スーパー負けヒロイン大戦 〜選ばれなかった16人の未練を断ち、最高のハッピーエンドを掴み取るIF救済劇〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「私たち、似てるって言われるよね」
小咲が困ったように笑う。
三玖は首を横へ振った。
「似てるから、違いが分かる」
鐘が鳴る。
領域へ2本の細道が現れた。三玖の道には一歩ごとの足跡。小咲の道には、1つずつ開かれた扉。どちらも派手ではない。だからこそ、どの一歩を自分で選んだかが隠せない。
三玖は『静謐告矢』を構える。小咲は『未開封の約束鍵』を握る。
「最初から撃つの?」
「待たないって決めたから」
三玖の矢が放たれる。
小咲は扉を開き、その裏へ身を滑らせる。矢は空を切り、足跡の道へ刺さった。
次の扉から小咲が現れ、鍵を三玖の弓へ触れさせる。弦にかかっていた「告白」の意味が開錠され、言葉の断片となって散る。
「三玖ちゃんは、言った自分を強くしすぎてる」
小咲が鍵を回す。
「告白できた。努力した。前へ進んだ。だから、言えなかった頃の自分を弱いって決めてない?」
弓の一部がほどける。
三玖は後退しながら矢をつがえる。
「弱かったよ」
「本当に?」
小咲が別の扉を開く。
そこには、言えなくても好きだった時間が映る。相手の好みを知ろうとした日、姉妹に譲りたくないと初めて思った日、変わりたいと願った日。
「告白した日だけが恋の証明なら、それまでの三玖ちゃんは何だったの?」
扉から伸びた光が弓を縛る。
俺は2人の武装の変化を追う。
「小咲は1回戦で、言えなかった日々も自分の恋として解錠した。三玖は一歩を踏み出すことで勝った。今回は、その一歩が過去の自分を否定する刃になっている」
三玖の目が揺れる。
1回戦で得た強さが、そのまま弱点として再検査されている。勝者組の戦いは、成功した論理を繰り返すだけでは勝てない。
小咲は鍵を胸元へ当てる。
「私は、言えなかった私も好きだったって認める。三玖ちゃんは?」
屈服判定が三玖へ集まる。
三玖は弓を下ろした。
「嫌いだった」
光が強まる。
「何もできない私が嫌いで、変わりたかった」
小咲の道の扉が一斉に開く。
「だったら、変わる前の自分を置いてきたんだね」
「置いてきてない」
三玖はヘッドホンへ触れる。
「嫌いだったから、見てた。できないことも、逃げたことも。好きだったって言い直すつもりはない」
弓が消え、三玖の手に1本の矢だけが残る。
「でも、嫌いな私が進んだから、今の私がいる」
矢の鏃へ、過去の足跡が吸い込まれていく。
『嫌悪継承』。
自分を肯定するのではなく、嫌いだった自分の選択を継ぐ力。三玖は矢を投げる。矢は小咲へではなく、開いた扉の蝶番へ突き刺さった。
扉が閉じる。
「過去を開けば、全部優しく見える」
三玖は次の矢を拾う。
「小咲は、言えなかった自分を認めることで、言わなかった責任まで思い出にしてない?」
小咲の鍵が止まった。
「違うよ。私は責任も」
「認めた。でも、許しすぎてる」
矢が2枚目の扉を閉じる。
「約束があった。勇気がなかった。友達を傷つけたくなかった。全部本当。でも、理由を1つずつ開けていけば、言えなかったのは仕方なかったって思える」
3枚目、4枚目。
扉が閉じるたび、小咲の逃げ道が減っていく。
「私は、仕方なかったとは思わない」
三玖の声は静かだ。
「届かなかったのは私の負け。だから、ここで勝ちたい」
小咲は鍵を強く握る。
「負けを認めることと、自分を責め続けることは違うよ」
最後の扉を開き、三玖の正面へ出る。
鍵が矢を受け止めた。青い火花が散る。
「三玖ちゃんは、前へ進む自分だけを価値ある自分にしてる。疲れて止まったら、また自分を嫌いになるの?」
三玖の足跡が崩れる。
その問いは深く刺さった。
努力できる自分。料理を練習する自分。告白する自分。進み続けることで得た誇りは、立ち止まった瞬間に失われるのか。
小咲が鍵を回す。
『停留許可』。
三玖の足元へ椅子が現れ、強制的に座らせる。足跡の道が途切れた。
「休んでも、好きだった自分は消えないよ」
優しい言葉だった。
だから危険だった。
屈服判定の光が三玖へ落ちる。
三玖は椅子へ座ったまま、目を閉じる。
「休むことはできる」
「うん」
「でも、今は休まない」
椅子の脚へ青い糸が巻き付いた。
三玖は座った姿勢のまま、糸を引く。椅子ごと前へ滑り、小咲へ体当たりした。
「えっ」
予想外の攻撃に、小咲が鍵を落とす。
三玖は立ち上がらない。椅子に座り、止まった自分を否定せず、その位置から戦い方を変える。
『休符からの1音』。
青い糸が小咲の鍵へ絡み、三玖の手元へ引き寄せた。
「止まっても、できることはある」
屈服判定が砕ける。
小咲は扉を新たに作ろうとする。しかし鍵がない。三玖は奪った鍵を見つめ、問いを返す。
「小咲は、鍵がなければ進める?」
「返して」
「約束も、きっかけも、正しい瞬間もなかったら、自分で扉を壊せる?」
小咲の顔が強張る。
彼女の1回戦の成長は、胸中の錠を自分で開いたことだった。だが、なお「開けるべき扉があり、対応する鍵がある」という物語に支えられている。
三玖は鍵を遠くへ投げた。
小咲が反射的に追う。
その進路へ矢が刺さり、青い壁が立った。
「鍵を探すなら、また待つことになる」
三玖は弓を再構成する。
「扉が開くのを。約束が見つかるのを。楽が気づくのを」
小咲は壁を叩く。
「三玖ちゃんだって、風太郎くんに気づいてほしかったでしょ!」
「うん。だから、気づかれなかった責任を相手に渡さない」
三玖は矢を引く。
「小咲は、約束が見つかっていたら選ばれたと思ってる?」
壁の向こうで、小咲の動きが止まる。
「思ってない」
「本当に?」
小咲の周囲へ屈服判定が集まる。
約束は希望だった。それと同時に、「もし早く分かっていれば」という別の結末への逃げ道でもあった。選ばれなかった現在を、発見されなかった過去のせいにできる。
「約束がなくても、同じように好きだった?」
三玖の問いは、かつて万里花へ向けたものと似ていた。だが今度は、もっと静かだった。
小咲は目を閉じる。
「好きだった」
光は消えない。
「じゃあ、約束がなくても告白できた?」
答えが詰まる。
大結界は、言葉ではなく迷いを測る。
小咲は鍵の落ちた場所を見る。取りに行けば、約束へ戻れる。壁を壊せば、鍵のない自分で進むことになる。
彼女は拳を握り、青い壁を殴った。
1度。2度。指が傷ついても続ける。
「できなかった」
壁へ亀裂が入る。
「約束がなかったら、きっともっと言えなかった」
屈服判定が強まる。
「だから今、壊す」
小咲が最後の拳を振るう。壁が砕けた。
その瞬間、三玖の矢が胸元へ触れる。
小咲は止まらず、三玖へ手を伸ばす。
あと一歩。
しかし、矢から青い糸が広がり、両腕と腰を縛った。小咲は前へ倒れ、三玖が受け止める。
10秒。
鐘が鳴った。
「勝者、中野三玖」
領域が消える。
小咲は悔しさを滲ませながらも、三玖へ笑った。
「鍵、なくても進めたよ」
「うん。だから怖かった」
三玖は正直に答える。
勝者席へ戻ると、二乃が待っていた。
「休符からの1音? 随分器用なことするじゃない」
「二乃に言われたから。待ってたら置いてくって」
「私のために強くなったみたいに言わないで」
「言ってない」
2人の間で火花が散る。
次の対戦札が空へ上がった。
中野二乃。
谷川柑菜。
直進する者と、遅れてでも言い切った者。
二乃は赤い手綱を握る仕草をし、笑った。
「今度は、私より先に言えたくらいで勝てると思わないことね」