スーパー負けヒロイン大戦 〜選ばれなかった16人の未練を断ち、最高のハッピーエンドを掴み取るIF救済劇〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「再戦の前に、聞いていただくことがあります」
オルドの声と同時に、俺の掌から見知らぬ男の声が漏れた。
「遅刻するなよ」
五月の瞳が見開かれる。
一呼吸だけだった。風太郎の声調、言葉の切り方、視線の鋭さ。第1話で起きた反射より明瞭で、俺自身も口にした覚えがない。
二乃が審判台へ駆け寄りかけ、大結界の壁に止められる。
「今の、何?」
オルドは杖を掲げた。
「順位確定戦に入ったため、選択実行方式の第1段階を開示します。最高審判の固有能力は、皆様の想い人に似た姿を作る幻術ではありません」
空中へ光の輪郭が現れる。顔はまだ隠され、声と歩き方だけが次々に変わった。
「観察と理解をもとに、対象人物の存在情報へ同期する能力です」
場内が凍る。
「同期?」
羽川が静かに問う。
「どこまで?」
「詳細は順位戦の進行に応じ開示されます」
オルドはそれ以上答えない。
俺は掌を押さえた。全員の視線が集まる。似せられることへの期待、嫌悪、恐怖。これまで曖昧だった救済の担い手が、俺の身体を通ると明かされたのだ。
「つまり、審判が楽様として、わたくしたちを選ぶのですか」
万里花の問いはまっすぐだった。
「現段階で確定しているのは、最高審判が想い人へ同期するという点のみです」
オルドが制する。
「選択がどう認証されるかは、次段階で示します」
五月は俺を見ている。風太郎の声を聞いた衝撃を隠せない。
「今のは、私たちの記憶から作った声ですか」
「俺にも分からない」
自分の声で答える。
「ただ、試合を見て理解するほど、本人の反応が内側へ浮かぶ」
「理解したつもりで、ですか」
五月の厳しい問いに、俺は頷く。
「だから、つもりで終わらせないために全試合を見てる」
鐘が鳴った。
第27話、最終順位戦。橘万里花対中野五月。
15位と16位が、この1戦で確定する。
領域へ白い花の現在地と、無採点の食卓が現れた。前試合の答えをそのまま持ち越した再戦だった。
万里花は俺へ1度だけ視線を向ける。
「楽様へ同期するというなら、わたくしが何を愛したか、最後まで見届けなさい」
五月も続く。
「風太郎の声を使った以上、私の答えを誤読することは許しません」
2人の圧力が同時に来る。
俺は審判台で息を整えた。
「開始」
万里花が『現在地決闘』で走る。五月は『無採点答案』を空へ広げ、意味を与えない白紙で進路を包んだ。
「前回と同じ突進は通しません」
五月は食卓の椅子を円形に並べる。万里花が1脚を踏み台にした瞬間、椅子が空席へ変わり、足を沈めた。
『未着席捕縛』。
席へ座る資格を急がず、立ち止まらせる武装。万里花の足首へ五色の線が巻き付く。
「15位でも16位でも、救済されることは変わらないのでしょう」
五月は問いかける。
「なら、先に選ばれることへ執着する理由は何ですか」
屈服判定が万里花へ集まる。
順位戦の根本を突く問いだった。全員が救済される。わずかな順番のために、なぜここまで争うのか。
「1日でも早く、楽様から選ばれたいからですわ」
「それだけですか」
「それ以上の理由が必要でして?」
万里花は五色線へ白い花を絡める。
『欲望即答』。
美しい理屈へ変えず、早く欲しいという執着をそのまま力にする。線が弾けた。
「あなたは、遅れた自分に意味を与え、順位が最後でも感情の価値は同じだと言える。ですが、それは選ばれる順番を欲しがる醜さからまた逃げているのではなくて?」
五月の食卓が揺れる。
「16位でもよいのですか」
「よくありません」
五月は即答した。
屈服判定が消える。
「私は15位になりたい。万里花さんより先に、風太郎から選ばれたいです」
食卓の名札が一斉に立つ。
『順位答案』。
他者との比較を避けず、具体的な順位を自分の願いとして書く武装。五月の空席が突進し、万里花を後方へ押す。
「ようやく競争相手らしい顔ですわ」
万里花は笑い、椅子の背を掴む。
2人は食卓を挟んで押し合った。
五月が問う。
「楽さん本人ではない存在から選ばれることを、あなたは受け入れられるのですか」
万里花の力が一瞬緩む。
情報開示が生んだ最初の傷だった。
「今の審判が、どれほど同期しても、本人ではありません」
五月の声は自分にも向いている。
「私たちは、代役からの選択を争っているのでは?」
屈服判定が2人の間へ現れる。
観客席も沈黙した。
俺は答えられない。今は審判であり、方式の全容も開示されていない。
万里花は俺を見る。
それから、五月へ視線を戻した。
「本人ではないからこそ、試しますわ」
白い花が1本、俺の審判台へ向く。
「わたくしが愛した楽様を、どこまで理解できるか。都合のよい言葉だけを言う偽物なら、選択を受け入れません」
屈服判定が万里花から離れる。
「本人を奪うのではなく、わたくしの愛を理解した存在が、楽様として成立できるかを見る。その機会を1日でも早く要求します」
五月が息を呑む。
万里花は疑いを捨てなかった。偽物かもしれないから拒むのではなく、偽物で終わらない条件を自分で定めた。
「五月さんは?」
万里花が問う。
「風太郎さんの声が似ていたからと、正解を与えられた気になりませんこと?」
五月の順位答案へ亀裂が入る。
彼女は先ほどの1声に反応した。知っている声が自分へ向けられただけで、胸が動いた。その反応を偽物へ利用された恐怖がある。
「怖いです」
五月は言う。
「似ているだけの声に、私が答えてしまうことが」
屈服判定が五月へ集まる。
「だから、声では判断しません」
無採点答案が1枚、俺へ向く。
「私が言えなかったこと、遅れたこと、姉妹の後ろに隠れたこと。その全部を理解しながら、風太郎ならどう拒み、どう選ぶかを見ます」
光が揺らぐ。
「それでも間違えたら?」
万里花が追う。
「受け入れません」
五月の答えも明確だった。
2人とも、同期という情報へ同じ結論を出した。盲信しない。自分の想い人像を基準に、俺を試す。
屈服判定が消える。
勝負は再び肉体戦へ戻った。
万里花は白い花で食卓の脚を絡め、横倒しにする。五月は椅子を足場に跳び、名札を万里花の腕へ貼る。
「今回は離しません」
「前回も聞きましたわ」
万里花は自分の花束を足元へ置く。
『目的地非固定』。
楽へ向かう道も、勝利へ向かう道も1度消す。相手が読める目的をなくし、現在の一歩だけを選ぶ。
五月の採点は進路を予測できない。
万里花は横へ一歩、後ろへ一歩。これまでにない退却で五月を誘う。五月が追った瞬間、倒れた食卓の下から白い花が伸びた。
足首、手首、腰を絡める。
五月は無採点答案で意味を消そうとする。だが花には「楽のため」も「勝利のため」も書かれていない。今、万里花がそうしたいから動く花だ。
五月の武装では無効化できない。
万里花は彼女を石床へ固定する。
「順位を欲しがったあなたは、前よりずっと強かった」
「慰めですか」
「評価ですわ」
10秒。
鐘が鳴る。
「勝者、橘万里花」
空中に順位が刻まれる。
15位、橘万里花。
16位、中野五月。
最初の順位が確定した。
五月は文字を見上げ、悔しさを隠さない。
「最後になりました」
万里花は手を差し出す。
「最後でも、救済は消えません」
「それを今言うのは、勝者だからです」
「ええ。ですから、悔しがってくださいまし」
五月はその手を取った。
俺の掌では、楽と風太郎、2人の輪郭が別々に脈打っている。
次の順位戦は、新垣あやせ対羽川翼。
13位と14位。
そして大結界は、同期の第2段階を開示しようとしていた。
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