スーパー負けヒロイン大戦 〜選ばれなかった16人の未練を断ち、最高のハッピーエンドを掴み取るIF救済劇〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「追試は、最初に提出した者より後ろから始まりますのよ」
万里花の『無券徒歩』が、五月の空席を泥の道へ押し流した。
鐘が鳴る。領域へ桜のない荒地と、5脚の食卓が現れる。万里花は手帳も切符も持たず歩き、五月は『不合格答案保存』を胸へ抱く。
「後ろからでも、到達した答案には意味があります」
五月は五色の線を道へ引く。
「問題は、先に着くことではなく、自分の答えを提出することです」
「その考えが、またあなたを遅らせるのですわ」
万里花が線路の外を走る。
「いつか到達すればよい。遅くても意味がある。そう言っている間に、席は埋まります」
肩が五月の食卓へ激突する。皿が飛び、空席が倒れた。
俺は2人の違いを見る。
「万里花は保証を捨て、現在の相手へ自分から進む。五月は遅れた感情も履歴として保存する。今回は、遅さを受容することが再び停滞へ変わる危険を問われている」
万里花は倒れた空席を踏み越える。
「あなたは不合格答案を大切にした。けれど、保存した答案は採点者へ届きません」
屈服判定が五月へ集まる。
「風太郎さんを好きだった自分から学んだ。それで満足して、今も本人へ言わないままでは?」
五月の五色線が薄くなる。
彼女は試合で願いを言葉にした。だが、それは想い人本人へ届けたものではない。この世界で救済を待つ今も、「まず自分を理解する」段階へ留まっている。
「満足していません」
光が強まる。
「では、何をしますの?」
五月は答案を1枚破った。
「今、言います」
文字が空へ浮かぶ。
私は、上杉風太郎に選ばれたかった。
食卓の空席へ、五月自身の名札が置かれる。
『追試即日提出』。
遅れた理由を説明する前に、現在の答えを出す武装。屈服判定が砕けた。
「万里花さんは、計画を捨てて歩きました。その道は、どこへ続いているのですか」
五月が問い返す。
荒地の先に、楽の影が見える。
「もちろん、楽様のもとへ」
「楽さんが別の場所へ移動したら?」
万里花の歩みが一瞬止まる。
「追いますわ」
「どこまでも?」
「当然です」
「それは、現在の相手を見ているのではなく、目的地を固定しているだけではありませんか」
荒地へ屈服判定が現れる。
万里花は約束の駅を降りた。だが、行き先として楽を固定したままなら、切符を捨てただけで路線は変わっていない。
「彼が、追われたくないと言ったら?」
五月の五色線が万里花の足元へ境界を引く。
「止まれますか」
万里花は答えない。
「あなたの行動力は、自分が進みたい方向へ相手を置き続ける強さです。相手が目的地であることを拒んだとき、その道を閉じられますか」
屈服判定が強まる。
万里花は拳を握る。
「閉じませんわ」
「なら」
「道は閉じず、歩くのを止めます」
荒地に万里花の足跡だけが残る。
彼女はその場へ座った。
『到着拒否受理』。
目的地を消さない。愛した事実も、行きたい願いも残す。だが相手が拒めば、勝手に到着しない。行動力を自制へ変える武装だった。
屈服判定が消える。
「止まっている間、何をするのですか」
五月が問う。
「待つのではありません」
万里花は泥へ手を入れ、小さな花を植える。
「自分の場所を作ります。楽様が来るかどうかとは別に」
荒地へ桜ではない白い花が咲く。
「あなたこそ、提出した答案の返事が来なかったら?」
五月の名札が揺れる。
「不合格として保存します」
「また保存?」
万里花の笑みに、五月が詰まる。
「あなたは何でも学びへ変える。届かなかった恋も、拒絶も、自分を成長させた教材にする。それでは、ただ辛かっただけの失恋を認められませんわ」
五色の線に「学習成果」の文字が増える。
「意味があったから大切だった。学べたから無駄ではない。そんな採点をしなければ、好きだった自分を守れないのではなくて?」
屈服判定が五月へ戻る。
核心だった。
五月は結果がなくても意味はあると主張してきた。だが意味へ変換することで、報われなかった痛みをそのまま受けることから逃げている可能性がある。
「無駄だったかもしれません」
五月は言う。
五色の線が消え始める。
「遅れて気づき、言えず、選ばれなかった。何も得られなかった恋だったかもしれない」
屈服判定が強まる。
「それでも、好きでした」
採点帳を閉じる。
『無採点答案』。
意味も成果も正誤も付けない。好きだったという記述だけを残す白紙に近い答案。5脚の食卓から教科書も赤鉛筆も消えた。
「学べなくても、成長できなくても、私の感情です」
光が砕ける。
万里花は白い花を束ね、鞭のように振るう。五月は無採点答案を盾にするが、意味を持たない紙は概念強度が低い。花弁が紙を裂き、肩を打つ。
「素晴らしい答えですわ。でも、戦う武器としては弱い」
万里花が走る。
五月は空席を押し出す。『同席要求』が万里花の進路を塞ぐ。
「止まることを覚えたあなたに、また走る資格がありますか」
「これは楽様のもとへ向かう道ではありません」
万里花は空席を横へ受け流す。
「今ここで、あなたに勝つための道です!」
『現在地決闘』。
恋の目的地と、試合の相手を分ける。楽へ到着しない自制を保ちながら、目の前の勝利へ全力で進む武装。
五月は食卓を広げ、5脚の椅子で囲む。万里花は1脚ずつ踏み台にして跳ぶ。計画ではなく、その瞬間の地形へ身体を合わせる。
一花との戦いで即興に敗れた経験から学んだ、不格好な即応だった。
万里花の肩が五月の胸へ入り、2人が床へ倒れる。五月は花束を掴み、名札を万里花の手首へ結ぶ。
「私は遅くても、離しません」
「わたくしは止まっても、進み直します」
万里花は自分の名札を泥へ置き、両手を自由にする。五月の名札だけを傷つけないよう抱え、身体を反転させた。
五月の背が石床へ着く。白い花が腕と腰を固定する。
10秒。
鐘が鳴る。
「勝者、橘万里花」
領域が消える。
五月は起き上がり、万里花の手に残った自分の名札を見る。
「なぜ守ったのですか」
「あなたが提出した答案ですもの。勝つために破る必要はありません」
万里花は名札を返す。
第3回戦、全8試合が終了した。
五月は敗れても、無採点答案を破らなかった。万里花も白い花を楽への道標には戻さない。2人は同じ相手へ再び向かうと知りながら、前の勝敗を答えにせず次の1戦へ立つ準備を始めた。
次からは、隣り合う順位を1つずつ確定する最終順位戦。大結界の上空に新しい文字が現れた。
選択実行方式、段階開示開始。
俺の掌の印が、これまでにない熱を持つ。
最初の最終順位戦は、今戦った2人の再戦だった。
橘万里花対中野五月。
15位と16位を定めるだけではない。救済が何によって行われるのか、その一端が初めて示されようとしていた。