​スーパー負けヒロイン大戦 〜選ばれなかった16人の未練を断ち、最高のハッピーエンドを掴み取るIF救済劇〜 ​   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

19 / 20
結末を拒む献身

「あなたの献身には、結末が1つしかない。自分を差し出し、彼を立たせ、選ばれなくても微笑む」

 

詩羽が書いた一文どおりに、レムの『献身連星』が地面へ落ちた。

 

鐘が鳴る。第3回戦、準決勝。領域へ青い屋敷を包む巨大な原稿用紙が現れる。窓も扉も、詩羽の文章に従って配置を変えた。

 

「あなたは強い。でも、読みやすい」

 

万年筆が走る。

 

彼女は相手のために傷を受ける。

 

赤い文章が現実となり、紙刃がレムへ飛ぶ。レムは避けずに肩で受けた。

 

「ほら」

 

詩羽の笑みは冷たい。

 

彼女は自分を後回しにする。

 

レムが反撃の鎖を止め、控え室にいる誰かを庇うように足場を変える。存在しない危機にまで、武装が従った。

 

俺は詩羽の支配を理解する。

 

「詩羽はレムの行動原理を脚本化している。献身が一貫しているほど、次の選択を予測できる。美徳が行動の自由を奪う構造だ」

 

レムの周囲へ屈服判定が集まる。

 

詩羽は第2稿を開く。

 

「1回戦で報われたい醜さを認め、2回戦で必要とされなくても愛す意志を得た。それでもあなたは『愛し続けるレム』から出ない」

 

原稿用紙が鎖となり、レムの両腕を縛る。

 

「スバルのためにならない選択を、あなたはできる?」

 

レムは答えない。

 

「彼が望まなくても、自分の幸福を優先できる?」

 

鎖が締まる。

 

「彼を愛さない未来を、自由として選べる?」

 

青い屋敷の灯りが消える。

 

最後の問いは残酷だった。愛し続ける意志を得たレムに対し、愛をやめる自由の有無を問う。選べないなら、それは意志ではなく運命ではないか。

 

レムは膝をついた。

 

「選びません」

 

屈服判定が強まる。

 

「レムは、スバルくんを愛さない未来を選びません」

 

「なら、自由ではないわ」

 

詩羽が結末を書く。

 

彼女は自分の愛に従属した。

 

巨大な句点が空へ現れ、レムへ落ちる。

 

レムは顔を上げた。

 

「選ばないことと、選べないことは違います」

 

青い輪が手首へ灯る。2回戦で得た『無用の献身』。

 

「愛さない未来を想像できます。スバルくんから離れ、自分の幸福だけを探す道も、レムにはある」

 

屋敷の外に、花畑や町や見知らぬ道が現れる。

 

「その道があると知ったうえで、レムはこの道を選びます」

 

青い輪が原稿の鎖を切った。

 

『自由選択・同じ朝』。

 

何度選び直しても同じ相手を愛する。結末が同じでも、そこへ至る選択は毎回新しい。巨大な句点が砕け、無数の読点へ変わった。

 

詩羽の目が細くなる。

 

「選び直したと宣言すれば、運命も自由になるの?」

 

万年筆が読点をつなぎ、迷路のような文章を作る。

 

「あなたが別の道を選ばないことを、大結界はどう証明する? 口で可能だと言うだけなら、どんな依存も自由意志を名乗れる」

 

赤い迷路がレムを囲む。各分岐には、スバル以外の幸福が置かれていた。姉と平穏に暮らす道。誰にも尽くさず、自分のために生きる道。新しい誰かを愛する道。

 

「1つ選びなさい」

 

詩羽が命じる。

 

「選ばなければ、可能性を認めたことにはならない」

 

レムは分岐を見る。

 

どの道も穏やかで、彼女を傷つけない。だからこそ、選ばないことが自己犠牲に見える。

 

俺は喉の奥に苦味を感じた。詩羽の論理は正しい。だが、可能性を証明するために望まない道を選べという要求もまた、自由を奪う。

 

「選択肢があることを証明するために、選びたくないものを選ばせるなら」

 

レムが呟く。

 

「それは自由ではなく、試験です」

 

彼女は迷路の壁へ鎖を巻き付けた。

 

「レムは、試験に合格するために愛したのではありません」

 

『不証明選択』。

 

自由であることを他者へ証明しない権利。迷路を攻略せず、壁そのものを引き倒す。赤い文章が崩れ、屋敷へ青空が戻った。

 

屈服判定が消える。

 

今度はレムが問う。

 

「詩羽さんは、結末を読めない物語を書けますか」

 

万年筆が止まる。

 

「作者が望む結末へ人物を動かさず、登場人物が自分の選択で作者を裏切る物語です」

 

「それは放棄よ。作者が構成を失えば作品ではない」

 

「では、倫也さんにも、あなたの望む役を与えたのではありませんか」

 

書斎の壁に亀裂が入る。

 

「あなたを理解する読者。作品を完成へ導く協力者。最後にあなたを選ぶ主人公」

 

レムは鎖を万年筆へ絡める。

 

「その役から外れた倫也さんを、あなたは1人の人として愛せましたか」

 

詩羽の原稿へ屈服判定が集まる。

 

彼女は第2回戦で宛先を複数に改稿した。作品と恋を分けた。だが恋の中では、なお相手へ理想的な読者役を求めている。

 

「愛したわ」

 

詩羽は鎖を切る。

 

「期待どおりに読まない鈍さも、創作者として未熟な点も、逃げるところも含めて」

 

「それでも、結末だけは選ばせたかった」

 

「当然よ!」

 

原稿が嵐となる。

 

『作者権限・強制終幕』。

 

詩羽は自分の執着を否定しない。選択を支配したかった欲を、そのまま最大出力へ変えた。赤い頁がレムの屋敷を1枚ずつ閉じ、世界を本の中へ圧縮する。

 

「人を愛すれば、望む結末が生まれる。自由に選んでほしいなんて綺麗事だけでは済まない。私を選べと、物語ごと迫るのが私の愛よ!」

 

本が閉じる。

 

レムは頁の内側へ封じられた。

 

詩羽は荒い息のまま、表紙へ最後の題名を書こうとする。

 

そのとき、本の内側から朝食の香りが漂った。

 

頁に、整えられた部屋、差し出された水、傷ついた相手へ添える手が浮かぶ。どれも結末を強制しない行為だった。

 

「レムの献身は、相手を選ばせるためだけにあったのではありません」

 

頁の中から声がする。

 

「結果が変わらなくても、その1日を少し良くするためにありました」

 

『結末不要の日常』。

 

物語の山場にも伏線にもならない日々が、本の頁数を増やしていく。詩羽が閉じようとしても、終わりのない日常が次々に差し込まれる。

 

表紙が弾けた。

 

レムは青い鎖とともに飛び出し、詩羽の万年筆を鉄球で叩き落とす。

 

「あなたの物語に、レムは結末を渡しません」

 

鎖が詩羽の腕と腰を包む。

 

詩羽は原稿を呼ぼうとする。しかし、頁は日常の断片で埋まり、強制終幕を書けない。

 

レムは彼女を石床へ押さえた。

 

10秒。

 

鐘が鳴る。

 

「勝者、レム」

 

領域が消える。

 

詩羽は仰向けのまま息を整え、やがて笑った。

 

「結末不要の日常。作家泣かせね」

 

「毎日を続ける人には、必要なものです」

 

「その台詞、覚えておくわ。いつかあなたの救済を物語にするときに使う」

 

「許可は取りに来てください」

 

レムの返答に、詩羽は目を見開き、それから声を立てて笑った。

 

俺の掌には、スバルへ同期するための新しい条件が刻まれた。レムを選ぶとは、彼女の献身へ報酬を与えることではない。結果にならなかった日常まで見つけ、彼女が選び続けた自由を認めることだ。

 

詩羽が退場したあと、俺は審判台の手すりから手を離せなかった。結末を与えない日常を理解することと、救済という結末を実行することは矛盾する。その矛盾こそ、いずれレム本人へ説明しなければならない。

 

次の準決勝札が灯る。

 

中野三玖対中野二乃。

 

同じ男を愛した姉妹が、ついに直接向かい合う。

 

二乃が赤い手綱を鳴らした。

 

「今度こそ、私が先に行く」

 

三玖はヘッドホンを外す。

 

「二乃を越えて、私が行く」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。