スーパー負けヒロイン大戦 〜選ばれなかった16人の未練を断ち、最高のハッピーエンドを掴み取るIF救済劇〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「第2段階を開示します」
オルドの杖が鳴ると、俺の影が2つに分かれた。
一方は京介に近い立ち姿。もう一方は暦に近い呼吸。顔は光に隠れている。それでも、あやせと羽川は同時に息を止めた。
「同期対象は外見と声に限りません」
光の文字が並ぶ。
仕草。反応。思考傾向。魂の波形。存在情報。
最後の2語に、場内がざわめいた。
「魂まで?」
レムが問う。
「想い人本人の魂を奪うものではありません」
オルドは答える。
「最高審判自身の存在を、理解した対象の波形へ同期させます。本人の支配でも、遠隔操作でもありません」
「では、見分けがつかなくなる?」
羽川の問いに、オルドは沈黙した。
「その判定方式は次段階です」
俺は2つの影を戻そうとする。だが掌の印が暴れ、反射的に言葉が漏れた。
「兄貴を馬鹿にするな」
あやせの瞳が揺れる。
続いて、別の声。
「僕は何でも知ってるわけじゃないさ」
羽川の表情が凍った。
俺は自分の口を押さえる。まだ完全同期ではない。理解した断片が、問いかけられた記憶へ反応して表面化しただけだ。
「審判」
あやせの声は厳しい。
「いまの言葉を、私たちの反応を見るために使いましたか」
「違う。制御できなかった」
「それはもっと問題です」
正しい指摘だった。
羽川も俺を見る。
「救済するとき、あなた自身は残るの?」
答えられない。
オルドも今は明かさない。
「試合を始めます」
俺は自分の声を確かめながら宣言した。
第28話。13位、14位決定戦。
新垣あやせ対羽川翼。
鐘が鳴る。再審の法廷と頁の尽きない図書室が再び現れた。第25話と同じ対戦。しかし、2人の視線は互いだけでなく、俺の影へも向いている。
羽川が先に本を開く。
「魂まで似た存在から選ばれれば、私たちは本人に選ばれたと思えるのかな」
黒い活字があやせへ飛ぶ。
代用品。自己欺瞞。理解の模造。
あやせは『不服申立自由』の扉を開き、文字を通過させる。
「思えるかではなく、本人と認められるかを審理します」
「また審理?」
「疑わず受け入れるより誠実です」
白黒のリボンが羽川の本を縛る。
「あなたは、理解されることへ弱い。魂の波形が暦さんと一致すれば、それだけで善い人ではないあなたまで受け入れられたと感じる危険があります」
羽川の黒い影が揺れる。
核心だった。
すべてを知るように見えた彼女が最も欲したのは、自分の善性からこぼれた部分まで理解されること。暦の波形を持つ存在がそこへ触れれば、真偽の検証より先に心が応じるかもしれない。
屈服判定が羽川へ集まる。
「あるね」
羽川は認める。
「阿良々木くんの声で、私の醜さも私だと言われたら、信じたくなる」
光が強まる。
「だから、信じたい私を隠さない」
『無知選択』の頁を1枚、俺の審判台へ向ける。
「完全に確かめられなくても、私は選ぶかもしれない。その選択が欺瞞だった責任も、自分で持つ」
屈服判定が砕ける。
「あなたこそ、京介くんの魂に似た存在が、正しくないあなたを選んだらどうする?」
羽川の活字があやせを囲む。
「喜ぶ? それとも、その選択は兄のためにならないと却下する?」
あやせのリボンが止まる。
彼女は自分の正しさを再審し、誤判した自分も選ばれたいと認めた。それでも、想い人の選択が自分の価値観と矛盾したとき、受け取れるかは別だった。
「受け取ります」
「本当に?」
「疑います。審理します。ですが、私の望む正しさと違うだけで棄却しません」
『選択受領保留』。
白い封筒が現れ、相手の選択を破棄せず、即座にも承認せず保存する武装。活字が封筒へ入る。
「答えを先延ばしにするの?」
「保留は拒否ではありません。急いで偽物を本物にするより、選択を尊重しています」
屈服判定が消える。
2人は同時に俺を見た。
試合を通じて、彼女たちは救済を受ける側の条件を作り始めている。盲信しない。疑う自由を持つ。信じたい欲を隠さない。
俺の役割は、似せるだけでは足りない。疑われ、拒まれる可能性まで受け入れたうえで同期しなければならない。
羽川は黒い影を自分へ重ね、『善悪同席』を作る。あやせは誤判自己開示の白黒リボンを広げる。
「試合としては、前回負けている」
羽川が言う。
「同じ扉には入らないよ」
黒い影が頁へ溶け、本と身体の境界がなくなる。
『自己解答全集』。
他者の答えではなく、自分の矛盾を記述する本。頁をめくるたび、羽川の動きが予測不能に変わる。善い判断と欲深い衝動を、どちらも自分で選ぶからだ。
黒い爪があやせの格子を裂く。
あやせは不服申立の扉を開くが、羽川は扉を使わず壁を越える。
「出口を用意することも、相手の行動を想定した支配だよ」
爪があやせの肩へ入る。
屈服判定があやせへ集まりかける。
あやせは格子を消した。
法廷そのものがなくなる。
「審理をやめるの?」
「違います。場所を私の内側へ移します」
リボンが1本だけ心臓の前へ結ばれる。
『無廷審理』。
相手を被告席へ置かず、自分の判断だけを裁く。羽川の行動を制限しない代わりに、あやせは自分が攻撃すべき一瞬を自分の責任で選ぶ。
羽川の爪が迫る。
あやせは避けない。肩を裂かせ、距離が最短になった瞬間、1本のリボンを羽川の本の綴じ目へ通した。
「あなたの矛盾を裁きません」
リボンを引く。
「ですが、今の攻撃は止めます」
本が閉じ、黒い影と羽川の身体を一緒に包む。善悪を分離しないからこそ、どちらかだけを逃がせない。
羽川は爪でリボンを切ろうとする。
あやせは自分の腕にも同じリボンを巻いた。
『相互拘束判決』。
相手だけを縛らず、自分も同じ制約へ入る。羽川が動けば、あやせも傷つく。あやせが締めれば、自分も締まる。
「正しさを押しつけるのではありません。私の選択へ、私も同じ責任を負います」
羽川は力を入れかけ、止めた。
相手を傷つければ自分も傷つく。それでも攻撃する自由はある。出口も禁止もない。ただ結果が共有される。
「厄介だね」
「あなたに言われたくありません」
あやせは体勢を反転し、羽川と自分を同時に石床へ倒す。自分の背を下にして衝撃を受け、羽川だけを上からリボンで固定した。
羽川は黒い影で抜けようとする。だが影も本人として同席しているため、リボンの判定から外れない。
10秒。
鐘が鳴る。
「勝者、新垣あやせ」
空中へ順位が刻まれる。
13位、新垣あやせ。
14位、羽川翼。
領域が消えた。
羽川は立ち上がり、俺へ目を向ける。
「魂の波形まで似るなら、あなたが私を理解したことと、阿良々木くんが理解したことは同じになる?」
「分からない」
俺は答えた。
「あやせさんは?」
あやせも俺を見る。
「分からないと認めるだけでは不十分です。最後には、あなた自身が選択してください」
その言葉が胸へ残る。
同期した想い人ではなく、俺自身が選ぶ。2つは両立するのか。
羽川は順位を見上げ、悔しさと安堵のどちらも否定しなかった。あやせは13位の文字へ一礼し、俺へ告げる。『同期した誰かの言葉ではなく、あなたが責任を負う言葉を聞かせてください』。その要求は、これまでで最も重かった。
次の順位戦は、澤村・スペンサー・英梨々対中野一花。
11位と12位。
大結界の開示は、さらに核心へ近づこうとしていた。