スーパー負けヒロイン大戦 〜選ばれなかった16人の未練を断ち、最高のハッピーエンドを掴み取るIF救済劇〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
開始の鐘より早く、二乃の拳が三玖の頬を打った。
「待たないって、こういうことよ」
三玖は倒れず、二乃の手首へ青い糸を巻き付ける。
「近すぎる」
引いた糸で二乃を崩し、肩から石床へ投げる。
鐘が遅れて鳴った。
領域へ5つの席が並ぶ食卓と、1本の赤青二重線が現れる。姉妹として同じ家に生まれ、同じ男を愛し、違う方法で進んだ2人の履歴がむき出しになる。
二乃は『恋路強行線』を引く。三玖は『静謐告矢』を構える。
「私がいなければ、もっと早く告白できた?」
二乃の問いと同時に突進が来る。
三玖は矢を放つが、二乃は手綱で弾き、そのまま肩をぶつけた。
「姉妹を気にして遅れた。私が先に言ったから焦った。結局、あんたの恋はいつも姉妹との比較で動いたんじゃない?」
三玖は床を滑る。
食卓の席に、一花、二乃、三玖、四葉、五月の影が座る。風太郎を見る前に、互いの動きを見ていた時間。
屈服判定が三玖へ集まる。
俺は2人の争点を見た。
「同じ相手を愛した姉妹にとって、恋と競争は切り離せない。相手を求めたのか、姉妹に勝ちたかったのか。どちらか一方だけを本物にすることはできない」
三玖は立ち上がる。
「二乃に勝ちたかった」
光が強まる。
「一花にも、四葉にも、五月にも負けたくなかった」
弓が1度消える。
「でも、勝てば風太郎を好きになれるわけじゃない。好きだったから、勝ちたかった」
足元に青い足跡が現れる。その隣には、姉妹の足跡も残る。
『比較同行』。
競争心を恋の不純物として切り捨てず、同じ道を走った証として力へ変える。三玖は姉妹の足跡を踏み台に跳び、至近距離から矢を放った。
二乃は手綱を盾にする。矢が赤い線を裂き、肩へ刺さる。
「きれいにまとめないで!」
二乃が矢を折る。
「好きだから勝ちたい? 私は、勝ちたいからもっと好きになった瞬間もある。あんたに負けたくなくて、風太郎を奪いたくて、気持ちを燃やした!」
赤い線が炎になる。
『競争加熱』。
姉妹への嫉妬を隠さず、愛を増幅した燃料として引き受ける武装。二乃の速さが上がり、三玖の矢を左右から打ち砕く。
「恋が純粋じゃなきゃ駄目なんて、誰が決めたのよ!」
拳が三玖の腹へ入る。続く手綱が足を払い、三玖を食卓へ叩きつけた。
二乃は馬乗りになり、手綱で両腕を縛る。
「私のほうが先に言った。強く迫った。醜さも全部見せた。あんたは私の後ろから、静かな顔でいいところだけ持っていこうとした!」
屈服判定が三玖へ戻る。
控え室で一花が息を呑む。二乃の言葉には、姉妹だからこその長年の感情が混じっている。自分が道を切り開き、三玖が完成された結果へ近づいたという不公平感。
三玖は縛られたまま二乃を見る。
「二乃が先に行ったから、私も行けた」
「感謝で勝つつもり?」
「違う。先に行った二乃を、追い越したい」
青い糸が手綱の内側から伸びる。
『姉妹追走』。
相手の先行を弱点ではなく目標へ変える。三玖は二乃の手綱を自分の足場にし、身体を反転させて拘束を抜けた。
2人は同時に立つ。
今度は三玖が問う。
「二乃は、私がいなかったら同じように風太郎を好きだった?」
二乃の炎が揺れる。
「当たり前でしょ」
「本当に?」
矢が赤い線の分岐へ刺さる。
「私が料理を始めたから、二乃も負けたくなかった。私が近づいたから、二乃も急いだ。一花が動いたから、二乃はもっと強く言った」
食卓の姉妹影が二乃を囲む。
「二乃も、姉妹との競争で恋を大きくした。なら、私だけ後ろから来たみたいに言わないで」
屈服判定が二乃へ移る。
二乃は歯を食いしばる。
「大きくしたわよ。だから何?」
「風太郎に選ばれたいのか、姉妹の中で1番になりたいのか、分からなくなったことはない?」
炎が一瞬消える。
その沈黙を大結界が測る。
二乃は姉妹を愛している。だからこそ、同じ男を巡る競争は残酷だった。誰かが選ばれるたび、祝福と敗北が同時に来る。1番になりたい願いが、風太郎への恋と分離できなくなった瞬間もあった。
「あるわ」
二乃は言った。
屈服判定が強まる。
「風太郎より、あんたたちを見てた瞬間がある。誰が先か、誰が好かれてるか、そればっかり気にした」
赤い手綱が食卓の5席を結ぶ。
「でも、その醜さごと私の恋よ。姉妹に負けたくない私も、風太郎に選ばれたい私も、切り分けない!」
『五等分不能』。
5つに分けられない感情が1本の赤い奔流となる。姉妹愛、競争心、嫉妬、恋、敗北。そのすべてが二乃の身体へ集まった。
屈服判定が砕ける。
二乃は手綱を振り、三玖の弓を真っ2つに折った。
「これで遠くから撃てないわね」
三玖は折れた弓を見る。
「最初から、最後は近くで言うつもり」
2本の弓片を短い青棒として握る。
2人は真正面からぶつかった。
赤い手綱が三玖の肩を打つ。青い弓片が二乃の脇を捉える。拳、肘、足払い。概念武装を使った戦いは、姉妹喧嘩の原型へ近づいていく。
「ずっと、二乃が怖かった」
三玖が打たれながら言う。
「強くて、迷わなくて、私にないものを全部持ってた」
「今さら褒めても遅い!」
二乃の拳が頬へ入る。
三玖はその腕を抱え込む。
「だから、二乃に勝てたら、自分を信じられる」
「私を踏み台にするな!」
「二乃も、私を燃料にした」
三玖は腰を落とし、二乃を持ち上げる。二乃は手綱を三玖の首へ回し、同時に身体をひねった。
2人が石床へ落ちる。
互いに離れず、赤と青の糸が絡み合う。
俺には、どちらが優勢か分からなかった。依存度測定に移れば、二乃が勝つ可能性が高い。彼女はそれを知っている。三玖も第13話を見て知っている。
三玖は二乃の目を見る。
「依存度判定まで行かない」
「できるならやってみなさい」
二乃が手綱を締める。
三玖は抵抗をやめた。
一瞬、二乃の力が空を切る。
三玖は締め付けられる方向へ自分から身体を滑らせ、二乃の背後へ回った。手綱を避けるのではなく、その強引さを道として利用する。
『受け入れ反転』。
二乃が振り返るより早く、青い糸が両手首を背中で結ぶ。三玖はそのまま腰へ腕を回し、石床へ押さえ込んだ。
二乃は暴れる。赤い炎が噴き上がり、三玖の腕を焼く。
「離しなさい!」
「離さない」
「風太郎みたいなこと言うな!」
「私は私」
三玖は焼かれても力を緩めない。
「二乃が強引でも、重くても、姉妹だから知ってる。全部受けて、それでも私が先に行く」
二乃の動きが止まる。
それは風太郎へ求めたものに似ていた。醜さまで見て逃げない相手。だが今、最も深くそれを知る姉妹から受け止められている。
10秒。
鐘が鳴った。
「勝者、中野三玖」
領域が消える。
三玖はすぐ拘束を解いた。
二乃は起き上がり、悔しさに唇を震わせる。
「私の欲しいものを使って勝つなんて、性格悪くなったわね」
「二乃に鍛えられた」
「それ、褒めてないでしょ」
三玖は少し考える。
「半分は褒めてる」
二乃は睨み、やがて三玖の肩を拳で軽く押した。
「決勝まで行きなさい。私を倒して、その前で負けたら許さない」
「行く」
姉妹は並んで控え室へ戻る。
俺の掌には、2つの風太郎像が以前より明確に、以前より両立不能な形で刻まれていた。三玖へ必要なのは、静かな変化を見つけ、歩みを急かさず、それでも最後は彼女自身の言葉を求める風太郎。二乃へ必要なのは、強引さへ正面から抗い、拒絶も怒りも受け、逃げずに選ぶ風太郎。
同じ人物へ同期するのに、同じであってはならない。
その矛盾の先で、第3回戦の次札が灯る。
ランカ・リー対五更瑠璃。
声を世界へ開く者と、自分の世界を守る者が、5位以上への道を争う。