り。自分の不器用さを知り、それでも笑った時間。彼女の人生には、1人の男だけではない線があった。
「レムは、スバルくんに出会う前からレムでした」
2つ目の灯り。
「劣等感も、罪も、姉様への想いもありました」
3つ目。
「スバルくんに出会って、レムは自分を好きになれる可能性を知りました。だから彼がいなくても、教えてもらった自分を捨てません」
青い光が人の輪郭を作る。
武器ではない。スバルを中心にしながらも、それだけでは終わらないレム自身の履歴だった。
『鬼が名乗る朝』。
影が内側から破れる。
レムは黒猫の翼を掴み、鎖を自分の腕へ巻き付けた。逃げずに引き寄せる。
「今度はレムが聞きます」
黒猫の身体が目前へ来る。
「あなたは、京介さんが黒猫を理解したから愛したのですか。それとも、理解する人が現れた自分を愛したのですか」
黒猫の翼が震えた。
「同じ問いを返すつもり?」
「いいえ。あなたは理解されないことを誇りにしていた。でも、理解された瞬間、その人を自分の世界の証明にした」
青い鎖が翼を縛る。
「京介さんが理解をやめたら、あなたは別の理解者を探せますか。それとも、あなたの世界そのものが間違いだったと思いますか」
黒猫は反論しようとする。
だが、礼拝堂の文字が一斉に京介の名へ変わった。
自分で作った世界だったはずが、いつの間にか1人の理解によって価値を測る世界になっていた。
屈服判定が黒猫へ集まる。
「私は」
黒猫の声が揺れる。
「理解されなくても、私よ」
「なら、彼に理解されなかった痛みも、あなたの世界へ置けますか」
レムは鎖を引かない。答えを待つ。
黒猫は翼を広げようとする。しかし、頁は1枚ずつ落ちていった。
「置けるわ」
強がりの声。
大結界は認めない。
光が強まる。
「置きたくない」
黒猫の本音が落ちた。
「彼にだけは、分かっていてほしかった」
翼が消える。
その瞬間、レムは鎖を解き、黒猫を抱き止めるように受けた。
10秒。
鐘が鳴る。
「勝者、レム」
領域が消えた。
黒猫はレムの腕から離れ、悔しげに顔を背ける。
「最後まで献身的ね」
「これはレムがしたいからしたことです」
黒猫が振り返る。
レムは微笑んだ。
必要とされたからではない。その一言を、行動で示していた。
控え室へ戻る途中、黒猫は俺の前で立ち止まる。
「今の私を、理解したつもり?」
「つもりにはならない。理解し続ける」
「傲慢ね」
「審判を引き受けた時点で知ってる」
黒猫は小さく笑い、通り過ぎた。
次の勝者組。
中野三玖対小野寺小咲。
待った者同士が、今度はどちらが自分の一歩を信じられるかを争う。
勝者組に、同じ論理が2度通じる余地はなかった。