スーパー負けヒロイン大戦 〜選ばれなかった16人の未練を断ち、最高のハッピーエンドを掴み取るIF救済劇〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「第3段階を開示します。完全同期した存在の選択は、台詞ではなく意志によって審査されます」
オルドの宣言に、英梨々と一花が同時に俺を見た。
大結界の光が文章を刻む。定型句は無効。相手が期待した答えをなぞるだけでも無効。対象の美点、欠点、執着、失敗を理解したうえで、それでも選ぶ意志だけが認証候補になる。
「便利な正解を言えば終わり、ではないのね」
詩羽が呟く。
「当然でしょ」
英梨々は強く答えたが、その指は震えていた。倫也の言葉を完璧に再現されても、それが俺の観察から組み立てた正解なら、彼女が欲した選択とは違う。
一花は笑う。
「演技で本当の意志を証明する。女優泣かせだね」
鐘が鳴る。
11位、12位決定戦。澤村・スペンサー・英梨々対中野一花。
領域へ白い画布と無地の舞台が現れる。英梨々は『作者分離展示』を、一花は『勝利役自己指名』を展開した。
「一花。あんたの演技は、相手の欲しい答えを出す。大結界がいちばん嫌うやつね」
英梨々の描線が、一花の衣装へ無数の役名を書き込む。
姉。理解者。恋敵。勝者。
「英梨々こそ、絵に全部描けば分かってもらえると思ってた」
一花は役名を脱ぎ捨てる。
「相手に読み取らせる完成品と、相手が欲しい私。似た者同士だよ」
俺は2人の武装を読む。
「どちらも表現を介して感情を差し出した。違いは、英梨々が作品を自分から分離して受け手の自由を認め、一花が役を自分の意志で選び直した点だ。今回問われるのは、その意志が観客なしでも続くかどうか」
英梨々は観客席を白く消した。
『無観客原画』。
評価も読者もない画布へ、一花の姿を描く。そこには姉妹を気遣う笑顔も、抜け駆けした醜さも、疲れて休みたい本音も同じ線で描かれていた。
「誰にも見せなくても、私は描ける」
絵が実体化し、一花へ迫る。
「一花は? 誰も役を求めなくても、自分で自分を選べる?」
屈服判定が集まる。
一花は無地の衣装を握った。
「選べるよ」
「何を?」
答えが一瞬遅れた。
英梨々の線が腕を縛る。役がなければ自由。しかし、自由は空白と隣り合わせだ。
「今は、勝つ私」
一花は言い切る。
『現在形配役』。
未来の理想像でも、他人へ見せる役でもない。今この瞬間に選んだ行動だけを衣装へ書く。屈服判定が砕けた。
「英梨々は、誰にも見せない絵を本当に完成させられる?」
一花が問い返す。
「完成したら、倫也に見せたくなる。評価されたくなる。見せたい自分を切り離して、自由な作品を演じてない?」
英梨々の画布が揺れる。
第15話と第23話で、彼女は作品を受け手へ解放した。だが、見せたい願いまで捨てたわけではない。
「見せたいに決まってる」
英梨々は叫ぶ。
「感想も欲しいし、私も見てほしい。だからって、相手の答えまで描かない!」
画布に空白の吹き出しが生まれる。
『返答未筆』。
自分の告白は描く。相手の返事は描かずに空けておく。屈服判定が消えた。
一花はその空白へ入り込む。倫也らしい返答を演じ、吹き出しを埋めようとする。
「それをやるなって言ってるの!」
英梨々が線を切る。
「でも、期待してる答えは分かるよ」
「分かっても言うな! 本人が選ぶ場所を奪うな!」
描線が一花の仮面を裂く。
その言葉は俺にも刺さった。理解したからこそ、期待の答えを先回りしてはならない。
一花は笑みを消す。
「じゃあ、私は何を演じればいい?」
「知らない。自分で決めなさいよ」
一花の衣装が白紙になる。
観客も台本も、相手の期待もない。英梨々は答えを与えない。
一花はしばらく立ち尽くし、やがて衣装へ1語だけ書いた。
私。
『無役主演』。
役を演じないことすら演技にせず、迷いながら動く。彼女は不格好に英梨々へ走った。
英梨々もペンを捨て、正面から受ける。2人は肩をぶつけ、腕を取り、画布の上を転がった。
一花は体格と即応で上を取る。英梨々は空白の吹き出しを盾に、一花の決め技を受け流す。
「返事がないと、動けない?」
英梨々が挑発する。
「動いてるでしょ!」
一花は自分の意志で腕を振る。しかし、英梨々はその一撃を白い画布へ描き取り、構図として固定した。
『行動原画化』。
一花が自分で選んだ動きだからこそ、嘘のない線として捕捉できる。画布から同じ腕が伸び、本人の腕を押さえた。
一花は別の役へ変化できない。無役主演を守るなら、自分で選んだ動きの責任から逃げられない。
英梨々は画布を折り、一花を石床へ固定する。
10秒。
鐘が鳴った。
「勝者、澤村・スペンサー・英梨々」
順位が刻まれる。
11位、澤村・スペンサー・英梨々。
12位、中野一花。
領域が消える。
一花は画布から起き上がる。
「返答を描かない絵に負けるなんてね」
「次は、あんたの返事を自分で言いなさい」
「分かった。今は悔しい」
「それでいい」
俺の掌では倫也と風太郎の輪郭が別々に脈打った。英梨々へ必要なのは返答を空けたまま待てる相手。一花へ必要なのは役を求めず、迷う本人へ選択を返す相手だ。
英梨々が勝者席へ戻る途中、一花は舞台の端で足を止めた。
『私って書いただけで、本当に私になれると思う?』
問いは英梨々ではなく、審判台の俺へ向いていた。
『分からない』
『分からない、か』
『でも、誰かに求められた役を外したあとに残った迷いを、偽物とは言わない』
一花は少しだけ目を細めた。『迷いまで見られるの、結構恥ずかしいね』。
英梨々が振り返る。『今さら何言ってんの。あんたの恥ずかしいところなんて、全員見てるでしょ』。
『英梨々もね』
『私は描いて見せたの!』
言い返す声には、以前のような防御だけではない響きがあった。返答を描かず、空白を残したまま作品を差し出せた誇り。それは選ばれた結果ではなく、選択を相手へ返した行動の誇りだ。
俺は2人を見ながら、第3段階の意味を自分へ向け直した。期待どおりの台詞を言わないだけでは足りない。同期した人物ならどう選ぶかを理解し、その選択へ俺自身の意志が重ならなければならない。一花の迷いも、英梨々の空白も、解決すべき欠陥ではなく、選ぶ対象の一部だった。
掌の印が熱を持つ。倫也らしい皮肉な観察と、風太郎らしい率直な判断が同時に浮かび、互いを打ち消した。俺はどちらも口にしない。今ここで彼女たちへ返すのは、俺の言葉であるべきだった。
『2人とも、順位は決まった。でも、試合で出した答えを完成形にする必要はない』
英梨々が眉を上げる。『審判のくせに、締まらないこと言うのね』
『完成した答えだけを理解したら、次に変わった君たちを見失う』
一花は笑った。『じゃあ、ずっと見てなきゃね』
軽い口調だったが、その言葉は鎖のように残った。救済の一夜だけ理解すればよいのではない。選択を追記したあとも、彼女たちは変化する。その変化を想い人の像へ閉じ込めず、俺自身として見続ける責任が生まれる。
次は小野寺小咲対千石撫子。
9位と10位。そして大結界は、概念履歴へ何が起きるのかを明かそうとしていた。