スーパー負けヒロイン大戦 〜選ばれなかった16人の未練を断ち、最高のハッピーエンドを掴み取るIF救済劇〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「あなたは醜さを自分へ戻した。でも、それを理由に何をしても許されると思っていませんか」
あやせの白い格子が、羽川の黒い影を四方から閉じ込めた。
鐘が鳴る。領域へ再審の法廷と、頁の尽きない図書室が現れる。格子には扉があり、羽川の説明を聞くまで閉じない。第15話で英梨々に敗れて得た『正義再審』だった。
「思っていないよ」
羽川は『他者解答全集』を開く。
「だから困っている。善い私だけで生きるのも、醜い私を免罪符にするのも違う」
黒い影が彼女の足元へ座る。もう怪異として切り離されてはいない。ただし、完全に統合もされていなかった。
あやせは格子の扉を1つ開く。
「なら、その感情を行動へ移す前に審理してください」
「誰が裁くの?」
「自分です」
「自分の欲に、自分で許可を出すの?」
羽川の問いと同時に、活字が扉へ貼り付く。
自己正当化。後付けの審理。結論先行。
白い扉が軋んだ。
俺は2人の論理を追う。
「あやせは正義を捨てず、判決前に相手の説明を聞くようになった。羽川は善性が欲望を切り離す仕組みを認めた。今回は、最終判断を誰が引き受けるかが争点だ」
羽川は本を掲げる。
「あなたは再審すると言った。でも、裁判官はずっとあなた。京介くんの説明を聞いても、最後は自分の正しさで判決を出す」
頁が法廷の壁へ広がる。
「それは相手を尊重したことになるのかな。それとも、丁寧になった支配?」
屈服判定があやせへ集まる。
あやせの手が止まった。
1回戦では相手の選択を自分の認める範囲へ閉じ込めた。2回戦では、理解する前から禁止しないことを覚えた。だが聞いたあとで、なお自分が判決を下すなら、構造は変わっていないのかもしれない。
「私は、判断を放棄しません」
光が強まる。
「相手の自由を尊重することと、自分が正しいと思うことを言わないことは違います」
白いリボンが裁判官席から離れ、あやせの手首へ巻き付く。
「ただし、判決に従わせる権利まで自分にあるとは考えません」
格子の扉が外側からも開く形へ変わった。
『不服申立自由』。
あやせが判断を示しても、相手は拒否し、出ていける。正しさを伝える責任と、従わせない責任を分けた武装だった。
屈服判定が砕ける。
「あなたは?」
あやせが問う。
「醜い感情を自分へ戻したあと、その欲が誰かを傷つけると知ったら、止められますか」
羽川の黒い影が揺れる。
「止めるよ」
「善い人でいたいから?」
「違う」
「では、誰の判断で?」
羽川の本に頁が増える。他人の事情、起こり得る被害、最善と次善。知識は答えを並べるが、最後の1行だけ空白だった。
「あやせは、羽川が知識の中へ戻る瞬間を突いている」
俺は告げる。
「善性から欲を切り離さなくなっても、判断を知識へ預ければ、自分が決めたことにはならない」
屈服判定が羽川へ集まった。
「私は、何でも知っているわけじゃない」
羽川は本を閉じる。
「知ってることだけ。でも、知ってることを全部使っても、最後に選ぶのは怖い」
黒い影が立ち上がり、彼女へ重なる。
『無知選択』。
正解を知り切れないまま、自分の欲と責任で決める武装。羽川は法廷の中央へ進み、自ら格子の扉を開いた。
「私は阿良々木くんに選ばれたかった。誰かを押し退けても、そう願った」
あやせの白いリボンが反応する。
「でも、願ったから奪ってよいとは思わない。その線は私が引く。善い人だからではなく、傷つけたくない私が決める」
屈服判定が消えた。
今度は羽川があやせへ迫る。
「あなたも、京介くんに嫌われても止めると言った。選ばれなくていいとまで言った」
黒い活字が白い格子へ入る。
「それは、本当に相手のため? 選ばれたい自分を先に諦めれば、拒絶されても『正しさを貫いたから』と言えるよね」
あやせの表情が凍る。
「恋より正義を選んだ殉教者になれば、選ばれなかった痛みを意味ある犠牲にできる」
格子があやせ自身へ閉じる。
核心だった。
嫌われても止める。その覚悟は本物だ。だが、選ばれなくていいと言い切ることで、選ばれたい欲が拒絶される前に退場していなかったか。
「私は、選ばれたかった」
あやせは言う。
屈服判定が強まる。
「正しくて、理解があって、あの人を守れる私を選んでほしかった」
「正しくないあなたは?」
「見せたくありませんでした」
白いリボンが黒く染まりかける。
「間違って、嫉妬して、自分の嫌悪で相手を傷つけた私でも」
あやせは格子の鍵を自分で外した。
「選んでほしいです」
『誤判自己開示』。
正しい自分だけでなく、間違った判決を下した自分も被告席へ出す。白と黒が混じったリボンが、羽川の無知選択へ巻き付いた。
「あなたは欲を認めました。でも、相手に選ばせる前に、すべて理解してから差し出そうとしている」
羽川の本が再び開く。
「理解が終わるまで待てば、いつまでも選択しなくて済みます」
あやせはリボンを引く。
羽川は無知のまま選ぶ武装で踏みとどまる。黒い影があやせを押し返し、白黒の格子が羽川を閉じ込める。
2人は同時に、自分の未完成さをさらしていた。
羽川が扉を開く。あやせは閉じない。代わりに、扉を出た先へ1本の境界線を引いた。
「ここから先へ進むなら、私も止めます」
「従わなかったら?」
「あなたの不服です。受け止めます」
羽川は線を越える。
白黒のリボンが身体を打つ。羽川は爪で切るが、次のリボンが来る。止める意思と、従わせない責任。その矛盾を両立した攻撃は、羽川の知識では1つの答えへ整理できない。
あやせは接近し、黒い影ごと羽川を抱えるように投げた。リボンが手足へ巻き付き、扉だけを開けたまま石床へ固定する。
「出る自由はあります」
羽川は扉を見る。抜けるには、欲望の影だけを置いていく必要がある。それはもう選べない。
10秒。
鐘が鳴る。
「勝者、新垣あやせ」
領域が消える。
羽川は立ち上がり、あやせを見る。
「正義なのに、出口を残すんだね」
「あなたが出られなかっただけです」
「言うようになったね」
あやせは少しだけ笑った。
試合後、羽川は黒い影へ目を落とした。『一緒に負けたね』。影は答えない。それでも彼女は、自分ではないものとして追い払わなかった。あやせも白黒のリボンを見つめる。正しさへ戻ったのではない。間違う自分を含めて判断し、その結果から逃げない形へ変わったのだ。
俺の中では京介と暦、2つの人物像が互いを侵食せず並んでいた。同じ「理解する」という行為でも、あやせには拒絶する勇気を、羽川には欲を本人へ返す厳しさを伴わなければならない。似るだけでは足りない。誰に対して何を見落とさないかまで、同期の条件になる。
次の札が灯る。
橘万里花対中野五月。
約束も計画も捨てて歩いた者と、不合格答案を保存した者。第3回戦最後の試合が始まる。