スーパー負けヒロイン大戦 〜選ばれなかった16人の未練を断ち、最高のハッピーエンドを掴み取るIF救済劇〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「私より先に言えたことを、勲章みたいに掲げないで」
二乃の赤い手綱が、開始の鐘と同時に柑菜の透明な瓶を打ち砕いた。
領域へ赤い1本道と夏の湖畔が現れる。1本道には後戻りを許さない矢印が並び、湖面には言えなかった日々が沈んでいた。
柑菜は飛び散った液体を腕へ集める。
「勲章になんかしてない。言ったあと後悔したことまで、私は認めた」
「だったら分かるでしょ。告白しただけで、相手を愛し切ったことにはならない」
二乃が手綱を引く。『恋路強行線』が彼女を一直線に射出した。
柑菜は透明な波を盾にする。衝突で湖面が割れ、沈んでいた言葉が水柱となって噴き上がった。
俺は2人の違いを追う。
「どちらも沈黙を破った。二乃は自分の恋から逃げないため、柑菜は相手へ選択を返すために言った。似ているが、言葉を渡したあとの責任の取り方が違う」
柑菜は水柱を時計へ変える。
『夏の終刻』。
砕けた数字が二乃へ降る。告白した瞬間から始まった期限。返事を待つ時間。姉妹の誰かが先へ進む時間。
「二乃は言ったあと、風太郎の答えを待てた?」
数字が赤い手綱へ絡む。
「待ったわ」
「自分の望む答えになるまで、押し続けながら?」
二乃の動きが鈍る。
柑菜は波を蹴り、距離を詰めた。
「好きだと知らせることと、好きにならせることは違う。二乃は告白した勇気で、相手の時間まで自分のものにしようとしたんじゃない?」
屈服判定の光が二乃へ集まる。
二乃は手綱を握り締めた。
1回戦で羽川から同じ傷を突かれた。だが今度の問いは、より具体的だ。言ったことではなく、言ったあとの態度。告白を相手への贈り物ではなく、関係を動かす権利として使わなかったか。
「したわよ」
二乃は認める。
「振り向かせようとした。私を見なさいって何度も迫った」
光が強まる。
「でも、相手の答えを奪ってはいない」
赤い手綱の先端がほどける。
これまで誰にもつながらなかった手綱が、自分の胸へ結ばれた。
「私は私を進ませた。風太郎を引きずったんじゃない。あいつが別の答えを選んだとき、嫌でも最後には受け取った」
『失恋受領印』。
二乃の掌へ赤い印が浮かぶ。拒絶を無効にせず、自分の履歴へ受け取った証だった。時計の数字が印へ吸い込まれ、屈服判定が砕ける。
「柑菜こそ、言ったことで相手へ選択を返したなんて、きれいにまとめすぎじゃない?」
二乃が反撃する。
「あなたは、もう相手の心が別の人へ向いてると知っていた。それでも言った。返したんじゃない。答えの決まった問いを押しつけたのよ」
柑菜の波が止まる。
「自分が後悔しないために、相手に断る役をやらせた。違う?」
透明な瓶が再生し、その内側へ「自己満足」の黒い液体が溜まる。
柑菜は顔を歪めた。
「違わない」
「即答すれば強いと思ってる?」
二乃の手綱が瓶を縛る。
「認めるだけなら楽よ。全部分かってますって顔をして、自分への判決を先に出せば、他人から責められても痛くないもの」
柑菜の目が見開かれる。
俺も息を呑んだ。
自己認識は強さになる。だが、自分で先に罪を認めることで、他人の言葉が届く余地を消すこともある。「後悔した」「自己満足だった」と言い切れば、それ以上傷つかずに済む。
「柑菜は自分の告白を裁き終えたことにしている」
俺は告げる。
「だから、海人が実際に何を感じたかではなく、自分の中で完結した反省だけを持っている」
「じゃあ、どうすればよかったの」
柑菜の声が震える。
「言わずにいれば逃げたって言われる。言えば自己満足。後悔を認めれば予防線。何を選んでも間違いじゃない!」
湖が荒れ、無数の瓶が浮かぶ。
『正解なき告白群』。
言う未来、言わない未来、早く言う未来、遅く言う未来。すべての可能性が瓶となり、それぞれ違う後悔を詰めて二乃へ襲いかかる。
二乃は赤い1本道を走る。瓶を割るたび別の後悔が身体へ降り注ぐ。それでも止まらない。
「そうよ。正解なんてない!」
手綱が1本道の矢印を引き抜き、2本の鞭へ変わる。
「だから、選んだあとの自分で立つしかないの!」
二乃は瓶を1つだけ掴んだ。柑菜が実際に選んだ告白の瓶だ。
「可能性を並べて逃げないで。あんたが言った言葉はこれだけでしょう!」
瓶を柑菜へ投げ返す。
柑菜は受け止める。黒い液体が両腕へ広がった。
「相手に負わせた痛みも、自分が楽になった部分も、想像じゃなく受け取り続けなさい。『後悔したから終わり』にするな!」
柑菜は瓶を胸へ抱く。
黒い液体が透明へ戻らない。だが、捨てもしなかった。
「終わりにしない」
屈服判定が消える。
柑菜は湖面を蹴り、二乃へ組みついた。2人は赤い道を転がり、互いの腕を取り合う。
力は拮抗していた。告白の早さでも、後悔の深さでも決まらない。
柑菜は二乃の手綱を湖へ引き込む。二乃は柑菜の瓶へ受領印を押しつける。
波と炎が同時に弾けた。
2人の身体が反対方向へ吹き飛び、石床へ倒れる。
相打ち。
大結界が白い尺度を空へ出した。
救済への現在依存度。
数値は表示されない。ただ2本の光が伸び、ほんの指1本分だけ二乃が上回る。
柑菜がそれを見て、悔しそうに笑った。
「負けた理由が、より依存してるからって、微妙」
二乃は起き上がる。
「勝ちは勝ちよ。私は先に選ばれたい。恥ずかしがる気もない」
鐘が鳴る。
「勝者、中野二乃」
領域が消える。
柑菜は差し出された手を取った。
「次に会ったら、今度は依存してないほうが勝つルールにして」
「そのときも私が勝つわ」
「どっちなの」
控え室に戻った二乃を、三玖が無言で見る。
「何よ」
「私より依存してるかも」
二乃の顔が赤くなる。
「決勝まで来たら測ってもらえばいいでしょ!」
姉妹の視線がぶつかる。
俺は勝者宣言のあとも、しばらく白い尺度が消えた空を見つめた。依存度で決まった勝敗は、愛の深さの順位ではない。今この瞬間、救済をどれほど急いでいるかの差にすぎない。けれど、その一瞬の差が完全順位を動かす。二乃は恥じずに欲した。柑菜は自分の後悔を抱えたまま、相手へ渡した痛みを考え続けると決めた。どちらも1回戦の答えを繰り返さず、さらに先へ進んだ。
俺の掌の印には、二乃の風太郎像が強く刻まれていた。彼女が求めているのは、強引さをたしなめるだけの相手ではない。正面から拒絶し、怒りを受け、なお逃げない男だ。理解すればするほど、俺がいつか口にすべき言葉の重さが増していく。
二乃は勝者席へ戻る直前、柑菜へもう1度振り返った。『あんたの告白、間違いだったとは思わない』。柑菜は驚いた顔をする。『でも、正しかったとも言わない』。二乃は続けた。『選んだものを正解にするのは、言った瞬間じゃなくて、そのあとでしょう』。柑菜は瓶を抱く仕草をし、今度こそ素直に頷いた。2人の間に友情は生まれなかったが、互いの後悔を軽く扱わない約束だけが残った。
その背後で、次の札が灯った。
霞ヶ丘詩羽。
ランカ・リー。
物語で1人へ届こうとした者と、歌で多くへ届いた者。作品を持つ2人の再定義が始まる。